クレイブの考察
「おう!リオル!久しぶりだな!」
そうジオンはギルドマスター、リオルに向けて言う。
「今はその呼び方はやめてくれ。一応ここのギルドマスターなんでね。」
「...それもそうだな。」
そのやり取りを聞いてディーンはトムに尋ねる。
「この二人は知り合いだったのか?」
「ああ。聞くところによると、ギルドマスターはジオンさんが冒険者になったばかりの時の同期だったらしい。」
「なるほど...そういうことか。」
ギルドマスターが冒険者だった...という話は珍しくはない。
冒険者への手助けを仕事とする冒険者組合、そのまとめ役のギルドマスターは、何より冒険者のことをよく知っているであろう元冒険者がなることも多いのだ。
多くは先代のギルドマスターにより認められたものがなる。しかし、より上を目指す傾向にある冒険者の中でもギルドマスターに認められるような冒険者はよりその傾向がみられるために、ギルドマスターが存在しない冒険者組合も少なくない。
そうして、二人はかなり仲よさそうに話を続ける。
その様子を若干、苛立った様子でクレイブが見ながら言った。
「あまり時間をかけさせないでくれますか?ギルドマスター。
私たちにはあまり時間がない。要件は手短に...。」
「まあそういうなよクレイブ。久しぶりに会ったんだ...積もる話もあるだろうに。」
「私はそんなことをする必要は感じませんね、ジオン。私たちが現在進めている依頼はかなり重要なものです。こんな場所で道草をくっている時間はないのです。」
クレイブがそう言い放つとジオンとクレイブはお互いにらみ合う。
「確かにあなたの言う通りだ。金級冒険者であり、多忙なあなたたちを呼びつけたのは謝罪する。しかしこれはあなたたち金級冒険者の力が必要となる問題なのだ。」
「話は少し聞いているがな...。どうやら今回の魔力風は規模がかなりでかいらしいな。」
「ああ。場合によっては強力な魔物の可能性もある。」
そうリオルが言うと、クレイブは少し興味を持った顔でリオルの方を見る。
「その強力な魔物とは?」
「それはまだはっきりとは...」
「吸血鬼だよ!ジオンさん!」
そうトムが言うと一斉に五人がトムの方を向く。
「やっぱりお前だったのか、トム。お前が嘘をついているとは思わないが...吸血鬼がピロー大森林にいるはずがないだろう。」
リオルは呆れたような口調で言う。
「おいおい、お前まさかそれで騒いでたってわけか?どうせ何か見間違えたとかじゃ...」
「そんなことはないです!!あれは...確かに..吸血鬼でした...。」
レナがジオンに被せるように言い張る。
その様子を一人....
興味津々な様子の男がいた。
「なるほど...吸血鬼ですか...。それはかなり興味深い...。」
そう眼鏡の奥の瞳を光らせて言うのは、クレイブである。
「興味深いって...一体何がだ...?」
「吸血鬼...確かに過去一度たりともそれがこの付近に現れたことはありません。ですが、それにとてもよく似た存在であれば一度だけあります。」
「似た...存在...?」
クレイブの言葉に興味をそそられたレナはじっと、彼を見つめている。
「吸血鬼に似た魔物なんて見たことがないがな...一体何だそれは?」
「....悪魔ですよ。」
そうクレイブが言うと、五人は静かになる。
それは驚き...というよりも、何を言っているんだ...という具合であろう。
「まあ、悪魔は魔法による召喚で現れるものだからどこに現れても不思議ではないが...。」
「おいおい。悪魔ってのはそもそもみんな黒いでかい怪物みたいなやつらだろう。人型の吸血鬼とは似ても似つかないだろう。」
リオルとジオンは疑問ありげな顔でそう話す。
「確かに、悪魔は巨大な怪物の外見...吸血鬼とは似ても似つかない...。それは下位の悪魔であれば...の話です。」
その言葉は、五人の興味を完全にクレイブへと移すものとなった。
「中位の悪魔の一部...および上位の悪魔であれば、その姿を人型に模している者がいるそうです。そしてその人型の悪魔が現れたことがこの付近では過去に一度だけありますね...?」
そうクレイブは問いかける。
「中位の悪魔の出現...。たしかそんなことが先代のギルドマスターの時にあったと聞いたことがある...。」
そうリオルが言うと、クレイブが続ける。
「人間が呼び出せる悪魔は中位の悪魔が限界だと言われています。もし、今回の森の異変の正体が悪魔だとすれば、そんなところでしょう。もちろん、ただいつもより規模の大きい魔力風だったという可能性も十分にありますが。」
「だが、中位の悪魔となれば俺たちだけでどうにかできる相手じゃあないぞ?」
「だから、今回はあくまで調査。もしそれが強力な魔物の仕業だったと分かれば、近いうちに本格的な討伐の計画を....。それでいいですね?ギルドマスター?」
「ああ、もちろんだ。もともと今回の主旨はそういうことだったからな。」
「では、出発はいつに?」
「明日の朝には出た方がいいな。できれば夜になる前に帰りたいからな。そういうことでいいか、リオル?」
「それもそうだな。ジオン、頼んだぞ。」
そうリオルがジオンに言うと、三人は別れる。
「なんか...途中から俺たち、完全に蚊帳の外じゃないか?」
ディーンがふと気がづいたように言う。
「お~い!ジオンさん!あれはやっぱり吸血鬼に違いないからな!」
「おう!トム!次会うときまでにもう少し嘘はうまくなっておけよ!!」
ジオンはそう言うと、クレイブとともに冒険者組合を後にする。
「もうこの話は忘れよう...。俺たちの出る幕じゃなさそうだ...。
そういえばレナ。お前新しい魔法に魔草が必要だとか言っていたが...一体何に使うつもりだ。」
「うふふ。秘密~。」
「お前....。」
「冗談冗談。ディーンにもあとで教えてあげる。もちろんトムにも...。」
「ディーン!今から俺を笑ったやつをぶん殴りに行くぞ!
お前も来い!」
「.....」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルステン地域、アルジオ平原にある狼人の集落...。
何日にも渡り続いた長老ウバラの葬式も終わり、ヴェルドは人間の国に行く準備を終える。
「荷物はこんなものか...。」
そういって準備された荷物は大した量ではない。森へ行ったときと比べれば、半分ほどである。
というのも、この集落から最も近い人間の国であるセリオン王国へは、近いとはいえ歩いて1週間はかかる。
森へは1日以内には着くことが出来ることを考えると、かなり遠い...。
かなりの距離を移動することも考えて、荷物は減らしておきたいところなのだ。
最も重要なものはお金である。
人間は、銅貨、銀貨、金貨といった通貨を使用しているが、亜人は通貨は使用していない。
基本的に自給自足のため必要ないのだ。
そのため、今回人間の国に行くにあたっては、無論通貨が必要になるのだが亜人である私にはそんなに多くのお金はない。せいぜい1日滞在できるかどうかといったところだろう。
何日滞在するかが分からないため、数日分は欲しいところではあるがこれが限界なのである。
何とかする必要がある。
今日は約束の人間の国へ出発する日である。
まだ日は完全に昇っておらず、うっすらと暗闇が残っている。
そんな中、私は集落を出て草原を歩いていく。
しばらく歩いていると、花畑が見え始める。
単調だった景色は変わり、地形に高低差が現れる。
緑が見えるだけであった草原の地面にはちらほら木が生えている。
何より特徴的なのは、前方に見える巨大な崖だろう。
アルジオ平原は、基本的に草原が無限に広がる単調な場所なのだが、集落を境としてこの異質な景色が広がっている。
集落の者であれば、この景色はさほど不思議なものではないのだが外の者からすればかなり異質だろう。
もちろん、私にとってもこれはいつもの景色である。
ただ...いつもと違う点を挙げるとすれば、周囲の木々が異常なほどの魔力を帯びていることだろうか。
魔草はもちろんのことながら、森でもなかなか見かけることのできないような光る木...魔樹も見かけられるのだ。
この異常な光景に、私は大して驚きはしない。
何しろ原因は分かっている。
花畑を進み、小さな湖が見えてくる。
その湖の脇にたたずむ一本の木、そこにその原因である影が見え始めるのだった...。




