表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな人生  作者: 蒸留水
旅立ち
5/52

5話 3歳、祝福する(1)

 2年が経過し、私は3歳になった。


 最近では中庭以外の外出も許可されるようになり、グロンド父さんと一緒に村の中を散歩することが日課となっている。

 村は深い森のすぐ外に位置しており、少し外に出ると綺麗な川が流れ、村の中には小高い丘がいくつかも存在する。丘にはいくつも扉が取り付けられ、不思議な光景が見受けられる。扉の内部にはアルク岩で加工した穴が存在し、それらが私たちハーフリングの家になっている。

 村の住人のほとんどがハーフリングであり、他種族の村人はほとんどいない上に、村の外に住んでいるらしくあまり見かけることもない。森の奥の方に行けば大きい都市があるそうだが、滅多に行き来はないく、村への来訪者などに至っては、何十年に一度いるかどうかというほどにしかいない。

 さらに、この村はあまりに辺境に位置しているせいか、名前すら付けられていない。





「明日はとうとうレオの【選命の儀】だね。レオももう10歳になるんだね、早いなぁ。心の準備はできているかい?」


 散歩から戻って家族全員で朝食をとっていると、グロンド父さんが感慨深そうに呟いた。

 ちなみに、この村での食事は前世で言うところの洋食に近く、パンが主食だ。前世と比べても質の高い料理が多く、味も悪くない。少し前までが母乳だったこともあり、楽しく美味しい食事をとれることの素晴らしさを実感した。


「うん! すっごく楽しみ!!」


 この3年間、誕生日を祝うようなことがなかったので、長寿ゆえにそういったことに無頓着なのかと思っていたが、父さんたちの会話からするとどうやら年齢に関係する【選命の儀】というものがあるそうだ。


「パパ、せんめいのぎってなぁに?」


 子供らしく父さんに尋ねる自分の雰囲気を我ながら気持ち悪く思うが、3歳の子供が親に対して他人行儀の敬語ではまずいだろうし、このような子供言葉を使うのも仕方のないことだと腹を括っている。


「そうか。ムルトは初めてだったね。【選命の儀】っていうのは、10歳を迎えた子供たちが自分の可能性を知るために行われる儀式だよ。家族全員で参加することになっているから、ムルトも見学することになるよ」


(私も参加できるのですか―――気になりますし、もう少し話を聞いておきましょう。)


「ママ、かのうせいって何のこと?」


「<技能>と<恩恵>って呼ばれるものよ。ムーくんにはまだ難しいと思うわよ?」


 どうやら、私が使うステータスのような効果が得られる儀式の様だ。

 リンダ母さんの話に<能力値>が出てこなかったのは気になるが、情報が得られるこの機会を逃すわけにはいかない。


「ママ、僕知りたい! ()()()()()()()って何?」


「ふふっ、ムーくんは本当に知りたがりね。じゃぁ、レオくんが教えてあげてね。お勉強の復習になるでしょう?」


「えー!?」


「レオ、兄としていいところを見せないとな」


 <技能>と<恩恵>についてこの世界の常識を知りたくて、ここぞとばかりに話を振ってみたのだが、レオル兄さんに矛先が向いてしまった。母さんに続いて父さんが追い打ちをかけている。

 ここは話をあわせて、“お兄ちゃん”に頑張ってもらおう。


「お兄ちゃん、教えて!」


「うぅ――。えーっと、<技能>っていうのは、ほとんどが努力で身につけることができる力のことで、例えば『剣術』っていう<技能>なら、剣の練習を頑張れば覚えられるんだ。それから、<恩恵>っていうのは、生まれた時から持ってるすごい力のことだけど、持ってる人はあんまりいないから、本当にすごいんだぞ!! ・・・こんな感じだけど、わかったか?」


「うーん。よくわかんない」


 大体は私の予想通りの内容だった。

 あまり良い情報が得られなかったことに落胆していると、母さんが話を続けてきた。


「ふふっ、レオくんはまだまだお勉強が必要ね」


「えー。―――ちゃんとできたと思ったのに」


 どうやら、兄さんが話したことの他にも何かあるようだ。


「ムーくん。<技能>を得るっていうことはね、その人が頑張って勉強したり、練習したりしてきたことが世界に認められるということなのよ。世界に認められることで<技能>を獲得するできて、それまで以上にいろいろなことができるようになるの。努力次第ではもっと成長していくわ。」


「そう。<技能>は努力の結晶でもあって、ご褒美でもあるんだよ。【選命の儀】はあくまで<技能>を確認するための儀式で、本人の頑張りが大事ってことだよ」


「ふーん。じゃぁ、()()()()もなの?」


「<恩恵>は持っている人がすごく少ないんだよ。この村では二人しかいないし、持っていない方が普通だね。それから―――」


「あなた、あんまりたくさん教えても難しいわよ」


「それもそうだね。ついつい話し込んでしまったよ。ごめんね、この話はもっと大きくなってからしよう」


「ムーくんはこれから勉強することだから、これから頑張りましょうね?」


「はーい」


 もっといろいろ教わりたかったが、今回はここまでで諦めておこう。



 ▼▼▼▼▼



 月がのぼり、皆が寝静待った時間、私の眼は冴えていた。

 今日は初めて知ったことが多かったので、情報を整理しようと思ったのと、日課のステータス確認のためだ。


(今日は<技能>と<恩恵>について,一般知識を知れたことが大きな進展ですね)


 どうやらこの二つは、“世界”から認められることで獲得するものらしく、前世では考えられないような概念だが、こちらの世界では一般常識であるようだ。他の情報については、だいたい私が予想していた通りだった。

 <能力値>の話がでなかったことは気になるが、少なくとも【選命の儀】では知ることができないもののようだ。ひょっとすると、私が使うステータスの方が特殊なのかもしれない。


 何よりも、【選命の儀】で他人の<技能>と<恩恵>を知ることができるからには、『鑑定』に近い能力や手段が他にも存在するということだ。

 レオル兄さんの様に普通の子供ならば、ステータスを見られても問題ないのだろうが、明らかに異常なステータスになっている私にとっては鬼門だ。

 人にばれることを心配するようなステータスとはこういうものだ。




 名前 ムルト=バジーリア

 種族 ハーフリング

 性別 男

 年齢 3


<能力値>

 体力 15/15

 魔力 1080/1080

 力  1

 耐久 2

 器用 2

 敏捷 2

 知力 8

 精神 6


<技能>

 戦闘系  なし

 生産系  なし

 技術系  魔力探知3

      魔力操作3

      魔力隠蔽2

      気配探知1

      気配隠蔽1

 特殊系  鑑定4

 魔力適正 火・水・風・土・光・闇・時空


<恩恵>

 武術の心得

 心体の極み




 村の中を散歩するようになってからは同年代の子供を『鑑定』する機会を得た。

 これにより、平均と比べて私の<能力値>がどの程度にあるのかを知ることができた。

 結果として、少しばかり高いことが分かっている。

 同じ年のハーフリングの<能力値>は大体こんな感じだ。



 体力 10/10

 魔力 20/20

 力  1

 耐久 1

 器用 2

 敏捷 2

 知力 2

 精神 2



 両親にも勝っていた魔力、知力、精神は言わずもがなだが、体力と耐久もわずかに勝っている。数値としてはわずかな差だが、実際の身体能力における差はかなり大きいので、。

 ちなみに、両親の<能力値>は大人のハーフリングとしては平均的なものであるようで、ハーフリングが非力なのは間違いないようだ。

 私の<能力値>が若干高いのは、おそらく<恩恵>の『心体の極み』のおかげだろう。

 今後も更なる成長が期待できそうだ。できれば体格の方も成長してほしいところだが、そちらの方は今のところ望み薄だ。


 <技能>の方はいろいろと鍛錬していたら、いつの間にか技術系の<技能>が増えていた。ただ、手広く鍛錬をしていたせいか技能レベルはあまり上昇していない。


 『魔力探知』はレベルこそ3のままだが、探知範囲が自分を中心に半径15mにまで拡大した。この範囲内であれば誰がどこにいるかを正確に把握できる。有用性がどんどん上がっているので、まだまだ探知範囲を拡大させていくつもりだ

 『魔力操作』はレベル3にまで上がり、体内の魔力を自在に操る精密さはさらに上昇し、体外の魔力を操作することもできるようになった。とは言っても、自然界の魔力を体内に取り込むように促すことで精一杯でだ。それでも魔力の回復時間を短縮することが可能になり、十分に役立っている。

 『魔力隠蔽』は『魔力探知』を警戒して特訓を行った結果だ。『魔力探知』では、体から放出されている魔力によって他者を探知することができるため、これに対抗する手段として自分の魔力放出を抑える鍛錬を行っていたら獲得することができた。自分では効果のほどが分からないため、少なくとも同じレベルの『魔力探知』には掴まらないと思う。

 魔力が高い私の身を守るためには重要な<技能>となるので、今後も注力して鍛錬していくつもりだ。


 そして、両親から隠れて行動していたことで身についたのが、『気配探知』と『気配隠蔽』だ。自由に動けるようになってからの時間が浅く、鍛錬と言えることができていないために技能レベルはともに1だ。

 これらは魔力を使うそれとは異なり、生命力のようなものを利用した<技能>だ。現状では実用性は低いが、時間をかけてでも身につけていくつもりだ。


 『鑑定』のレベルも上がって、どんどん有用な効果になっている。

 一番高い頻度で使っているからか、他の<技能>よりも熟練が早く、技能の上達も早いようだ

 そのおかげか、石壁についてどんどん詳しくなっている。



 名称 アルク岩の壁

 アルク岩を魔術で変形させて作った壁

 作製されてから14年が経過。

(耐久 589/600)

(保有魔力 0/0)



 これが、石壁の鑑定結果だ。

 追加の情報と保有魔力なるものが分かるようになったが、保有魔力についてはどういうことなのか悩まされた。しかし、村で見た光を出す魔道具を『鑑定』したことで謎が解けた。

 どうやら、この世界には魔力で稼働する道具―――いわゆる魔道具が存在しており、魔力を消費することで使えなるようだ。それを確認できるようになったということだ。


 人物を対象にした『鑑定』は、ついに<技能>を知ることができるようになった。

 気づくのが遅かったが、『鑑定』は自分にも有効だったようだ。始めから気づけていれば危ない橋を渡らずにも済んだのだが、少し抜けていたようだが、今後はもっと注意しようと思う。

 とりあえず自分で試してみたところ、<技能>を確認できるようになったが、<恩恵>はまだのようだ。おそらくレベル5で分かるようになるのだろう。

 ちなみに、家族の鑑定結果はこうだ。




 名前 リンダ=バジーリア

 種族 ハーフリング

 性別 女

 年齢 84


<能力値>

 体力 40/40

 魔力 208/208

 力  2

 耐久 2

 器用 7

 敏捷 5

 知力 6

 精神 6


<技能>

 戦闘系  なし

 生産系  調薬4

      採取3

      家事4

 技術系  魔力探知3

      魔力操作3

 特殊系  薬品鑑定3

 魔力適正 火・水




 名前 グロンド=バジーリア

 種族 ハーフリング

 性別 男

 年齢 84


<能力値>

 体力 70/71

 魔力 100/100

 力  3

 耐久 3

 器用 6

 敏捷 6

 知力 5

 精神 6


<技能>

 戦闘系  斧術1

 生産系  農耕4

      採取4

      家事1

 技術系  魔力探知3

      魔力操作3

      気配探知3

 特殊系  なし

 魔力適正 土




 名前 レオル=バジーリア

 種族 ハーフリング

 性別 男

 年齢 10


<能力値>

 体力 23/23

 魔力 55/55

 力  1

 耐久 1

 器用 3

 敏捷 3

 知力 3

 精神 2


<技能>

 戦闘系  なし

 生産系  農耕1

      採取1

 技術系  魔力探知1

      魔力操作1

 特殊系  なし

 魔力適正 水・土




 母さんと父さんは予想通り、それぞれ薬を作ることと薬草を育てることに適した<技能>を持っていた。『家事』も持っているらしく、存在する<技能>の種類の多さが窺える。

 兄さんは、両親の手伝いをしていたためか、二人に近い構成になっている。

 気になるのは母さんの『薬品鑑定』だ。機会があれば、それとなく聞いて見ようと思う。




(やはりどう考えても私の成長具合は以上ですよね・・・。明日の見学で何か対策が思いつくといいのですが)


 現状と予定の確認を終え、私は不安を抱えたまま眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ