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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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見定める者

 王国で一番の賑わいを見せるこの大通りは、通り……というよりは、小さな広場と言ってもいいほどの幅があった。

 そして、その大通りのスペースを、ほとんど埋め尽くすほどの人間がここには集まってきているのだ。


 ここに集まってきているのは……王国に店舗を持っている商人や、短期的に王国へやってきて、露店という形で商品を売りさばく者。


 そして何より……一番、その数が多いのは、王国の内外関わらず……彼らが売る商品を求めてやって来た者たちである。




 前を歩くトムは、ここの雰囲気には慣れているのか……真っすぐ前を見つめて進んで行く。対して、レナとディーンは慣れていないようで、レナは物珍しそうに、商人たちが売りさばく商品を見つめ……ディーンは少し居心地が悪そうな様子である。


「どうした、ディーン?お前はここに来るのは少なくないだろう?」


 扱う武器という面でも、同じ剣同士。そして、同じ前線を張る者として、二人よく一緒に行動をしていた。

 勿論、レナが一人だけ仲間外れになっているというわけでなく、どちらかと言えば、三人で行動していることの方が多いだろう。


 しかし、同じ男同士としても……二人にはレナ以上に分かり合えるという面がある。


「まあそうだが……やはりここの雰囲気には慣れないな……。」


 ディーンは困ったような顔でそう答えた。


 誰に対しても強気で、グイグイと行けるトムに対して、ディーンは控えめな方だ。逆に言えば、トムが暴走すれば、ディーンがそれを止める……といった構図になっている。

 どちらにしても、ディーンにとって、この場所はあまり好んでいくような場所ではないのだろう。


「はわぁ~……それで……一体何をしにここに来たの……?」


 今朝の事もあってか……いつもより元気のないレナは、大きなあくびをしながら言った。


「あぁ、そろそろ俺たちの装備を新調しようと思ってな……王国を出発する前に、先に頼んでおこうと思ってな……。」


「頼む……って、鍛冶屋とかに……?」


「まぁ、最終的にはそうなるが……先に……っと……お~い!!!」


 突然言葉を途切れさせた……と思った直後、トムは大声を上げて、その視線の先の誰かに向けてだろう……大きく手を振り出した。




 勘違いか……と、一瞬レナとディーンは思ったことだろう。装備を新調をするとなれば、それを頼む相手は鍛冶屋かその類……

 しかし、トムの手の振る先には……ボロボロの布切れを地面に広げ、みすぼらしい姿でそこに座っている老人の姿であった。


 その老人の存在は、ある意味目立っていた。この数多く立ち並ぶ店の中……どんなに人気のない……一見おかしな物を売っているような店であっても、誰かしらそれを見ている者はいるものだ。

 それが物好きか……それとも単なる好奇心故か……


 どちらにしろ、誰一人として立ち止まる者はおらず、時折まるで乞食を見るような目を向けられるその老人は、ある意味で目立っていた。


 というよりも、あれが物を売る者とは思えないのだ。恰好は汚く、置かれている商品も到底人に売るような物とは思えない。

 ヒビだらけの茶色い器に、汚れまみれのイヤリング。挙句の果てには、そこらへんで拾ったようにしか見えない石ころまで並べられている始末だ。



 そんな老人が一体、装備の新調と何の関係があるのか……。そんな疑問を持った二人は、当然初めは何かの勘違いだろうと思っていた。しかし、トムが声を上げ手を振ったと同時に、それに反応するように視線を向けた事から……残念ながら勘違いではないということを確信した。



「おう、爺さん!挨拶に来たぜ!!」


 トムが元気よく声をかける。不相応にも、このみすぼらしい恰好で、この大通りのど真ん中を占有するこの老人の()()? は、どうしても目立ってしまう。そのため、そんな老人に対するトムの声は、一時――その周囲の視線を集めた。


「……小僧か……こんな老人に何の用かの?」


 あからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた老人に対して、トムは一切態度を変えることなく、笑いながら答えた。


「おいおい。とぼけるなって!いつも話してるじゃないか!!」


 トムが笑いながら、座り込んでいる老人の肩をたたいた。老人はそんなトムの手を払うと、ため息をつきながら答えた。


「……一体何の用じゃ? また、何かの情報かの?」


「まあそれもいいけどなぁ……今回はそれじゃないんだ。」


 情報……というおかしな単語にディーンとレナは一瞬眉をひそめた。すると、トムは後ろで自分たちの話を聞いていた二人を老人に見せるように横へ移動して言った。


「俺と……あと、こいつらの装備を新調したいと思ってな。いいとこ教えてくれよ?」


 トムの言葉に、老人は少し黙って考えるような素振りを見せる。そして、三人をじっくりと観察するように見つめ、言った。


「たわけ……その情報はすでに渡してあろう」


「だからもっといいところって」


「思ってもいないことを……世間話をするつもりはない」


 トムの軽い調子に老人はやれやれといった様子で深いため息をついた。訳も分からず立ち尽くしているだけの二人へ視線をやってから、老人はゆっくりと言葉を発する。


「オッズ、場所は……」


「オーケー!!分かった!!」


 老人が最後まで言い終わる間もなく、トムは大きく頷くと、状況をまだよく呑み込めていない二人の手をがっしりと掴んだ。




******




「お……おい!!いいのか……?」


「おう!問題ないぜ!!場所は分かってる。」


「いや……それもあるが……それよりも……。」


 複雑な表情を浮かべるディーンを後目に、二人の手を引くトムは大通りを進み……そして、路地へと入っていった。

 左右を家屋で塞がれたその道は、何とも言えない不安を煽る。人通りは全くなく、左右を塞がれているために、薄暗さを感じる。


 その道を、まるでトムはすすむべき方向を分かっているかのように進んで行く。

 三人が向かうべき場所は鍛冶屋であるはず……そして、わざわざ人通りの少ない場所で商売をするものなど普通はいない。その証拠に、この路地に立ち並ぶ()()()()()()は、どれもすっかり寂れた様子だ。人のいる気配もなく、店自体やってはいないだろう。

 

 しかし、不思議なのは……その中に少ないながらもやっている店があるということだ。それらに共通するのは、時代の流れに合わせて品を変えていく大通りの店々と違い、どれも独特であることだ。

 

 それらは驚くほどに専門的で、売られているものは一種類の物だけだ。あるものは、美しい柄の描かれた多様な陶器……あるものは、まるで貴族の屋敷にあるものにも劣らない華やかな絨毯……


「ここは時代の流れに取り残された堅物たちが集まる場所でな……王国の景色もすっかり変わって、かつては人の賑わう通りだったこの場所もすっかりこの有様だ。」


 黙って前を進んでいたトムがふと口を開いた。かつて賑わった……とはいえ、それは何十年も昔の話。普通では知られることのないこの場所を……トムが知っていたのも、やはり彼の情報網の広さ故か……


「人気はない……ただ、腕は確かだな。少なくとも、客の好みに合わせることを第一に考えているような奴らよりはよっぽどましさ。」


 そう言って、トムは冷笑した。しかし、それを第一に考えるのは当たり前のことだ。彼らは売る商品によって、利益を出さなければならないのだから……売れないものを売っても仕方がない。トムが言う通り……やはり、この場所に住む者たちは、皆()()というわけなのだろう。


 改めてみてみれば……立ち並ぶ古臭い店々から垣間見える品々は、とても完成度が高いものであるように見える。それは、目利きでないディーンやレナであっても十分に理解ができた。


「なるほどな……それは分かった。だが、どうしてお前がそんなことを知ってるんだ?お前が情報通……ってのは知ってるが……」


 自分たちのリーダーがどこからともなく持ってくる情報の数々。それは、先日のピロー大森林の情報といい、冒険者組合(ギルド)ですら把握していない情報すらある。一体、それをどこから手に入れてきているのか……


「あぁ、そのことか。大したことでもない……人に聞きまわっているだけの話さ。だが、それも馬鹿にできるもんじゃないんだ……。そこら辺にいる多くの人間は、時に上に立つ人間の知り得ないことを知っていることもあるんだ。それを、俺はあの爺さんに出会って実感した……」


 トムは感慨深い表情を見せて言った。


「ま、やっぱり俺の才能……ってところもあるけどな!!」


「全く……お前は……珍しくまじめな話をしたと思ったら……」


 ディーンは呆れたようにトムに言った。その傍らで、依然としてトロンとした目を浮かべたレナが小さくあくびをした。


「ねぇ……トムは……あのお爺さんとどんな関係なの……?」


「あぁ……なぁに、あの爺さんは変わり者でな。ああしてガラクタにしか見えない商品を並べて、物事を見た目だけで判断しない、見る目のある者を探してるみたいなんだ。」


「……見る目の……?」


 ディーンが不思議そうに首をかしげて言った。


「そうだ……気づいたか?あれは全て魔道具だ。それも微量な魔力しか無いもんだから、普通じゃ感じ取ることは出来ない……」


 そんなトムの言葉に一番驚いた表情をしたのはレナだった。何しろ、魔法使いであり、魔力を感じ取ることが出来るはずの自分が感じ取ることが出来なかったのだから。

 まだ未熟とはいえ、ものによっては強大な力を持つ魔道具の魔力を、魔法使いであって感じ取ることが出来ないなどあり得ない……


「そんな、魔法使いですら感じ取れないようなもんを誰が感じ取れるかっての……!!俺も偶然目についたそれが、あまりにもガラクタなもんだから、ちょっと興味を持っただけだったからな……」


「……だが、あの老人が認めたんだろう?そう簡単に人を認めるような人間には俺は見えなかったな……」


「ああ、なんか違和感があったんだ……あれを手に持った時な……。それがあの爺さんの言う()()()……ってやつなのか、老人の言うことはよく分からないな。」


 やれやれといったようにトムは言うと、それ以上二人が言葉を交わすことはなかった。やがて、見え始めたのは小さな石造りの建物。石と土で固められたそれは、恐らくは鍛冶屋であろうが、その規模はとても小さい。大通りの鍛冶屋であれば、これの数倍はあるだろう。

 静かな雰囲気の漂うこの場所に響くのは、建物の中から聞こえる、鉄を叩く音だけだ。


「ここの店主はちょっと気難しくてな……怒らせないようにしろよ……?」


 トムが二人の耳元に口を近づけると、小さく囁いた。それを聞いた二人はわずかに表情を曇らせる。


「でもその心配はないんだ……レナ、お前がいれば……な?」


「……?」


 レナが不思議そうな顔を浮かべながらトムを見つめる。少し間を置いてから、トムは続けた。


()()は女の子に弱いんだ。お前が何とかして話をうまい方向に持っていくんだよ!」





――――――――――――――――――――




 すっかり静まり返った屋敷には、彼女の足音だけが鳴り響く。それは、彼女と彼女の眷属たちによって完璧に綺麗な姿となった屋敷の大広間に、どこか寂しさすら漂わせた。



 シャナクは、大広間にそびえる屋敷を支える一つである巨大な柱に背をもたれさせる。決して主の前では見せない、どこか疲れた表情を彼女は浮かべ、ため息をついた。


『随分疲れてるみたいだね……?』


「……あなたには関係ないことです……」


 彼女のもたれる柱の反対側から聞こえたその声は、静まり返った屋敷に静かに響いた。シャナクはそれに対し、表情を一切変えずに冷たく返した。


『まあ、当たり前か……。アクセリアときたら、君に仕事を押し付けすぎだよね~……自分は何もしないくせに……』


「……そんなことはありません……」


 自身の主を侮蔑するような言葉に、シャナクは自身の中に湧き上がる怒りを抑えながら、依然とした態度で答えた。


『ふ~ん……じゃあ聞くけどね?君はアクセリアの何がいいのさ?自分よりも巨大な力?それとも自分がアクセリアの眷属だから?』


 その言葉を聞いて、シャナクの中で答えは決まっていた。

 自分が何のために彼女に仕えるのか。それは、自身が彼女の眷属であるがために……元から植え付けられていた感情なのかもしれない。しかし、それが彼女の中では何物にも代えがたい……理由であった。


『……まあいいけどさ……。でもね、一つ言っておくよ?』


 そして開いた少しの間……

 シャナクは、何とも言えない不気味な感覚に襲われていた。それは、彼女が……その声の主に対して決して抱くことのないはずの感情……

 その感情に、シャナクは自身の体が自然に身構えるのを感じた。


『僕は君よりもず~っと昔から……あの子の事を知ってる……』


 そして声は途絶えた。それ以上言葉が返ってくることはない……それを自然に理解していたシャナクは、もうその声の主に対して何か声をかけることはなかった。


 ここより上……自身の部屋で休んでいるであろう敬愛なる主の事を思い、シャナクは再び彼女の命を果たすべく……屋敷の外へ通じる扉へと向かうのだった。


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