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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人ならざる者
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森の戦慄

 森に入って暫く……感じたことがいくつかある。


 まず、魔力濃度が異常に高いのだ。その証拠として入って間もないのにも関わらず魔草をいくつか見つけることができた。

 現在、集落全員で病気に苦しんでいる者ものを救うのであれば、10本は必要。それに加えて、今後のことも考えれば、倍の20本あることが望ましい。


 これまでの経験から魔草を得ることの難しさを考えれば、10本とれるかどうかとも思っていたが……この調子であれば、数日で集め終わることができるだろう。しかし同時に懸念もある。これだけ魔力濃度が高いというのは、単に魔力風の影響……とは思えない。


 ウバラ様が言っていたように、今回はただの魔力風ではない。何か強大な存在が現れた……というのは本当だったのかもしれない。森の奥に行けば、もっと多くの魔草を集めることができるだろうが、このこともあるため……それは避けたい。


「ヴォン。あまり奥に行くと強力な魔物が現れるかもしれない……。」


「分かった!父ちゃん!」


 私の呼びかけに対し、ヴォンは元気よく答えた。まだ余裕がありそうだ。しかし、これで安心できるわけではない。たとえ、これ以上奥に行かないつもりである……としても森の魔物はおそらくは殆どが私よりも強いものばかり……ヴォンを守りながら戦うのは厳しいだろう。逃げることが最優先だ。


 私の前を周囲を警戒しながらもまだまだ余裕がある……といった表情で歩いていくヴォンの姿を視界に入れながら、私たちは森の中を進んで行った。








 数時間後……


 すでに日は落ち始めていた。幸運なことに、今のところ魔物とは一度も遭遇していない。その上、今日の間だけで目的の20本の半分の10本を取り終えてしまった。この調子なら、明日には20本集まりそうだ。

 しかし、問題はここからである。夜が更け、魔物の動きは基本的に昼間ほど活発でなくなるのだが……一部の夜行性である魔物は活発に動き始めるのだ。その中には、昼間には出くわさないような強力な魔物も存在する。


 そんな魔物から身を守る方法……できるだけ身動きを取らないことだ。魔物を始めとした魔力を持った生き物は、魔力ととても関わりが深い。魔力を用いて相手の居場所を探ることもできる。特に視界の閉ざされた夜間に動き回るような魔物はその傾向が強い。

 だからこそ……できるだけ動かず……自身の気配を断つことが大切だ。昼間行動をする魔物たちもその点から夜行動することは控えているのだろう。


 夜も少しも気を抜くわけにはいかない。



 私とヴォンは、土や木の葉っぱを布団のようにして体を休める。魔力を目印に周囲を探る魔物からすれば意味がないかもしれないが、多少は見つかりにくくなる。

 周囲に魔物がいないことを確認すると、私は目を閉じた……






 ふと私は妙な気配を感知し、閉じていた瞼を上げた。というのも、魔力の大きな流れを感じたからである。

 狼人(ウェアウルフ)は非常に感覚器官に優れた種族だ。匂いや音で敵を察知できるのはもちろんのこと、魔力などによる敵の把握もできるのである。そして感じた魔力の流れ、それはみるみるこちらへと近づいてくる。



 研ぎ澄まされる感覚……嫌な汗が額を流れる。



 そして……それは通り過ぎていった。どうやらこちらには気づいていないようだった。何事もなかったかのように静まり返った辺りの気配……完全に安心はできないのだが、ひとまずほっとした私は再び目を閉じるのであった。








 次の日……


 私たちは再び魔草の採取を始める。昨日かなりの量をとったためか、すでに周囲には魔草は見つからなかった。


「この辺りにはもうないみたいだよ、父ちゃん。」


「今日中には20本見つかると思ったんだがな……そう簡単にはいかないみたいだ。」


 私は深いため息を吐いた。森を歩き回る時間が長ければ長いほど、魔物に遭遇する確率も上がる。一刻も早く集め終わらなければならない……。


 もしくは、もう引き上げるべきか?


 魔草が10本と少し。目標の数には届かないが、かなり多くの薬が作れるはずだ。ここで魔物にやられでもして、一本も持ち帰れないよりかはよっぽどましだ。



 だがここまで来て目的半ばで帰るのは違う。森の魔力がいつまでもこうして充実しているわけはない。こんなチャンスは当分訪れないだろうし、ヴォンも納得はしないだろう。

 それに、魔物とはなぜだか分からないが全く遭遇をしない。本当に今がチャンスなのだ。何としてでも今日中に魔草を取り終えなければならない。


 となれば……方法は一つ。



「ヴォン……。ちょっと森の奥に進んでみるか?」


 そう私はヴォンに問いかけた。


「え?……でも父ちゃん!それは強い魔物がいるかもしれないからダメだって……。」


 当然の返答である。私自身が森の奥には行くなといったのにもかかわらず、今は進んで行こうなどと言っているのだから。


 森の奥には進まずに、このまま森の浅い場所を周るようにして魔草を探す……という手もある。しかし、不思議なことに森の魔力はほんの一部の範囲にのみ多く広がっている。

 通常、魔力風というのは森全体を包み込むようにして多くの魔力をもたらすものだ。しかし、今回は明らかに様子が違う。ますます魔力風ではない可能性が強くなってしまった。


 そして、魔力がより強く感じられるのは……ここより森の奥に向けてだ……。


 安全に行くべきとも思うが、森にこれ以上長くいる方がよっぽど危険だ。この森にいる以上、必ず安全などという保障はない。ここは少し危険を冒してでも、早く戻ることを目指すべきだろう。


「そうなんだが……どうやらこの周囲にはもう魔草はないみたいだ。魔物も今はいないわけだし、大丈夫だろう。」


「そうなの?」


 魔物がいない……それはあり得なくもない話ではあるが、それにはこういった考えができる。



【この周辺に魔物がいないのは、森の奥に集中して集まっているからである。】



 だがそれはあえてヴォンには言わなかった。余計なことを言って不安にはさせたくはないのだ。そうして私たちは森の奥へと進んで行ってしまった。

 今考えれば、やはり安全策を取るべきであった。森に存在するかもしれない……()()()()()、というものを、私は甘く見ていたのかもしれない……








「父ちゃん!また魔草だよ!」


 そういってヴォンは魔草を取り、それを受け取った私が背中の革袋に入れる。望みの魔草が次々と見つかることもあって、ヴォンの顔は生き生きとしていた。私も一安心……といったところだ。



 思っていた通り、森の奥には大量の魔草が生えていた。それどころか、ところどころ魔鉱石も生えている。

 ()()()とは、普通の石や鉱石が魔力を吸収し変化したものである。最も大きな特徴は、それらの放つ青白い光である。そして質が高いものであればあるほど、その見た目は透き通ったようになり、その魔鉱石が長い年月をかけて魔力を安定化したものはさらに、()()()と呼ばれるようになる。


 そういった魔鉱石や魔晶石は、質を始めとした様々な違いから、ミスリルやアダマンタイトというように区別され、強力な武具に用いられるのだ。非常に貴重なものであり、生きていくのにやっとな、我々亜人には関係のないことだと思っていたのだが……


 私は魔鉱石のいくつか地面ごと掘り出し、革袋に入れる。これだけの貴重なものを取らないわけにはいかない。これを用いて生活を豊かにすることもできるし、魔鉱石は人間の間でも貴重だ。人間の国で高価で売ることもできる。



 私は夢中になりすぎていたのかもしれない……


 予想以上の収穫に加え、魔鉱石という存在……。


 すでに魔草は目標の数に達しており、そのうえ魔鉱石まで手に入れた。にもかかわらず、私はまだ森の奥へと踏み込んでいってしまう。


「父ちゃん!」


 ヴォンの声に、私は我に返った。ずんずんと森の奥へ進んで行ってしまう私の背中を心配そうな表情で見つめているヴォンの姿がそこにはあった。


 そう……自分はすぐにでも集落に戻らなければならない。日はすでに正午を回っている。いまからでも十分に……今日中に集落に戻れる。


「ああ、わかった。すぐに森を出よ……」


 私が言い終わるよりも前に……


 背後からとてつもない魔力の流れを感じた。


 魔力を持っている生き物が周囲に魔力を放出することで巻き起こる魔力の流れ……。自然にしていてもそれは起きるもので、我々狼人(ウェアウルフ)のように感覚器官に優れたものはそれを利用して相手の位置を探る。


 通常……それは穏やかな風、といった印象だが。



 それはもはや風というものではなかった。


 



 暴風……。


 そう言い表すのが自然である。


「うわ!?父ちゃん……!すごい風だね……」


 ヴォンは近くの木に捕まりながらそう言う。私はすさまじい魔力の暴風に話すことさえできないのに、なぜヴォンはこんなにも余裕があるのか。


 無理もない……。

 ヴォンはまだ魔力をろくに感じ取ることができないのだ。そんなヴォンですら()()()として感じられるほどの魔力の流れ……。

 ある意味幸運である。今私が感じている魔力は、明らかにヴォンが耐えられるものではない。


「ヴォン!今すぐ森の外に出るぞ!」


 私はヴォンに向かって叫ぶと、手を引いて全力で走り出す。


「父ちゃん……一体どうしたっての……さ……」


 ヴォンはどうして……という様子だったが、私のただならぬ様子に、ヴォンも周りの異変に気付く。先ほどまでただの草であったはずのものが、みるみると魔草へと変化していくのだから。


 それは本来喜ばしいことだろう。あれだけ集落で必要としていたものがこんなにもあるのだから。しかし、私はそれに目もくれなかった。


 逃げなければ……。


 ほんの一分ほどのことであったが、私には永遠に感じられる。後ろから吹いてくる、その恐ろしい暴風が、異常な気配が迫っていることを私の本能に伝え続けていた。


 それも長くは続かなかった。しばらくすると魔力の暴風が収まり、まるで何事もなかったかのように森は静まり返ってしまった。


 私はうしろを振り返った。暴風にさらされ枝や葉がすっかり吹き飛ばされてしまった木々……それに無数の魔草が、先ほどの出来事を鮮明に私に思い出させるのであった。








 目線の先に平原が広がり始める……森を抜けたのだ。


 すでに日はほとんど落ちており、本来であれば危険な夜に出歩くのは危険なのだが、私は今すぐにでも森を離れたかったのだ。先ほどの巨大な魔力の主がいつ現れるのかも分からない。


「父ちゃん、もうすっかり夜だよ。」


 こう私を呼ぶのは、私の息子であるヴォンである。夜の平原は、日が完全に落ちれば何も見えなくなってしまうのだが幸い私は魔草という光るものを持っている。

 松明などに比べれば、大したことはないのだが、それでも十分周囲が見渡せる。集落の近くまでなら道が続いているのだ。


 これは、人間たちが作ったもの……。国と国を行き交う人間たちにとって、大切な目印となるものだ。私たち亜人は人間たちから離れるようにして集落を作っており、まだ人間たちには見つかってはいない。しばらくこの道を沿うようにして歩いていくが、やがてこの道からは外れるつもりだ。



 思えば今回の旅はいろいろなことがあった。魔物には結局一度も遭遇することはなく、恐ろしい目にはあったが二人とも欠けることなくここにいる。森の中では常に気を張っていたために、ほっと胸をなでおろす。


 思えばどうしてここで気を抜いてしまったのか。平原の夜には森とは違い、夜に行動をする魔物は存在しない。魔力の薄いこの平原では、魔物自体がそれほど多くはない。しかし我々亜人には、大きな敵がいるのだ。


 そう、人間という……


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