四羽目 森へお帰り
転生してから乾いて、飢えての地獄の三日が過ぎた。
おかしくない? 普通、異世界転生はチート能力てんこ盛りだったり、可愛い女の子でハーレムを作ってうはうはだったりするんじゃないの?
なんでオレは初っぱなから割りとリアルな理由で死にかけてんの?
これだから太郎系は~って言われちゃいそうだからもう自重しておこう。
今日は【姉御】のお迎えが来る日だ。死を運ぶキューピッドじゃなければいいけど。
『よく生き抜いたな、相棒。 偉いぞ』
「よく生きてたよ、オレ」
解説くんの賛辞も聞けて満足満足。
「ところで姉御ってどんな竜なの?」
『おっかねえヤツだ。 オレなんて何度も殺されそうになってっからな!』
「意識しかない体なのに?」
『そうだよ。 あいつは意識体のオレを害せるほどの魔力があんだよ』
物理攻撃が効かない相手を攻撃できるとか、強すぎだろ姉御。
オレがなにか言おうとしてると、解説くんがなにかブツブツ言いながら唸っている。誰かと喋ってるようだ。
『むっ………そうか、そいつは困ったな』
「え、どうしたの?」
念話?らしきモノで解説くんは誰と喋ってるんだ?
『おい、相棒。 トラブル発生だ。 迎えが来なくなった』
「え? 嘘だろ?」
タチの悪い冗談だと思って受け流したいけど、なんとなく嫌な予感がする。解説くんの声も至って真剣だ。
本当っぽいな。
『姉御が冒険者とやり合って重症。 命に別状はないが、翼をやられてしばらくは飛べないとよ』
「姉御さんは無事なのか!!??」
『無事だ。 だが、今日中に助けにくるのは無理だってよ。 来月までは自力でなんとかしてくれと』
「無理だよ!! 三日ですらギリギリ食い繋いできたのに!」
夜の雑談で解説くんから聞いた話だと、この世界の一月は四十日前後。
来月のいつまでなのかは不明だが、姉御の保護を受けられるまでは、最大で四十日後ということだ。
最初の数日で死にかけるオレが四十日も一人で生きるとか、死にゲー・無理ゲーと評判の闇の魂というゲームの最高難易度以上だ。
まさに無理ゲー・オブ・死にゲー。
『オレっちもついてるし、余裕だよ。余裕』
そんなに余裕こいてられるのは、解説くんには死ぬリスクがないからだよ。
こっちはもう楽に死ぬ方法を考えてるんだぞ。
「オレはお前と違って、普通に死ぬんだぞ………!!」
『知ってるよ。 だから生き延びさせるためにサポートしてやる。 次の餌場までな』
解説くんのレーダーによると、オレの現在地から東へ半日分進んだ場所に、デザートワームの群れがある。
そこに行けば、しばらく(具体的には十日)は食料に困らなくなる肉が狩れる。
その肉と、シュガースライムの体液を食い溜めして、きな粉砂漠を出る。
魔獣の森は、この砂漠よりも魔物・魔獣で満ちている。
亜成体にすらなってない幼体ドラゴンのオレではいい鴨だろうが、それはオレにとっても食料になる動植物にあふれているということだ。
また虫を食うのか、なんて、嘆いていられない。
生きるためには食うしかない。
オレは爪を磨いで、ワーム狩りに挑むのだった。
◆
デザートワームの肉を豪快にかじり、スライム砂糖水で喉を流す。
両手が翼と一体化してるタイプの竜じゃなく、両手を自由に使える四足歩行タイプのドラゴンに転生できたのは幸いだったな。
尻尾を使えばなんとか直立二足歩行で両手にワーム、スライムを持って食べ歩きが可能だ。
「うま………くはないな。 普通に不味い」
『ワーム種ワーム族は手軽に狩れるし栄養価は高いが、どう調理しても味は最悪な食材として人間たちにも不人気だ。 魔物でもこれを好むヤツは馬鹿舌扱いされるからな』
「ボロクソに言われてるなワーム」
オレの食事として大活躍のワームがこんなに嫌われてると、オレ悲しい。
『魔獣の森まで、残りは九日分だ。 少し身体が成長したな』
「そうかな? 自分じゃわかんないけど」
『この分なら半年あれば亜成体まで成長できそうだぞ』
亜成体か。たしか、空飛んだりできるんだってね。
昨日の夜、解説くんが言ってた。
成体にならなきゃブレス吐けない成長の遅さは難点だね。
その分、強力なのが撃てると思うけどさ。
『長老や姉御みてぇな最強クラスなら、小っせえ星を消し飛ばせるからな』
「ドラゴン●ールかよ!!」
『実は、衛星も一度消し飛ばされたことがあってだな?』
「やめろぉ!!」
『冗談だ』
解説くんの悪乗りはともかく、砂漠越えは穏やかに進んだ。
嵐や天敵の襲撃もなく、平和な旅だ。飢えること以外は。
きな粉の丘を越え、きな粉の谷を越え、ついでにちょっと舐めて、歩き続けて数日が経った。
『そろそろ見えてくるぞ。 魔獣の森だ!』
地平線の彼方に緑が見えた。
「しゃあ勝った!! 最終話、完!!」