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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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王国騎士団長

 先ほどの相手は弱くはなかった。むしろ、人間としては十分すぎるほどの強さを持っているだろう。


 特に、あの人間の剣術はとても興味深かった。魔物のように、単なる力で制するのではなく技で制する。人間の強さはそこにあるのだろう。

 剣速はそこまででもないのだが、動きが読みづらい。私も初見では流石によけきれなかった。しかし、二度目をくらうつもりはない....。私のこの眼をもってすれば.....。


 

 魔眼に関しては....あのクルークという大図書館であった人間が言っていたが、ただ少しだけ人より目が良いだけ.....というのもあながち間違ってはいない。私が相手の攻撃を一度で見切ることが出来たのは、相手の魔力の動きが可視化でき、そして技を見切ることが出来るほど....目が良かっただけだ。


 不可解なのは、あの人間の剣を受けた時のことだ.....。確かに私は痛みを感じた。それは傷の治った今でも感じられる。それに、傷の治りも遅かったことだ.....。

 よくは分からないが.....相手の剣には気を付けた方がいい.....。



「....また会ったのぅ....お嬢ちゃん。」


 そして現れたこの老人.....。私には特に見覚えがない。というよりも、いちいちあった人間の顔など覚えてはいられない。もしかしたらあっていたのかもしれないが....。


「....何故?そんなことを...。私にはあなたに見覚えはないですが.....人違いでは?」


「今の声を聞いて確信したわい。ほれ、数日前に会ったじゃろう?貧民街の道端でわしにお恵みをしてくれた.....あの時の()()()()()じゃよ。」


「......あぁ...。」


 その言葉を聞いて、何となく思い出した....。確か、貧民街.....妙に枝分かれが多く、大通りとは明らかに違った雰囲気の漂う場所があった.....。そこで確かに私はこの老人に話しかけられた.....気がする...。


「まぁ無理もないのぅ.....わしは時々あそこに行って物乞いをしておるんじゃ。あそこの生活を視察することもかねてのぉ.....。お嬢ちゃんも見たなら分かるじゃろうが.....あそこの生活はひどいもんじゃ....。」


 そう言って老人は勝手にぺらぺらと話を続ける。


「犯罪が横行し....最近では外から入ってきた薬物も広がってきておる....。一歩外に出れば....普通の生活が広がっておるというのに....。」


 老人が言っている普通の生活....というのは、大通りのことだろう。この王国は、不自然なほどに生活が場所によって違っている。

 大通り.....あそこは人が行き交い、露店などを通して商売も行われている。しかし、少し路地へ入ると....そこは常に異臭の漂う無法地帯。道端に人が転がっていることなど当たり前のようである。家々の並びも大通りとは違ってまとまりがない.....。そして、王国の中心に目を向ければ....明らかに平民とは生活の違う貴族街が広がっている.....。


「この王国には簡単には語ることのできない様々な側面がある....。外の国々には、貿易の盛んな王都に次ぐ大国家.....なんていう言われ方もしておるようじゃが.....。

 と....話がずれたのぅ.....。たかが一人の物乞いに金貨を渡してくる変人などお嬢ちゃんだけじゃよ。お嬢ちゃん....金貨の価値がどれほどかわかっておるか?金貨1枚あたり....銅貨換算で1000枚じゃ。あそこに住んでおるものならひと月は生活していけるのぅ....。」


 どうやら、私が思っていた以上に金貨というものには価値があったらしい.....。私が魔石の対価として受け取ったのは、金貨銀貨合わせて20枚ほど.....そのうち金貨は5枚ほどだ。

 私にとっては道端に落ちていた石ころに過ぎなかったため....大したものではないと思っていたが....。本当に人間の間では魔石は貴重なものらしい....。


「まさか....お嬢ちゃんが闇の側の人間だったのはのぅ.....。まぁ予想はしておったが....路地の三人を殺ったのは....お嬢ちゃんか?」


「.....それも知っているんですね....。」


「単なる予想じゃ。お嬢ちゃんの反応を見て考えるつもりじゃったが....。素直に答えたところを見ると.....わしはもうお嬢ちゃんの中では....消す対象ってわけかのぅ?」


「.....まぁ...そうですね。」


 これ以上この老人に隠しごとをしても無駄だろう。この老人は私のことを知りすぎている.....。私が吸血鬼(ヴァンパイア)とばれるのも時間の問題か.....。


「....なら、わしも黙って殺されるわけにはいかんのぅ....。」


 刹那....老人の姿が消えた....。


「....また同じようなことを....!?」


 その瞬間....

  私の左の視界が消えた....。


「...ぅ....あぁ!!」


 左目を襲ったすさまじい激痛に、思わず私は膝をついた。左目を思わず押さえた私の手には....赤い血が付いていた....。


「目を抉られるのは初めてかのぅ?隠匿魔法を使っているとはいえ.....目の位置くらいは分かるんじゃよ....。」


 まるで何事もなかったかのように、その老人は私に話す。その手に持たれた鋭い細剣には、赤い血が滴っている。


「(まさか....あの一瞬で....私の目を!?」


 今まで感じたこともない....この老人への感情に、私は思わず一歩後ずさる。


「....できれば降参してくれんかのぅ?わしはお嬢ちゃんみたいな子供を甚振りたくはないんじゃよ....。」


「....逆に言えば....降参..しなければ..甚振ると...?」


「その場合は....もう一つの目もなくなることになるのぅ....。降参するなら...せめて楽に逝かせてやるんじゃが....。」



 どちらにしても.....殺すということには変わらないということか.....!!


 私は自身の細剣に魔力を集中させる。


「....それが答えじゃな....。」


 そう言って老人は再び私の前から姿を消した。どうやら先ほどの人間とはまた違うらしい。とても肉眼では捉えられない.....。

 そう感じた私は、魔力の消費も考えずに迷わず魔眼を使った。最初からこれを使うのはあまり良い策ではないが.....。


「....!?っ【深陰(ヴラム)】!!」


 すると、私の体から黒炎が燃え上がる。その炎は時折、青い光を放ちながら私の身を守るように広がった。


「むぅ....!!魔法を使えるのかの!?」


 私の左側....ちょうど私の左目を潰したことによってできた、視界の死角に入るようにして近づいてきていた老人が、黒炎を避けるように飛びのいた。あと一歩遅ければ、右目もやられていただろう。


「それも炎と暗黒の混合魔法か.....。長けておるのは隠匿魔法だけではないのぅ.....!?

  ほほぉ....魔眼持ちか....。」


 老人は私の右目を見て気づいたように言う。その目は、驚き半分...興味半分といったところか....。依然として老人の余裕のある表情は変わらない。


「わしも以前に一度だけ見たことはあるが.....なるほど...わしの攻撃を躱したのはそれのおかげか....。珍しいのぅ....他の者では見たこともなかろうに....。」


「随分と...余裕ですね....。」


「余裕なんて無いわい....。じゃが、わしが勝つことには変わらん。」


 そう言って老人はゆっくりとこちらへ歩みを進める。その体には黄色いオーラを纏っている。先ほどの人間とは桁違いの力である。


「(...こんなのもいるのね....。人間も甘くは見れないわね....。)」


 老人はゆっくりと剣を持つ手を動かし始める....。何かしようとしているのだろうが....全く先が読めない。ここは先手を打つべきか.....。

 私は体の中に渦巻く魔力を剣の方へと移動させていく。しかし、実際に剣に纏わせることが出来るのはその中のわずかにすぎない。しかし...この老人に致命傷を与えるのには十分だろう....当たりさえすれば...。


「....光剣・【流麗剣(フロー・ピア)】!!」


 一瞬で射程範囲まで老人へ踏み込んだ私は、先ほどの人間の使っていた技である。


 流れるような剣筋が、一つの激流となって老人へと降りかかる。初見でこれを見切れるとは思えない。何せ、自分の技であり、技のすべてを知っているはずのあの人間ですら、見切ることはできなかったのだから。

 しかし...この老人はそれを苦とすることもなく.....いとも簡単にすべての斬撃を打ち消した。


「ほぅ....オルクスの技か....。他人の技も再現できるとは....厄介なものじゃのぅ....。魔眼というのは。」


 そう言って老人は私を一瞥する.....と同時に私の体に無数の傷が現れた。見えなかったわけではない...。確かに私の魔眼には老人が素早く斬撃を放つ姿が映っていたのだが....体がついてこなかった。


「じゃが残念じゃのぅ....。わしはその技は初めて見るものではない。以前にオルクスと手合わせをしたとき....それにあやつは副騎士団長...。騎士団長たるものが部下の力を把握していないわけがなかろう....。」


「...うぅっ......。」


 余裕の笑みを浮かべる老人に、私は体中に刻まれた無数の傷の痛みに、思わず苦痛の声を漏らす。


「(どうして....こんなに...痛みが....。)」


「随分と苦しそうじゃのぅ....。まだ致命傷は与えていないはずじゃが....。」


「そうやって...私を甚振る...わけですね...。」


「いや...そうじゃないのぅ....。今のはただ、わしが躊躇しただけじゃ。やはりお前さんのような小さな少女に傷をつけるというのは....老人としては気が引けるものでのぅ.....。」


 そう話す老人は、まるで近所の友達と話しているかのような場違いな雰囲気が感じられた。とても....この老人が聖騎士団の騎士団長であり、これだけの強さを持っているとは思えないだろう。しかし...実際に私を相手に遊んでいるような様子すらある。

 今まで私が苦戦したことと言えば....あの緑竜や、白虎などだが....それらとはまた強さの方向が違うだろう....。これが人間の強さ....技による強さというわけか....。


「さて....やはり降参せんか?惜しいのう....久しぶりに楽しめると思ったのじゃが....。」


「.....【深陰(ヴラム)】...!!」


 黒炎が細剣に纏わりつくようにして燃え始める。魔力を剣に纏わせることが出来るように、魔法を纏わせることもできるのだ。


「...またその魔法か....厄介じゃのぅ...。」


 老人は小さなため息をつくと、余裕な顔を一転させてこちらを注視してくる。


「剣だけでなく...その魔法の扱いといい.....。お前さん...()()とは思えんのぅ...。じゃ剣も使えてかつ、魔法の扱いもここまでとなると....思い当たるのはエルフくらいじゃが....。とてもそんな雰囲気ではないのぅ....。」


「....私もその剣に少し興味があります......その剣は....妙だ。」


「ほぅ...この剣に興味を持つとは....。」


 老人は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに余裕な表情に戻った。あの老人の様子を見ても....やはりあの剣は何かあるようだ....。

 あの剣に斬られた場所はおかしなことに私の体に痛みを生じさせている。それもわずかな傷にも関わらず.....。今まで足を切られたり、腕を切られたりといったことはあったが、そんなことになっても痛みなんていうものは一切感じなかったはずだ....。


「これは聖剣と言ってのぅ.....まぁ聖騎士が持っとるただの硬い剣....といったところじゃな。」


「随分と雑ですね.....。」


「これ以上は内緒....ということじゃ....むぅ!!」


 黒炎を纏った私の剣は、容易く老人の剣によって止められた。話している途中の隙を狙ったはずだったが....この人間には隙など無いようだ....。


「なんじゃ、せっかちじゃのぅ....。ほれ?」


「くっ!!」


 老人が涼しい顔でふるった剣は容易く私の剣を振り払った。その力は恐らく森の魔物程度の力であれば簡単に押し返せるほどだろう。技だけでなく力もかなりのもののようだ。人間が....それもこんな老人のどこにこんな力があるのだろうか.....


「....!?」


 刹那....老人の姿が掻き消えた。


 この人間の厄介なところはその剣技ではあるが、それと気配を消すことに非常に長けている。でなければ私が見失うなんてことはあり得ない。

 それに、人間の持つ魔力の希薄さも原因の一つだろう。そもそも魔力が少ない上に気配を隠されてはそれは限りなく小さいものとなる。


「どこを見ておる?」


 すぐ背後から声がした。


 慌てて振り向いた私の動きを予想していたかのように、熱い衝撃が首筋を走った。


「...っぁ”...」


 この人間....攻撃する瞬間にすら殺気を一切感じられなかった...。


「(っ...【深陰(ヴラム)】!!)」


 慌てて魔法を唱えようとするが....なぜか魔法は発動しなかった.....というよりも声が出せない。


 混乱する私に....老人は再び余裕を持った表情で言う。


「魔法が厄介じゃからのぅ....。じゃがそれなら使えなくすればよいだけじゃ。詠唱無しでは魔法は使えんからのぅ.....。」


「...ぅ..ぁ...。」


 先の攻撃とは比べ物にならないほどの痛みが首元....そして全身に伝わる。一体何が起こっている....!?

 そんなことを考えていると、老人が再び口を開いた。


「一つ....気になったことがあるんじゃが.....。先ほども言ったようじゃが....随分と苦しそうじゃのぅ...?いや...喉を切ったのじゃから当然と言えば当然じゃが.....。」


 そして、私の中に渦巻く疑問に答えるかのように....老人は続けた。


「聖剣は基本的には....さっき言った通りなんじゃがの....一つ特別な力があるんじゃよ。それは....邪悪なものを払う力じゃ.....。


 お嬢ちゃん.....お前さん、本当に人間なのかのぅ...?」

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