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王国物語

空飛ぶドラゴン

作者: 52ヘルツ

 研究者にハマってしまいました。

 僕がまだ若かった時、隣の王国と戦争があった。

 祖国は強かったけど、王国はもっと強くて戦争に負けてしまったんだ。

 この王国は領土拡大を目的として戦争を続けていて、たくさんの従属国を持つ。僕達の祖国もその一つになった。


 ある日、宗主国の王様が言った。

「余はドラゴンが欲しい」

 ドラゴンは架空の生物だ、僕たち従属国の人はみんな笑ったよ。宗主国の王様は、現実と夢物語の違いも分からない、とんだ愚王だとね。

 でも、これは間違っていた。


 ドラゴンが欲しい王様は、将軍に捕まえてくるよう命じた。

 その行先は、王国になにかと反発していた、とある従属国だ。

 将軍は、大軍を引き連れて従属国に赴いた。


 それはそれは、酷い有様だったらしい。


 あれは粛清だ。王様はドラゴンじゃなくて、これを欲していたんだ。

 

 これには、他の従属国も恐れ慄いた。後ろめたい考えがある国も、そうで無い国も、再び王国に誠意を見せたが、粛清は続いた。

「先月、西の従属国に軍が来そうよ」

 怖いわ、と僕の幼馴染みは言った。西の従属国はここから近い。

「大丈夫だよ、この国は従属したばかりだから、来ないと思うよ」

 そう言って、落ち着かせるけど、僕自身も次はこの国だと考えてた。

 


 幼馴染みは子爵令嬢だ。彼女の子爵家は、医師の名家の分家筋で、彼女自身も医学を学んでいる。


「いてて…」

「もう、また怪我して!」

「ごめんごめん。いけると思ったんだけどなあ」

 僕の夢は、空を飛ぶことだ。今日も木と紙で作った翼と共に、崖の上から飛び降りた。最初は上手く風に乗ったんだけど、強風に煽られて見事に落ちた。

「しみるっ、もっと優しくしてよ」

「わざとやっているの!せっかく戦争から無事で帰ってのに。もっと自分の体を大切にしなさい」

 幼馴染みは、今日も薬箱を持って、僕の元に来てくれた。

 怪我と手当てとお説教と、いつもの僕らだ。


「次は手当てしてあげないからね!死んでも知らないわよ」

「…」

 そんな、あんまりだ…。僕は無言のまま、彼女をじっと見つめた。

「もう!だったら、怪我しないように気をつけるのよ!」

「うん、分かった」

 彼女はこの顔に甘い。



 次の日も崖に行った。

 今回作った翼は自信作だ。今までに木の枠組みと紙を材料にして、たくさんの翼を作ったが、これが一番風に乗れた。成功だ!

「あの角度!たわみ!素晴らしいと思わないかい?あとは、プロペラと噴射装置をつけて、自動で進むようにしたいんだ」

「着地はどう考えているの?」

 幼馴染みは怒りながら言う。今日は風に乗れたけど、着地に失敗して足を怪我したからだ。ベッドの上で、治療を受ける。

「…ごめんなさい」

 謝り、彼女をじっと見つめる。彼女はこの顔にとても甘い。


「私はね。心配なの。貴方も死ぬんじゃないかって…」

 涙が溢れ、頬が濡れた。



 幼馴染みは、兄の婚約者だった。兄が死ななければ、生きて戦争から帰ってくれば、結婚するはずだった。


 兄は馬鹿だ。こんなに綺麗な人を残して死んだ。


 幼馴染みも馬鹿だ。僕の見て、死んだ兄の面影を追っている。僕のこの顔に甘いのは、兄によく似ているからだ。


 だから、僕は兄のふりをした。空を飛ぶことは、元々兄の夢だった。兄にそっくりな僕を見て、幼馴染みに笑って欲しかった。


「泣かないで。僕は君を残して、死んだりなんてしないよ」

 なのに、彼女を泣かせてしまった。


 僕は馬鹿だ。兄の真似をすれば、兄に代わって笑いかけてくれるかもしれない、愛してくれるかもしれないと期待していた。

 一番の大馬鹿だった。




◇◇◇

 

 怪我が治った。ベッドの上で練った構図を、早速再現する。

「翼、噴射機、プロペラ、これをソリに着けるんだ。着地の時も、滑るように減速して止まるから、大丈夫だよ!」


 そのため今日は崖でなく、山の斜面へ行った。

 機体に乗り斜面を滑って加速する。だけど飛べずに、そのまま麓まで滑り落ちた。


「フフフ、そうね。大丈夫だったわね」

 幼馴染みは笑った。少し意地悪だけど、嫌じゃない。

 時々泣かせちゃうけど、やっぱり空を飛ぶことになると、彼女は笑顔になる。


「摩擦?重さかな?」

 あれも違う、これも違うと、考えて改良して、飛べるように模索を続けた。


 そして、そよ風が心地良いある日、僕は意気揚々と、機体に乗り込んだ。


 摩擦を減らすためソリは車輪にした、削り取り重さを最小限にした、加速を良くするため重心を変えた、ーーーやれることは全部やった。


 斜面を下る。機体はかつて無いほど加速し、飛び上がった。

 僕は舵を取って、大きく旋回した後、ゆっくりと着陸した。成功だ!


「やった!飛べたよ!」

 機体を飛び降り、幼馴染みの元へ駆け寄る。

 僕は、両手で彼女を抱き上げて、くるくる回った。

「やったんだ!空を飛べたんだ!」

「見たわ、すごく高く飛んでいた!」

 彼女も歓声を上げ、共に一日中喜んだ。



◇◇◇


 祖国に軍が来たのは、その三日後だった。

「ドラゴンを捕まえた者は、褒美を取らせる」

 全土に、そんな御触れが出た。

 ドラゴンを見つけられなかったら、隠しているのではないかと、従属国への攻撃を始めるそうだ。

 

 ドラゴンは、空を飛び、火を吹く、架空の生物だ。実際には存在しない。誰にも見つけられないのは、明らかだった。

「だったら、作ればいい…」

「え?」

「空を飛ぶ事は出来るんだ。あとは、火薬なんかを上空から落下させれば、火を吹くドラゴンになる」

「何言っているの!そんな事して、逆に怒りを買ったらどうするの? 殺されちゃうわ」

「ドラゴンは、どう足掻いても捕まえられないんだ。だったら、そうするしか無いだろう?」 


 僕は次の日、軍へ出頭した。


 もちろん。まともに取り合って貰える訳もなく、牢に繋がれた。


「…せめて、見てくれたって良いじゃないか」

 最初は騒いでみたけれど、殴られたのでやめた。

 こうなるなら、幼馴染みを連れて、逃げればよかった、と考えていると、何だか外が騒がしくなった。


「ドラゴンを捕まえた者を連れてこいと、将軍直々のお達しだ」

 むすっとした顔で軍人さんが言った。

 そのまま、連れて行かれた先は、応接間のような部屋だった。

 奥にはニコニコした顔で、宗主国の王様が座っていた。


「其方が、ドラゴンを捕まえた者か!良くやった、褒めて遣わす」

「…まだ、決まった訳ではありません。虚偽の可能性も御座います」

 側に控えていた人が、そう反論する。おそらく、この人が将軍だろう。僕をギロリと睨んだ。


「それを今から確かめるのだ! 捕まえたドラゴンは何処にいる?」

「は、はい。…近くの山の斜面にございます。宜しければ、飛んでご覧に入れましょう」

「赦す!好きにせよ」


 こうして、久しぶりに外へ出された。軍人さんの監視があるけど、気にしない。


「それでは、参ります」

 僕はいつものように、機体へ乗り込むと、斜面を滑り下りた。

 空へと飛び上がる。

 最初に飛んだ時のように大きく旋回し、油の入った瓶に火をつけて落とした。少しだけ地上が燃えた。


 どうだ、火を吹くドラゴンだ!


 あとは、着陸するだけだ。

 体勢を整えようとしたときに、強い風が吹いた。僕は、バランスを崩して、そのまま地面にぶつかった。


 ああ、幼馴染みをまた泣かせてしまうな。

 僕は意識を失った。




◇◇◇


 気がついたときは、ベッドの上だった。

「ああ、意識が戻ったのね!」

 幼馴染みは、ぎゅっと僕を抱きしめた。嬉しいけど、ちょっと痛い。

「軍の、人は…?」

「帰ったわ。貴方がドラゴンを見つけてくれたからよ」

 彼女はそう言って笑ってくれた。でも、頬には泣いた跡がある。

「……君に心配ばかりさせてしまったね」

「分かったら、今度からこんな馬鹿な真似はしないで!」

 いつものように、怒られた。


「……えへへ、ごめんなさい」

 怪我と手当てとお説教と、いつもの僕らだ。

 



 回復して自由に動けるようになった頃、宗主国から直々に招かれた。


「ドラゴン、あれは良かったぞ!約束の通り、褒美を取らせるが、何が良い?」

「えっと、だったら、ドラゴンの改良をしたいので、研究費をください!」

 正直に述べると、側に控えている人達に睨まれた。

 言葉を改めよう。

「では余が研究施設を作ろう、其方にはその所長を任せる。好きに研究するが良い」

「有難うございます!」



 こうして、僕は宗主国に移り住むことになった。


「君が大好きだ。一緒に来て欲しい!」

 来る前には、幼馴染みにプロポーズした。じっと見つめて、彼女の返事を待つ。

「…その顔、ワザとでしょう?」

「あ、バレてたの?」

 だって、彼女はこの顔に甘い。


「だって、君は兄のことをまだ慕っているでしょ? 使わない手は無いなって…」

 彼女は、びっくりした顔で僕を見る。そして、ため息を吐くと、小さく言った。


「好きでも無い相手を、そんなに心配しないわ。…私はね、貴方自身の言葉と表情で、プロポーズされたいの」

「え?それって「もう、知らない!」

 彼女は顔を真っ赤にして、僕の言葉を遮った。そのまま逃げるように立ち去る。


「待って!やり直す、やり直させて!」

 返事を貰う前から、僕の頬の緩みっぱなしだ。






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