闇を切り裂く稲妻
白虎がそう話したことに、私は少しの驚きを覚えた。一つに、魔物が話したということへの驚きだ。しかし、これに関しては、洞窟であったドラゴン、という前例があったため、それほど驚きはしなかった。
もう一つとしては、この白虎の纏う稲妻.....。初めは魔法の類かと感じたのだが、どうもあれからは魔力を感じ取れない。とはいえ、あれが自然の雷とも思えない。
「.....一体その稲妻は何.....ただの魔力も感じられないんだけど?」
私が尋ねると、白虎は表情を変えずに淡々と答える。
「これは天より与えられた我らの力.....そして使命.....。貴様の知るところではない.....。」
「....そう。確かに私には理解できない話ね.....。」
「分かったならば去れ.....。ここは貴様のような者が立ち入って良い場所ではない.....。」
白虎は依然として淡々と話し続ける。私を通さないつもりのようだ。
「.....通ると言ったら?」
「愚かな.....。代償は命で払うがいい.....。」
そう言い捨てると、白虎はさらに強く、青い光を放ち始める......と同時に、周囲に稲妻が走ったと思うと、私の目前まで近づいてきていた。
白虎は、鋭い爪を振り上げると、私に向かって振り下ろす。とても避けることは叶わない.....素早い動きだ。しかし、私の右目は確かに動きを捕らえることが出来ている。後は避けるだけだ.....。
「なに....?」
白虎が若干の驚きを顔に見せる。それも無理はない。白虎が確かに振り下ろした攻撃は、私の体をすり抜けていたからだ。
そのまま、私の体は赤い霧のように薄れていくと、そのまま拡散.....。少し離れた位置で再び形となった。
昼間動けない時間にいろいろと実験をして、その結果いろいろなことが私にはできることが分かった。これはそのうちの一つだ。体を霧状にして拡散する。部分的にもこれは可能であり、タイミングを合わせれば攻撃は当たらない。
「【黒迅】」
私は素早く魔法を展開。漆黒の刃が白虎に飛んでいく......しかし、白虎は体をひねらせると、それを軽々と躱した。
「.....温いな。」
「......確かにね....。」
「......!?」
白虎が確かに躱したはずの漆黒の刃は、あろうことか白虎の背後から現れる。白虎はそれを紙一重で飛びのいて回避する。
初めの攻撃には別に期待はしていない。正面から撃って当たるような相手とは思っていない。だから、私は刃を急旋回させてもう一度背後から白虎を襲うように魔法を操作したわけだ。
それにしても、この白虎の反応速度はかなりのものだ。それに稲妻を纏っている状態での速度は魔眼を使わなくては見切れない。予想以上に苦労する戦いになりそうだ......。
私は再び魔力を集中させる。今度は大きめの魔法を発動するとしよう。
「【喰蝕ノ赤針】」
私がそう唱えると、私の足元を中心に周囲数メートルを赤黒い液体が包囲する。赤黒い液体は周囲の木々を包み込み、根元から容赦なく溶かしていく。
「暗黒魔法か......小賢しい!」
白虎はそう呟くと、再び全身を青い光に包み、先ほどよりもさらに大きな稲妻を纏い始める。稲妻は白虎すぐ周囲を球状に包んでおり、液体はちょうど球体を避けるように弾かれていく。
「次こそ終わりにしてやろう......。」
白虎はさらに纏う稲妻を大きくすると、勢いよく私に突っ込んでくる。先ほどよりもさらに早い.....。大規模魔法を使っている間はあまり大きくは動けない。そのため、この白虎の攻撃もとても避けられないだろう......しかし、私の魔法はまだ使っている途中だ.....。
白虎の稲妻を纏った鋭い爪が私の体に炸裂せんとする刹那.....。今まで広がるだけであった赤黒い液体から、今度は鋭い針が伸び始める。
「..ぬぅ.....。」
赤い針剣はあっという間に一メートル以上に伸び、私の周囲を囲む。もしもこのまま白虎が私に突っ込んでいれば、針によって串刺しになっていたところだ。
針地獄のように広がった地面を、白虎は踏まないように木と木を飛び移るようにして移動、私と距離を取り始める。
「.....ただの弱者ではないようだ.....。変わった眼を持っているな.....。」
白虎が言っているのは私の右目の事だろう。この戦いが始まってより、私は常時魔眼を発動した状態にしている。魔力をかなり消費してしまうが.....そもそもこうしなくてはあの白虎の攻撃は避けられない。
「まずは.....邪魔だな......【雷轟】!!」
白虎が叫んだ瞬間.....天から青白い稲妻の剣が降り落ちる。それは迷わず白虎に向かって突き刺さると.....凄まじい轟音を鳴り響かせ、地面を抉り木々を弾き飛ばす。
そして、大量の土煙の中から現れたのは、燃える間もなく黒く焼けこげた木々に跡形もなく地面丸ごと吹き飛んだ針剣。そして......あれだけの稲妻を浴びたのにもかかわらず、無傷で佇む白虎の姿であった.....。
明らかに森の他の魔物とレベルが違う。この周辺に魔物が全くいなかったのはこいつが原因だろう。その上、不可解なことにこいつからは魔力がほとんど感じられない。これだけの稲妻を出しているのにも関わらずだ.....。つまり、これは魔法ではないということだ。しかし、全く感じられないというわけでもないので、魔力の制御に長けているのは間違いないだろう。
それからの戦況は一進一退.....。
攻撃の激しさは言うまでもないのだが、お互いに回避能力に長けているためか、決定打には欠けているというわけだ。
「面倒ね.....。この調子だと埒があかない...。」
すでに魔力は半分近くまで使ってしまっている。にもかかわらず、相手の勢いは収まる気配がなく.....今も涼しい顔だ。
「ほう.....ここまで我の力を捌くか.....。だが、我の身には一度たりとも触れられていないところを見ると.....そこまでの存在ということか.....。」
「...はぁ.....それはお互い様じゃないかしら?」
「口が減らんな、吸血鬼.....。次で最後と思え.....。」
白虎はそう言い放つと、さらに存在感が増す。身に纏う稲妻の規模も先ほどまでと比べると倍近くになっており、もはや稲妻と化していると言っても過言ではない.....。
どうやら、本当に次で最後にするようで、白虎は足を広げ、構えを取り始める。今までにはない行動だ。
「...我にこの技を使わせたこと.....それだけは誉めてやろう.....。【雷槍】!!」
瞬間、白虎の体が消える。いや、そう見えただけだ.....。
それほどまでに加速した体の動きは、もはや稲妻そのもの......。白虎の体は、巨大な青白い槍となって私の体を貫かんと迫ってくる。私は何とか動きを捕らえることのできたが.....かわし切れず、左腕が丸ごと消し飛び、鮮血が飛び散る。
「...くっ.....。」
「フン...ギリギリで躱したか.....。だが動きは鈍るだろう.....次は心臓をもらう。」
そう言って、再び白虎は構えの体制に入る......。その動きを見て.....私は口元に笑みを浮かべる。
「....?」
「知ってる?こういう戦い方もあるって.....。」
「.....なっ!!」
見れば、白虎の足元を赤い筋が縛り上げている。ちなみにこれは私の血だ。以前に緑色の竜と対峙した際発見した能力の一つだ。そして、その際にすでに実証済みだが、私の血は魔力を通すことで自由に変形させることが出来その上高度もかなりのものだ。白虎は何とかそれをちぎり束縛から抜け出そうとするが、白虎を縛り上げた赤い筋は切れる気配が無い。
「なんだその攻撃は......吸血鬼がそんなことを......。」
白虎は必死に抜け出そうとするが、そうしているうちにも血はみるみるうちに白虎を覆いつくしていく。しかし、これはかなり消耗が激しい.....。魔力の消耗に加えて、血もその分使ってしまうからだ。そして、吹き飛んだ右腕も白虎の稲妻で黒く焼け焦げており、思うように再生が進まない。
そのため、これが最後の攻撃となる。私は地面に手をつけると、魔法を展開する。巨大な魔法陣が複数展開され、すさまじい魔力の余波で地面や木々が抉れ取られていく。
「【絶凍】....。」
その瞬間、私の手元から広がった冷気が周囲を支配していく。そのまま周囲の景色を無差別に氷が侵食していき.....あとに残ったのは、周囲数メートルが氷で閉ざされた景色と、顔以外すべてが氷漬けになって動けなくなった様子の白虎であった。
私の残った魔力をほとんど使いきる規模の魔法ではあるのだが、以前湖に使った【永久凍結】と比べると規模に欠ける......しかし規模を絞った分威力が増しており、周囲を凍り付かせる氷はまるで金属のような硬さになっている。
「.....なるほど.....。その変わった眼といい、吸血鬼には見られぬ力といい......。そしてこの魔法か.....。そういうことか....。」
白虎がわずかに氷漬けにならずに残った顔で口を動かす。それにしても、まだ生きていたのか.....。
「そう....しぶといのね。さっさと死んだら?」
「ふ.....。ここまでの戦いを経てもその余裕か.....。今回は我の負けにしてやろう.....。」
白虎が話し終わるのと、私が残った白虎の顔すらも氷漬けにしたのは....ほぼ同時だった。勝負ありだ。
それにしても、白虎はなにか私が余裕であると勘違いしていたようだが、そんなことはない。というか、今は立っているのがやっとだ。ひとまず、近くの木に腰を掛けると、魔力が回復するまで休むことにした。
そして、もうすぐ夜が明けるという時間.....
私は日が昇り始める前に元の池のある場所まで戻ったのだった。




