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赤眼の吸血鬼  作者: カエルオオカミ
人ならざる者
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未知の存在

 夜の空……木々が覆いつくす森の上を私は滑るように進んで行く。かなり暗いはずなのだろうが、私の目は暗闇に慣れているため、問題なく周囲を見渡すことが出来る。とはいっても森の中は完全な暗闇というわけでもなく、ちらほら光が見える。

 この森には、ところどころに光っている植物を見つけることが出来た。青白い淡い光ではあるが、森に生える草の中に光っているものがあるのだ。そのほとんどが草や花などではあるが、時々木自体が光を灯しているものが見られる。


 弱すぎる故に、実際に触れられるほど近づかなければ分からないが、その植物たちは魔力を纏っているようだった。私は魔力を右目を通して見ることができ、魔力が青白い靄のようなものということを認識しているため、ある程度推測は出来ていたが……。


 そんなことを考えていると、目的である平原が見え始めた。ずっと続くようにも思われた木々を覆いつくす景色がガラッと変わり、一切の木々の姿が見えない平原が広がり始めた。地面は短い草により緑に覆いつくされており、遮蔽物はないため、全体を見渡すことが出来るのだが……目立った生き物などの姿は見られない。


 まぁ、このように見た目の面ではだれが見ても明らかなことなのだが、それ以上に大きな違いが存在している。そうして、私は一度目を閉じた。私の意思に従うように、ピリッと右目に痺れるような違和感を感じた。


 そう思うと同時に、私の視界に変化が現れた。左の視界は特に変化はないが、右の視界に大きな変化が現れた。青白い靄に加えて、半透明の白い流れ……そのほかにも様々な色とりどりの()()が私の視界を埋め尽くしていた。

 青白い靄は魔力の流れ……そして、この白いものは風の流れだと認識している。その証拠に、曲線を描きながらこちらへ流れてきた白い流れが私の中を突き抜けてきた……と同時に、ひんやりとした風が私の肌をなでた。




 こうして見てみると……目に見える青白い靄や流れ……即ち、魔物の反応である魔力の流れが、森に比べて圧倒的に少ないのである。森であっても平原であっても、昼間の方が明らかに魔物の数は多いのだが、今平原で感じられる魔物の反応はほとんど感じられない。おそらく眠っているかなにかなのだろうが、森とはまた雰囲気が違う。森では、それなりに多くの魔物と遭遇する機会があったと思うのだが……


 このように、平原の様子というのは森とは大きく違っていた……





 私は平原と森の境界線に当たる場所に降りると、辺りを見渡した。空から飛んでいくのもよいのだが、今は血を求めて魔物を探しているわけでもない。それに地上から見ることで見つかるものもあるかもしれない。


 こうなると手分けをして、辺りを探索してみたくなる。しかし、私の周囲を飛び回る蝙蝠たちとはある程度、意思疎通はできるのだがあまり複雑なことはできない。そして、唯一まともに意思疎通ができる相手はこのシロ(馬鹿)である。しかし、これが私の言うことを素直に聞くとは思えない。


 そんなことを考えていると、突然腕に違和感を覚える……。


「……?」


 ふと右手を見ると、黒い影のようなものが指の先から広がっている。そして、それはみるみるうちに広がり、私の体を侵食するように広がっていく。振り払えるものとも分からないが、私はとにかく手を振り回してみたが、一向に侵食が収まることはない。影は私の体にぴったりとくっついたように離れないのだ。そして……みるみる影は広がり、そしてすっぽり私の全身を覆いつくしてしまった。


「……。」


 何というか……不思議な感覚である。すっかり体が覆いつくされているとはいえ、何も感じることはない。何が変わったというわけでもなかった。本当に自分の体に何か変化があったのか……と疑うほどである。しかし、感情はすぐに否定される。


 私の体に向かって、次々と蝙蝠たちが集まってきたのだ。そして、数十にも及ぶ蝙蝠の群れは、私の体に纏わりつくようにして張り付いてきた。こちらに敵意を向けているわけでもないため、特に抵抗をすることもなく私はそのままにしていたが……

 次の瞬間、蝙蝠たちが私の黒い影に包まれた体に吸い込まれ始めていた。深い沼にでもはまったように、ゆっくりと私の体に沈み込んでいく。何とも言い難い感覚……しかし、不思議なことに、痛みのようなものは何もなかった。

 



 そしてしばらくたったのち……すべての蝙蝠たちが私に吸い込まれてしまった。いや、正しくは()()を除いてであるが……。

 その一匹とは、シロである。シロはというと、自分はまるで関係ない……とでもいうようにそっぽを向いていた。


 体に異変はない。集まってきた蝙蝠たちが全て吸い込まれた……と同時に、私の体を覆いつくしていた影はすっかり消えてしまっていた。吸い込まれてしまった蝙蝠たちはどうなったのか……と体を触ってみるが、何も起こらない……などと思っていると、一匹の蝙蝠が私の中から現れた。


 現れたその蝙蝠は、私の様子を窺うように黙ってこちらを見つめていた。これと言って何か変化があるようにも見えない。そのため、私の興味はそれ以上その蝙蝠には向かなかった。それよりも今はこの平原を探索するほうが先であろう。夜明けまでに森に戻ってこなければいけないのだから。


 しかし、平原を見る限り、特に変わったものは見当たらない。生き物の気配もしないため、これを一人で見て回るのは骨が折れる。しかし……唯一まともな意思疎通が出来る相手がこのシロだけでは……。

 そんなことを考えていた矢先……私の事をじっと見つめていた一匹の蝙蝠が何かを了解したように頷いた。


「……?」


 私の頭に疑問が浮かぶ。しかし、その疑問を明らかにする間もなく、その蝙蝠はどこかへ飛んでいってしまった。一体どういうことだ……。今の反応は、私にはこちらの考えを理解している上での行動であると感じた。

先ほどの現象により、吸い込まれた蝙蝠たちには何も変化がないと思っていたのだが……そんなことはなかったようで、何かしらの変化が蝙蝠たちにはあったのだろう。


 しかし……そう考えると、あの蝙蝠が行ってしまう前に、いろいろと試しておくべきだったか……と後悔の念が湧き上がった。何故こんなことが起こったのか……先ほどの出来事が原因ではあるだろうが、私には理解できなかったことがまだ多い。他にも何か変化があるのかを知りたかったのだが……。

 実際に私に吸い込まれた蝙蝠は一匹だけではなく、少なくとも数十はいたはずだった。しかし、今の私には、その他の蝙蝠たちにも同じような変化があったのかを調べるほどの考えは及ばなかった。何しろ、それ以上に謎が多かったのだから。








 しばらく平原を歩き、私は小さな丘のようになっているところを見つけた。少し高い場所から周囲を見渡してみるのも良いと思ったためだ。しかし、それならば空を飛べばよいとも思うのだが……。しかし、結果的にそれは功を奏すことになる。

 丘のてっぺんから平原を見渡したところ……遠くに一本の道を見つけた。その道は明らかに自然のものではなく、その部分だけ緑がなくなっている。一本だけ広がるその道は、見る限り分かれ道などはない。平原を縦断するように一本の道が伸びている。


 それは地上……丁度今私がいる丘から見渡す程度でなければ見つけることが出来ないほど、細くとても目立つ……というほどのものでもなかった。もしも空から見ていれば、気づかずに通り過ぎてしまっていただろう。何しろ、この平原は広い。ゆっくり観察しながら……などということはしないだろう。

 もっと近くで見てみたいのでそこへ飛んでいこうとしたところ、遠くの方に小さな光が見えた。それも、森にあった光る草や木々のような青白い光ではなく、温かみのあるオレンジ色の光である。その光は、道を沿うようにこちらの道へと進んでくる。


 一体何なのか……目を凝らすがここからでは何かが光っている……ということぐらいしか分からない。しかし、私にはもう一つの手段がある。それはこの右目。これだけ離れているというのに、私の右目はその正体を完全に捉えていた。

 見たところ……先頭には火の灯った木の棒を持った何かがいる。その何かとは、姿形は私に似た人型。違うことといえば、背中に翼が生えていないことか……。それに魔力もかなり小さい。どれくらい小さいかというと……森に生えていた魔力の纏った草よりも小さい。


 さらに注意深く見てみると、それは大きな荷車のようなものを引いている。引いているのは一人ではなく、同じように木の棒を持った者が二人いる。さらに武装をした者が二人、荷車を囲むようにして歩いている。どれも身に着けているものは違うが、姿が似ているので同じ生き物だろう。



 それにしても、あれは今まで見てきた生き物とはまるで異なる存在だ。魔力を少ないながらも有している面は魔物と同じだが、それが違うというのは分かる。魔物のように単独で動き、無差別に敵意をむき出しにしているような行動ではなく、あれは統率の取れた知性のある動きをしている。


 そして私が特に気になったのは、武装をした二人組である。魔力の大きさは他の三人と変わらないのだが、それとは別の何か他の力を纏っていた。それも……魔力とは別の何か……。

 私は魔力の存在を知っていた。それに魔物の事も……。過去の記憶がないとはいえ、そういったものの認識はあった。しかし、あの謎の力に関しては何も分からないのだ。



 武装した二人は、火を灯した木の棒を持った二人と同じように荷車を囲むようにして歩いているが、心なしかより周囲を警戒しているように思える。彼らの身に纏っている防具は、二人とも違い、一人は所々傷のある灰色の防具を身にまとい、片手で振ることが出来る程度の長さの剣を腰に下げている。そしてもう一人は頭まで隠れる青白い武具であり、背中には足元にまで届くほどの巨大な槍を差している。

 あの魔力の大きさではこの辺りの魔物には歯が立たないだろう。しかし、あの武装を見る限り……魔物と戦うことも想定しているのか?








 どれだけの間、そうしていたのだろう。荷車は夜通し進み続け、私はそれを追うようにして彼らを観察し続けていた。彼らが身に着けているものや、手にしているもの……。荷車の中身などにも興味が湧いた私は、やがて周囲に目が届かなくなっていた。そして、すでに日が昇り始めていることにも気づかなかったのだ。


 ようやく気付いたのはすでに背中に焼けるような痛みが襲い始めてからだった。先ほど平原を探索させに行かせた蝙蝠もすでに戻ってきており、私に事態を伝えようと翼を羽ばたかせていた。しかし、そんな羽ばたきなど私の耳には届かず、自身の体に痛みが生じ始めてようやく気づいたのだ。


 そんな状況に気づいた私は、急いで森へ向かうために激痛の走る翼を必死に広げ、全速力で空を滑っていった。しかし、特に弱点である翼の痛みはひどく、うまく飛ぶことが出来ない。まっすぐ飛んでいるつもりが、だんだんと高度は下がっていった。

 

 日差しが熱い……。地上を照らすあの光が他の生き物たちにどう映っているかは知らないが……少なくとも私にはとても憎らしいものにしか見えない。あの存在は私にとって、自身の体を焼き尽くすべく、天から降り注ぐ炎に変わりないのだから。

 全身に走る激痛に歯を食いしばりながら必死に耐える。速度は落ちないが、その代わりに高度はみるみる落ち……結果、森に着くころには私は木の下を飛ぶ形になっていた。しかし、そのおかげで頭上を覆う木の葉が日光を遮り、それ以上私の肌が日のもとにさらされることはなかった。


 翼は既にボロボロになっており、木の幹にぶつかったりしながらも、やっとのことで完全に日が遮られている場所につくことが出来た。薄暗さすら感じるその場所で、私は一本の木を見つめると、その根元に座り込んだ。

 手のひらに触れるひんやりとした土の感触に少しだけ痛みが和らいだ。幸いなことに露出の少ない服を着ていた私は多くの肌を日にさらされることはなく、主に痛むのは手のひら、顔、そして背中に生えた翼くらいか……。


 日の光の当たらない場所にいるというのに、いまだに激痛を感じる。見れば、手のひらが赤くただれ……と思ったのだが、もっとひどい。白かった肌はまるで炎にでも焼かれて焦げた様に黒く萎びていた。ボロボロになったその腕は、今にも崩れて……落ちてしまいそうだ。


 その瞬間……私は恐怖を感じた。もしもあれ以上、自分が日の下にいたとしたら、一体どうなってしまっていたのか……。私は自身のボロボロになった手を見つめながら、透き通った透明に、森の風景を反射して輝く川の水を見つめた。


 私は今の自分の顔を見る勇気はなかった……。


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