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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人間の国
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露店の老人

 すっかり見失ってしまった....。


 私は長々と人間の英雄の話をしていた。そして肝心な目的地の場所は分からないと言う。

いうなれば、さんざん前置きをしたのにもかかわらず、肝心なところははっきりとしない。確かにかなりイラつく話だ。

 結果、彼女は口には出さないものの、かなり苛立っている様子だった。

その圧力に押されて、少し距離を取っていたのだが....そのせいで彼女を見失ってしまった。


 まさか見失うなんてことは考えていなかったのだが。この道にはかなり人がいて、かつ彼女は見た目は少女のために小さい。少し人混みに入ればすっかり見えなくなってしまう。


 さて、どうしたものか。

この国の広さは私も十分に知っている。そのうえこの人の数だ。

はぐれたばかりといえ、闇雲に探すのは無理がある。

 ....となれば、周りの人間に聞くのが一番だろう。彼女は黒いローブを着ていて、ただでさえ目立つ格好をしているうえに見た目は子供なので目に付くだろう。


「あの、すみません。」


 私は近くにいた子供連れの女性に話しかける。


「ひぃ!亜人!?」


「お母さん!この人顔が変だよ!」


「関わっちゃだめよ!早く!」


 女性はそう言うと、逃げるように私のもとを離れていく。

やはりこうなるか....。

亜人に対する嫌悪感....というよりも恐れている様子だったな。


 それも当然か....

何しろ亜人はこれまで何度か人間の土地を攻め入っている。

亜人の身体能力の高さを考えても戦えない人間からすると、手の付けられない危険な集団とみられてもおかしくない。関わりたくない気持ちもわかる....





「なんだこいつ!亜人か!?」


「魔物が人間の国に何の用だ!」


 あれから一時間。

私は周りの人に聞いて回り続けているのだが、誰一人として私の話を聞こうとする者はいない。

怖がって逃げるものが大半。中には暴言を投げかけるものもいる。

実際に今も男たち数人に暴言をかけられ石をぶつけられている。


 ここまでされれば、本来黙っているなどできないのだがそうもいかない。

もし反撃をして怪我でもさせるようでは、すぐさま衛兵が駆けつけてきて、私は捕らえられるだろう。

その後どうなるかなど考えるまでもない。

 国で認められているとは言っても、結局それは表向きだけだ。

実際には、かろうじて亜人が国内に入れる....というレベルだろう。


 最低限、亜人に対して害を与えない.....しかし、捕らえられて犯罪者にしてしまえばどうしても問題はないということだ。

それを利用して人間の間では堂々と亜人の奴隷化を行っているのだ。

実際、私たちの集落でも何人か捕まって帰ってきていない。


 周囲に人だかりができ始めている。男たちの声に周りの人が反応し始めている。

このままだとろくなことにならないと感じたので、私はすぐさま人の間を通ってその場を後にする。


「おい!逃げたぞ!」


「捕まえろ!!」


 後ろから私を追いかけてくる声がする。

しかし、亜人の身体能力に加えて向こうもそれほどしつこく追いかけてこなかったので、しばらく走っていると、その声は聞こえなくなった。

人だかりを抜け、周囲は再び普段通りの人の行き交う通りに戻る。


「はぁ....はぁ....。」


 かなり走ったので息が切れた。いや、それだけが理由ではない。

精神的な疲労が大きいだろう。

 私は顔を隠すように被っていたフードを深く被りなおすと、再び通りを歩きだした。

通りには先ほどとは少し異なり、露店があちこちで開かれている。

中には通りの真ん中に商品を並べている者もいる。


 先ほどの場所もかなり賑わっていたが、この場所の賑わいはそれ以上だ。

ここは毎日露店が変わるため、商品の入れ替わりも激しい。そのため毎日のように人が絶えることがない。

私がこの国へ来るときにいつもやってくる場所でもある。


しばらく歩いていると、突然声をかけられた。


「あんた....ひょっとして亜人かい?」


 声のした方を見ると、そこには地面にボロ切れのような布を敷いて座っている何ともみすぼらしい老人がいた。

その頭には髪はほとんどなく、かろうじてある髪は白くなっている。顔にはいくつものしわが刻まれており、そのみすぼらしさを強調している。しかし、不思議にその目には強い光が灯っているように思えた。


 老人の座る布にはいくつかの物が並べられている。

恐らくこの老人も露店の店主ということなのだろう。

一つはヒビの入った土器のようなもの。

一つは黒く変色した金属で出来た何か。

一つは半壊して二つに分かれてしまっているリングだ。

 しかしどれもとても売れそうには思えない。というよりも売れるわけがない。

確かに露店で売られているものというのは、どれも品質を保証できるものではない。とはいえ、これはどう見ても売り物とは思えない。


「向こうからやってくる人の話を聞いてね....気の狂った亜人が誰彼構わず襲っているということらしいんじゃが....。あんたはとてもそうには見えないねぇ。」


「気の狂った....ですか。」


 私はただ人に尋ねて回っていただけなのだが....。誰かが流したデマか...あるいは本当にそう見えたのかもしれない。

亜人は人間に話しかけるだけで、何かおかしなものに見られてしまうということだ。


「ところであんた、この土壺一つ金貨1枚なんじゃが、買わないかね?」


 そう言って、老人が指さしているのは先ほど私が話した売り物の一つの土器のようなものだ。

やはり、これも売り物なのか....ってそれにしても金貨1枚とは....。ぼったくりにもほどがあるな。

亜人が通貨をあまり使わないことを見て吹っ掛けてきているのかもしれない。


「馬鹿にしてるんですか?」


「馬鹿に....、何を言っているんだい?わしは妥当な金額を提示しているつもりなんじゃが...。」


 思わずため息が漏れる。

亜人を馬鹿にしてか知らないが、いくら何でもこれを金貨一枚で買うという者がいる方が信じられない。

騙すなら騙すで、もっと良い方法がいくらでもあるだろうに....。


 しかし、思いもよらないことにあきれた様子をしているのは老人の方であった。

その目は、まるで無知な者を見るような....そんな目である。


「全く....近頃の者たちは物を見る目が無さすぎる...。物の表面だけを見て内面までは一切考えない。他の露店で売っているものなんてまさにそうじゃろう。見た目ばかり着飾っているだけのガラクタばかりさ。」


 老人は人だかりのできている方向を見ながら、うんざりしたような様子で話している。


「あんたも亜人というからには、人間とは少しは見る目が違うとは思ったんじゃが....。

あぁ....もう行っていいわい、どうせこんなガラクタには用はないだろうよ。」


 そう老人は言い捨てると、しっしという様子で私に向かって手を振ってくる。

言われなくともそのつもりであった。

 なんて態度の悪い老人なのやら。そちらから話しかけておいてこの扱いとは....。

私もそれに応えるように老人に背を向けて再び通りを歩きだそうとする。


「珍しくわしの物を分かってくれる者に出会えたのじゃが....。12,3くらいか....。あんなお嬢ちゃんにも分かるというのに....。」


 その言葉を聞いて、思わず足が止まる。

12,3....というと、ちょうど彼女の見た目と合致する。彼女である確信など一切無かったのだが、だめもとで再び老人の方に向かう。


「その人はどんな様子でしたか!」


「なんじゃ、突然....。様子も何も....黒いローブで全身を覆ってたからよく分からんよ。顔を見てかろうじてお嬢ちゃんだと分かっただけじゃのに...。」


「それで....どこに行ったのかは!?」


「なんじゃい....突然しつこいのう...。魔鉱石を売りたいと言っとったから知り合いの魔石店を教えてあげたわい。場所は....ここからまっすぐ行ったところの....って最後まで聞かんかい!」




 私は大まかな場所を聞くとすぐに駆けだした。

一時間近く立っているとはいえ、まだそんなに遠くは言っていないはずである。

魔石店....見たことがある。まっすぐ行って...どこだったか。

 昔一度ここに来た時に目に入ったのだ。

人間の間では魔力系統の物は貴重なものとされる。魔石とはその名の通り、魔力を持った石のことだ。

魔鉱石よりもさらに貴重であり、その数も少ない。そんなものを売っているという場所がそこら中にあるわけはない。


 急がなくては...。

私の中にはいくつかの不安がある。別に私がいなくとも、彼女は一人でもおそらくは何の問題もないと思われる。大した根拠もないが、それだけはなんとなく確信できる。

 しかし、それを置いても私はどうしても安心ができない理由がある。それはここに来るまでの道中、彼女を見ていて気付いたことだ。彼女の様子が初めに出会った時と若干ではあるが違って見えたのだ。

 そして、その違いは人間の国に着いた時からさらに大きくなっていた。もしかすると、村長が心配していたことが現実になってしまうかもしれない。


 いくつもの不安を胸に秘めながら、私は足を速めた。

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