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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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”霧雨の剣”オルクス

 レオンは決して弱くはない。”烈火”の異名を持つレオンは、性格には若干問題があるものの、聖騎士団の中でも5本の指に入る実力者....ということは変わらないのだ。

 だからこそ、今、目の前に起こった出来事に、彼は驚きを隠せなかった....。




「....副騎士団長、今のは....。」


「....レオンがやられた....。」


「...え?」


 オルクスの隣にいたレイアは、そんな副騎士団長の言葉を、信じられないような顔で聞いていた。そんなレイアを後目に、オルクスは前へ歩みを始めた。得体のしれない、何かへ向かって.....


「副騎士団長!!危険です!!」


 そんな何があるかも知れない....前もろくに見えず、そのうえ騎士団の高戦力の一人がやられている。そんな危険に真正面から向かって行こうとするオルクスを、レイアは必死に止めようとする。


「こちらの戦力もまだ十分にあります....副騎士団長が一人で行くくらいなら全員で行った方が....。」


「いや....おそらくは俺でなければ勝てん....。下手な戦力で勝てる相手ではない....。」


 そう話すオルクスの表情は真剣そのものであった。副騎士団長オルクス=クライネルの実力は確かに他とはとびぬけている。力でもレオンと真正面からでも十分渡り合うことが出来るうえに、何より優れているのは、その剣の技術の高さだ。その剣から繰り出される斬撃は.....まさに無数に空を埋め尽くす霧雨の如く.....


 つまりは、オルクス最大の武器は力ではなく、その剣速なのだ。



 そんなオルクスが直接相手をしなくてはならないほどの相手.....。ということは、すなわち数で攻めたところで何の意味もないということだ。実際、先に向かった兵士たちのように.....。


「もしも俺に何かあった場合はお前が俺の代わりとして騎士団を指揮しろ。その場合はまずは国民の安全を最優先にな....。」


「そんな!?副騎士団長でも.....。」


「安心しろ...負けるつもりはない。」


 そう話すオルクスの顔には、どうやっても動かせない覚悟と、そして勝利を信じてやまない自信が現れていた。そんな彼を部下である彼女が止めることなど到底出来はせず、そんなオルクスの背中を黙って見送るしかできないのであった.....。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 雲に隠れてわずかな光しか地上に届かなかった月明かりが、完全な状態となって地上に降り注ぐ。十分に周囲の様子が見えるようになったオルクスは、得体のしれない何かを視界にとらえる。


 それは、暗闇が晴れ、はっきりと見えるようになったのにもかかわらず、相変わらず()()()()()()()()()であった。人であることは確かだが、全身を黒い霧で包まれ顔は一切見えない。そして、何より初めに目に入るのは、今もなお血を滴らせる白い細剣に、その傍らに倒れているレオンの姿であった。


 オルクスが近づいていく中、その人影は一向に攻撃をしてこようとはしなかった。まだこちらがはっきり捉えられていないうちに攻撃をした方が向こうにとっても有利であったはずだ。


「....今度は....期待できそうですね....。」


「なぜ先制攻撃をしなかった?向こうが気づいていないうちに攻撃を仕掛けるのは.....暗殺者の基本だろう?」


 暗殺者.....

 貴族の屋敷にわざわざ侵入しようとするものなど限られる。それも....悪い噂が絶えないこの屋敷の主であるならば、恨みの一つや二つ買っていることだろう。


「それで....?先に攻撃を仕掛けたとして、あなたはおとなしくやられてくれるんですか....?」


「その場合は....勿論、お前が死んでいたな。俺がその程度のことも考えていないはずがない。」


「.....。」


 聞こえてくる声が少女のような声であったこと、そして目に見える範囲では背丈も12、3歳そこらであることに、オルクスは一瞬驚きを見せていた。しかし、そんな考えはすぐに頭から消え去った。

 姿の問題など、人間の範囲だけの話である。他種族には....特に長命種は成長が遅いものなどいくらでもいる。


 しかし、そんなこと以上に彼が懸念していることは他にあった....。


「(何という隠匿魔法だ....気配が全く感じられん....。他の聖騎士たちも....俺でさえ正確な位置が捉えられなかったのはこのためか.....。)」


 王国聖騎士は全員が魔力感知をはじめとした気配感知能力を持っている。これらは、身体強化系統の魔法に近しいものだ。そのため、たとえ姿が見えなくとも、魔力....気力....といった生物が発する様々な気配によって相手の位置を察知することが出来るのだ。

 そして、この隠匿魔法は気配を、文字通り隠すことが出来る。しかし、聖騎士団の気配感知をすり抜けられるほどの隠匿魔法が使えるものなどそうはいない。ましてや...副騎士団長オルクスとなれば....


「レオンを倒したか.....。それも...見る限り、一撃といったところだ....。」


「.....不思議ですか?」


「いいや....。レオンは確かに力...技共に聖騎士の標準を大きく上回るだろう。しかし....攻撃は当たらなければ意味がない....。急所を打てば一撃で相手は倒れる....。」


 オルクスがそう答えると、少女はうっすら笑みを浮かべた。


「そう....気が合いますね、私もそう言おうと思っていたところです.....。強力な攻撃も...よければいいだけですから....」


「暗殺者は速度を重視している者が多い。もしターゲットに気づかれたとしても、相手の攻撃を避けて....急所を突けばいい。お前も誰かの依頼を受けてやって来た暗殺者か何かか?」


「....まぁ...そんなところですね。」


「ならばその依頼を受けたことを後悔するがいい....。この王国聖騎士団....副騎士団長を相手にしてしまったことをな....。」


 オルクスのその言葉を聞いて、少女は....フッと鼻で笑った。


「.....やはり、あなたも一番ではないんですね....。」


 そんな相手を嘲るような言葉を受けたオルクスは....なお冷静であった。同じくそんな言葉をかけられたレオンは逆上したが....オルクスはいたって冷静であった。伊達に副騎士団長を務めているわけではない。



 オルクスはまだ30代前半....歴戦の戦士たちも多くいる騎士といった中、若くして副騎士団長となっているのには、それ相応の実力....そして心構えがあるのである。どんな状況でも冷静に....戦況を見渡すことが出来る力....。そして、副騎士団長を務めるだけの実力。

 実力だけ言えば、副騎士団長の地位についてもいいだけの力はあるレオンが一隊の隊長に収まっているのは、何もオルクスとの実力差だけが理由ではない。



「【影霧(シェイブ)】」


 オルクスが静かに呟くと、まるでオルクスの姿がゆがむようにして.....姿が掻き消えた。


「.....?」



 辺りには不自然な静寂が訪れる.....



「......!?」


 少女の周りに、突然鋭い剣筋が現れた。10以上にも及ぶその筋は、ほぼ同時に彼女の全身を襲うようにして降りかかった。

 少女は一瞬同様を見せたが、問題なくそれらの剣筋を躱した.....最後の一つを除いて....。


「.....っく!!」 


 少女の頬を掠めた一つの剣筋は、確かに彼女の頬を薄く切り裂いた。その証拠に、黒い霧に隠されてはいるが....頬を赤い筋が滴るのが見えた。


「....今のを躱すか....。ただの雑魚ではないな....。」


「!!.....」


 そんなオルクスの言葉を受けた少女は、何故か異様に動揺をしている様子であった。まるで.....()()()()()()()()()()()()()()()()()()()....。


「.....?どうした、そんなに自分が攻撃を受けたことが不思議か?」


 オルクスはそんな彼女の様子を、今までほとんど傷というものを受けたことがないためであると考えた。あの隠匿魔法の技術の高さといい、レオンを一撃で倒すほどの実力といい.....あれだけの実力があれば、相手から傷を受けることなど今までほとんどなかったのだろう。そのため....思わぬ攻撃に動揺しているのだと.....。


 そして少女は確かに動揺をしていたが.....すぐに冷静になったようで、静かに言葉を紡ぐ。


「....いえ...そういうわけでは.....。攻撃を受けて傷を負うことはよくあります.....ただ、不思議ですね....。」


「...?」


「.....その剣に謎がありそうですね...。」


 そう少女が話し終わると同時.....オルクスが先ほど掻き消えるということをしたように.....ただオルクスと違うのは、まるで風で吹き散る枯葉のように.....素早く、掻き消えたことである。


「....む..!!」


 耳をつんざくような、鋭い金属音が辺りを支配した。オルクスの剣と、少女の細剣が衝突したのだ。オルクスは少女の攻撃を剣の腹で受け.....少女はというと、何と鋭い細剣の先端を突き出していた。

 レイピアのような剣であれば、相手の体を刺すように攻撃をするのは別におかしなことではない。しかし、剣同士のぶつかり合いで.....そのうえオルクスの剣はミスリルで作られた超硬度の剣である。そこら剣ではぶつかるだけで折れてしまう。先端で攻撃などすれば....言うまでもない。


 しかし、彼女の剣は....何事もなかったようにその形をとどめている。オルクスはそれを見て一つの推測を立てる。


「魔力による剣の強化か.....。それもかなりの高精度....当たればただでは済まないな....。」


 魔力は自身の体だけでなく、何かものに付加することも可能である。しかし、自分の体ではないものに纏わせる事自体が難しく、一点に集中させることはさらに難しい。そのうえそれを持続させた状態で戦うなど以ての外だ。

 実用的には....聖騎士たちの用いる光剣のように、攻撃使用時にのみ纏わせるのが普通だ。


「魔力はほぼ常時...剣を覆っているか.....。俺の攻撃を見切った速度....そして魔力の扱いにも長けている.....。」


 オルクスにとってもかなりの強敵。間違いなく、彼以外であれば瞬殺されていただろう。しかし、オルクスはそれでも自分の勝ちを疑わなかった。


「光剣・【寸細剣(レイス・ピア)】」


 再びオルクスが消える。しかし、今度は姿を隠したのではなく....ただただ素早く動いただけだ。相手に向かって真っすぐ.....

 降りかかる剣筋は先ほどとは比べ物にならない.....。10、20、30....と次々に現れる剣筋がより速度を増して降りかかる。


 そんなオルクスの猛攻を少女は華麗に躱し切る。先ほどのような奇襲ではなく、今度は正面から来たのだ。十分に避けるだけの余裕はある。しかし、それだけにオルクスの猛攻は激しく、少女は一つ....二つと傷を増やしていった。


「光剣・【流麗剣(フロー・ピア)】」


 オルクスの猛攻は止まらない.....


 再び構えた....とはいってもその間は一秒にも満たない。そんな刹那の時間と時間の間に攻撃姿勢を整えたオルクスは、再び速く....しかし、流れるような凄まじい攻撃を放った。攻撃と攻撃の間に途切れがない。まるで一体化した一本の線と化した剣筋が、再び少女の体に傷をつけていった。


「(....見えた....。)」


 オルクスはそんな怒涛の攻撃の中.....ニヤリと笑った。


「この勝負....見えたな...。」


「.....。」


 話す余裕など感じられない猛攻の中、オルクスは呟く。そんな言葉を確実に聞き取ったであろう、少女は焦りも...笑みも見せず、ただ無表情に攻撃をかわし続けていた。


「相手にはこちらに攻撃するだけの余裕はない.....。俺の攻撃に反応してくる速度は恐るべし....といったところだが.....」


 もはやオルクスの中では、勝負は決まっていた。このまま相手に一切手を出させずに押し切る.....それだけである。


「(次で終わらせてやる.....!!)」


 そうしてオルクスは最後の攻撃へと移る。その攻撃はまさに、オルクス最大の奥義.....オルクスの異名である、”霧雨の剣”の所以でもある、最高速の連続剣技.....。


「光剣・【朧霧の剣(シダレ)】」


 放たれた斬撃はおよそ100以上.....。大きく散らばらずに一点....対象に向けて放たれるその剣筋はまさに、空から降り注ぐ霧雨のよう.....。そして、躱すことなど叶わない。これこそ、オルクスの最大の奥義にして絶対不可避の攻撃.....。

 そして、最後に降りかかるはオルクス渾身の一太刀である。すでに100を超える剣雨を受けている相手に、この攻撃を避ける手段などもはやない......



 はずであった.....。



 オルクスの繰り出した最後の攻撃は、鋭い金属音とともに止められた。


「なっ.....!?」


「.....本当に面白い....。剣は初めて触ったけど...奥深い....ですね。」


 そう言ってクスクスと笑う少女。そして、オルクスが見たものは....とても信じられないものであった。一つの傷すらない様子の少女が、自分の渾身の一撃をいとも容易く....簡単に折れてしまいそうな細剣で止めている姿であった.....。


「ば....馬鹿な....。」


 その時の少女は、黒い霧で顔は見えないのにも関わらず......右目がギラギラと、まるで真紅に輝く宝石のように光輝いていた....。

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