十一羽 邂逅の姉御
成長して学んだことがある。
この亜成体の身体は大きい。大きすぎるのだ。
他の魔物と行動してると、踏み潰さないようにしないといけないから歩きづらい。
一番大きい身体のミノタウロスくん(仮名)以外の魔物を簡単に踏み潰せるほどの巨体だ。
ちょっとよそ見して踏みつけただけで、相手もオレの足の裏も悲惨なことになりそうだ。
『相棒、こいつらにノコノコ着いてっていいのか? 姉御のことはどうした? 罠かもだぜ?』
罠だったら………まあこの身体なら切り抜けられるだろうし。
急成長した力で逃げればいい。
『戦わないのか? 魔獣どもを殺しまくってただろ。 あんたなら簡単だろ?』
知性のある人型と、知性もない非人間型を殺すのを一緒にするなよ。
元人間のオレには人型を殺るのは、腕力より精神的なハードルが高いんだよ。察しろ!
魔獣を殺せたのは、命が関わってる状況が背中を押してくれたのもあるし。
『姉御のことはどうする? お前を保護しに来る約束だろう?』
もういいんじゃね、その話。
『いや……着いてった先に姉御の気配がすんだよ』
はぁぁ!?!?
どういうこと?!
『姉御の療養所もそこにあるみてーだぜ? 正直、オレは行きたくねぇ』
お前、姉御に嫌われてるもんね。本当になにしたの?
『喧嘩した弾みでオストカゲって罵倒したら逆鱗だった』
地雷踏んでたかこいつ。
人間で言う、腕白で強い女の子をメスゴリラや男女って呼ぶやつ的な?
『人間の感性で言うならそれだな』
女の子にそんなこと言ったらそりゃ怒るでしょ。
『ま、相棒ごと殺される前に土下座でもして詫びてやるさ!』
「オレごとかよ?!」
『当然だ。 なにせ、オレたちは同じ器で繋がってるんだ。 お前が死ねば、オレは次の器が来るまで休眠モードさ』
オレを巻きこんどいて自分だけ助かるなんてズルいぞ!!
『悪いな相棒。 この復活は一人用なんだ』
ス●夫かてめぇは。
◇
「つきましたよ、ドラゴンはん。 ここがウチらのおうちやで」
ちょっと女子ー、ゴブリンくんの台詞取らないでよー。
「ここから先はボクが説明します! ここは魔物の集落で、狩猟と農耕、伐採と採掘なんかで生計を経ててます。 ドラゴンさんの身体なら百人力ですよ! ………エンゲル係数もかかるだろうけどさ」
おい最後。 小さく言っても聞こえてるぞ。
魔物集落は森林地帯を四角に伐採した土地。
周囲にはキチンとした鉄柵が建てられてるから、採掘どころか金属加工の技術すらある。集落どころか立派な街だ。
地面は均等に均されていて、赤煉瓦で舗装されたちゃんとした道がある。
しかも、電気があるのだろうか。街の一部だけだが街灯がある。
中心部分にしかないのは、電力が不足してからか?
『お前さんの先輩転生者の技術か。相当腕のいい電気技術者だったらしいな』
「でも普及率は悪いみたいだよ?」
「あの電気師はんが虎はんに喰われてもうたから、だーれも電気を扱えへんからやで」
おお、発光少女よ。解説してくれるとはありがたい。
でもその光は眼に染みる。やめてくれ。
「うちもあの人に教わりはしましたが、どーにも燃料がすっからかんで手も足もだせへんのです」
この子、義務教育もないこの世界で電気技師になったのか。すごい天才じゃないか。
オレなんかオームの法則すら覚えてないのに!
『水の精霊が電気を整備するのか………。 時代も変わったもんだぜ』
電気がある生活って良いよね。
オレもそろそろ夜更かしするのに電気が恋しかったんだ。
「ドラゴンはんの世界のようにいきまへんが、ウチも誠心誠意がんばらせていただきます」
「そんじゃみんなは仕事に戻ってください! ここからはボクが引き受けます!」
ゴブリンくんが号令すると蜘蛛の子を散らすとはこのことか、と言える勢いでみんな散らばっていった。
すげえカリスマだな。
「みんなが素直なんですよ」
照れ臭そうに笑っておる。
「そういえば名前聞いてなかったよ。 きみたちの名前は何て言うの? オレは――――」
自分の名前を言おうとして言葉に詰まる。
オレの名前なんて言うんだっけ?
こっちの世界では解説くんに『おい相棒、相棒こら』って言われてるだけだし、人だったときの名前を名乗ろうにも、前世の記憶は肝心な思い出部分はすっぽり抜け落ちてるからなにも言えない。
自己紹介をして、ようやく名前がないことに気づいてしまった。
『名前か………ならブリトラでいいだろ』
ブリトラか。なんか元ネタがあるの?
『お前さんが産まれた瞬間に長老が名付けた名前だ。 本当は竜のしきたりに従って成体になってから教える予定だったんだが、今は名前が無いと困るからな』
じゃあ遠慮なく使わせて貰うぜ。
「オレの名前はブリトラだ。 よろしく」
「ボクはグリーンジュニアです」
右手を出してくる。体格差が大きすぎるのでこっちからは指を出して握手に応える。
「この街の案内をさせて―――」
巨大な爆発と破裂音がグリーンの声を遮る。街の隅っこにある建物が吹っ飛んだ音だ。
『お前この野郎おおおおおぉぉぉ!!!』
綺麗な声で汚い罵声が飛ぶ。鼓膜が破れるかと思うほどの声量と気迫に、思わず肩がすくむ。
爆発と炎からオレの倍はある巨大な竜がゆっくりと立ち上がる。
『来やがった……!! 姉御だ!』
『あたしをパシらせて、てめぇだけのんびりお喋りかこのクソガイドォォォ!!』
オレだけ結構理不尽に怒られてる気がするのは気のせいか?




