七羽目 新たなるステージ
準亜成体。
竜の界隈において、それはドラゴンが生まれたての赤ちゃん(幼体)から少しだけ成長し、人間でいう幼児になったことを表す言葉。
まだ未熟ゆえにブレスを吹くことは無理だが、竜の力の象徴たる翼、爪、牙も立派になり、自分以上の巨躯を誇る敵すら切り裂き、砕き、蹂躙する膂力と耐久力を誇る。
親によってはこの時点で一人前になったと判断して育児放棄……もとい、巣立ちをさせることもある。
『………てなのが準亜成体の特徴だ。 なんか質問あるか? ないなら講義終了なんだが?』
「いつになったら、ブレスをふけますか?」
唐突に幼児喋りしてみたり。
準亜成体になった途端、急に赤ちゃん返りしたくなってみたくなったのさ。
親が育児放棄してるからね、愛に飢えてるのさ!!
………オレキモいな。
『なに急に幼児喋りしてんだよ……気持ち悪いな、全く……。 ブレスは魔力……厳密には魔力を生み出す器官の魔臓が成長する亜成体になってからだ。 それともう一つ、欠かせないものがある』
「それはなに?」
『竜の体内の生体エネルギー炉だ』
「ん?……………………………んんん!?!?」
この説明だと、ちょっとオレの頭じゃ思考の交通整理が追い付かないなー。
昔に観た映画で、現代社会で無双してる怪獣の映画があったのを思い出した。
その話では、二足歩行の黒い怪獣は体内にある生体原子炉から火を着けて発射する、極めて科学的な方程式で物を燃やしていた。
現代社会では、化学反応で燃えるモノを組み合わせて、爆薬として爆破解体や軍事転用とかされてるから、現代で怪獣が暴れてるその映画の世界観では、特に矛盾の無い説明だと思ってたけど、うん。
その設定をメルヘン☆ファンタジーワールドでやってしまうかー。そっかー。
『おい、相棒? 聞いてるのか? おーい』
「あ、うんごめん。 ちょっと飛んでたわ」
魔獣の森は食べ物の宝庫だった。
その辺で収穫した木の実(リンゴみたいな味と見た目)をかじりながら相槌を打っておく。リンゴ美味しい。
小川の水も冷たいし、透明に透き通ってるからうまい。
甘ったるさと血の匂いでいっぱいの口を浄化するのに一役買ってくれてる。
『どこにだよ!?』
「そんなことはどうでもいいさ。 そんなことより、魔力と生体エネルギー炉のパワーを混ぜたら凄いブレス吹けるんじゃない?」
『大抵の竜はそれを思い付いて、試して、大体は爆発する』
「爆発!!??」
竜が爆発するの?! リア充………いや、リア獣なの?
リア獣爆発したの?
『制御できないやつがやったら、生体エネルギーと魔力の反応で体内から空間爆発を起こすぞ。 それこそ、一瞬だけならハイワールドとタルタルスが繋がるほどのな』
空間爆発だの、ハイワールドだの、タルタルスだの、知らない専門用語のオンパレードですねぇ。
一つずつ、簡潔に詳しく詳細に説明してよ。
『おう、まずは空間爆発についてだな。 魔力は時空間や概念、法則に直接作用を与えてるから、強すぎる魔力の暴走は空間すら消し飛ばちまうんだぜ。 それが空間爆発だ』
「ビッグバンかなにかなの? 新しい世界創れちゃうの?」
『それができる野郎は例外無く伝説だよ』
『ハイワールドはこの世界の名前だ。 お前さんの住んでた地球とは全く違う次元の星さ』
転生したのは宇宙の果ての別の星かと思っていたが、まさかガチの異世界だったとは。
リンゴの味は変わらないのにね。これも過去の転生者たちの努力の賜物だろうか?
「タルタルスは? タルタルソースみてぇな名前しやがって」
『タルタルスは冥界。………俗に言う地獄のことだ』
この世界は、あの世が存在することが証明されてるのか。
地獄が実在するってみんな知ってるなら、オレの世界よりも犯罪率低そう。
地獄があるってことは、天国もあるってことだしね。
『ちなみに、転生ってものあるぜ? 地獄にも天国にも行けねえようなビミョーなヤツは時々いてな、そういった連中は記憶を消されて、また生まれ直すんだ』
「へー。 ずいぶんと優しいシステムだな」
『オレっちたちの創造主サマはなかなか慈悲深いってことよ』
オレの世界の神話の神様はだいぶロクデナシ揃いなのにね。
『ところで、魔獣の森の環境には馴れてきたか?』
「うん、食料も豊富だし、水も空気もうまい。 木の影に隠れながら空を飛ぶ練習もできそうだしね」
スペック的にはもう空は飛べるけど、オレの練度が足りなくて無理だったからここまで歩いてきたしな。
でも無理に飛んでたら、現在進行形で上空を飛んでる魔獣たちの餌食になってそうだし、陸から攻めて正解だったかもな。
久しく見ていない自然の色に、オレの心は浮き足だっている。
環境が整ってる分、危険生物も天敵も沢山いるだろうけど、それでも食うに困らないのは正直ありがたい。
準亜成体の力を使いこなせば、それなりの獲物も狩れるし、もっと成長すればこの森のボスになるのだって不可能じゃなさそうだ。
オレの保護竜予定の姉御さんが迎えが来るまでは残り三十日ちょっと。
それまでなんとか食っていけばいいか。