人間の国
「随分と大きな門ですね...。」
私はヴェルドに尋ねる。
本当にとんでもない大きさの建物だ。今まで洞窟だの、森だの、自然の光景しか見たことがなかった私にはとても新鮮な光景である。
考えてみれば、これほどの規模の人工物を見るのは初めてかもしれない。
「セリオン王国は王都に唯一隣接する国ですから。世界中から商人や冒険者が集まることもあって、それなりの規模があります。」
なるほど....。
ヴェルドから少し聞いてはいたが、実際に見てみるとこの国の存在の重要性が伺えるな...。
そのうえ、確か亜人が国で保護されている唯一の国でもあったか....
どうしてこの国だけ、そんなことを始めたのかは謎だが....結果的に私が狼人を通して人間の国に来ることが出来たのだからよしとしよう。
ところで、少し気になる言葉があったのだが....。
冒険者?なんだそれは?
「あぁ...。ええとですね。簡単に言うと、魔物を倒してその魔物の素材を売る、または依頼などを受けてその報酬で生活をしている人間のことですね。依頼というのは、主に商人の護衛などでしょうか。」
護衛....そういえば、平原で見かけた人間の中にそれらしきものを見かけたな。
魔物を倒して...というと、それなりに戦えるということだから...おそらく防具を身に着けていた二人だろう。
しかし、そうはいってもとてもあの二人では魔物を倒せるようには思えなかったのだが。
魔力もせいぜい森の、魔力を持った草程度しかないようだったし...。
そうこうしていると、門の前の様子がはっきりと見え始める。多くの人間が列を成している。
一体何をしているのやら....。
「人間の国に入るには、ああいった検問所を通る必要があるんです。危険人物や魔物を中に入れないためですね。」
なるほど....確かにそういうことも当然必要だろう。
って....私、その魔物に一応入るのでは?
というよりも吸血鬼なんですが...。
余裕で人間の天敵なんだが...。
ヴェルドはそんなことまるで気にしていないように列に並び始める。
この状況....わかってる?
一体どうするつもりなのやら....。
あれこれ考えていると、ヴェルドが話しかけてくる。
「検問に関しては問題ありません。見ていれば分かります。」
見ていれば分かる...か。
そこまで言うのだから問題はないのだろう。実際にヴェルドは何度かここに来たことがあるようだし。
それから数十分....
かなり長い列だったのだが、案外早く私たちの順番が回ってきた。
門の前には何人か防具を着た兵士が立っている。
「さて....次は....!?」
兵士の一人がヴェルドを見て、驚いた顔をする。
「亜人だと....。貴様、この国で何をしようと企んでいる!!」
「いや....私は...。」
完全に戦闘態勢に入っている兵士に対して、どうやらヴェルドは想定外だったらしい。
にしても、この国は亜人が一応保護されていると言っていたのだが....どういうことだ。
そうして戸惑うヴェルドに槍を突き出す兵士。
するともう一人の兵士がその様子を見てこちらにやってくる。
「おい!!何をしてる!?」
やってきたもう一人の兵士が怒鳴る。
発生したいざこざに向けて怒鳴っていると思ったのだが、どうやら向けられていたのはヴェルドにいちゃもんをつけた兵士だけらしい。
「え?....何って、悪さを働こうとしている亜人をちょうど捕えようとしていたところですが...。」
「馬鹿者!!そんな言いがかりをつけてどうする!?この国の方針を忘れたのか!?」
「....しかし!」
「お前は少し向こうに行っていろ!!」
そう言われた兵士は、何とも納得できない様子で一旦その場を去っていった。
私の後ろではトラブルを聞きつけた人間たちが、何が起こったのかとこちらを見つめてきている。
「悪かったな。あいつはまだここの兵士になって日が浅いんだ。」
そう話す兵士は、先ほどの兵士に比べるとかなり年がいっているようで、兜の中から覗く顔からその年齢を予測できる。
「いえ。こっちに来たときは時々あることですから。それにしても検問所で突っかかれたのは初めてですが...。」
「近頃は他の国で亜人の弾圧が進んでいるらしくてね、あんたも気を付けな。それで....あんた一人かい?」
「いえ、彼女と私の二人です。」
ヴェルドはそう言うと、私の方へ目を向ける。
「そうかい。見たところ...あんたとそこのお嬢ちゃんは別種族のようだが....まあ、大したことでもないか。ここに来る亜人も時々別々の種族ってこともあるしな。」
兵士にしては随分と馴れ馴れしいな。
とはいえ、先ほどの様子を見た限り、亜人が国で認められているとはいえやはり疎まれているのは確かだろう。
そう考えるとまだよい方か....。
「まあいいだろう。通っていいぞ。」
ん?
なんだ、随分と軽いな。
いくら何でも雑すぎないか?
「わざわざ亜人の保護されている国に行って、問題を起こす亜人はいませんよ。」
門を潜り抜ける最中、ヴェルドが教えてくれた。
「どうして私が亜人かどうか確認をしなかったのですか?」
それが一番疑問だ。
それに吸血鬼だとばれないかが一番心配だった。
ちなみに、もしばれたときはその場にいる人間を全員消してしまうつもりだった。もちろんヴェルドも一緒にだ。
そのあとヴェルドが捕まったりして、私の情報がばれると困る。
「亜人と一緒にいる人間なんていませんよ....。」
まあそうなるか。
亜人とわざわざ一緒にいる人間なんているわけがないから、こうして問題なく通ることが出来たというわけだ。
それを話した時の、ヴェルドは少し悲しそうであったが....まあ気のせいだろう。
さて....長かったがようやく人間の国だ。
まずは、吸血鬼について調べられるところを探さなければ....。




