吸血鬼の本
私の最大限の加減を伴った蹴りを受けた男の首は......あっけなくはじけ飛んだ。
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
自分の仲間があっけなく死んだのを見て、男が逃げようとする。その男の行く先に立ちはだかるように私は移動すると、今度はさらに加減をしながら男の胴体に蹴りを撃ち込んだ。
かなり加減したつもりだったのだが、男の体はおかしな角度にねじ曲がって吹き飛んだ。死んだのは間違いない。
「ひ...ひぃ。」
と、後ろから声がしたため振り返ると、偶然通りかかったであろう女性が腰を抜かしたように座り込んでいた。
私は容赦なくその女性の首に手刀を放った。
今度は加減無しで殺す気でやったため、綺麗に首が飛び、壁に勢いよく当たってはじけ飛んだ。
「あとは.....大丈夫.....。」
特に周りを見渡しても、この惨状を目撃した人間はいない。別にこの女性には何をされたわけでもないが、私が殺したことを知られると色々とまずい。
それにしても、かなりの返り血を浴びた.....。
黒いローブを着ていたため目立たないと言えば目立たないが、顔に浴びてしまったものはどうにかしなくてはならない。
私はローブの袖で顔を拭う。人間の血と間近に触れたため、血を飲みたい衝動に駆られる。しかし、ここで血を飲みでもしたら冷静でいられる自信がない。
路地を抜けると、再び溢れんばかりの人が通りを歩いていた。目的の大図書館は目と鼻の先だ。
図書館の前までやってくると、見上げるほどの巨大な扉が開かれ、多くの人間が行き来をしている。遠くで見たときに、他とは逸脱した魔力を感じたのだが、どうやらこの石造りの壁全体に魔力が広がっている。
まるで、それは複雑に枝分かれしており、大図書館全体を覆うようになっている。
外から見たときに縦長の建物だと感じたのだが、中に入るとそれを一層強く感じる。建物内には天井はたったの一つだ。螺旋階段のように道は続いており、その壁に置かれた棚にはぎっしりと本が並べられている。
そのため下から見上げると、天井まで巨大な穴が開いたようにぽっかりと空間が出来ているのは圧巻だろう。
かなりの人が出入りしているのが見えたが、実際にここの本を目当てに来ている者がどれだけいるのやら.....。
ほとんどは観光のような気分で来ているらしく、本を取るということはしていない。
この大量の本の中から目的の吸血鬼について書かれた本を探すのは至難の技だろう。当然自分で探すつもりもないので、入り口付近に立っているこの大図書館の関係者であろう人間に話しかける。
「.....少しいいですか?」
「はい。何の本をお探しですか?」
こちらから話しを振る前に話を出してきた。どうやら本の場所は図書館の人間に聞くのが当然のことらしい。
「吸血鬼に関しての本なのですが。」
「吸血鬼ですか.....。吸血鬼に関しては極めて情報が少ないため、関する本をすべて集めても100冊いも及ばないのですが.....具体的にはどのようなものが?」
「なるべく詳しいものがいいですね。吸血鬼の生態や特徴といったところです....。」
「そうですか.....。今も述べたように、吸血鬼の情報は少ないので、その条件の場合は10冊にも満たないでしょうが.....それでもいいですか?」
「問題ないです。」
「分かりました。それではこの場所へ向かってください。」
そう言って、私は一枚の紙を渡される。そこには、【Sー6;Vー6;Wー46】といった文字が書かれていた。
「6階、6段目、46列目という意味です。吸血鬼の本に関してはそこに大体まとまっていますので.....。」
「もしかして.....本の位置をすべて覚えているんですか?」
「いえ、我々司書が覚えているのは大体の本の位置だけです。ただ、この大図書館をお作りになった賢者クルーク様だけは数万にも及ぶ本をすべて把握しておられます。」
全て把握はしていないとはいえ、数万にも及ぶ本の位置を、ジャンルだけで分かるのはかなりのものだろう。それを考えると、賢者クルークというのは大した人間だ.....。
6階と言ったか.....。どこからが6階なのかははっきりしないが、一番下を1階とするのならば.....。
この大図書館の螺旋階段は、随所随所で平らな足場となっており、そこに主に本が敷き詰められた棚が置いてある。
6階.....縦6段目.....横46段目......ここか。
私の身長でかろうじて届く位置に吸血鬼について書かれているであろう本を数冊見つけた。どうやらこの辺りは全て吸血鬼の本で統一されており、さらに上にも本があることが分かる.....が、ギリギリ届かない。
周りを見たところ、他に人は一人二人しかおらずこちらを見ている様子もないため、私は一瞬だけ翼で浮遊すると、素早く本を抜き取った。
その後もかなりの本を手に取ったが、最終的に残ったのは8冊。先ほどの司書が言っていた通り、本当に十冊にも満たなかった。
これら以外の本はというと、吸血鬼関連と言えばそうなのだが、絵本であったり小説であったり.....。とにかく私の望むものではなかった。
私が手に取ったものはというと.....。
簡単に言えば、吸血鬼の歴史.....吸血鬼の生態.....それと、吸血鬼とは関係がないのだが、ここに来る途中に気になった本が一つ....といったところだ。
近くには5,6ほどの椅子の用意された机が置かれていたので、椅子の一つに座り、私は本を読み始めた。
あれからどれくらいたったのか分からない......。
とりあえず8冊すべてに目を通したが、最終的に言えたことは、どれも同じようなことが多いということだ。やはり情報が少ないというのは本当らしい。
それに人間にとっての、吸血鬼の認識がどれだけ甘いのかもよく分かった。
それと.....もはや言うまでもないことだが......私は吸血鬼で確定だろう。何しろ、人間の血を好んで飲む。人間の姿に酷似しており、一対の翼を持っている。この特徴に当てはまるというのは、吸血鬼だけということだ。
それで、本の内容だが.....今のところ気になったところは....。
まず吸血鬼の大きな特徴としては、人間の血のみを糧にして生きている。
これに関しては、少し疑問が残る。私は初めの頃は、魔物の血を飲んでいたからだ。しかし、今では魔物の血では喉の渇きが癒えなくなったことを考えると、これはやはり正しいというべきか.....。
吸血鬼の弱点は主に、日光、浄化や光系統の魔法、聖水。特に聖水に関しては、吸血鬼が口に含んだ場合に限り、澄んだ水でも影響を受ける。
これらに関しては、とても心当たりがある。唯一、魔法に関してはまだ経験はないが.....その他二つに関してはよく知っている.....。
『吸血鬼の最も大きな特徴であり、そして、人間に恐れられる理由としては.....まず一つに、人間の血を飲むことでしか生きることが出来ない事。彼らには吸血衝動というものがあり、一日一滴でも口にすれば、かなり衝動を抑えられるのだが、数日間、一切口にしなければ、猛烈な吸血衝動が襲うことになる。
もう一つの理由としては、身体能力、再生能力の強靭さだろう。体の部位が欠損しても、数分で再生してしまう。再生速度は魔力量に比例するのだが、吸血鬼の魔力は人間の血を得ることで増大する。そのため、血をほとんど口にしていない吸血鬼の魔力を著しく減少する。』
大体は認知していたことだが、魔力量と血が関係しているということには驚きだ。これでは、ますます人間の血を得る手段を考えなくてはならなくなった。
それ以外には、吸血鬼は強さごとに分けられており、下から下位吸血鬼、中位吸血鬼、上位吸血鬼、最上位吸血鬼となっている。
ちなみに、最上位吸血鬼のは、歴史上でも数体しか確認されておらず、討伐が成功したことはないらしい。人間では到底かなわない存在のようだ。
ちなみに、吸血鬼は自分や人間の血を用いて眷属を作ることが出来るらしい。手段としては、他の生物に自分の血を分け与える。または、人間の血を用いて一から眷属を作り出す方法だ。
特に後者は大量の人間の血が必要となり、足りない分は自分の血と魔力で補われるらしい。
私の蝙蝠などは前者の眷属にあたるだろう。
ああ、そういえばヴェルドにも血を分け与えたことがあったな.....。
吸血鬼の眷属となった生物は、分け与えられた血と主人となった吸血鬼の能力に大きく依存し、吸血鬼同様の再生能力や身体能力を得られるということだ。
それにしても、人間がこの情報をすべて集めたというのは大したものだ。聞けば、人間と吸血鬼はどの時代も常に敵対関係にあり、大きな壁がある。
とはいえ、これはあくまで下位吸血鬼に当てはまる特徴であり、それ以上の力を持つ吸血鬼に関しては情報がないようだ。
私の場合は、他にも自分の血を操作したりなどが出来たのだが.....。
さて、次は吸血鬼の歴史について話すことにしよう。
文献は今からおおよそ3000年前まで残っているようで、大きな出来事が100年おきほどに起きている。
今から2000年前には、人間と吸血鬼の生活圏はそれほど離れてはいなかったのだが、現在では大きく分かれている。吸血鬼の国も存在しているらしい。
本には歴史に残る強大な吸血鬼がいくつも載っていた。なかでも、最上位吸血鬼は、3000年の歴史のなかでも3体しか確認されていない。そのうち1体は現在も生存しているというのだから驚きだ。
本によれば、魔物としての最上位吸血鬼の危険度はSS。人類では対処不可能ということだ。
そんなものが現在も生きているというのなら、人間はとっくに滅ぼされている気がしているのだが......。
ちなみに、期待はしていなかったが、私の事だと思われるような記述はなかった。もしかしたら.....とは思っていたのだが.....。
私が目覚めた場所。あそこにあった魔法陣は、明らかに私を縛るためのものだった。そして、もう一つはドラゴンの存在だ。
あんな巨大な生物がいたのであれば、人間の国は大騒ぎだろう。もしもあのドラゴンがこの王国で暴れるのだとしたら、間違いなくこの王国は滅びるだろう。それもあっけなくだ.....。
私が本気で戦っても手も足もでない。それだけの圧力をあのドラゴンからは感じた。にもかかわらず、この王国が気にも留めていないのは、あのドラゴンのことを知らないからだろう。
つまりあの洞窟は、長い間.....誰も立ち入らなかったことになる。
一体あの魔法陣を仕掛けた者は何を目的としていたのか......。
そして、私は一体.....。
いや、今それを考えても仕方がない。
あと、もう一つの本。私が気になって持ってきたものだが.....。結果を言うと、何の役にも立たなかった。
そもそも、これを持ってきた理由としては、本の表紙に赤い目が書いてあった....それだけだ。
私の右目について何か分かると思ったのだが.....。
ふと、テーブルに小さな鏡が置いてあるのを見つける。何のためにおいてあるのかは分からないが.....私は自分の顔を映してみる。
右目に魔力を込めると、その目は赤く光りだす。青みを帯びた左目とは、明らかに違う様子の目。その様子は、まるで燃えているようにも思えた。
「なんじゃ?魔眼持ちか?珍しいのぅ。」
突然後ろから声がした。




