主人と従者
「家....ですか。」
「そう....誰にも邪魔されないような....できれば辺境がいいわね。それに、この人間の国ともかかわることも考えて、この王国と王都の間辺りがいいかしら.....。」
「それに....他国の情報、人間の通貨....。」
「....まだ何も言ってないけど?」
「主人から直接作り出された眷属は主人の感情....気持ち、等々を共有します。そのため、私はアクセリア様の考えていることなら分かります。」
「....本当に?」
「すべて....とは言えないですが....。大体...といったところでしょうか。」
「そう....なら話が早いわね。」
「承知しました。このシャナク....己のすべてを懸けて、この命令を完遂して見せます。」
別にすべてを懸ける必要はないと思うが....。シロとは大違いだ....シャナクは私の言うことは勿論、考えていることまですべて理解してくれる。その分....知られたくないことまで分かられてしまう心配はあるが....。
とにかく、彼女ならば私の助けとなってくれるだろう....。シロとは違って....。
「あぁ....それと。もう一ついい?」
「.....なんでしょうか?」
「少し魔力を分けてくれる?あの二人を集落に送りたいんだけど....。」
私が試そうとしているのは、転移魔法というものだ。長距離を一瞬で移動することが出来るが....それゆえに魔力の消費が激しい。今の私の魔力でもまだ足りない.....。
シャナクはそんな私の言葉に、少し迷ったように答える。
「転移魔法は魔力を著しく消費します....。私もできる限りの魔力をアクセリア様に....とは思っていますが、それでもすべての魔力を渡すことはできません。私の渡せるだけの魔力をもってしても....ここから彼らの集落までの転移は....ギリギリかと.....その後のアクセリア様の無事も保証できません。あんな下等生物のために....アクセリア様がそこまでする必要はないかと.....。」
シャナクの言うことも理解できる。自分の主人を危険にさらすようなことはそう簡単に許容できないのだろう。魔力が一切なくなる....ということは、すなわち死を意味する。魔力がなければ、吸血鬼の能力自体に問題が現れ、弱い魔物も脅威になりかねない。
「.....私の性格も理解しているのなら.....分かるとおもうけど...。」
私のその言葉を聞いたシャナクは、どうやら諦めたように頷いた。一度彼らには集落へちゃんと返してやると言ったのだ。義理を果たさなければいけない。私は義理堅いのだ....。
「...それでは....失礼します。」
そう言って、シャナクは私の肩に手を置く。彼女の魔力が私に流れ込んでくるのがはっきりと分かる。どうやら、似ているのは魔力も同じようだ....。私の魔力ととても良く似ている....。
「....ご無事を祈っています...。」
その言葉とともに....シャナクの姿は黒い霧となって消えた。私の能力を使えるというのも本当のようだ....。
そうして、私はヴェルドの元へと戻った。どうやら、聖騎士の事を心配しているようだったが、その心配はない。あのグルコスという人間以外はさほど大したこともなかった。そして、そのグルコスはすでに死んでいる。
「今、この王国では一層警戒が高まっています。それに、今日は月も明るい....以前のように空を飛んでいくのは少し危険でしょう。」
私はヴェルドにそう言うと、転移魔法の準備を始める。転移魔法の効力はそれほど広いわけでもないため、二人には私の周りに集まるように言う。
「これは....。」
「父ちゃん!!何か起こりそうだよ!!」
二人は混乱した様子だ。しかし、それにいちいち答えてやるほど私にも余裕があるわけでもない。
「(....これでも足りない....。)」
今の私の魔力では、ギリギリ集落まで届かないのだ。それ以上離せば、彼ら二人が魔物に襲われる危険性考えられる。そのため、少なくとも....という距離があるのだ。
もしかすると、転移はできるかもしれない。しかし、その時は私の命の保証はない....ということだ。こうなれば....仕方がない。
「.....私の今の魔力ではあなた方を集落にまで送ることはできません....。あなた方の魔力の大部分を借りることにはなりますが.....悪く思わないでくださいね....。」
二人の魔力もギリギリまで使ってこの転移魔法を発動する。それしかない.....。
「っそれは....一体....!?」
ヴェルドの言葉も無視して、私は転移魔法を発動した....。
本当にギリギリまで二人の魔力を使った。そのため、魔力が回復するまで動くこともできないはずだ....少なくとも一日は。しかし、集落との距離は近いため、通りかかった仲間にでも拾ってもらえるだろう。
そして.....辺りは光に包まれた....。
降り立ったのは平原....確かアルジオ平原とかいったか....。周囲を見渡してみれば、目に見える範囲に狼人の集落があるのが分かる。これならば....大丈夫だろう。
二人はというと、地面に伏して眠っているようだ。無理もない....二人からは魔力をギリギリまで使ってしまったのだから、もし目が覚めたとしても、立つことすらままならないだろう。
「(さて、私は....。とにかく光を避けられる場所に行かないと....。)」
この場所は平原。木などは一切ない。しかし、夜ももう長くはない。じきに日が昇るだろう。それまでに私は日を避けられる場所に行かなくてはならない。
思い当たる場所としては.....やはり森だが、ここからは遠すぎる。となれば、次の候補は....
そう考えたところ、私には思い当たる場所が一つあった。
その場所は....何もない草原の中にひっそりと存在する場所。狼人たちにとっては聖地....などと呼ばれていたか。
花畑広がるその場所には、小さな木があちらこちらに生えており、川も流れている。そして、前方に佇むのは....見上げるほどの巨大な崖である。もはや壁と言ってもいいほどの巨大な崖が遠くの方に見える。
私は、生える木の一つに身を寄せると、その根元に座り込む。
「はぁ....疲れた....。」
私が木の根元に座り込むのと....私が眠りにつくのは、ほぼ同時であった....。
木の間から除く光の線に、私はふと目を覚ました。
「....もう、朝?」
「お目覚めになりましたか?....アクセリア様。」
自分を呼ぶ声がする.....。そう思った私は、地面に向けていた視線を前に向ける。そこには、美しい黒髪の女性.....シャナクの姿があった。
シャナクは、装飾のついた高そうな傘を手にしながら、私のことを見つめていた。
「....いつから、そこにいたの?」
「すぐ先ほどです。アクセリア様の身が心配だったので.....。」
「....どうしてここが分かったの?」
「私が主人の魔力も分からない従者だと思いますか?」
「....ふふ、そうね....。」
「!....やはり...シロ様もご一緒でしたか。」
シャナクがそう言うので、ふと自分の肩を見てみると....そこには私の肩の上で平然と眠るシロの姿があった。よくもまぁ....主人の肩の上でそんなに余裕が持てるものだ....。
「....私がアクセリア様の場所をすぐに見つけることが出来たのは、シロ様のおかげでもあるんですよ?」
「....シロの?」
「眷属同士では、お互いに離れた場所からも意思疎通ができます。この周辺を通りかかったとき....シロ様の念波を感じたものですから.....。」
「.....なるほどね。」
どうやら、こいつも全く役に立たないわけではなかったらしい。とはいえ、本人は自覚無し....てところだが....いや....待てよ。シロが....眷属?
そんな私の中に生まれた疑問を遮るように、シャナクは続ける。
「もう少し....ここで休まれて行きますか?」
「.....その口ぶりだと....私をどこかに連れて行きたそうに思えるけど?」
「はい。アクセリア様から言いつけられていたものの一つ....家の確保をできたので....。」
「.....本当に?」
私の驚きを感じ取ったのか、シャナクは続ける。
「王国と王都の間....人間があまり立ち入らないような、辺境....でしたよね?ちょうど王国領と王都領の間....といった場所です。」
何と、この短時間でシャナクは私の条件にぴったり合うような場所を見つけてきたようだ。まだ一日も立っていないだろうに....。
「やはり....この子たちの力が大きいですね....。」
シャナクはそう言うと、両手を横に広げた。すると、なんと服の間から小さな蜘蛛が大量に現れたのである。
「....それは?」
「私の眷属たちです。アクセリア様の眷属ほど数はいませんが....その代わり、小さな体ですので....どこにでも入っていけます。」
彼女の話によると、彼女は王都と王国中に彼女の眷属をばらまいたのだという。そして、今回の場所に今は誰も住んでいない建物があるという情報を得たのだという。
「問題ないわ....行きましょう。」
「分かりました、それではこちらを。」
そう言ってシャナクが取り出したのは、黒い布であった。広げてみると、どうやらそれは、フードのついた黒いローブであった。
「私は吸血鬼ではないので大丈夫ですが....アクセリア様は日光に弱いようですから....。」
そんな彼女の準備の良さに....私はつい笑ってしまった。
「....ふふっ」
「....アクセリア様?」
「いえ....随分と優秀な眷属だな...と。私よりもずっと....頭が出来てそうね....。」
そんな私の言葉に、シャナクは謙遜したように答える。
「....以前も言いましたが、眷属とは主人の力を受け継ぐものです。つまり、私が優秀....ということは、アクセリア様はそれ以上に優秀であるということですよ。」
「....本当に?」
「これだけは間違いありません。私の行動も...発言も...正確も....すべてはアクセリア様から受け継がれたものです。だからこそ、主人と眷属は似るものですよ?」
シャナクのその言葉に、どうも私は納得できない節があった。私とシャナク....まあ百歩譲って似ているのかもしれないが....私はこんなに優秀ではない。
しかし....私とシロ?
確か、先ほどシャナクはシロが眷属であるような発言をした。そうしたつもりはないのだが.....というか、こいつと私は似てないだろう。
「....ねえ?」
「はい?」
「私とこいつが似てる....本当に?」
そんな私の問いに、シャナクは....
「ええ、少なくとも私はそう思いましたが。違うんですか?」
まるでどうしてそんな当たり前の事を聞くのか....といった様子で答えたのだった。




