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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人ならざる者
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とある男の企み

あぁ!じれったい!!


暗闇の中、私は強くそう感じた。

というのも、あのヴェルド。何をするにもはっきりしない。

私に気を遣っているのだろうが限度がある。何を考えているのかさっぱりだ。

その原因は多くは私にあるわけだが...。


ともかくそういうわけで、明らかに疲れている様子で、今後に支障が出ても困るので無理やりにでも休ませることにしたのだ。

わざわざ私から言ってやっているというのに...。


は?

問題ないって?

そんなに私に気を遣っているならおとなしく従えよ!!


ピシッ!


ふと耳に入る音。

そして目に入るのは私の手の周りの岩肌に広がる巨大なひび。


それを見て私はすぐに手を離した。

どうやら無意識のうちに手に力が入ってしまっていたようだ。

そして私は我に返る。

どうしてこんなに腹が立っていたのか...。

別にこんなことを私がいちいち気にかける必要はないのだ。


「はぁ...。」


小さなため息が漏れる。

記憶がない以上分からないことだらけだが、時々今の自分でさえ分からなくなることがある。


初めに感じたのは、初めて目覚めた時。

目の前の小さな生き物を見た瞬間、自分でもよく分からない感情がこみ上げるあの感覚。

今でこそその感情をこみ上げることはなくなったが、次いつあれに襲われるか分からない。


そう考えると恐ろしくなってきた。

何か他の存在が自分の中にいて、それに支配されてしまうような気がしたからだ。


それにしても...体が重い。

考えてみれば、私は森にいる間、一度も眠るということをしていない。

疲れるということを感じたことがなかったからだ。

しかし、大規模魔法を使い、竜と戦って魔力を半分以上消費した今、猛烈な眠気に襲われる。

魔力が生き物にとって重要なものということは考えていたが...おそらくこれも魔力が大きく減ったことが原因だろう。


猛烈な眠気に特に抗おうともせず、私はそれからすぐに意識を手放した。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





あれからしばらく時間がたった...。

一時間ほどか...私は上を見上げ空を見つめていた。


周囲に気配は感じない。

このまま眠ってしまっても襲われるということはまずないだろう。

この草原では、ほとんどの魔物たちは夜は活動しない。一部、夜行性の者もいるが、大多数は前者だ。

にもかかわらず、私は眠ることが出来なかった。


やはり安心できないのだ。

すぐ近くから感じる強大な存在。私の本能はすぐにでも逃げるように言う。

しかし当然のことながらそれはできない。


ふとあることに気づいた。

魔力の流れが弱まっている。

確かに今朝も彼女の魔力は、初めて出会った時の半分程度になっていたが今はもっと小さい。

一体何があったのか...

彼女の方を向くが、お互い岩の反対側に座っているためよく見えない。

なので、私はゆっくりと立ち上がり、恐る恐る彼女の方へと歩いていく...。


だんだんとその姿が見え始める。

暗闇でよく見えないが、うっすら見える銀色の髪がその存在感を示している。

彼女は初めと何ら変わらず、座り込んでいた。

一つ違いを挙げるとすれば、その顔の二つの目が閉じられていたことだ。


そう、彼女は眠っている。

その証拠に、私が目の前に立っているのにもかかわらず何も反応がない。


いつにない無防備な姿。

こうしてみるとただの少女にしか見えない。もしも今、この少女が強大な魔力を持った吸血鬼(ヴァンパイア)だと言っても誰も信じないだろう。


私はなんとなくほっとした。

その私の感情を否定するかのように私の目に二つの赤い光が入る。

それは目だった。

暗闇に完全に紛れ込んだその体に、二枚の羽。

その姿を見て、私はそれが何かがすぐに分かった。


蝙蝠である。


それもただの蝙蝠ではない。

生き物の血を吸って生きるという吸血蝙蝠である。

一匹であれば大した脅威ではないが、群れをなした吸血蝙蝠は、竜の血でさえ吸いつくすとも言われている。


話は聞いたことがある。

吸血鬼(ヴァンパイア)は体の中に、無数の吸血蝙蝠を従えているという。

となると...この蝙蝠は自分の主に危険が及ばないように監視しているということか。


蝙蝠の赤い目がこちらを睨む。私は思わず体を後ろに引いてしまった。

その存在が、私がいつでも監視されている感覚をより強くした。

安全は保障されている...と思っていたが、下手な動きをすれば容赦はしないということか。


体に重く疲労感が押し寄せる...。

それは体の疲労だけではない。精神的にもすでに限界が来ている。


「ひとまず...今は体を休めないとな...。」


私は先ほどまで自分のいた場所に戻ろうとする...


それと同時だった...

何かの気配を感じたのは。


かなり遠くではあるが、いくつか固まっているものの気配が感じられる。

大きな魔力の動きも感じられないため、魔物ではないだろう。

となれば...人間か...。


その気配は間違いなくこちらへ向かってきている。

そして、それはやがて感じられるものだけのものでは無くなった。

混沌と広がる闇の中にぼんやりと見える光の点。それは、松明というには弱すぎる小さい光である。

それを見て、私の中にひとつの不安がよぎる。

そもそも、こんな暗闇の中で行動しようなどと...普通は考えないのだ。

この平原を通る人間といえば、人間の国へ向かう商人や冒険者である。

そういった者たちは、夜は危険だということを認知しており、夜間は動くことはない。

もしも移動する者がいても、松明くらいは持つだろう。


わざわざ危険な夜の平原をろくな光もなしで進まなくてはならない、というのはまともな者たちではないということに他ならない。

例を挙げるとすれば...商人たちを主に襲う盗賊、奴隷や人身売買目当ての人さらい...といったところか。


無論、そこには私のような亜人も含まれている。

これは亜人と人間が対立している大きな要因だ。

私が、わざわざ松明も持たずに来ているもう一つの理由がこれである。

亜人は奴隷として重宝されているため、もしも気づかれれば亜人である私を決して逃がしはしないだろう。



今、私たちが向かっている人間の国...セリオン王国は前も言った通り、人間の国としては数少ない亜人を認めている国である。


しかし、実際にそこに住んでいる亜人は一人もいない。


亜人は皆、狼人(ウェアウルフ)と同様に集落のような、小さな集団で暮らしている。

自給自足のため、毎日決まった量の食事がとれるとは限らない。狩りによって命を落とすものも多くない。


そういったことを考えれば、王国の方が暮らしやすいことは明らかなのだが...。

今の現状を見れば、わかることだ。


私も何度か王国へ行ったことはあるが、とても安心できる場所ではなかった。

極力亜人であることは気づかれないようにしていたが、それでも気づかれてしまうこともある。

人間たちの亜人に対する考えはそこでも変わらないのだ。



私は息をひそめ、その小さな光が私たちの前方を通り過ぎていくのを眺めていた。

特に気づかれることもなく今回は済んだらしい。

もしも気付かれたとしても、ある程度の相手であれば私でも十分に戦える。

亜人と人間とでは身体能力に差があるのだ。


とはいえ、わざわざ面倒に巻き込まれる必要はない。


私は、元の場所に戻ると、岩に寄りかかるような形で座り込み、そして目を閉じた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





セリオン王国のある屋敷にて...。


「一体いつになったら奴は帰ってくるのだ!」


屋敷の部屋の一角、シャンデリアの光が豪華に飾られた部屋を照らす中、まんまると太った男が怒鳴っていた。


「確かに向かっていくところは確認しました。もう十分帰ってきても良い時間なのですが...。」


「くそっ!長い時間をかけてようやく見つけた金のなる木だというのに...。」


「金のなる木...と言いますと?」


「亜人...二匹、それに片方は子供だ。先日やっとの事で情報を掴んだのだ。亜人は売れば大きな金になる。せっかく高い金をかけて奴を雇ったのに!」


「....もしや、その雇ったというのは。」


「ああ。そういうこと専門の組織から雇った。任せれば仕事は完璧だと聞いていたが...このザマか...。」


「亜人の売買...王国にバレたらただでは...。」


「とにかく!お前は奴ともう一度連絡を取ってこい!」


「はいぃ!只今!!」


男がそう言うと、従者の男は勢いよく部屋から飛び出していった。


「....どいつもこいつも....」


全く王国も馬鹿なことを言う。亜人を認める?あんな獣共なんぞこき使ってやるのが一番だろうに。


何より憎らしいのがあの馬鹿な王だ。

奴隷の解放だとか貧民層への援助だとか、つまらない考えのせいで俺みたいな選ばれた貴族は迷惑だ。


男はしばらくイラついた様子だったが、やがてニヤリと笑う。


「だがそれもしばらくの辛抱だ。これで膨大な金を手に入れた後に、すぐに馬鹿な王派閥を潰してやる。」


すでに半分以上の貴族には息を吹きかけてある。

王の考えに反対する貴族は多いからな。

邪魔な王を片付けた後は俺の派閥の天下だ。


「最終的には俺が王になるのも夢じゃないな...。

そしたらまずは邪魔な愚民共には消えてもらうかな。」


光り輝くシャンデリアの下、一人の男の笑い声が夜の屋敷を包んだのだった。

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