表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
44/131

王国を包む黒い影

 セリオン王国に混乱が広がっていく中....冒険者組合(ギルド)も、その影響を受け始めていた。


「聖騎士はもう動き出しているのか....。こちら(ギルド)も何か手助けできることは....」


 冒険者組合、執務室にてギルドマスターのリオルはそう呟く。セリオン王国では、財政の多くを冒険者の働きが支えていることもあり、王国にとって冒険者は不可欠なものともいえる。この緊急事態において、聖騎士ばかりに頼って冒険者組合が何の働きも見せなかったとなれば、市民の信用....そして国外の信用にも影響しかねない。リオルはいつになく焦った心持であった。


 そんな彼に、またしても凶報が舞い込んでくる....


 銀級冒険者リベル・ストロークおよび、多数の銅級冒険者たちが行方不明となったことだ。彼らはここ数日で姿を消しており、情報によればここ1,2日ほどだ。

 そして、王国の門番たちの中に、夜間王国を出ていくのを見たというものがいたことも分かった。察するに、立ち入り禁止になっているはずのピロー大森林に向かったと考えるのが妥当だろう。森にはここ最近、魔力風がやってきており、森の中は非常に魔草等の資源にあふれているといえるだろう。冒険者たちにとってはこれは見逃せない話だ。


 しかし、金級冒険者の助力により、これは強大な魔物....おそらくは吸血鬼によるものだと判明した。正確な情報ではないため、対外的には強大な魔物によるもの....としているが、これだけでもわざわざ立ち入り禁止の森へ行く冒険者はほとんどいないだろう。

 だが....今思えば、吸血鬼によるものだと言ってしまっても良かったと思える。そもそも、森が立ち入り禁止ということは....言い換えれば今森へ行けば資源を独り占めできるということだ。今回のような輩が現れるということも考えられたはずだ。だが、リベルが一緒に森へ行ったというのは意外な話だ。リベルならばそんな馬鹿なことを考えている冒険者たちを止めるくらいするはずだ。


 考えられる理由としてはいくつかあるだろう.....。強大な魔物と聞いて戦ってみたいという気持ちか、自分がいれば後輩の冒険者たちを守ることが出来るという気持ちか.....。リベルは後輩のことをかなり考えるやつだったはずだ。


 そういうこともあって、やはり吸血鬼の可能性を話しておいた方が良かったはずだ...。吸血鬼は....いや、正確には彼らの使役する吸血蝙蝠は冒険者たちには特に恐れられている存在だからだ。

 無事戻ってくればよいのだが....死んだとすればかなり痛手だろう。多数の銅級冒険者たち、特にリベル・ストロークに関しては、残念では済まない。リベルは王国常在の冒険者としては最大戦力であり、知識経験共に豊富な冒険者だった。それも考えて、最悪リベルだけでも戻ってきてもらいたいものだ....。


 そんなとき、一人のギルド職員が慌てて執務室に入ってきた。


「騎士団からの伝令です!!」


「騎士団から?一体なんだ?」


「それが....国内のことは騎士団に任せておけと....。」


「何?そんなこと受け入れられるわけないだろう。わざわざ国内の守りを薄くする必要は....」


「で...ですが....。騎士団長自ら、伝令を残して行かれたものですから....。」


「何!?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 雲の間から覗く月明かりの中....一人の老人がじっと空を見つめて佇んでいた。彼のいる場所はセリオン王国の貧民街....。

 一見、活気がありみなが幸福そうに見えるこの国だが....光あるところには闇がある。活気ある風景が広がっている大通りからところどころにつながっている路地....その先には活気など微塵も感じられない場所が広がっている。


 王国のところどころに存在するその場所....貧民街は、王国の国民のおよそ10%ほどが住んでいる。住んでいるというのは、みなが家を持っているとは限らない。そのうち半分以上は決まった家を持たず、ほとんどが道端で寝泊まりをしている。

 彼らのお金を稼ぐ方法は、物乞い、泥棒....そのほかにもいろいろあるが、どれも法に触れるものばかりというのは間違いない。当然治安も悪く、道端にはゴミが当然のように撒き捨てられており、そのゴミに紛れるように力尽きた人間までもがゴミのように捨てられている始末だ。



 この老人も、ここ数日この貧民街で寝泊まりしており、物乞いをしてお金を稼いでいる。昼間、彼が身に纏っていたのはぼろきれのようにしか見えない粗末なものである。弱弱しく、今にも死にそうな哀れな老人にしか見えない。


 誰が見ても、貧民街の住民にしか見えないはずなのだが....。


 彼が今、身に纏っているのは、聖騎士の証である白を基調とした綺麗な服装である。腰には光を思わせる白い細剣を差しており、その顔にはいくつものしわが刻まれてはいるが....どこか力強さを感じられる強い目をしていた。


「全く....ひどい有様じゃ。」


 そう言って老人は周囲に広がる悲惨な光景を見つめる。ゴミの散乱する道....餓死をしているもの....何かの病気で死んでいる者....人がゴミのように死んでいる様は、とても貿易で発展を遂げた王国とは思えない。

 老人はそんな光景を見て、何をするわけでもなく再び空を見つめる。


「すでに連絡はした....。国を守るのに無駄な戦力は割けんからのぅ....。見れば冒険者組合はすでに問題を抱えているようじゃからのぅ。」


 そう言って老人は歩みを進めて行く。どこか目的地があるわけではない。意味のない()()....それが彼の日課である。


「何か嫌な予感がするのぅ....。単なる老いぼれの勘違いなら良いのじゃが....。」


 老人はそう呟きながら、人通りの薄くなった大通りへと足を進めて行く。その肩には、セリオン王国の騎士団長のみが着けることを許される真紅のバッジが輝いていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 どういうわけか....私は今、空を飛んでいる。勿論、私自身の力で飛んでいるのではなく、数百もの蝙蝠が、私の体を持ち上げて飛んでいる。こんな経験を誰が出来ると思っていただろうか....。


 蝙蝠たちは、私を持ち上げているのにも関わらずかなりのスピードで上空を飛んでいく。見れば、一匹一匹がかなりの魔力を有しており、それで体を強化しているようだ。これだけの魔力をこの蝙蝠たちが扱えるとは思えないのだが....それも彼らの主である、彼女の力があってのものだろう。


 蝙蝠たちが目指しているのは、この先にある人間の国だ。私たちから少し離れたところを、一人の少女が飛んでいる。その周囲を、千にも及ぶだろう大量の蝙蝠たちが黒い塊となって彼女の後を付いていく。今もかなりのスピードだと思うのだが、以前と違い、今の彼女は黒いローブを身に纏っている。彼女曰く、翼が隠れて思うように動かせないため、本来のスピードよりも遅いらしい。それは私自身、経験をしているため分かっていることだ。


「そういえば....。」


 ふと、ずっと黙り込んでいた彼女が口を開いた。


「どうか、したんですか?」


「...いえ、本来なら黙っていようと思っていたのですが....。この際、話してしまおうと思いまして....。」


 その言葉を聞いて、私は思い出す。確か先日、彼女とともに王国を出る時、彼女が何かを言おうとしてやめたことがあった....。


「私のような吸血鬼(ヴァンパイア)には、相手に自身の血を分け与えることで相手を自分の眷属にする力があるそうです。この子たちもみんな私の眷属です。」


 彼女の話を聞いて、改めて納得した。この蝙蝠たちの、個々としては異常な魔力から何かしら彼女の力が働いていることは予想していたが....これで確かに理解できた。しかし、なぜ彼女は今その話をしたのだろうか....。


「...私は一度....いえ、二度あなたに私の血を分けてしまいました....。一度は暴走した私をあなたが止めてくれた際....怪我をしたあなたを治すのに私の血を与えてしまいました....。」


 そう言われて、私は、はっと気づく。そういえば....確かあの時、彼女は....。


『どうやら、私の血を分け与えると再生能力が上がるようですよ.....。立てますか?』


 そう言っていた....。


「私はあの時....すでに自分の血を分け与えることで相手を眷属にしてしまうことを知っていました....。自分のせいであなたが死んでしまうことを恐れて、咄嗟にした行動だったんでしょうね....。」


 その話を聞いて、私はいくつか思い当たる点があった....。私が彼女に会うために集落から森へ行く間、私はずっと走りっぱなしだった。それも、集落にやっとのことで帰ってきたばかりなのに、だ....。しかし....そうなると、二度....というのはどういうことなのだろうか。あの後、私は彼女に何かされるような時間があっただろうか。


「....これは二度目の話です。一度目は....私とあなたが初めて会った時です。あなたの傷を治すために、私は自分の血を分け与えました....。あの時はまだ、血を与えることの効果は知らなかったはずなのですが....どうしてでしょうね。」


 確か....あの時、自分の体に何かが流れ込んでくる感覚....。自分の体が作り変えられるような感覚....。そんな感覚を感じたことを、私は彼女の話を聞いて思い出した。

 そして、その話をする彼女は....まるでその時の行動をまるで分からないように話している。


「で....では....私はすでに吸血鬼様の眷属だと、そういうことですよね?私は集落には帰れないのでしょうか...?」


「いえ...今回で私とあなたの関わりは終わりにしましょう。これ以上関わりあっても....お互い良いことはないでしょうから....。」


 それを聞いて、私はほっと胸をなでおろした。しかし、同時にどこか寂しさを感じていた。全くもって分からない話だろう。初めての経験にワクワクしていたのだろうか?彼女にどこかしら興味を持ち始めていたのだろうか?なんにせよ、これ以上家族に心配をかけるわけにもいかない。


「私もそれが良いと思います。私のような一亜人が関わるには....吸血鬼様は大きすぎる。」


 これが終われば、また私は....いや、私たちは平穏な生活に戻ることが出来るだろう。今回のことは、私が関わるにはあまりに大きすぎる話だった。

 少なくとも....私は彼女のことを一生忘れることはないだろう。彼女にとっては....私の存在など数日後には忘れられるようなものだろうが.....。


 ともかく、今はヴォンを助けることが最優先だ。


 その後、私と彼女は一言も言葉を交わすことはなかった。地上を照らすのは雲を通して届く、淡い月明かりのみ.....。

 

 そのうち、別の光も見え始めた。あれは....街の光。


 そして、千を超える大量の蝙蝠が、黒い影となってセリオン王国の上空を覆った....。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ