冒険者たちと夜の大森林2
「だず”げで”ぐれええ”ええぇぇぇ!!」
そう叫んでこちらへ向かってくる三人の体は、何やら黒い何かに覆いつくされている。
「な....なんだってんだよ....。」
「な...なんだこいつらは!?」
冒険者たちは、その異様な光景に三人から距離をとりはじめる。黒い何かは近くで見ると大量の何かがうごめいているようにも見え、何とも不気味な光景であった。
誰も彼らを助けようとはしない....。いや、助けることはできない。自分たちがあの何かに同じようにして捕まることなど....考えたくもない。
「ダ....ず.....ゲ.....」
三人の発する叫びは、いつの間にかしわがれたものになっていた。そしてようやく、黒い何かが三人から離れる....。そこにあったのは、ミイラのようになった三人の無残な姿であった....。
「う....うわああああぁぁぁぁ!!」
「な....なんだこりゃあああぁぁぁ!!」
そうして三人から離れた黒い何かは、まるで一つの生き物のようにうごめくと、今度はすぐ近くにいた冒険者数人を襲いだした。
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!」
「助けてくれえええぇぇぇぇ!!」
いつの間にかその黒い何かは初めの倍以上に増えており、冒険者たちを片っ端から襲いだす。すでに半分以上が無残な姿で転がっている。
まさに地獄絵図.....。
その様子を見ていたリベルは、一つの可能性を考え出す。
「まさか.....吸血蝙蝠か!?」
群れを成せば危険度はCにも及ぶ強力な魔物.....。危険度の高さも勿論だが、何より恐ろしいのはその残虐な殺し方だ。相手の全身の血をすべて吸いつくすという残虐さ.....。多くの冒険者が恐れている理由だろう。
「となると....あそこにいる人影は....!」
その瞬間.....強烈な暴風が吹き荒れたと思うと、周囲の木々が横一直線に分断される。斜線上にいた冒険者たち、もろとも.....。
「ひいいいいいぇぇぇぇ!!」
「リベルのあ”にぎ"いいぃぃぃ!!」
「ちっ....お前ら!早く俺について来い!」
そう言ってリベルはたった二人にまで減った銅級冒険者たちを連れて急いで逃げ始めた。今現在も大量の吸血蝙蝠に襲われている者もいるが、もはや助ける余裕などない。
「くそ....もっと情報を集めるべきだったか....。吸血鬼にとって夜は圧倒的有利な状況....。俺でも歯が立たん....。」
そう言って、リベルは全速力で森を走り抜けていく。弱腰にも思えるが、長く冒険者を続けるには引くことも大切なのである。リベルの長い冒険者としての経験から得たことだ。
走っていくうちに、だんだんとリベルを追う息遣いは小さくなっていく。それも当然のことだ。実力では金級冒険者にも劣らないリベルの足に、銅級冒険者の彼らがついていけるはずもない。
さすがに早すぎたか.....と思い、リベルは....。
「おい!大丈夫かお前ら!?」
振り返るが、やはりついてこれてはいなかった。彼らが無事に逃げられたにしろ、捕まったにしろ、どちらにしても自分自身は逃げきれたことにひとまず安心する。
彼らの心配をしているだけの余裕はない。しかし、ひとまず逃げ切れたということは、この情報をギルドに伝えることが出来るというわけだ....。ひとまず逃げ切れたことに安心し、一刻も早く森を出ようと再び前を振り返ったところ.....。
「それって....これの事?」
暗い闇の中に浮かぶ、二つの赤い目があった.....。
その姿は、一見ただの人間の少女にしか見えない。綺麗に流れる銀色の髪には美しさすら感じるほどだ....。しかし、それを人間としないのは、その背中にはっきりと見える.....一対の黒い翼だろう。そして少女の手には.....まるで物のように引きずられている、二人の姿があった.....。
「ふふふ.....人間の血ってこんなにおいしいのね....。魔物の血とは比べものにならないわ。」
少女はそう言ってニヤリと口元に笑みを浮かべると、まるでゴミのように二人の亡骸を地面に投げ捨てた。
「それで.....一体何をしに来たの?もしかして.....私が目的?」
少女はじりじりとリベルの方へと歩いてくる。
「(くそっ.....こうなれば.....!!)」
この状況でもリベルは諦めてはいなかった。吸血鬼は下位吸血鬼であっても金級冒険者を苦戦させるほどの力を持っている。しかしリベルにはその金級冒険者の実力があり、決して歯が立たないわけではない。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
リベルは自身の武器である大剣を思い切り振りかぶる。この武器の欠点としては、相手に避けられる可能性が高いということだ....。対し、少女は避ける様子もない....。
「(いける!!)」
確信をもって振り下ろした一撃は.....肉を切り裂く音ではなく....なぜか鋭い金属音を奏でた....。次の瞬間.....リベルは絶望した。
「やっぱり私が目的ね....。じゃあどうして夜に来たのかしら?」
少女の最後の言葉を聞いて、リベルは自身のミスを改めて実感し....意識が途絶えたのだった....。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シロの言う通り、森に入ってきたのは二十人ほどの人間たちだった。恰好を見る限り....冒険者だろう。魔力は少ないものの....やはり彼らからは別の力を感じられた。まぁ弱いことには変わりはなかったのだが.....。
最後の、この人間.....。すでに私の攻撃で跡形もなくバラバラになっているのだが.....この人間は他の者たちと比べて、明らかに力の大きさが違った。おそらく、この森の魔物たちとも余裕をもって戦えるだろう。
とはいっても、最後の攻撃は私の体一つで簡単に止められる程度の力だったし、あの白虎とは比べるまでもない。普通に受けても切り傷がつく程度だろう。
ちなみに人間たちは残らず殺しておいた。殺すのが目的だったというよりも、彼らの血に用があったわけなのだが。ちょうど血をどうしようかと考えていたところに、ちょうどよくやってきてくれたわけなので仕方がない.....。早速よい働きを見せた蝙蝠たちが集めた分と、私自身が吸血した二人の分を合わせて、すっかり喉は潤い魔力も回復した。
それにしても、人間の血があまりに美味しかったために少しテンションが上がってつい、最後の人間はバラバラにしてしまった。やはり一度に大量に人間の血を飲むと危険だ....。吸血鬼の本能というか....理性が飛びかける。蝙蝠たちに血は集めてきてもらった方がいいが、やはり自分の口から飲みたい気はある。美味しいから仕方ない。
それと、もう一つ気づいたこととしては.....。私がドラゴンから受け取った赤い液体の正体は人間の血だったということだ。今回初めて人間の血を飲んで気づいたことだ。
どうして人間の血をあのドラゴンが持っていたのかは分からないが....。
とりあえず、十分な魔力と血がちょうどよく集まったので、シロの集めてきた残りの蝙蝠たちへ血を分け与えて眷属にする。眷属にした蝙蝠は自分の体と同化させることができるため、これで鬱陶しく蝙蝠たちが私のまわりを飛び回るということはなくなるだろう。
シロはなんだかがっかりした様子だ。どうやら部下を大勢引き連れることが楽しかったらしい。
それからは特に変わったこともなく、夜が明けた。魔力も完全に回復し、万全の状態となったため、今日の夜また森の中心に向けて進んで行くことにしよう....。
そう思い立った矢先.....私の前に一人の人影が立っていた....。
人型ではあるが、それは人間では決してない。毛皮で作られた簡素な装いに、体は毛で覆われている。何より、その体に生える尻尾と狼の頭が、彼が人間ではないということを明確に表しているだろう.....。
知らない顔ではない.....。私の前に立っていたのは、狼人のヴェルドだった.....。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おぉ.....ようやく戻って来たか!?」
美しいシャンデリアの光が照らす部屋の中.....高貴な服装に身を包んだまんまると太った貴族の男.....ゴドリー侯爵は喜びの表情を浮かべた。
そのゴドリー侯爵と話しているのは、薄気味悪い笑いを浮かべ黒い綺麗な服に身を包んだ、やせ細った男....ゴドリー侯爵の従者の男である。
「はい。ですが、戻ってきたのは組織から雇った男ではありませんでした....。念のために送っておいた二人です。」
「何!?じゃあ目的の品はどうした!?」
「安心してください。あの二人が確かに捕えてきました。間違いありません。」
「でかしたぞ!ならばすぐにここに連れてこい!!」
「はい....ただいま!」
そう言って、従者の男は部屋を後にした。
「こいつ!暴れるんじゃねえ!」
「くそっ....目を覚ましたらいきなり暴れだしやがった。」
豪華な屋敷の一室....。その様相にはとても似合わないボロボロの黒い外套を身に着けた男二人は何かを必死に抑えつけていた。抑えつけられているのは....ローブで手足を縛られ、口を塞がれている亜人の少年である....。
「何だってなんだ....子供だってのになんて馬鹿力だ!!」
「これが亜人ってやつか。全く本当に化け物だな!」
「もう一発眠らせとくか!?」
そう言って男の一人は金属の鈍器を取りだし、それを少年の頭へ振り下ろそうとする....。
「やめなさい!!商品に傷がついたらどうする!!」
ふと、部屋の扉の方から鋭い声が響く。声の主は....先ほどの従者の男である。男の表情は、言葉の通り苛立った様子だったが、それとは別に男二人に汚いものを見るような目を向けていた。
「ち....けどよ。こいつが暴れるんですぜ!?ここは一発ぶん殴って....。」
「やめろと言っているんだ!雇われの者が雇い主に口を出す気か!?」
従者の男は声を荒げる。その言葉にはだんだんと苛立ちが隠せなくなってきている。
「へいへい....分かりましたよ。」
「ちぃ....こっちがどれだけ苦労したってんだ....。」
二人は文句たらたらで、仕方ない....と言うように従者の男へ少年を投げ捨てる。従者の男は、少年がゴミのように捨てられたことに苛立ちを隠せない様子だ。しかし、そこには少年への思いやりなどは一切ない。あくまで商品が傷つけられたことへの苛立ちだ....。
「全く....これだから愚民共は.....。」
従者の男は誰にも聞こえないような声で、男二人に対して侮蔑の言葉をつぶやく。
「...ん?なんです?その顔は。」
見れば、少年は従者の男を強く睨みつける。その表情は、決して人間には屈しないとでも言っているようだった....。
「ふん。獣風情が....。誰か、これを侯爵様の元へ運びなさい!!」
従者の男が屋敷の廊下に向かってそう呼びかけると、どこからともなく数人がやってくる。彼らは、この従者の男の元、この屋敷で働いている使用人たちだ。
「丁重にな。これは侯爵様の大事な商品だ。」
使用人たちは男の後ろを付いていくように、少年を運んでいく。少年は手足が縛られているため、逆らうこともできずに使用人たちに運ばれていく。しかしその目は、彼らに抵抗する意思を明確に示していた。




