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八羽目 魔獣の森の洗礼 その一


その日の陽が地球時間の正午を指す頃、狩りは終わった。


視界には山ほどの獲物が山となって積み重なっている。

オレの背丈を余裕で上回る食料、それも食べたこともない豊富な種類の肉や野菜の前にニヤニヤが止まらない。


生きた動物(魔獣多数)を手にかけたのに、余り罪悪感が湧かないのは精神が竜に近くなっているからか? 心は体に引っ張られるって言うし。

それに、オレが殺した以上はちゃんと感謝を込めて全部おいしくいただきますして食べるから問題ない。


二日三日じゃ食べきれないほどのご馳走の前に、今、オレは頂点捕食者の気分を味わっている真っ最中だった。


ふははははははは! 全世界を膝まずかせてみせる!

気分はまさに全能! オレこそが支配者だ!


「これ何日分の食べ物になる?」


『この程度なら一週間は持つだろうな。 肉類は腐りやすいから今日明日には食っとけよー。 腐りにくい果物類は後回しだ』


おーけーまる。


角のある兎とか、特に肉が柔らかくてほのかに甘くて美味しい。

調味料など要らん。 加熱も要らん。

オレは生態系の頂点、ドラゴン様だ!

エサはワイルドに生かじりだ。


『相棒がどんどん野生に馴染んでいきやがる…………』


馴染めなきゃすぐに死んじゃうからね、しょうがないだろ?


『歴代でここまで野生児は、かつていただろうか』


「ふう、ご馳走さま。 おかわりいただけるだろうか?」


肉を食いつくしてこの一言よ。

準亜成体になってから、急に食欲が増してきたな。 それとも、エサが取れない環境から解放された反動か。


『それと速くエサを持って移動しろ。 血の匂いで肉食の魔獣が寄ってくるぞ』


確かに空の魔獣が騒いでるね。 猛禽類がいっぱい居たもんね!

爬虫類仲間のヘビ君もトカゲ君も集まってるよ! さっき食ったけど!

ここは動物園かな?


『空からも地上からも集まるぜ? もたもたしたっと、お前がディナーになっちまうぞ』


「それは嫌だなぁ、オレまだ子どもなのに」


『中身は大人だけどな』


「『アハハハハハハハハ!!』」


肉食ってる場合じゃないのに、なぜだろう。

解説くんと話してると下らないことで笑けてくる。


ゾウの並みにデカイ虎の襲撃を受けたのは、この後すぐだった。


肉食ってる場合じゃなかった………(二度目)







息を荒げ、血走らせた眼でさ迷う一匹の虎。

どれだけ大量のエサを喰おうと満たされぬ空腹に苦しみながら肉を食い漁り、若いドラゴンすらエサにする狂暴さと底なしの貪欲は、生きた災害とも呼ばれる孤独な虎でもある。


この虎はマウンテンタイガーと呼称される巨大な虎型の魔獣だ。

地球の虎とは似て非なる生態をしており、その肉体の巨大さ、堅牢さがそれを物語っている。


その虎は甘ったるい匂いをさせる翼付きのトカゲを喰おうと、意識を統一して知覚を極限まで高めていた。


獲物が隠れていようと、一度目をつけたモノは必ず見つけ出し、生きたまま血をすすって肉を貪るのがマウンテンタイガーの習性なのだ。


『茂みに隠れながらだぞ。 息を殺せ、気配を断つんだ』


「りょーかい」


一度目の襲撃は命からがら逃げ延びた。

今現在は、あのクソ虎の嗅覚を欺くために全身に泥を塗って匂いを消した。


泥の匂いでバレる?


ここ沼地だから平気。

小川を下っていった先にある泥溜まりだ。


そこに潜って身を潜め、隠れている。

虎が泥の上を踏むとプレッシャーで押し潰されそうになる。

止めろよ、心臓止まるだろ、窒息するだろ。


『お前さんの竜種は水中でも呼吸可能だ。 水の中でも窒息死はしねえ』


それは便利だな。

砂漠に卵産み落としたのが謎だけどね!


『竜は種の生息域を拡げるために、いろーんな環境の土地に卵を産む。 お前さんの親もそうなんだろ』


そうかそうか、そいつは便利だね!!


『そんなことよりも、もう見つかったぞ』


え?


オレの頭に疑問符が浮かんだのもつかの間、尻尾をなにかに掴まれて泥のカモフラージュから引きずりだされた!


目の前には確実に人を何人も殺った虎の、オレの身体よりもデカい顔。


虎の二本の太い尻尾がオレをがっちりホールドして離さない。

抵抗しようにも、暴れたら内蔵が潰れそうなほど締め付けてくる。

絶望的な力の差に抵抗する気力が削がれていく。


「ギャアアアアアア!!! 食べないでーーー!!」


オレの糧となったきな粉スライムやワームちゃんたちの為にもオレは生きなきゃなんねえんだよ!!


だからオレは見逃してくれ!!


ほら、金なら払うから! 余ってるエサ献上するんで!


「■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!!!!」


耳が壊れそうな身がすくむ咆哮を間近で浴びせられ、恐怖でフリーズする。

汗腺もないのに冷や汗が止まらない。


『相棒………くそ……! 短い付き合いだったがお前のこと、一生忘れないぜ……!』


解説くんも諦めムードに入ってる。

おいコラ、相棒なら助かる方法考えろや。


まだなにか方法はある筈だ。 まだ慌てる時間じゃない。


魔法が、爪が、牙が、鱗が、翼が、尻尾が。


竜の肉体に兼ね備えた最強の武器たちを駆使して暴れる。


「うぉぉぉぉおぉぉお!! 食われてたまるかーー!!」


魔力の使い方なんて、口頭で解説くんに教わっただけだ。

でもそれでいい。 とにかく、ありったけの力をぶちまけて暴れる!


暴走する魔力と力を増す虎の締め付けで身体が壊れそうだ。

だがな! お前に食われるくらいなら、オレは死を選ぶ!

折角得た二度目の命、お前の自由にはさせん!


「は、な、し、や、が、れーーー!!」


その抵抗を鼻で笑う虎は、人を丸呑みできる大口を開けてオレの頭をかじろうとする。


暗い口の中に放り込まれる時、オレは確信した。




あ、これ死ぬわ。







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