表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

お姉様と私の始まり始まり

ねえお姉様、もし私が、昔からお姉様が羨ましかったっていったら、きっとあなたは信じないでしょうね。



私とお姉様は、とある侯爵家に生まれたわ。と言っても、私とお姉様は腹違いの姉妹。お姉様は前妻さまの子供で、私は後妻、つまり今のお母様の子供なの。話に聞くと、お姉様のお母様は、お姉様がまだ五歳の時に亡くなったのですって。

その後お母様とお父様が再婚なさったのだけど、なんと私はその時三歳。つまりまだお姉様のお母様がご存命だった時代、お父様がお母様と浮気なさっていたのだわ。私がこのことに気がついたのは、愚かにも十を過ぎてから。聡明なお姉様はきっともっと前に気がついて、苦しんでいたと言うのに、なんて愚かなのかしら。


お姉様は私が物心つく前から物静かで、賢くて美しい方だった。まだ十にも届かない時から、図書館の本を半分は読んでいた。私は本が嫌いだった。勉強も嫌いだったわ。

どうして政治とか、経済とか、お姉様はあんなにキラキラした目で語れるのかしら。私はおともだちがみんな好きだと言うお姫様と王子様のお話ばっかり読んでいたわ。


でもね、一度だけ、お姉様に喜んでもらいたくって、お姉様が好きだと言う歴史の本を貸してもらったことがあるの。お姉様はすごく喜んで、翌日、私に感想を聞きにきた。

でも、でもね、ダメだったの。勉強嫌いの私が、いきなり難しい本なんて読めるはずもなかった。頑張って読もうとしたけど、内容が難しくって、気がついたら朝だったの。あの時のお姉様の失望した顔が、今でも夢に出るの。


お姉様はすごく素敵な方だけど、お母様も、お父様も、あまりお姉様のことが好きではなかったみたいなの。お父様はなくなった妻に似ているからだ、とおっしゃって、お母様は憎きあの女に似ているから、と言ったわ。

可哀想なお姉様。どうしてお姉様にはなんの罪もないのに、そんなひどい目に合うのかしら! 小さい頃の私はそう思って、一生懸命お姉様への扱いをよくしようとした。でも、無駄な努力だった。両親がお姉様を見る目は変わらないし、何より、誰もがお姉様を愛し、慈しんでいることに気がついてしまったから。

私には愛想笑いしか向けない庭師のサムはお姉様の頭を撫でた。私には呆れた目線しか向けないコックのジョンはお姉様の好物ばかり作る。私には困った笑顔しか向けない乳母のアンはお姉様と楽しそうに笑っていた。


お姉様は言う。誰もがあなたを好きになるのよって。


でもね。おねえさま。私が本当に欲しいものは全部、お姉様が持っているの。

ねえお姉様、あなたが醜いと言った髪は誰もが羨む美しい黒髪。

あなたが見るに耐えないと言った顔は絶世の美女。

あなたがはしたないと言った豊満な体つきは異性を惹きつけるわ。

どうして、お姉様? みんなお姉様のこと美しいって言ってるわ。どうして信じないの? どうしてお世辞だって笑うの? どうして愛されてるって思わないの?


この冷え切った館で、私たち親子三人だけが楽しそうに笑っている。まるでピエロだわ。

お母様はお父様に愛されていると微塵も疑わずに笑っている。

私はお父様の愛を失わないよう、必死に無邪気に笑う。

きっとみんな私をバカだと思っている。でもほんとのことだからいいの。私は勉強が嫌いだし、本も読めないもの。頭のいい人と政治や経済の話もできないわ。

興味があるのはおともだちの恋話か、新しいお洋服ぐらいだわ。


私はとてもひどい女の子だった。小さい頃の私は、やっていいことと悪いことの区別もついてなかったの。お姉様のように、辛いことにも寄り添ってくれる侍女が欲しかった。だから、長くいたマリーおばあさんの代わりに若くて、可愛い女の子を私の侍女にした。お姉様はずっと泣いてた。ずっと、ひどいひどいって、アンにすがって泣いていた。


浅ましい私は、それをみてどうしても羨ましく思ったのだわ。私は泣けないのに、って。

お父様は泣き顔が嫌い。前の奥さんがよく泣く人だったのね。だからお姉様もよく泣くんだわ。

でも私はずっと笑顔で、明るくて天真爛漫じゃないといけないの。じゃないと、誰も愛してくれない。


私はね、自分の強みをよく知っているの。

ふわふわとしてて、妖精みたいな見た目。男性の庇護欲をそそるのですって。純粋で、何にもわからないお姫様。

笑ってしまうわ。私って、見た目以外は何にもないのにね。賢くて自分の考えがあるお姉様と違って、中身はスカスカの空っぽなの。


だから、だからね、お姉様が幸せになるのは当然なの。お父様と、お母様を奪ってしまった私が罰を受けるのも当然なの。

お姉様は私の欲しいものを全部持っているわ。でも、きっとあなたにはわからないでしょう。だから、私がもっと幸せにしてあげる。

それが私に対する罰でもあると思うから。


ね、私ってひどい女でしょ?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ