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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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王国に広がる波紋

 リベルとその一行がピロー大森林に向け、王国を出た日の次の朝.....


 王国内ではひそかに動乱が起こっていた.....




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「これは.....。」


 彼....オルクス=クライネルの前に広がるのは、無残にも惨殺された数人の人間の死体。この惨状を見たものならば、誰もがここでどんな悲惨なことが起きたのか.....容易に想像できるだろう。


 立ち尽くすオルクスの前に、しばらくすると一人の女性が現れた。彼女はレイア=ソフィア。彼らは白を基調とした服装をしており、身に纏う外套には、黒と白の二つの円が互いに半分ほど重なっているような絵が描かれている。これはセリオン王国の象徴であり、王国の聖騎士の証である。


「オルクス副騎士団長、住民の一時的な避難は完了しました。」


「ああ、了解した。」


「ですが....なぜ、まず住民の避難を最優先に....。やはりパニックを防ぐためでしょうか?」


「もちろんそれもある....。しかしそれ以外にも、まだこの周辺に犯人が潜んでいる危険性がある。」


「まさか....。住民の中に紛れ込んでいると....?」


「断言はできないが....。可能性としてはあるだろう。」


 死体の状況から見て....おそらく殺されたのはここ数日の間だろう。そして、この王国内は決して狭くはない。兵士たちによる検問もあり、簡単に王国を出るということはできないだろう。そうでないにしても、暗殺にしてはあまりにも雑すぎる.....。死体をそのまま放置など考えられない。その上、殺し方も暗殺のものであるとは思えないだろう。となれば、これは計画性のあるものではない....。


「それに、気になるのは.....。」


 犯人の動向も気になるが、何より気になるのは犯人の練度の高さだろう。これらの死体は三人のうち二人は首がなくなっている。一人は剣などで綺麗に切られたものだと思うが、もう一人は粉々にはじけ飛んでいる。

 そして、もう一人の体はまるで何か衝撃にあったように体がへし曲がっている。剣でこうまで綺麗に首を切り落とすことは、熟練の剣士でなければ難しい。その上、後者二つが犯人自身の力であるものならば、剣以外にも身体能力に優れていると言えるだろう。目安でいうならば、ここまでのことが出来るのは、王国の聖騎士内でも上位五人の指に入る実力者だろう。


「犯人は....かなりの実力者でしょうね。」


「ああ。我々聖騎士の出番というわけだ。すぐに国中を聖騎士で固める必要があるな。」


「そこまで....ですか?私はそこまでする必要はないと思うのですが.....。」


 彼女がそういうのも無理はないだろう。レイアは私の直属の部下であり、常に私の元で働いているがここまでの指示をすることはそうはない。


血の宴(ブラッドフィースト)....。奴らが関わっている可能性もある。」


「!!!」


 私の経験からして、ここまでの実力者というのはそうそういない....。王国の聖騎士、または王都の神聖騎士団の実力者....といったところだが、何より大事なのは彼らは第一に国を守る者であるということ。国を守る者が国民に手を出すなどということはまずありえない....。

 つまりは、何か闇の力が関わっている可能性が高いということだ。


「こんなときに限って.....。騎士団長は....あの人はどこにいるんだ?」


 騎士団長.....。

 王国内に限らず、世界でも十本の指に入る実力者である。年齢のこともあり、王都の神聖騎士団は引退したものの、その後はこのセリオン王国の聖騎士団長として働いている。


「あの....非常に言いにくいのですが、騎士団長はまた()()してくると言って....それっきり。」


「.....はぁ、またか。だから()()には行かせるなというのに....。まあ、そもそもあの人を止められるものなど、この王国にはいないがな....。」


 セリオン王国、聖騎士団のトップである騎士団長。実力としては歳をとった現在でも衰えている様子を見せないが、性格にかなり難がある。あまりに自由すぎる彼は、たびたび散歩と表してどこかに行ってしまうのだ。何をするためかは定かではないが、しばらくするといつの間にか戻ってきている....ということがほとんどなので、聖騎士団としては基本的になにも言っていない。


 しかし、今回のような際にいないというのは困ったことだ.....。こういったことを考えて私は常日頃からあの人には言っていたのだが.....。


「はぁ....副騎士団長も大変ですね.....。」


「部下であるお前にもその苦労は飛び掛かることになるぞ?」


「げぇ.....。」


「まずは遺体の詳しい調査.....。それに避難をしている住民への対応....。騎士団長にも戻ってきてもらわなくてはな....。」


 

 こうして、王国内部に起きたこの事件は、ひそかに聖騎士団総動員という大きな動きを王国に見せ始める.....。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ふむ.....聖騎士総動員か.....。」


「はい、陛下。(わたくし)の耳に入ってきた話ではそのように聞いております。」


「調査は副騎士団長中心で進行中.....。騎士団長は相変わらず不在....と。」


 セリオン王国の中心にたたずむ巨大な王城.....。


 その一室....王の部屋では、セリオン王国の現国王、ミルド3世。そして宰相のアレクス=デナート。アレクスは、ちょうど現在入ってきた聖騎士騒動員という異例の事態を王に伝えるところであった。


「して....いったなぜそんなことに。そこまで被害は大きいというわけか?」


「被害は三名と少ないのですが.....話によれば、遺体の様子に気になる点があると。」


「気になる様子.....?」


「はい。オルクス副騎士団長の話によれば、犯人はかなりの実力者である可能性が高いと....噂の血の宴(ブラッドフィースト)が関わっている可能性も....。」


「......ともかく。今は住民の安全を最優先、そう伝えよ。情けない話だが、私にできることはそう多くない。」


「.....分かりました。この件は騎士団に任せましょう。それと....もう一つの話ですが....。」


「....やはり貴族たち関係か?」


「その通りです。国の貴族の力が以前に増して強くなっております。このままでは陛下の地位が脅かされる危険性も....。」


 セリオン王国では、世界でも異例の亜人を保護する法が出されている。亜人の入国に対する平等化、奴隷売買の禁止....といったものだ。そのほかにも亜人の居住の許可.....など様々だが、簡単に言えば人間と同じ権利を持つということだ。

 しかし、人間の間での共通認識は亜人はものと変わらないというもの。そうでなくとも嫌厭され、時には恐れられるものである。そんな亜人を許容するような法を出せば.....国民の王への認識は言うまでもない。


 そもそも、このセリオン王国では他国とは異な法が多くある。例えば、平民と貴族の平等化。その一つとして、平民も姓を持つことが出来るというものだ。そのため、セリオン王国に住む者は、全員姓と名を名乗るという他の国から来た者からは考えられない状況が作り出されている。

 その結果、この法が作られた当初は、王国から他国へといった者が貴族でもないのに姓を名乗るということから混乱を招いたため、その後平民が姓を名乗れるのはセリオン王国内のみ、という法が新しく作られたぐらいだ。


 これらのことから、現国王であるミルド3世は異常なまでに国民の平等というものを優先している。これは一見とても良いことにも思えるのだが、裏を返せば貴族などの反感を買い、平民は圧力を受ける....ということにもなりかねない。ミルド3世は当然そのことにも気づいているはずだが.....。


「やはり貴族たちの中に、私を陥れようとしている者がいるのか.....。」


「正確には分かりませんが、貴族内で徒党を組んでいる可能性があります。陛下に不満を持っている貴族は多いですから。」


「可能性としては、ルイーン家か....メグラス家といったところか。あの家は特に選民主義なところがところが昔からあった....。」


「向こうが動いてからでは遅いです。こちらから動く必要があるでしょう。」


「その点はお主に任せておる。私よりもお主の方がずっと慣れているだろう?」


「陛下の仰せのままに.....。」


 王国内では国中を騒然とさせる事件が起ころうとしている.....。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 王国から少し離れた、アルジオ平原にて....。

 

 一人の狼人(ウェアウルフ)が、自身の集落を目指して歩いていた。




「結局朝までかかってしまったな.....。」


 集落の仲間たちを驚かせないため、彼女とは集落から離れた場所で分かれたのだが.....少し離れすぎていたかもしれない。しかし、今回の旅で起こったことを考えれば、こうして帰ってこれたということだけで奇跡のようなものだ.....。


「まずは.....家族に無事を伝えなきゃな....。ヴォンも心配しているだろう。まだ幼いのにこんなに心配をかけてばかりで.....ダメな父親だな....。」


 村長やサビ様にも無事を早く伝えよう....。特に村長は私を心配していたからな.....。


 

 そうして....日が昇り始めるころ.....。


 ヴェルドの目には、ぼんやりと集落の影が見え始めたのだった.....。



 集落の様子は.....驚くほど静かだった.....。


 この時間ならもうみんな起きだしていてもおかしくないのだが.....。集落の異様な雰囲気に不安を覚えていると、どうやら私の存在に気づいたらしく、慌てて一人の狼人が走ってくるのに気付いた。


「ヴェルドか!?」


 そう言ってこちらに走ってくるのは、私の友人であるウェンだ。


 傍から見れば、集落を出ていた友人が返ってきたことに対して自然な反応とは思えるのだが.....そう言い切るにはあまりに不自然な.....。ウェンはひどく焦った様子であった。

 ウェンは私の前まで来ると、ひどく疲労していて息切れをしていた。


「一体どうしたんだ?そんなに慌てて.....。」


「お前の.....息子が.....。ヴォンが....集落からいなくなったんだ!!」


「なっ....!?」


 ウェンから投げかけられた言葉は、生きて帰ってこれたことに安心することなどとてもできそうもない.....そんな衝撃的な言葉だった。

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