森の奥地へ.....
一瞬で王国が見えなくなり、景色がみるみる変わる。顔にあたる風圧が強すぎるので、魔力で壁を作り風を逸らす。勿論ヴェルドにも魔力の壁を作ってやる。
「吸血鬼様!!早すぎ....では!?」
「この方が早いですよ?」
この調子なら.....十分もかからないだろう。
「ああ....あと、あなたに言わなくてはいけないことが......いえ、やはりいいです。」
途中で話すのをやめたため、ヴェルドは気になるといった顔だ。しかし、これは言わない方がいいかもしれない。知らない方がいいこともある.....。
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「ギルドマスター.....今回の件は.....。」
「あぁ.....場合によっては金級以上の冒険者複数の手を借りなくてはならないかもな。」
というのも、ギルドマスターが森へ調査に行かせた金級冒険者、ジオン、クレイブ、ウィルディアが満身創痍で帰ってきたためだ。彼らの話によれば、黒い影.....すなわち、吸血蝙蝠の大群が出たという。吸血蝙蝠の大群は百匹いれば危険度はC....。この時点で金級冒険者の手を借りるのは必然だろう。
その上、極め付きは謎の白い蝙蝠の存在。おそらくは、大量の蝙蝠たちを操っている張本人。すなわち吸血鬼が蝙蝠に変化しているものだと思われる。その力は、金級冒険者、ウィルディアの【一線矢】を躱すほど.....。
彼女の一線矢は危険度Cでも命中は確実と言われる必中の矢。それを躱す.....正確には逸らした....と言っていたが、どちらにしろ、危険度B以上は堅いと考えるべきだろう。下位から中位吸血鬼と思われる。
「緊急で王都の冒険者を呼び集めている。ミスリル級の冒険者も来るそうだ。」
「ミスリル.....!事態はそこまで.....。」
「ああ.....。今回の件、やはりただの魔力風とは考えない方がいいだろうな。」
先日よりピロー大森林の魔力濃度の上昇.....。魔力風が原因だと当初はされていたが、ほぼこの吸血鬼が原因で違いないだろう。
「だが問題は.....どうして吸血鬼がこんな場所にいるのか......ということだ。」
「確か、吸血鬼の生息領域は大陸違いですからね.....。」
「ひとまずは、王都から冒険者が来るまでは森へは立ち入り禁止にするべきだろうな。」
「当然ですね.....。私が伝えてきますので.....。」
そう言って、ギルド職員は執務室を後にする.....。
「王国に何もなければよいのだがな......。」
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時を同じく、冒険者組合受付前.....。
「はぁ?森へ立ち入り禁止だぁ!?」
「はい.....ですから、危険な魔物が出たので.....。すでに銅級冒険者が数名死亡。調査にいった金級冒険者もかなりダメージを負ったようで.....。」
「ちぃ!」
男は受付のテーブルに手を強くたたきつけると、苛立ちながら仲間たちの元へと戻っていく。
「なんだ?やっぱり?」
「ああ、どうせ銅級なりたての雑魚が突っ込んで死んだんだろうな.....。」
「だがよぉ.....。金級冒険者もこっぴどくやられたって話だぜ.....。」
「はぁ!知るか!俺たちでその魔物ってのをぶちのめすんだよ!そうすりゃ俺たちもめでたく銀級.....いや、飛び越えて金級かもな!!」
そう言って盛り上がる男たちは合わせて十人ほど......。彼らはトムたち同様、かなりのスピードで頭角を見せ始め、銀級になるのも近い.....という冒険者たちだ。
ただ、トムたちと違うのは.....彼らは自分たちに慢心している.....ということか。
「おい....お前ら。まさか森へ行くつもりか?」
「げっ.....。リベルの兄貴.....。」
「未熟者のガキどもが......。てめぇらだけでどうにかなると思ってんのか?」
そう話すこの男は、銀級冒険者のリベル・ストロークである。歳は50ほど、しわも多く白髪も多い。しかし、年齢を感じさせないオーラを放っている。
「金級冒険者が苦戦する相手だ.....てめぇらだけじゃ無理だろうな。てめぇらだけじゃ.....。」
「てめぇらだけ.....。ま....まさか!?」
「てめぇらの挑戦の気概は気に入った.....。この俺が力を貸してやる。」
「おおおおおぉぉぉぉ!!!おいお前ら!リベルの兄貴が力を貸してくれるってよ!!」
「おいおい.....マジかよ!!」
こうして夜のうちに森へと向かうことになったのは、十数人の銅級冒険者に加え、銀級冒険者リベル一人。普通に考えれば、金級冒険者三人で苦戦する相手には無謀とも思えるのだが、彼らは全員銅級とは言え、銀級冒険者にも近い実力を備えているのだ.....。
その上、このリベルという男.....。彼は銀級にも関わらず、”鉄迅のリベル”という異名を持つほどの実力者。その実力は、もはや金級冒険者と言っても過言ではない。
そうして、次の日の昼にピロー大森林についた彼らは、魔物の動きが穏やかになる夜を待って森へと入っていくのだった.....。
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「本当にここでいいんですか?」
「はい.....集落の者たちが吸血鬼様を見たら驚くでしょうから.....。」
それにしては随分と心配性すぎる気もするのだが.....。ここからでは集落までは、まだかなり距離があるだろう。やはり、空を飛ぶのに参ってしまったということか?
私はヴェルドからローブを受け取る。
「そうですか.....では.....。」
「はい。改めて私とヴォンを救っていただいて.....。」
「いえ.....これは借しです。」
「......借し?」
「はい.....。私は確かにあなたたちを助けましたが、それに対する代償としては、様々な情報や人間の国への案内.....。そして今回の件も......。あまりに私がもらったものの方が多すぎます.....。」
「ですが.....私とヴォンは命を.....。」
「その相手が自分を殺そうとしていたんですよ.....。」
そう言い捨てて、私は再び夜の空へと飛び立った。
ヴェルドは相変わらずの姿勢の低さだ.....。今回に限っては、私に非があるだろう.....。利用....と言う点を考えれば、このまま彼ら狼人とは関係を終わりにするのが正解なのだがそれでは私も納得いかない。借りを残した状態で終わるのは私も御免だ.....。
ヴェルドと別れてしばらくの後.....
私はピロー大森林に戻ってきた。私が降り立ったのは、あの小さな池の前だ。相変わらず、私の魔力のせいか.....この周辺の木はみな青い光を放っている。
そして、周囲を見渡すと......白い蝙蝠が木にぶら下がっているのを見つけた。シロだ。どうやら私の命令通り、仲間を集めてきたらしい。
......と現れたのは、辺り一面を覆う黒い影のようなものだ。しかし、よくよく見てみれば、影ではない。これは全部蝙蝠だ。
およそ千匹にも及ぶであろう大量の蝙蝠を、このシロは率いてやって来たのだ。私にとっては、こいつは切り捨てようかどうか考えていたところなのだが.....予想以上の働きに驚きが隠せない。一体どこからこんなに集めてきたのやら.....。
私の反応にどうやら気づいたようで、シロは得意気な様子だ。憎らしいが、仕事はできるやつのようだ。
シロへの評価を見直しつつ、私は千匹にも及ぶ蝙蝠たちのうち、二百匹ほどに対して自分の血を分け与えて眷属とした。勿論すべての蝙蝠を眷属化させることはできるのだが、ヴェルドから得た血だけでは少し足りない。おそらく与え終わった後に、また喉の渇きが襲うことだろう。
それに、今はまだ夜が始まったばかり.....。少し気になることがあるのだ。
それは、この森の特徴に大きく関係する。
この森では、ある一定の方向に向かうほどに魔力濃度が高くなっている。すなわちその方向は森の中心.....といったところか。そのため、その森の中心には何か魔力を発している源が存在しているということだ。
強大な魔物か.....はたまた大量の魔力を発する何かか.....。その点に関して一度調べておきたいと思ったのだ。
とりあえず、シロとまだ眷属化していない八百あまりの蝙蝠たちはここで待たせて置き、私は再び空へ飛び出した。目指すはより魔力の濃い方向だ。
森の木々からかなり上空を飛んでいるため、森の様子が良く見える。やはりかなりの大きさがあるようで、全貌は今だ見えない。しかし、上から見ているとよく分かるのだが、森の木々の色がだんだんと変化してきている。魔力を帯びて青く光っているためだ。
その上、中心に向かって行くにつれて、木々の形も変化してきている。木の背は高くなり、幹も太くなっている。魔力が生物の生命エネルギーとなっていることを考えると、魔力の豊富なこの辺りでは木々の成長も早くなるのだろうか.....。
気づけば、木々のかなり上空を飛んでいたはずが、すぐ真横に木の枝が迫ってきている。とんでもない大きさの木だと感心する。
このまま高度を上げつつ、さらに中心に向かって飛んでいっても良いのだが、これだけ森の容貌が変化しているのだ。森の中も気になってくる。
そう思い、私は高度を下げて低空飛行をする。木のサイズは明らかに大きくなっているのだが、その分間隔も広がっているため、かなり楽に進むことが出来る。これなら頭を木にぶつけたりする心配もないだろう。
それにしても......先ほどから不気味なほどに魔物の気配がしない。確かに今は夜.....。魔物の活動は比較的穏やかなのは分かるのだが、そのため、というよりもそもそも魔物がここにはいないのだ.....。
ちょうど.....何かを恐れて避けているかのように......。
そう思った刹那.....。
何か恐ろしい気配を感じた.....。
今まで会ってきたどんな魔物とも違う.....。それはちょうど、洞窟でドラゴンに会った際に感じた.....そんな感覚とも近い気がした....。
恐ろしい気配はビリビリ感じているのだが、どうも魔力はそれほど感じない。どうやら魔力の制御に長けた生物だと思われる。
そうして、それはゆっくりと姿を見せる。
全身を白と黒の毛で覆われたその姿は、虎だろう.....白い虎だ。そして、何より目につくのは、全身を走る青い稲妻だ。その稲妻は、夜の闇を時折照らしている。
堂々と現れたその存在は、私の姿を確認すると、ゆっくりと口を開き.....。
「......一体なぜ、吸血鬼がここにいる......。」
そう呟いたのだった....。




