私と歯抜け
世界は五年前に大きな変動があった。
それはクラフト国が、真下にある獣人の国ライオンズと併合したことだ。
百年前までは、獣人といえば潰しのきく奴隷だった。ところが、百年前に奴隷廃止条約が結ばれて以来。獣人は奴隷にもならない、労働力としても頼りないと、むしろ条約が結ばれる前よりも人間から忌み嫌われるようになった。
獣人という種族は、身体能力こそ人間より高いが、何しろ遠い先祖に獣の血が入っているため自制力もないし、忍耐力もないし、何より頭が悪い。一分前に教えたことをすでに忘れているなんて日常茶飯事。客の食べ物を勝手に食べる、そもそも仕事があることを忘れる。人の名前も覚えられない。むしろ言葉も喋れない。
そんな種族を雇う人間なんていない。国によっては入国制限もかけているという。
そんな獣人の国をクラフト国は併合した。つまり、獣人を自国の国民として認めたのである。
もちろん賛否両論だった。しかし、リオ殿下は獣人を味方につけた途端、人間連盟の協約を無視し、隣国に攻め込んだ。
圧勝だった。
そもそも獣人の国ライオンズを攻め入ろうという国はいなかったわけではない。でもライオンズという国は、攻めるという点においては指揮官となりうる優秀な頭脳がなかったが、防衛戦においては無敵の強さを発揮した。無論頭が悪いので攻めてくる敵を殺すだけだが……そんなわけで、今まで触れるな危険とばかりに放置されてきたライオンズが、リオという人間の中でも一等優れた指揮官を頭とした場合。結果が周辺諸国を支配した大帝国の誕生だった。
だから獣人は功臣として扱われるべき種族ではあるのだが、なにぶん知性が上がったわけではないので、依然として人々に遠巻きにされている存在なのだった。
「……と、いうことなの!」
「はあ……で、あんたが頭いーのはわかったけどよ。何がいいてーんだ?」
「えっ! わたしって頭良く見えるかしら!? 初めて言われたわ!」
「だろーな……」
多分赤ちゃんかお年寄りの方でなければみんな知っているような事情なのだけど……毎日生きるのに必死なんでしょうね。
歯抜けはどうやらこの集団のリーダー格のようだった。随分と平均年齢が低い。一番年上がこの歯抜けで、十一か、十二くらいかしら。彼は私を胡散臭そうに見るが、手荒な真似をするそぶりはない。
「俺らも暇じゃねぇからさ、何の用だよ?」
「あら、もっとお話を聞いてくれてもいいじゃない? どうせすることなんかないじゃない。それともわたしとお話する以上の大事な用でもあるの?」
「そりゃあんたの戯言を聞くよりか大事な用なんていくらでもあるわ」
「ご飯食べさせてあげるわ」
「年中生ゴミ漁ってる俺らに用なんかあるわけねえだろ?」
この歯抜けは少し見込みがあるかしら? 後ろの方々はダメね。ばかみたいに口開けっ放しで私に見惚れてるもの。
「あなたたちって、いつから王都にいるのかしら?」
「あ? んなもん、生まれてこのかたこのゴミだめから出たこたねーよ」
「まあ! ずっとこの路地裏にいるの? リオ殿下のおかげで随分整備されたってお聞きしたわ?」
「はっ! お偉いさんがこのゴミ捨て場をなんとかするって? バカ言えよ」
そういった歯抜けの目は貴族階級への嫌悪で満ちていた。
「ねえ、歯抜け。貴族が嫌いなの?」
「歯抜けってなんだよ……嫌いだよ。当たり前だろ?」
「私のことも嫌いかしら?」
「ああ、あんた、いい身なりをしていると思ったら貴族か? なんだって貴族がこんなとこに居んだよ」
と鼻を鳴らすが、相変わらず私への敵意は見られない。この容姿のおかげかしら? なんにせよ助かるわ。
「わたし、久しぶりに王都に来たの。いろんなことが変わってしまって迷ってしまうわ。案内してくれないかしら?」
「あ? なんで俺たちに頼むんだよ? 貴族様ならもっとドラでも叩いて行列作って歩きゃいいじゃねーか」
「まあ! 面白い冗談ね」
くすくす笑うと彼はきまり悪げに頬をかいた。
「理由なんてないわ? 面白そうだから頼むだけ。ねえ、ちゃんと報酬は払うわ。お願いできない?」
とおきまりの上目遣いで(私と同じくらいの身長だったものだから苦労したわ!)お願いすると、歯抜けは子供らしくないため息をついて、
「……あのよ、そりゃもらえるならもらいてーよ。でもこんなきたねーガキ店に入れるやつなんていねーよ。他にいきな」
「だったら公衆浴場に行けばいいわ。新しい服も買ってあげる」
「は!? あんた、一体何が目的だよ!?」
「まあ! 目的がなかったら人に優しくしてはだめなの?」
「だめじゃ、ねーけど……」
「ならいいじゃない。ねえ、早く行きましょ?」
お姉さまは診療所にいるはずよね……?
私は周囲をキョロキョロと見回しながら路地裏から出ると、その後を五人の浮浪児がこそこそと出てくる。
清浄な空気を浴び、私はようやく自分が臭いことに気がついた。
「やだっ、もしかしてわたし臭いのかしら……?」
「安心しろよ。どう考えても俺らのが臭いぜ」
歯抜けは明るい光に目を細めながら、鼻に皺を寄せた。他の四人は怯えたように身を寄せ合っている。
「ね、ねえ……ぼくたちって出てきてよかったの」
「仕方ねーだろ。こんなうまい話見逃せっかよ?」
何かこそこそ言い合っているけど、興味もわかないため、
「ねえ、早く服を買いに行きましょう? 服が臭いわ」
「ああ。なら先に風呂屋に行けばいいんじゃねーか?」
「いやよ! 体を綺麗にした後は綺麗なお洋服を着たいわ。女心がわかってないのね」
「知るかよ……」
道なりに進んでいくと、周りの人々が次々と顔をしかめては避けていくという人生初の体験をした私は、
「あなたたちってよほど臭いのね。こんな顔をされたのは初めてよ」
さりげなくすべての責任を後ろの小汚い五人になすりつけた。
「いっただろ? てか、いつもならそろそろ憲兵が出てくるんだよな」
「まあ! ではわたしは兵隊さんのお世話になってしまうの? それはいやだわ」
「そんときゃかついでやるよ」
「いやよ。あなたたちって臭いもの。そんな真っ黒な手でいる限り私に触らないでちょうだい」
「よかったな。その心配は無くなったぞ。服屋だ」
と歯抜けが立ち止まったのは、こじんまりした地味な店舗の前だった。
「ここ? なんだか地味ね」
「古着屋だからな。もっと華やかな店はいくらでもあるけど……」
「どうして? もっと綺麗な服は欲しくないの?」
「あんたやっぱり世間知らずだな。ついさっきも追い剥ぎ見てーな真似してるガキども見たろ? まあ、俺らなんだけど」
「そっ。あなたたちみたいないじめっ子が他にもいるのね」
「いるどころじゃねー。俺らのふた回りかもっとでけーいい大人が大人げなくテメェの財産狙ってくるっつーの。何回殴られて飯食えなくなったことか」
「あら、大変ね。じゃあここの服も買わないほうがいいんじゃなくって?」
そういうと、他の四人ーーまどろっこしいわね……手下1234でいいかしら。手下たちは言われてやっと気付いたようで、気弱な声で「どうしよう……やめたほうがいいんじゃ」「また殴られたりしたら」と言い始める。
「まあ、もらえるもんはもらう。まともにしてりゃ就職先も見つかるかも知んねーし」
「ふうーん」
埃が積もっているドアを開けると、ガラガラと錆びたベルが鳴った。
店内は薄暗く、うっすらと埃臭かった。店の奥からしゃがれた声で、
「客か?」
「店主の方? ねえ、この人たちにいくつか服を見繕ってちょうだい」
「勝手にやりな」
愛想のない声。失礼しちゃう!
「おい、このお嬢様。ここはいつもあんたがいってる高級店じゃねーぞ」
「どうすればいいの?」
「客が勝手に見て買ってくんだよ。いいから見てろよ」
歯抜けはそういうと、あっという間にそれぞれのサイズに合った服を見繕った。
しゃがれた声はまた言った。
「おい、餓鬼ども。金はあるんだろうな? テメェの汚ねえ手で触ったやつなんぞ売りもんになりゃしねぇ」
「あら、お金だけはあるのよ」
特に今日は、一年分のお小遣いを持ってきたもの。
「ねえ。わたしのサイズに合ったものも見てくれないかしら」
「なんだってわざわざ? まあ、いいけどよ」
と言って彼が持ってきたのはいかにも田舎の村娘が着るようなワンピースだった。
「悪くないけど……わたしが欲しいのはもっと別の服よ」
「だろーな。ここにあんたに似合うよーな服なんてねーよ」
「違うわ。男物の服を持ってきてちょうだい」
「は!?」
「もうっ、雇い主の命令が聞けないの?」
「おいおい……」
ふふ。いい買い物しちゃったぁ。店を出るとすぐに、楽しくてくるくると回ってしまった。このワンピース、少し古いけどなかなか着心地がいいわ。紺色の生地というのもわたしの蒼い目に映えて趣深い。
まともな町人らしい服に着替えた歯抜けはげんなりしたように、
「頼むから次からはいきなり金貨なんか出さないでくれよ。寿命が縮まったぜ」
「ごめんなさい。だってお金の価値なんかわからないんだもの。それにお釣りはいらないって言ったんだから、きっと喜んでいるわ」
「もうあんな勿体無い真似しないでくれよ……ゼッテーめちゃくちゃ損した」
「だってお釣りが出せないっていうんだもの。仕方ないじゃない」
「ざけんな。ちょっとはあるっつーの。あのおっさん、眼が光ってたぜ。俺らがいなくなって襲われても知らないぞ」
「あら、いる間は守ってくれるの? なんて頼もしいナイトさんかしら」
「冗談言ってんじゃねーぞこっちは。あんた、自分の身がどうなってもいいのか?」
「ありがとう、わたしを心配してくれるのね。心配しなくてもちゃんと自分の身は自分で守るわ」
ええ、もちろん。だって私がいなくなったら、誰がお姉さまを守るというの?
「あなた、お金が数えられるの?」
「見よう見まねでな。俺たちスラムのガキが騙されずに生きようってのはまた無理難題だけどよ」
「あなたも誰かを騙したりするの?」
「はっ」
歯抜けは軽蔑したような笑い方をした。
「したことがあるっつったら、失望すんのか?」
「いいえ? 生きるためでしょう?」
そういうと、歯抜けは拍子抜けしたようだった。
お姉さまならきっと、それでも正々堂々とした生き方をしなさいと諭してあげるのでしょう。
でも私は弱いから、それも仕方ないと思ってしまうの。
「あなたが奪わないからと言って、奪われないわけじゃないもの。人間持ちつ持たれつでしょ」
「それは違うと思うけどな」
「それにしても、あの路地裏にいた時。わたしを袋叩きにすればお金を奪えたでしょう? どうしてやらなかったの? わたしに見惚れちゃったのかしら?」
「あんたな。本当に俺らがそうしてたらどーすんだ? この後あんたを人がいないとこに引っ張り込んでもいいんだぞ」
「でも、あなたはそうしなかったのね。どうして?」
問いかけながら、私は心臓が早鐘を打つのを止められなかった。
私が求めている答えを出すことができたらーーーー彼はきっとこれから、私の強力な手駒になってくれる。
歯抜けは目を細めて、つまらなさそうに言った。
「そっちのが儲かりそうだったから」
「……そう」
ーーああ……!
「おい、ここだ」
彼が立ち止まったのは、乳白色の建物の前だった。動物のような彫刻が施されている。
「ずいぶん大きいのね」
「そりゃあんた、浴場なんてのは金ありあまってる奴らが行くんだよ」
「へー」
中に入ると、天井がアーチ状になっており、石畳で敷き詰められた広場が広がっていた。突き当たりに受付の者がいる。
「ねえ、浴場に入りたいのだけど」
「はい? はぁ……じゃあ、まずは入場料銀貨二枚いただけますか? あ、後ろの方々はお連れ様で?」
「ぎ、銀貨二枚!?」「僕らの生活費一年分じゃないか……!」後ろが騒がしいわ。
「ええ、全員で一二枚ってこと? ごめんなさい、今金貨しかないのだけど」
「えっ!?」
胡散臭そうに目を眇めていた係員は、金貨の輝きを目にした途端ギョッと目を剥いた。
「は、はい……! もちろんでございます! え、えっと、はい、では銀貨八十八枚のお返しになりますが……少々お待ちください!」
しばらくして、彼は息を切らしながらジャラジャラと音がする布袋を持って戻ってきた。
「こ、こちら、はあ……お、お返しになります」
「ありがとう。ねえ、重いからあなたが持ってちょうだい」
「はあ? 俺かよ」
歯抜けはそう言いながらも満更でもない顔で袋を揺らした。その音に惹かれ、手下四人はうっとりした表情で耳を寄せた。餌にたかる魚みたいね。
「あ、ではこの南京錠をお使いください。はい、貴重品などは金庫に入れてくださるようにお願いしています」
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案外広いわ。浴場は高い天井のてっぺんにガラスがはめ込まれ、鈍い光が差し込んでいる。大きな浴槽と小さな浴槽に分かれており、小さい方は体を清めるために置かれているようだった。
人はそれほど多くない。
私は先人に習って体を清めてから浴槽に体を沈めた。
長い金髪がゆらゆらと水の中で揺れる。真っ白な肌はすべすべしてして、ムダ毛が一本も生えていない。
姿見で見た自分の姿は、いつもと変わらず美しい物だった。
惜しむべきは凹凸がなさすぎるところかしら……手で寄せると少しだけ柔肉が持ち上がり、ストンと滑り落ちる。
お腹は触るとプニプニしていて、とてもくびれと呼べるようなものはない。
顔には自信があるのだけど、これでは女性としての魅力が足りないのではないかしら……?
そんなことをぼんやり考えていると、ふと腕に鳥肌が立っていることに気がついた。
どうして?
ぞわり、と怖気にも似た何かが体を駆け抜ける。
ああ。ああ……!
太ももを撫でる感触。肩を抱いた太い腕。さりげない動作を装って、乳房をかすめる指。何より、口腔を蹂躙する異物。
我ながらしつこい女だわ。まだジャックの件を引きずっていたなんて。
そうよ、喜ぶべきではないの?
私に性的な魅力がある証拠ではなくって?
ええ。きっとそうよ。
お姉さまがジャックの毒牙にかからなくてよかった。
のぼせてしまったかしら。白いガウンがまた足にまとわりついて歩きにくい。フラフラする頭を押さえて休憩用の広場に向かうと、ちょうど見覚えのある五人の子供が反対側から入ってくるところだった。いいえ、見覚えなんかなかったわ。
五人とも見違えていたんだもの。
「まあ……! すごいわ。人ってこんなに変われるものなのね」
「俺も、自分の髪が茶色だなんて生まれてこのかた初めて知ったぜ」
歯抜けは泥んこに浸かったような汚れを落としきると、なかなか見れる顔立ちだった。
「で、お嬢様。こんなに世話になったからには、この王都。どこへでも案内してやるよ」
「それはもういいわ」
「はぁ? あんたな」
呆れた顔の歯抜けの手を掴み、広場をずんずんと横切った。
「おい! どこに連れて行く気だよ!?」
問いかけを無視し、私は狼狽えている手下たちを振り向いて言った。
「いい? 誰にもついていかないで、ここでおとなしくしていて」
手下たちは怯えた様子でこくこくと頷いた。
歯抜けが本気で抵抗したらたやすく振りほどかれてしまうと思っていたけど、どうやらその様子はなかった。
休憩の広場から通じる一本道を歩くと、ポツポツと等間隔で扉が存在していた。浴場のお姉さんたちのいう通りね。
私はちょうど良さそうな扉をあけて、中に入った。中は真っ黒だったけど、そばにあったランプをつけると全容が見えた。
「なんだよ? これ」
「見てわからないの? ベッド」
「初めて見たけど、流石にわかるわ。なんだよ? 寝てぇなら一人で寝ろ」
「あら、一緒には寝てくれないの?」
そう言いながら、私はぼうっと立っていた歯抜けを思い切り押し倒してやったの。歯抜けの腹あたりに座り込むと、その間抜けな表情がよく見えた。
「は、はっ……!?」
「ねえ、歯抜け。あなた、名前は?」
そう言いながらガウンから手を差し入れて胸板あたりを撫でてあげると、面白いほど焦った顔になった。やっぱり男と女だと体の構造が違うのね。私と違って、固い筋肉がついている。
「なんの冗談だよ? あんた、やけにでもなったのか!?」
「まさか。私、これからが花盛りのお年頃よ? ねえ、早く答えなさい。名前は?」
「スラムのガキに名前なんかあるわけねーだろーが! 早くっ、どけ!」
「きゃあっ」
急に身を起こされたものだから、私は思わずそばにあった歯抜けの首に思い切りしがみついた。
私の小さな胸と歯抜けの胸板がぴったりと密着していた。ガウンは乱れて白い太ももが露わになってしまって、その太ももを私はスラムの浮浪児風情の腰にぎゅっとくっつけていたのだ。
私は唇をつんと尖らせて、真っ赤になっている耳元で囁いた。
「ひどいわ。どうしてそんな意地悪をするの?」
「っ……テメェ……何が目的だよ? まさか本気でやってるわけじゃないんだろうが……!」
「まあ、どうしてそう思うの?」
「あんた、目的がないなんて言いながら、品定めする気満々だろうが」
「なんだ、気づいていたの?」
「チッ……うまい話には裏があるもんだって、知りたくもなかったけどな」
「フゥン……」
流石に話しにくいということに気がついたので、ずっとぴったりくっつけていた腰を離して、歯抜けの隣に座りなおした。あからさまにホッとされた。
「そう。あなた、名前がないのね。じゃあ今日から名無しと名乗りなさい。ナナシよ」
「はあ? なんで見ず知らずの女に名前をつけられなきゃいけねーんだ」
「見ず知らずじゃないわ。ジャクリーン。私の名前はジャクリーン・ハルバート」
「なんのつもりだよ」
「ええ。だって、これから一生私のために働いてくれるんでしょう? 名前くらいはつけてあげるわ」
「はぁ? 意味わかんねー」
いいえ。わかるはずよ。だってその瞳の中には、不審と同時に、隠しきれないほどの欲望と好奇心が見えるもの。
「ねえ。一生あんなゴミだめにいたいの? 私なら、あなたを出世させてあげられる。財産を与えてあげる。名誉を与えてあげる。地位を与えてあげる。強者でいさせてあげる。弱者を虐げる権利をあげる」
「……なんの話だ」
「あのね、本来、私はあなたごときにこんなに時間を取らないわ。だってあなたの選択肢は一つしかないもの。ねえ、あなたはきっとこの環境から脱したいはずよ。あなたは頭がいい。意欲もある。出世欲もある。ーー何より、私に可能性を感じたから、ここまでついてきているのでしょう?」
「買いかぶりじゃないか?」
「あら、そう。じゃあ買いかぶりねこの話はなしにしましょうーーなんて言ったら、あなたはどうするの?」
「……へえ。さっきと立場が逆転したわけだ?」
ナナシは片手を顔に当ててしばらく沈黙した。
「ねえ、飽きてしまったわ。まだ終わらないの?」
「……具体的にさ、俺らに何させようってんだ?」
「『ら』? いいえ、あなただけでいいわ。あの子たちはいらない。バカだもの」
「はっきり言ってやんな……あいつら、まだ10歳にもなってないんだぞ」
「そ。どっちでもいいわ。具体的なお話? だーめ。まずは私に忠誠を誓って?」
そう嘯くと、ナナシは大きなため息をついた。
「はぁーーー……いいよ、あんたに従うよ。まさか俺ごときに美人局なんてしねーだろうしな」
「やったあ! ありがとう、大好きよ。ナナシ!」
そう言って抱きつくと、ナナシはやはり奇妙な硬直をするのだった。
この話でブクマ外れそうだなと思います。
貞操観念が低いですね。手段を選ばないので。このナナシとやらは別にヒーローではありません。