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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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剣を持つ者

「.....。」


「悪魔族か....はて、他にいたかのぅ....。お前さんのような人型かつ暗黒魔法を使うような存在が....。」


 老人はそんなことを言う。どうやら私が人間ではないということはなんとなく察されたらしい。そして、やはりあの剣の仕業であったらしい。

 邪悪なものを払う力.....人間からすれば吸血鬼(ヴァンパイア)は邪悪なものと言っていいだろう。あの剣には注意が必要そうだ。


「まぁ良いわい。お前さんが何者であろうと.....王国に仇なすもの....ということは変わらんからのぅ。お嬢ちゃんみたいなのを傷つけるのは...老人の身としては気が引けるが....仕方ないのぅ。」


 そう言って老人は私へと近づいてくる。口では気が引けるだの言ってはいるが....結局結論に揺らぎはないらしい。だが.....それは私も同じだ。


「言っておくが....お前さんが勝てる可能性は万一にもないんじゃよ.....わしはまだ技の一つも使っていない。」


 老人は勢いよく地面を蹴ると、凄まじい勢いでこちらへ向かってくる。老人の体のどこにそんな力があるのか....地面は深く抉れている。速度に関しても、魔眼を通さなくては捉えることはできないだろう。素の力....ということでもないだろう。その証拠に....老人は体から燃え上がるようにして、黄色いオーラを全身に纏っている。

 ただまっすぐ突っ込んでくるわけではない。急に方向を変えながら....それもうまく、私の潰した左目の死角に入るようにしてこちらへ向かってくる。そこは流石といったところか.....この老人ならば、無策にこちらへまっすぐ突っ込むなんてことはしないということはすでに分かっている。


 .....本当に....面白い人間だ....。



「....むっ!?」


 初めて老人の顔に驚きが浮かんだ。想定はしていなかった....といったところか。ちょうど私の死角から入り、左胸を狙うようにして打ち込まれた剣先は....私の体を貫くことはなかった。私の手にした細剣が老人の刃を止めたからであった。


「....こ”の一撃で”決める”つもり”だった...み”たい”ですね....。甚振る”んじゃな”かった”んですか”....?」


「!?お前さん....な...なぜ!?」


 驚く老人を後目に、私は老人の左胸を見つめ....心の中で唱えた。


「(....深陰(ヴラム)。)」


「...!?む...無詠唱じゃと!?」


 すると、不思議なことに老人の体から黒い炎が現れた。おかしい....魔法は口に出さなくては発動しないのではなかったのか....?

 だからこそ、老人は私の喉を潰したはずだ。


「....それも...その眼の力かの?まさか口に出さずに魔法が使えるとは.....。というよりも、お前さん...何故話せる?わしがさっき喉を潰したはずじゃが....。」


 老人が不思議に思うのも無理はないだろう。人間というのは、傷ついた場所が瞬時に再生するなんてことはない。すぐさっき潰したはずの喉となれば....なおさらだ。

 

 しかし.....


「....そ”れは”人間の”中...で”の話でし”ょう?」


「.....ほぅ?」


 老人の表情は、やはり....と言った様子だ。


「先ほ”ど潰さ”れた”左目は”、もう”元に戻り”ました”....。喉は”....ま”だ完全とは”言えないですね”....。」


 その証拠に、私の今の声はかすれ気味だ。それに、これを出すたびに痛みが走るため....本当はあまり話したくはない.....。


「...じゃが....それもすぐ治るんじゃ...ろう!!」


 老人は剣を勢いよく振る。すると、体に纏わりついていた黒炎は巻き起こった風圧により掻き消えた。


「ふぅ....服が少し燃えてしまったわい....。これではまたあやつに怒られてしまうわい....。」


 老人は服についた黒こげを手で払いながら話す。そんな言葉は、帰れる事前提でなければ出てこないだろう。


「そ”れは”....勝て”ると”?」


 先ほどの発言は老人が、自分は勝つ....ということを断言しているも同じだ。そんな私の言葉に対して、一度は崩したものの....再び余裕な表情を老人は浮かべる。


「当然じゃよ。むしろ、少しは面白くなってきた....と言ったところじゃのぅ.....。」


「.....奇遇で”すね...。私も”同じ事を考え”ていまし”た....。」


「ほぅ....?」


 すると....老人の纏う気配が変わった.....。


 今まで抑え込まれ、隠されていた老人の存在感が突然強くなる。その変化は、私の右目にははっきりと視界として現れていた。老人の纏う、黄色いオーラがさらに強く....激しくなっていたのだった。


「....また、強く....。不思議な力ですね....魔力とは違う。」


「....確か、魔眼は魔力を視覚化できる....なんて力があったかのぅ....。お嬢ちゃん...もしや、お前さん、()()も見ることが出来るのかの?」


「.....気力?」


 老人から放たれた、その()()という言葉には、聞き覚えがない。恐らくは、あの黄色いオーラの事だろうが....。


「気力を知らんのかの?....そんなはずはないはずじゃが....お前さんほどの実力者ならば...間違いなく知っておるものだと思っていたのじゃがのぅ.....。」


 老人はそんなことを口走る。気力という力は、私が見た限り...人間だけが持っているように思える。その上、その中でも一部の人間のみである。例えば....冒険者や聖騎士といった人間の中でも戦える者たちである。

 人間の魔力は極めて小さい。それは森の魔物と比べれば明白....洞窟内にいた魔物はさらに強いことを考えると...人間の保有魔力の少なさが十分窺えるだろう。だからこそ、人間の間では魔力を持った物は高く取引される。ちょうど....私の持っていた魔鉱石が金貨5枚以上にもなったように....。


「【影霧(シェイブ)】....」


 そう唱えると、私の姿は掻き消える。同時に視界も歪むようにして.....。


 これは先ほどの人間が使っていた技である。魔法に近いがそうではない。これは単なる技である。高速かつ、不規則な動きを織り交ぜることによって姿を捉えにくくしているだけだ。魔力を介していない分、真似するのは容易い。


「....それはオルクスの技じゃな....。人の真似ばかりしおって....。あやつの技はすでに見ておる!!」


 老人の斜め下から放った細剣は、難なく老人の剣によって防がれる。こちらの姿を認識するよりも先に...老人は動いた。


「わしにオルクスの技は通用せんと....分からんのか?」


「.....さぁ?」


 老人の言うことは確かだ。しかし、この攻撃は単なる前座.....。私は老人に近づければよいのだ。


 そうして、私は静かにある構えに入る。



 構えは、静....そして、動.....。


「光剣・【朧霧の剣(シダレ)】.....。」


「...!?」


 放たれる斬撃は軽く200を超える。一度....技を見た、そして一度、使った....それで十分だ。後は自身の力を余りなく....完璧にこの技に注ぐのみ....。



「....見事じゃ....。」


 気のせいか.....老人がそう呟くように聞こえた。あの状況で躱す事は不可能。これほどの攻撃を受ければ、この人間とて、ただでは済まないだろう。技に関しては、私を遥かに凌ぐこの老人の技は、賞賛せざる負えないが....所詮は人間に過ぎないのだから.....。




 そう思っていた私の認識は、少し甘かったようだ....。


 もっと人間の事を知っておくべきだったか.....。



「光剣・【月夜剣(ルナ・レイ)】...!!」


 老人を中心として、円状の光の環が現れた。


 魔法....いや、これは単なる斬撃か....。思わず魔法かと間違えるほどの....その異様な剣筋、そして美しさに一瞬目を奪われる。


「...ぅぐ!!」


 横腹に走る鋭い痛みに、私は我を取り戻した。到底、斬撃とは思えぬ、美しき光の環は容赦なく私の体を切り裂いていったのである。


 そんな一瞬の出来事の後....変わらず光の環の中心に佇む一人の影.....。老人の笑い声が聞こえた....。


「ほっほっほ、見事....見事じゃ!!まさかわしにこの技を使わせるとはのぅ....。ここまで楽しめる戦いはいつ以来か.....!!」


 老人の顔には、もはやあの余裕な表情は浮かんではいない。代わりに、老人は満面の笑みで笑っていた。


「認めよう....これはわしの人生でも一、二を争う戦いであると....。そして剣士の一人として名乗ろう!!

 わしは王国騎士団長、グルコス!!決着をつけようではないか!!まさか....今の一撃で参ったなどというのではないの?わしはここからが本番じゃ....。」


 そう言って老人...グルコスは私の元へと向かってくる。その足取りは重く....ゆっくりと、踏みしめるようにこちらへ向かってくる。当然そこに隙などはない。不用意に踏み込めば確実に斬られる。



 グルコスはようやくここからが本番だというが.....それは事実だろう。今まであの老人は一度と何か技を使っていたわけではない。その時点で苦戦気味であった身としては....かなり厳しい。

 確実に勝つのであれば....魔法で国ごと氷漬けにしてしまうことか.....。今までの経験から、私の最も得意な魔法は氷か闇といったところだろう。幸い魔力には十分余裕があり、大魔法を使えば王国ごと氷漬けできる。グルコス一人を倒すだけならばそれすらも必要ない。


 しかし、不思議と私はそうしようとは思わなかった。そもそも、今までそうしなかったのが不思議である。魔力の温存....などという段階はとっくのとうに過ぎている。



 私はこの老人と、剣で決着をつけたかったのだ.....。魔法を使えば一瞬で終わるが....いや、この老人ならばそれすらも躱すだろうか....いくらこの老人でもそれは無理か....。いくらこの老人の剣技が凄かろうと、そんなものはもはや関係ないほどの()が確かに私との間にはあるのだ。


 私の中には何とも言えない....不思議な感覚が渦巻いていた。それは、血を飲んだ時の高揚感とも違う.....今まで感じたこともない感覚であった。

 剣を持ち....そして戦うことへの喜び....。これは今の私の事ではないだろう。恐らくは....過去の私の記憶に問題が.....。



「光剣・【緋水蓮(ヒジャク・レイ)】...」


 暗闇の中....眩しく感じるほどの強烈な光が辺りを照らす。光源となっているのは....グルコスの持つ剣である。気力と魔力が混じり合い....猛火となって襲い掛かる。


 あっという間に周囲を覆いつくした猛火は、炎の輪となって私の周囲をすっぽりと覆いつくした。そこに追い打ちのように襲い掛かるのは....勢いを失うことのない猛火を纏ったグルコスの剣から放たれる、無数の斬撃である。


「光剣・【月光の剣(ルナライト・ピア)】!!」


 その剣筋は、先ほどの私の剣をも凌ぐ....凄まじい攻撃であった。その上、この技を見るのは初めてである。しかし私の眼は確かに捉えている.....次にどこに斬撃が飛んでくるのか...どう体を動かせば避けられるのか....。


 そう....すでにグルコスの動きは読めている....。


「....なんじゃと...!?」


「氷剣・【氷細蓮(アイス・ピア)】」


 私の剣の纏った冷気が氷の刃となってグルコスに襲い掛かる。それと同時に放たれた鋭い突きは、グルコスの体を確かに軽く切り裂いた。


「....ぬぅ!!」


 そうしてグルコスが見せたのは、初めて苦痛に歪めた表情であった。


「さて.....決着をつけましょうか...?」


 勝負はここからが本番なのだ.....。

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