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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人ならざる者
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夜の平原で

 時間は流れ、再び夜が訪れた。木陰に隠れていた私は、恐る恐る空の下に出た。そして、近くを流れる川を見つめ、恐る恐る覗き込んだ。そこには、左は黒みを帯びた青、右は赤の左右非対称の瞳。そして、銀に輝く長い髪……何の変りもない私の顔が目に入った。そんな()()()()()の姿に、ほっと胸をなでおろした。


 再生……本当にそれがあって良かったと感じた。昼間あれだけひどかった肌は、今ではすっかり元に戻り、翼もすっかり元通りになっている。

 これだけの能力があるのだから、日の下に出ることが出来ない……これは相応しい代償というべきか……。



 それにしても、予想以上に再生までに時間がかかった。というのも、今まで負った傷は、例えば足を失ったとしても、数秒で元通りになるほどであった。しかし、今回はこうして元に戻るまでどれだけかかったのだろう……少なくとも、痛みが殆ど感じられなくなるまでにはすっかり日は落ちてしまった。


 何はともあれ……無事元通りになったことに安心するばかりだ……。



 それにしても気になるのは、昨夜の荷車である。今回の事態もあって、最後まで見ることが出来なかったのだが、あれは明らかに知性の高い生物である。しかし、あれが一体何なのか……という疑問に関しては、現段階では明らかにすることは出来ない。それには情報が少なすぎる。


 そう、情報が少ないのだ。とにかく何か情報を得る手段が欲しい。そのためには、同じように知性があり話すことのできる生き物との接触が重要である。少なくとも、今の私よりかは知っていることが多いだろう。

 一番分かりやすいのは、昨夜の5人と接触をすることなのだが、彼らの行方は既に分からない。見た感じでは、あの道に沿って歩いていったと思われるが……。彼らは、夜に行動をしていたが、火を灯した木の棒を持っていた……というところを見ると、私のように夜に目が利かない。つまり、本来夜に行動する生き物ではないと考えられる。そうなると、彼らと同じ仲間と接触するためには、昼間に行動できる方が望ましい。


 やはり、昼間行動できるような手段が欲しいのである。日が遮ることが出来るもの……かつ、私が常に身に着けていられるものがいい。しかし、そんなものは今の私の周りにはない。結局、現段階では、夜にしか行動はできないのだ。








 夜になるまでの間、私は昨日と同じように魔力の制御の練習をしていた。今までは常に魔力を垂れ流しにしていたわけだが、別にそれでも勝手に魔力を使い果たしてしまうなんて言うことはないようだ。というのも、常時放出していた魔力は私の魔力全体からすると対したものではなく、魔力はある程度時間を置けば回復するからである。

 そうして、放出された魔力はどこに行くのかといえば、周囲の植物や鉱物などに吸収されるらしい。そのためか、私の周りの草木……あるいは岩などはというと、わずかに青白い光を放ち光っている。その様子は、ちょうど森で見かける光る草木と同じだ。


「……まるで、私を肥料としているみたいね……」


 私は苦笑いを浮かべて呟いた。それもあながち間違ってはいない。私の周りの木々は光っていないものもたくさんあるのだが、ほんの数時間私が近くにいただけで数センチは伸びているのである。この森は奥の方に行くほど木々が大きく多くなっていくのだが、こう考えるとその理由も納得がいく。


 あの光る草や木……というのは、この森に漂う魔力を吸収してそうなったものなのだろう。しかし、この森に漂う魔力は平原に比べれば多いものの、微量なもの……。それに対して、常に魔力を垂れ流しにしている私の周りではより多くの魔力を吸収することが出来るということだろう。

 魔力は魔物であろうと、植物であろうと、生き物すべてに重要なものなのだろう。改めて魔力の重要性を実感したのだった。








 魔力の制御の練習の過程でふと感じた。一体、自分はどれだけの魔力を保有しているのかということである。私の周囲の草木の異常な成長ぶりや、魔物との戦闘を通して、幸運なことに、少なくともこの森の中では私の魔力は多い方だということが分かった。しかし、認識できる魔力はあくまで現在纏っている分だけである。全部でどれだけの魔力があるかということは、実際に魔力を放出して見なければ分からない。


 私は、魔力の制御のために抑え込んでいた魔力を少しづつ放出していく。初めはそれほど大きな変化は見られなかった。少しだけ風が強くなったと感じるくらいか……。

 しかし、少しだけ力を込めて魔力を放出し始めたあたりから、明らかな変化が起きた。周囲の草木がみるみるうちに光り始めたのだ。私の魔力を吸収しているのだろうが、その速度と範囲が今までとは比べ物にならない。それに、草木が纏う光の強さも、ほんのりと青白く光っている……といったものではなく、眩しさすら感じるほどの光を放っている。


 少し強くなった……程度にしか感じなかった風の強さは、今や暴風と言っていいほどになっている。視界には飛ばされた森に生える草木の緑……そして、木々の葉っぱとともに、茶色い枝が一緒に吹き飛ばされている様子が見える。

 メキメキと鈍い音が聞こえる。私が隣を見ると、そこには先ほどまでその根元に寄りかかるようにして休んでいた小さな木。それは根元から土を押し上げ、今にもどこかへ吹き飛んでいきそうな勢いであった。


 まだ全力ではないが、これ以上やるとまずい……そう感じた私は、今にも自身の体から全て吐き出されてしまいそうにも感じるほどに暴れ狂う魔力を抑えつけた。

 すると、私の思っていたよりもずっとあっけなく、魔力は落ち着いた。これを押さえつけるのは、かなり骨が折れるだろうな……と思っていたのだが。どうやら、自分の予想以上に魔力の制御が上手になっていたらしい。確かに、今では問題なく石を掴むことが出来るようにはなったが……。


 先ほどまでのことが嘘のように、辺りは静まり返っていた。しかしその爪痕は大きく、ほとんど葉の無くなった木々……中には枝すらなくなり、中心に立つ幹、一本だけになってしまっているものすらある。

 先ほどまで、木々が日差しを遮り、昼間でも薄暗く感じるほどだったが……今ではすっかり景色が変わってしまった。遮るものが無くなり、既に一度大きな傷を負った私の体に追い打ちをかけるように、日差しが降り注いだ。一瞬鋭い痛みが私の体に広がったが、また同じ失敗を繰り返すはずもない。

 少し場所を移動し、先ほどの暴風の被害を逃れ、無事であった木を見つけると、小走りでそこへ向かい……日差しから逃れるようにその根元に座り込んだのだった。






 それにしても、これでも洞窟で出会ったドラゴンから常時出ていた魔力とさほど変わらない。私も全力でなかったとはいえ……間違いなくあのドラゴンは私の数倍……いや、数十倍の魔力を有していたに違いない。

 もしも、あのドラゴンを怒らせて……戦闘になったらどうなっていたことか。あのとき……私の命はあのドラゴンの手に握られていたのだろう。


 そのことを実感し、私は自分が無事であったことに深く息をつき、安堵した……とともに、私は自身がそんな状況に置かれていたことに、情けない気持ちを抱いた。いや……どうしてそんな気持ちを抱く必要があるんだ。無事だったならそれでいいじゃないか。


 私は自身の抱いたそんな感情にわずかな疑問を覚えながらも、そのことに関して、私はそれ以上触れることもせず、すぐにそのことは頭から消えたのだった。








 そして現在にいたる……


 依然として私の中に取り込まれてしまった蝙蝠たちも出てくる気配が無い。今、私の周りにいるのは、シロと意思疎通ができるようになった一匹の蝙蝠だけである。

 その蝙蝠は、私に対して若干怯えた様子でこちらと距離を置いている。間違いなく昼間の出来事が原因だろう。しかし、もう一匹の蝙蝠……シロはというと、私に怯えている様子もなく……むしろこちらを睨むような素振りすら見せている。()()が怯えている様子など想像もできないが……。



 再び私は平原へと探索に行くべく、森の上空を飛んでいた。その最中、ふと私の先ほどまでいた場所を振り返って見た。明らかにそこだけ景色が異なっていることが分かり、木々が覆いつくすこの森においてその場所だけが少し開けているように見える。さらには、夜の闇に輝く青い光がより一層……その場所の存在感を高めていた。



 森を抜け、嘘のように開けた景色が広がる。あっという間に森は遠ざかり……されど景色は一向に変化する様子がない。私は平原の緑の一部が禿げて、道のようになっているのを見つけ、ちょうどその近くに少し盛り上がった場所を見つけた。あそこならば、ある程度周囲を見渡すことができ、かつあの道の様子も見ることが出来る。

 昨日見かけたあの荷車の集団は、この道になっている場所を沿うようにして歩いていた。ここは、彼らにとっての道しるべのようなものなのだろう。そのため、これを観察していれば、似たような者たちを見つけることが出来るかもしれない……と思ったのだ。


 私のすぐ後を付いてきた一匹の蝙蝠に、私は命令を出す。声には出さずに、あの道に沿って見てくるように伝える。すると、そんな私の命令を理解した様子で蝙蝠は頷くと、夜の闇へと消えていった。


 あれで、何かを見つけてきてくれればよいのだが……。しかし、あの蝙蝠一匹では効率が悪い。しかし、吸い込まれて私の中に確かにいるはずの蝙蝠たちは、何一つ反応を示さない。


「一体……私は何をやってるの……。」


 平原の地面に腰を下ろした私は、何の変わりもない景色をぼんやりと見つめて、ため息をつきながらつぶやいた。一度運よくあのような場面に出くわしたことを良いことに、またすぐに同じような場面に出会えると思っていた。しかし、実際にはそんなことはなく、生き物の気配すら感じず、ここは静かなままだった。


「(やはり……こちらから動いて探すべきか……。)」


 私の中にそんな考えが浮かぶ。たしかに、私が飛んで探したほうが明らかに早いだろう。しかし、見たところこの平原には日を遮れるようなものは一切なく、木の一本すら見当たらない。もしもそれで森への方角を忘れてしまったまま朝がやってきてしまったら……


 頭を支配するそんな不安から、私は決断をしかねていた。やはり、昨日の時点で何か接触をするべきだったか……。過ぎたことながら、私の中に後悔の念が渦巻く。

 しかし……私の運はまだ私を見捨てていなかったようだ。



 遠くの方からこちらへ向かってくる集団が見える。昨日見た五人とは様子がうって変わり、闇に紛れるような黒っぽい服を着ている。マントを羽織り、腰には短剣を数本ぶら下げている様子が見える。そして一番気になることは……彼らは光を灯せるようなものを持っていない。

 昨日の五人と同じ種族だと思うのだが、気になるのはこの暗さだというのに道を見失うこともなくこちらへ向かってきていることだ。昨日の五人と同じであれば、夜に目が利かないものだと思ったが……。


 人数は五人、全員魔力は大したことはないが、やはり昨日の武装二人組と同じ……魔力とは別の力を纏っている。先頭を走っている一人は中でも纏っている力が強い。他三人を率いている雰囲気から、リーダーか何かだろうか。


 これは情報を得られるチャンス……一度接触をしてみるべきか……と思ったが、その異様な雰囲気から私の体はその場にとどまった。

 それに……彼らからは殺意を感じた。明確に対象があるようでもないが、周囲のすべてを警戒し……敵対視しているようだった。とても穏やかに接触が出来るとは思えない。


 惜しい……とも思ったが、その雰囲気からが戦闘になる未来しか見えなかった。あれでは情報どころか話すらできない可能性が高い……。


 考えた結果、接触は諦めることにした。しかし、それをきっかけに私は一度移動をすることにした。それほど遠くまで行くわけではないが、少し場所を変えることにしよう。それによって、また何か違う方法が思いつくかもしれない……。






 平原に横たわる道に沿って、私はあれから数時間ほど探索を続けている。しかし、予想通りというべきか……驚くほどに景色に変化はなかった。ただ延々と同じ景色が広がっているだけ……やはり日を遮れるようなものはなかった。

 あえて挙げるのであれば、平原にはちらほら巨大な岩があった。中には、私くらいであればすっぽり入るほどの影ができるであろうものもあった。しかし、とても安心できるようなものではない。少し光が当たる角度が変わってしまえば意味はないのだから。


 何一つ変わったものを見つけられない。見つけたものといえば、平原のど真ん中で一匹寝ている巨大な豚の魔物くらいだ。私が見た限り、平原における初めての生き物の存在だ。やはり魔物は存在しているようだった。


 そうしてさらに数時間……。夜も更け、月は頭上よりすでに傾き始めている。流石にまた昨日のようなことにはまたなりたくはない……と、諦めて帰ろうと、私は探索に出した蝙蝠を戻そうと念じた。シロとはかなり離れた状態でも意思疎通ができたので、あの蝙蝠もできるかもしれないと思ったためだ。


 そうして私が意識を集中させたところ……


「(……え?)」


 あの蝙蝠から逆に思念を受け取ったのだ。









 亜人……


 それは人間と同じ人族の生き物であると同時に……二つの種族の間には深い溝が存在していた。


 そもそも亜人というものは、魔物には分類されないが、人間に近い知能を持った者たちのことである。その姿は様々……あるものは顔が動物そのものであったり、尻尾や獣の耳が生えていたり、鱗があったり……あるものはほとんど人間と変わらない姿かたちをしていたりする。しかし、基本は人間とよく似ているものだ。


 そんな亜人の多くは、同種族で集落を作りそこに家などを建てて生活をしている。そこは人間たちの住むような町とは似ても似つかず、かなり原始的なものである。人間は国を作る……ということも考えると、その差は歴然だろう。


 

 さて、冒頭で亜人と人間の間に溝があるといったが、それは人間の亜人への差別によるものである。人間と亜人の間で、大きな生活水準の格差があるように人間と亜人は完全に分かれて生活をして交わることはない。というのも人間にとっての亜人というものは、下の存在であるというのが共通認識であり、人間は亜人を奴隷として売買することもある。

 一方、亜人は人間よりも力が強く、魔力の量も多い。もしも一対一で戦った場合、亜人側が圧倒的有利の立場に立つことが出来る。しかし、そんな力も人間の技術力の前には太刀打ちできないのだ。こうして、亜人は人間から避けるように暮らすようになり……人間と亜人の生活圏が完全に分かれる結果になった。



 最近では、亜人の差別をなくそうとする国も現れたのだが、亜人の奴隷としての有用性。そして長い間続いてきた共通認識を変えることは早々できないものである。








「父ちゃん、もうすっかり夜だよ。」


 こう私を呼ぶのは、私の息子である【ヴォン】である。


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