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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
砂漠に巣くう姫
117/131

冒険者と従者

 その朝、二人よりも一足早く目覚めたレナは、不安定な階段を下り一階へと向かう。昨夜の非礼を詫びるとともに、少しでも彼女との仲を深めたかったためだ。

 街道側の小さな窓から注がれるわずかな光が屋内を照らす。昨夜、部屋を包み込んでいたランタンは、今では灰が積もるばかりだ。背を向けていても窺える彼女の決して若いとも言えない年齢。レナは恐る恐る声を発した。

「お……おはようございます」

 返答はない。ただ、少し首が動いたような気がした。レナは眠っていたところを起こしてしまったのかもしれないと自分の行動を少し後悔した。

「あの……昨夜はごめんなさい。少し……話しすぎました」

 レナの言葉に彼女は黙ったまま振り向いた。その瞬間、レナは彼女の姿に異様な雰囲気を覚えた。彼女があまり饒舌でないことは理解しているが、それにしてもあまりに無口すぎる。視線もどこか焦点が合っていない。何しろ……

「嫌な魔力……」

 その瞬間、初老の彼女の体が大きく跳ねる。まるで糸で無理やり体を引かれた人形のように、到底人間らしくない動きでレナへ飛び掛かった。その手には……いつの間にか石材で作られた簡易的なナイフが握られていた。

「危っ……!」

 すんでのところでレナは刃先の軌道から逃れた。しかしすぐにも次の攻撃がやってくる。不自然に彼女の首が動いたと思うと、焦点のずれた視線を泳がせながら再びレナの体に刃物を突き立てようと襲い掛かってくる。

「あ……【雫の球(アクア・スフィア)】!」

 胸元に刃物が突き刺さろうという寸前で、レナの手元を中心に大量の水が出現する。それは流れる川のように軌道を描き、二人の間を流れ行く。まるで絡めとるように宙を流れる川の激流が彼女の手からナイフを奪い押し流していった。

「うぅ……! 制御が……!」

 唯一レナの想定外だったのは、流れ出る魔力が全く自分の操作を離れていたことだった。本来球体を形成するはずの激流はいつの間にか蛇のように屋内を駆け巡り、やがて四散する。魔法的な力を失った水は、屋根の内側から雨を降らす。

 刃を失った彼女はしばらくの間、目的を失ったように呆けていたが、すぐにレナに注意を向けなおした。今のたった二回の攻防でレナはかなり息を切らしているが、あれほど激しい動きを繰り返したはずの彼女は全く平気な様子だった。

「どうした……何か大きな音がしたように聞こえた……が」

「レナ……!」

 実際、すぐに状況を理解したトムが不思議なくらいだった。背後から素早く彼女を羽交い絞めにすると、トムは彼女の体を地面に押し倒した。まるで獣のようなうめき声をあげて彼女は暴れるが、トムの体を押し返すことはできない。トムは少し迷いを見せた後、勢いよく肘で彼女の後頭部を強打した。彼女の動きがそれで止まることはなかったが、いくらか鈍くなる。三人は彼女の手足を拘束すると、比較的床の柔らかい場所に彼女を転がした。

「ち……まったくなんだってんだ……」

「分からないよ、朝起きてきたらすでにこんな状態で……多分、魔法か何かだと思うけど」

「くそ……まだ肘が痛むぜ」

 三人は互いの情報を共有する。その間にも何か異様な空気が三人の間には流れていた。否、それは三人だけではない――この国全体にも及ぶものであり……

「トム、レナ、なんだか外が騒がしい」

「確かに……なんだか慌ただしい様子だな。祭りでもあるのか?」

「そんな感じではないだろう」

「……そうだな」


 一通りの身支度を終え、いまだ床に伏せる彼女に毛布をかけてやると三人は外に出た。街中は、一体どこから現れたのかと思えるほど人通りが増えていた。普段ならば少なからず目立つはずの三人の恰好に、皆見向きもしない。ただ一方向を目指して進むだけだ。

「これは……」

「いったい何が……」

「中にいた連中は無事なのか?」

 人込みが増えるほどに声が入り混じる。そのどれもが不安を伝搬させるような言葉ばかりだ。多少強引にも人込みをかき分けていく三人の心も次第にそのような感情が侵食してくる。

 やがて眼前に現れたのは屋根の大きくつぶれた建物の姿。二階建てで複数の部屋があるところを見ると宿かその類だろう。不幸にも……三人にはその宿()()に見覚えがあった。

「ティム……!」

 このような事態にも関わらず、状況を収めているのはたった数人の人間たち。平民たちの身に着けているようなありふれた服装ではないことから、何かしらの役職を持った者たちだろうが……それでもあまりに杜撰(ずさん)すぎる。それでもこの弱った国の民たちにとっては、どんな危険があるかも分からない建物内部に入ろうとするものはなかった。最初にトムが勢いよく駆け出した。

「あの、馬鹿……!」

「どいてディーン!」

 吹き飛ばさんばかりに駆け出したトムに向けてレナは短い詠唱を発する。少し不安定だが確かな軌道を描いて飛んで行った光がトムを包み込み……次いでディーンとレナ自身を包み込んだ。

「何をした?」

「隠匿魔法、少なくとも顔くらいは隠せるよ。姿までは……だけど」

「おい! お前たちどこに行く!」

「ごめんなさい!」

 人込みを収めていた二人の人物がレナのローブを掴まんとする寸前、宿の唯一の入り口を塞ぐように氷の壁が出現した。

「ぐあぁぁぁ!」

「大丈夫か……おい、お前ら!」

 不幸なことにも、そのうち一人の腕が氷の中に巻き込まれてしまったことにレナは気がつかなかった。




「お前……あんな魔法を使えたのか?」

「ただの【氷壁(アイス・ウォール)】だよ。ただ大量の魔力を込めれば形になる魔法は……ね」

 魔道具によって著しく魔力を引き出しやすくなっているレナにとって、繊細な魔力の捜査は難しいが、大量の魔力を利用した魔法は容易になっていた。

「なんだこれは……地獄みたいな景色だ……」

「ティム……は」

 トムの言葉が途切れる。初めて見る彼の表情。今まで命の危機に陥ることは何度かあった。しかし、身近な人間の死を体験したことはレナにはなかった。トムは……あったのだろうか。

 視線の先には見覚えのある長弓。かなり頑丈そうに見えたそれは無残にも砕け散り、わずかな断片がその面影を残している。焼け焦げたような匂いの立ち込めるこの場所に残された遺体は、もはや人の形を留めていないものがほとんどだった。

「……ちくしょう」

 レナはこの悲しみを共有できない深い苦しみを覚えた。冷淡なようだが……レナにとっては、ティムは知り合ったばかりの他人だった。今も背中を向けるトムに……どんな声を掛けたらよいのかわからない。

「トム……」

「あぁ、分かってる。魔物に殺されるならな。しかし……こんな意味の分からないことで、あいつが死んで……!」

「……ぁ」

 レナの苦悩も、ディーンの心配も、トムの悲嘆も……そのすべてがこの一瞬だけは衝撃に変わった。

「おい、レナ……何か言ったか?」

「私は、何も言ってない……よ?」

「ぁぅ……ま」

 もはや疑いようはなかった。掠れて今にも消えてしまいそうな声。それでありながら今もなお強い意志の感じられる声。固まった血液が床に薄膜を張る地獄のような光景。まるでゴミのように肉塊の散らばるこの空間で、色こそ黒ずんでいるものの、原型を留めている。純粋な深紅のオブジェが、まるで彼女を守るように覆いかぶさっている。

「その声……」

「もしかして、シャナク……さん?」

 三人の頭には悪い意味で彼女の声は印象深かった。どちらかというと白寄りだった彼女の肌は、黒い洋装と同化してしまうほどに今は黒ずんでおり、到底生きているとは思えなかった。しかし……確かに彼女は呼吸をしている。

「……なんであんたがここにいるかは分からないが……唯一の生き残りだ、レナ」

「うん……でも、どこが口なのか……」

「ぁく……ぁ……ま」

「そこが口らしい」

 意志を頼りにかろうじて動いている彼女の口を見つけ出し、レナは治癒ポーションを飲ませる。焼け焦げた匂いは彼女の体からも香る。レナはシャナクのこの状態がどのようなものなのか、なんとなく理解できた気がした。治癒ポーションの中身がシャナクの喉に流れ込んでしばらく、シャナクは激しく咳き込んだ。

「ひとまず仮宿に連れて帰る」

「……本当に? この傷では俺たちにできることはないぞ。専門家に任せるべきだろう」

「そんなことはどうでもいい」

 ディーンもレナも、一瞬トムが何を言っているのか理解できなかった。しかし、二人ともトムの隠されたもう一つの一面を見た気がした。

「正直この女がどうなろうと知ったことじゃない。しかし……こいつは情報を持っているはずだ。ティムを殺した奴のな」

「復讐などやめておけ。銅級冒険者にできることなど限られている」

「……そんなつもりはないさ。ただ……このまま何も知らずに終わりたくはない」

 ディーンもそう言われてしまっては返す言葉がない。何しろ決して理解できないはずがないからだ。彼の友人の死は……あまりに急すぎて謎すぎる。それでいて復讐を踏みとどまるだけの強さを見せたトムに二人が何を言う資格もない。

「第一、この国の現状でこいつの怪我をどうにかできる人間なんているのか? まだセリオン王国と連絡を取ったほうがましだ」

 トムは少し雑にシャナクの体を背負いあげると、入ってきた扉とは反対側を見る。そこには内から外の様子を見ることができる穴ぼこの壁が見える。少し衝撃を与えれば出口を作ることができるだろう。トムは友人の唯一の影である長弓の断片を見つめて……そのまま出口へと向かう。

「……トム」

「必要ない……あいつは決して自分の弓を手放すことはなかった 」


 外には表ほど人通りはなく、三人が話題の中心である宿の中から出てきたことに驚きはあれど、トムの背負うシャナクにまでは気づかなかったようだ。何しろ……遠くから見れば、人のようには思えない。

 三人の存在もあってか、その後、宿屋の調査が始まったという。





 アクセリア様とあの吸血鬼(ヴァンパイア)が対峙したところまでは覚えている。私の行動は何の意味もなかったのだ。それどころか、アクセリア様は自分の能力の一部を私の身を守るために使っていた。

 自分の短絡さにいくら後悔してもしきれない。

 私は……失敗ばかりだ……




「……アクセリア様!」

「へぇ、それがあのお嬢様の名前かい」

 溜息交じりの耳障りな声のした方向にシャナクは振り向く。その瞬間、彼女は自分が寝台に寝かされていたことに気づいた。

「名前一つ聞くのもお貴族様相手じゃ一苦労ってわけだ」

「……そのよく動く口を閉じたらどう?」

「命の恩人にその言い草はないんじゃないか? まぁ、俺はあんたの命を救うつもりなんてなかったが……」

 トムは語尾に恨み言を付け加える。シャナクもそれに応えるように何かを発しようとしたが……まるで全身の皮膚を引きちぎられるような激痛が走った。

「無理をしないでください……できる限りの処置はしましたが、到底十分とは言えません」

「そんなこと……私は……早くいかないと……」

 シャナクは寝台から起き上がろうとするが、レナが彼女の両手をつかんでそれを押しとどめた。もっとも、レナが止めなくともシャナクは寝台から出ることすら叶わなかっただろう。

「じっとしていてください。命を保っていることすら不思議なくらいでした。無理をすれば後遺症が残ります」

 実際、命に関しては杞憂だろう。シャナクは人間ではないうえに吸血鬼(ヴァンパイア)の眷属だ。全身が焼け焦げる程度で死にはしない。しかし……彼女の再生能力ならばとっくに歩けるようになっているはず。眷属は主の影響を強く受けるのだ。シャナクの焦燥が増幅していく。

「それで、あのアクセリア様はどうしたんだ? 姿が見えないようだが……」

「黙れ! あの方の名前を軽々しく呼ぶな!」

「そうは言うが、あんたは歩くこともままならないんだ。話次第では俺たちも協力できる」

 トムは冷たい調子で続ける。シャナクは頭の中がぐちゃぐちゃだった。焦りと怒りで正常な判断もままならなかったのだ。

「お嬢様は攫われでもしたか?」

「……!」

「別に不思議なことじゃないな。今のこの国はただですら治安が悪いんだ。見るからに金の匂いがする餌に飛びつく輩はいるさ。俺でもそうするさ、もし俺が悪党だったらな」

「トム……そんな言い方は……」

「ただの事実だ。それに……わかるな?」

 レナはトムの冷酷な顔を見て、先ほどのトムの言葉を思い出した。トムは何としてでも彼女から情報を聞き出すつもりなのだ。明らかに今のシャナクは冷静ではない。今ならば、容易に――

「で……でも。……んげん風情に……」

「それなら話は終わりだ。レナ、あとは任せた」

「え……と……トム?」

「待って!」

 トムが何の迷いもなく後ろ姿を見せた瞬間、シャナクの声が響いた。それは彼女らしからぬ調子のものだった。その瞬間――トムが今まで見せたことがないような冷徹な笑みを浮かべたのをレナは見た。



「なるほど、この国の治安の悪さの原因は盗賊団……その頭領のゴザックときたか」

「トム……知っているのか?」

「ああ、【砂漠の殺戮者】なんて趣味の悪い二つ名がある剣豪。金級冒険者にも匹敵する力を持っているという話だ。到底俺たちが叶う相手ではない」

 トムは少し考え込むようなそぶりを見せると、怪訝そうな表情を浮かべた。

「まぁ、話を聞く限り、連中もそこまで余裕が見えないように思える。他国の貴族を攫うなんて何を考えている。下手をすれば戦争になるぞ」

「どうするんだ、トム」

「ひとまずは様子を見るさ。あんたのお嬢様は随分と大きく動いていたようだし……まずは、そのシレイという女性に会ってみるべきだろう」



 トムとディーンが外へ出てから、レナはシャナクを看病にあたった。終始、シャナクはレナに対する嫌悪を緩めることはなかったが、何かを言うことはなかった。

 それから間もなく、レナは自分の知らない魔力が二つ、下の階から感じられることに気が付いた。今のこの家に存在する魔力は三つ。レナ、シャナク、そしてこの家の主である初老の女性だ。しかし、今は二つの魔力を強く感じる。一つはトムやディーンよりも少し強い程度、もう一つは魔法使いであるレナよりも巨大な魔力である。もしもこちらに敵意のある存在であればレナに太刀打ちすることはできない。シャナクを連れて逃げることもできないだろう。まだ彼女を寝台から動かすのは危険すぎるうえに、レナにそのような力はない。

 やがてその魔力の正体が姿を見せた時、レナは二つのことに驚いた。一つは、二つの魔力の流れはたった一人から放たれていたこと、もう一つはその巨大な魔力の正体が自分よりも背丈の低い少女であったことだ。

「ちょ……ちょっと、血が……」

 少女はボロボロのマントで体を覆っていた。そのマントの大部分は赤色に染まっている。マントを引きずりながら歩く彼女の後ろに道を引くように、血の道がそこにはできていた。マントにしみ込んだ血がたった今流されている証拠だった。

 レナの声が聞こえていないのか、少女はレナを無視して一直線に歩いていく。その先はシャナクの寝台である。レナは少女のマントをつかんで彼女を止めようとする。しかし傷つき弱っているはずの彼女の体はまるでレナの力を受け付けない。強靭な魔物のようにレナには思えた。すでにぼろきれのようになっていたマントがただ破けるだけだった。

「……」

 少女はしばらくの間、寝台の前に立つと考え込んだように身動き一つしなかった。 やがて少女は深く息を吐くと語り始めた。

「……シャナクさま。盗賊団のアジトと……頭領をみつけました。でも……」

 少女は震えているようだった。レナにはこの状況を理解することができなかった。

「そう……まぁ、上出来ですね。生き残るとも思っていなかったから……」

「……」

「私を殺さなかったのね」

「……え?」

 シャナクは少女のほうへ顔を向けると、冷たい目を向けた。

「殺さないならそれでいいの。たとえあなたが私に刃を向けたとしても……私の眷属があなたをただでは済まさなかったでしょうから」

「まったく……シャナク様はかわいくないな」

 どこか間の抜けたような、緊張感のない声が二人の間の空気を突き抜けた。もはや蚊帳の外のレナは、ただ呆然として耳から入ってくる情報を受け入れているだけだった。

「あなたは相変わらず余計ですね」

「大事な部下が無事戻ってきたんだ。少しは労わってやるとかな? それと、俺には()()っていう、とても()()()()()名前があるんだ」

「それを本気で言っているんだとしたら笑えない冗談ですね」

「そうか? 一応、あんたの主に敬意を示したつもりなんだが?」

 クモがそう口にした瞬間、シャナクの顔があからさまに曇った。普段らしからぬ彼女の様子に、クモは自分の中での仮定が正しかったと確信する。それと同時に、あの嫌な予感の正体に気づいたのだ。

「……ちょうどいいですね。カルム、あなたに命令します」

「おいおい、本気かシャナク様?」

「そこまで分かっているなら黙りなさい。何もあの化け物を相手にする必要はないわ」

 シャナクはカルムの肩あたりを見つめて言う。そして改めてカルムへ視線を向ける。

「アクセリア様を救出しなさい。本当ならばあなたには任せたくはないけれど……私はこの様だから」

 その瞬間、カルムはシャナクの中の交錯する感情に気づいた。これをどう受け止めるべきかカルムには判断が難しかった。何しろ、カルムにとってシャナクは悪魔が顕現したに等しい存在だった。悪魔は……こんな感情を持って然るべきだろうか?

「わ……わかりました」

「……」

 カルムは逃げるようにシャナクのもとを後にしようとした。彼女の視線にはシャナクの知り合いだという魔法使いが目に入る。彼女よりも後ろに行けば、カルムはこの場から逃げられると思った。何も返答をしなかったシャナクが自分の感情に気が付いたとは思いたくなかったのだ。

「カルム……」

「……え」

「その顔は……どういうつもり?」

 とうとうカルムは言葉を返すことができなかった。そのまま逃げ去るようにシャナクのもとを後にしたのだった。




「一体何が……」

「……レナ」

 急に自分の名前を呼ぶ声に、レナは一瞬下の階で眠っているはずの彼女が目覚めたのかと案じた。しかし、声は目の前からしたのだ。それも……決して聞こえるはずのない方向から――

「あ……あの、シャナクさん?」

「少し肩を貸しなさい。外に行きます」

「……だ、だめですよ! そんな体……で」

 次の瞬間、体を動かすことすら難しかったシャナクが寝台から体を起こした。寝台から体を出すと、少しおぼつかないながらも立ち上がった。

「そ……そんな」

「なぜか走らないけれど、情報を知りたいのでしょう? あなたたちは。他二人のもとに連れて行きなさい。どうせ……シレイとも会えるとも思わないわ。あそこにいつまでもいるとは思えない」

 レナは本心では彼女のことを信用できないでいた。呆気に取られていたとはいえ、彼女の言葉の節々にあった違和感に気づかないはずもない。あの少女との関係性も……少なくとも貴族の令嬢の従者が持てるようなものではない。それは他ならない……レナだからこそ言えることだった。

 やがて、シャナクからの情報で得たシレイのいた場所に向かった二人と合流したレナは、事の経緯を話した。そこにレナの感じたシャナクへの不審は含まれていなかった。

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