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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
65/131

吸血鬼と血

「あとはこいつだけか....。」


「なにせこれほどの上物だ。こいつに関しては他の亜人共とは分けて、貴族に売るということになったからな。」


「貴族....ってこんなもんが売れんのか?貴族ってのは変わってんなぁ....。」


「なぁに、奴らは変わったやつが多いんだよ。人間では飽き足らず、獣まで愛玩用として買いやがる。」


「あとは見世物としての価値もあるな。どちらにしても....金貨数百枚は下らねえな....。」


「数百枚!!おいおいバカ言うなよ!」


「今、俺はこの仕事やり始めて良かったと思ったぜ!!」


「よく言うぜ!!いつもお頭が怖えだの言ってるくせによ!!」


「「「「「ギャハハハハハ!!!」」」」」


 男たちはこぞって今は変わり果てた集落跡で楽しそうに喋っていた。先に連れていかれた少女の母親も含めた亜人たちは、すでに数人の男たちとともに連れていかれている。どこかしらの国に売り飛ばされるのであろう。

 この場に残っているのは、少女ただ一人である。


「さてと....いつまでもこうしているわけにもいかねえな....。」


「おい、行く前にこいつと遊んでいかねえか?なぁ?」


「お前....そんな趣味があったのか?所詮獣だぞ?そいつは。」


「でもよぉ....なかなか見た目も上物じゃねえか....。いいだろ、なぁ!?」


「やめとけ、やめとけ。そいつは一応は貴族様方に売る商品だ。商品を売る前に傷つけるわけにはいかないだろ。」


「....ちぃ...仕方ねえか....。」



 どこか納得をしていない男を置いて、男たちは出発の準備を始める。


「おら!!とっとと入れ!!」


 そう言って、男の一人が少女を木箱の中に投げ入れた。それも....とてもではないが生き物としての扱いではない。まるでゴミを捨てるかのように.....


「おい!!こいつを先に誰か馬車に積めておいてくれ!!」


「あぁ?面倒くせえよ!!お前がやれよ!!」


「はぁ?お前さっきからさぼってるだけじゃねえか!!」


「あぁ!?あまり調子に乗ると.....」


「おい....お前ら....。なんか寒くなってきてねえか....。」



 男の一人がふと、そんなことを呟いた。


「....確かになぁ....。なんか肌寒い気がするが....。」


「お前なぁ....そんなことでいちいち.....。」


「いや.....肌寒いどころじゃねえよ....。何だこりゃ....まるで吹雪じゃねえか!?」



 男の言葉通り.....いつの間にかこの場は吹雪のごとき暴風が吹き荒れていた。雪の中には氷すら含まれており、男たちはあっという間に混乱状態である。


「おい!!誰か火を起こせ!!寒くて凍えちまう!!!」


「火なら起こしてあったよ!!凍り付いちまった!!」


「はぁ....何を馬鹿なこと.....」


 呆然とする彼らの目に入ったのは、まるであり得ない光景。凍るはずのないもの.....炎が凍り付いていたのだ。


「お...おい!!地面がみるみるうちに氷に.....。」


「うあああああぁぁぁぁぁ!!俺の腕がああああぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げる一人....。その腕は凍傷を通り過ぎ....凍り付いていた。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」


「助けてくれえええええぇぇぇ!!!」








「な.....なぁ....生きてるか....。」


「......。」


「お....おい!!黙ってんじゃ分かんねえよ....そんな黙って立って....。」


「......。」


「なぁ....頼むよ.....。俺もう死んじまうよ....今だって手足がすでに....。」


「......。」


「なぁ!!!」



 ドサッ.....



「え...?」


 地面を這いながら辛うじて生きている男....その前に倒れた男の顔は....まるで生気を感じられない白い顔であった.....。


「うあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!......。」


 そして、最後の命が消えた。









 一面氷に閉ざされ、変わり果てた集落を一人の人影が歩いていた。その場所には、まるで本物の人間かと疑うほどの綺麗な氷の彫刻......生きたまま氷漬けにされた変わり果てた男たちの姿が広がっていた。


「.....一人だけ生き残ったの?かわいそうに.....。」


 そう言って、彼女は白く変わり果てた四角い物体を見つめていた。


「.....私を不快にさせたのが悪いんだよ?だから....恨まないでね?」


 そう言って、人影は白い雪となって跡形もなく消えてしまった。と同時に....魔法が溶けたように雪が解け始める.....。


 後に残ったのは、そこら中に散らばる男たちの死体と.....水で溶けてすっかり柔くなった木箱だけであった....。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 目を開けると、視界には見覚えのある天井が広がっていた。ここは私の部屋のベッドの上であった。確か、私は狼人(ウェアウルフ)の集落からちょうど帰るところであったはずなのだが....。そこで、自分の上にシロが乗っていることに気づいた。()()は私の上を寝床か何かと勘違いしているらしい。


 邪魔だったので、さっさと退かせようと思ったところ....横から突如として現れた腕によって、シロは鷲掴みにされた。


「お目覚めですか?アクセリア様....。」


 横から、ひょいと顔を出したのは、私の銀とは正反対の長い黒髪を持った私の眷属、シャナクだ。彼女は、ニコニコと私に笑いかけながらも、片手ではシロをしっかりと鷲掴みにしている。今にも握りつぶしそうな勢いで、シロが苦しみにもだえている。


「....何してるの?」


「主人への態度がなっていない不届き者に少し分からせる必要があると思いまして....。」


 顔ではああして笑顔を演じてはいるものの、隠し切れない殺気がシャナクからは感じられる。彼女のシロへの対応からして、それほど私への態度を気にしているようには思わなかったが.....内心かなりイラついていたらしい。


「申し訳ありません....少し時間をいただけますか?すぐに戻ってまいりますので....。」


「.....分かったわ...。」


 私がそう答えるのは分かっていただろうに....シャナクはわざわざ私の答えを聞いてから、部屋の扉へと向かって行った。その片手には依然としてしっかりとシロが握りしめられている。ご愁傷様....




 シャナクが部屋から出て行ったあと....私は改めて部屋の中を見回した。確かにここは、屋敷の私の部屋であるようだ。ここまで私を運んできたのは間違いなくシャナクだろう。それから私が目覚めるまで、ずっと私の隣にいたということか....。


 私はどれくらいの間眠っていたのだろうか....。部屋の窓のカーテンが閉め切られていることを見ると....もうすでに日が昇っていると考えていいだろう。



 いつまでも横になっているわけにもいかないので、私は自分の体を起こそうとする。そこであることに気づいた。自分の体が思うように動かないのだ。


 体がとてつもなく重い.....ちょうど、魔力が不足しているときに感じるような....その感覚であるようなのだが、どうも引っかかる。こうして体を休めていたはずなのに、全く魔力が回復した感じがしなかった。というか、むしろ減ってすらいるだろう。


 そして、おまけに.....


「(.....喉が渇いた....。)」


 頭がぼーっとしていまいち働かない。果てしない苦痛が襲ってくる。残念ながら、私にこの状況を好転させる手段はない。それ以上に恐れていることがある。


 その後も体の重さを感じていたが、何とか体を起こすことだけには成功した。しかし、完全に体力を使い切ってしまったようで、もう前を向く気力すらない。



 そんな中....部屋の外から声が聞こえた。


「失礼します....。」


 そうして、ゆっくりと開かれる部屋の扉.....。直接視界には入らないが、誰かなどということはすぐに分かった。


 私の隣にまでやってくると、シャナクはそのまま黙ったまま私を見つめていた。私は疑問に思っていたことを口にする。


「....あれからどれくらい経ったの...?」


「...三日ほどでしょうか....。アクセリア様のお休みになっていた間も、特に問題はありませんでした。」


 私の聞いたことに加えて、もう一つ疑問になっていたことにも彼女は淡々と答えた。


「....体調は...いかがでしょうか?」


「.....。」


「魔力は消費しても回復するものではありますが.....不足した状態で無理をすれば体に支障はでます。いくらアクセリア様であっても....無理をしすぎです....。」


 シャナクの声がだんだんと小さくなっていくのが分かる。直接見てはいないが、不安そうな表情をしているのだろう。


「アクセリア様....これを....。」


 そう言って、懐から何かを取り出すような音がした。その瞬間....鼻腔をくすぐる香りが、体全体を駆け巡った。

 そうして、私の口元に差し出されたのは....赤い液体の入った小瓶であった。


「.....!?」


 それが私の口元に差し出されたのとほぼ同時.....ほぼ、反射的なものであったのだろう。私が体を素早く引くと同時に、目の前の小瓶は粉々に砕け散った。


 そんな様子を見ていたシャナクは、少しばかり表情に驚きを浮かべてはいたが、不自然に感じるほどに冷静であった。まるでこうなることが、どこか予想出来ていたかのように....。


「.....血は飲みたくないのですか?」


「その口ぶりだと.....知っていたみたいだけど?」


「はい.....知っていたのにも関わらず、私はアクセリア様に血を飲ませようとしました....。」


 そう話すシャナクは、申し訳なさそうに頭を下げる。しかし、その言葉には、決して曲げることのない意思をどこか感じられた。


「普通、吸血鬼(ヴァンパイア)が血を飲まないなんてことはありません。」


「でしょうね....こんな苦しみを好き好んでやろうとするなんて...いたら教えてほしいくらいね....。」


 私のそんな言葉を聞いたシャナクは、何か言いたそうな顔をしていたが、口には出さなかった。ただ、言われずともなんとなくわかる。そんなことを言いながら、実際に私自身がそうなのだから.....。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が血を飲まないことの意味を理解していないわけではない。それによって味わうことになる、凄まじい喉の渇きと言ったら、これ以上の苦しみは他にないだろう。ただ....それ以上に血を飲むことへの恐怖が大きい....。


「眷属として....主の気持ちはよく理解しているつもりです。アクセリア様が血を飲むことを極度に恐れていることも.....。」


「.....。」


「滅多にいませんが....吸血鬼(ヴァンパイア)の中にもそういう考えを持っている者はいます....。と言っても、本当にわずかなものですが....。」


「....どうして...?」


「それほどに吸血鬼(ヴァンパイア)という種族は思考が偏っているものなのです。人間の血を飲んで生きるという特性...故のものなのかもしれませんが、吸血鬼(ヴァンパイア)の大部分は力を全てとまで考えるものがほとんどです。性格も好戦的なものが多く....」


 そう言って、彼女は明らかな嫌悪感を示した。彼女はどうやら、そういうのが嫌いらしい。まあ、私も苦手ではあるが....。

 そういった相手には基本的に話が通じないので、最終的には戦いに発展する。私はあまり戦闘が好きではないのだ。


「ですから、血を飲まないという選択肢は基本的にはありません....。吸血鬼(ヴァンパイア)にとっては、人間の血は切っても切り離せない関係にあります。魔力のこともそうですが.....飲まなければ死んでしまいます....。」


 そう言って、彼女は再び血の入った小瓶を取り出した。


「....眷属は主がいなくなってしまっては、その存在に何の意味もありません....。どうか....。」


 そうして顔を合わせた彼女の顔は、私を心配している....ただそれだけであった。


 ここまでがシャナクの考えていた話の流れだったのだろう。私が一度は血を拒否することを分かっていたからこそ、もう一本わざわざ用意していたということだ。あくまでシャナクは私の説得に徹するようだ。

 たとえ、彼女が無理やりにでも私に血を飲ませようとしたとしても、今の私にはそれに抗うだけの力は残っていない。勿論、そのあとのことは分からないが....そんなことを気にするようには思えない。ただ、彼女にあるのは私の忠誠心だけだろう。


「.....。」


 もしも、私がここで血を拒否したとしても、彼女は黙って引き下がることだろう。私はゆっくりと彼女に手を伸ばし、小瓶を受け取った。


「そうね....。私も死にたくはないわ...。」


 そうして、私は血の入った小瓶を一気に飲み干した。

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