2話 ステータス、考察する
(ステータス!!)
生まれてから今までで最も強い気持ちを込めて念じると、目の前に羊皮紙(だと思われるもの)が浮かんで現れた。
予想していたものとは少し違っていたために一瞬驚きはしたものの、すぐさま気持ちは歓喜に溢れた。
(異世界だ!!)
ここが異世界であるということを確認した瞬間だった。
妄想を膨らませながら歓喜していたが、ふとあることに気付く。
(これ、他の人にも見えるのでしょうか?)
まともに内容の確認もせねまま、慌ててステータスを閉じようと試みた。
開いた時とは逆に、「ステータス」を閉じるように念じると、あっさりと目の前の羊皮紙は姿を消した。
(……よかった。これが周囲にも見えているかは分からないですが、もし見えている場合、さすがに気味悪がられるでしょうからね。)
ステータスを閉じる方法が分かったので、ひとまず安心した。
再度ステータスを開き、今度こそ内容の確認を始めた。
名前 ムルト=バジーリア
種族 ハーフリング
性別 男
年齢 0
<能力値>
体力 5/5
魔力 8/10
力 0
耐久 1
器用 0
敏捷 0
知力 8
精神 6
<技能>
戦闘系 なし
生産系 なし
技術系 なし
特殊系 鑑定1
魔力適正 火・水・風・土・光・闇・時空
<恩恵>
武術の心得
心体の極み
今世の私はムルト=バジーリアという名前らしい。
ハーフリングという種族になるようだ。前世では、背丈が小さい種族として物語などで登場することが多かったように記憶している。母親の容姿から考えるに、こちらの世界でもその認識で間違いはないだろう。ただ、自分の成長を考えると少し複雑な気持ちだ。
気を取り直して、<能力値>とある一覧を確認していく。
ぱっと見た感じでは、前世のゲームとほとんど同じもののように窺えるが、基準となる値が分からないので、能力が高いのか低いのかの検討は全くつかない。
とりあえず、目を引く部分を見ていく。
力、器用、俊敏が0であり、耐久が最小の1であるのは、赤ん坊だから仕方がないだろう。 魔力、知力、精神が他に比べて高いのは、前世の記憶があることが影響していると推測できるが、詳しいことは他の人たちと比べてみなければわからない。
他にもいろいろ分からないことが多いが、そのことはいったん置いておいて、もう一つ気になったことがある。
(魔力が減っている……。ステータスを2回開いたから、1ずつ消費したということでしょうか?)
僅かに魔力が減っていたのだ。
原因は何となく予想できるのだが、そんな話以前に、魔力が存在するということは―――
(この世界には魔法が存在しているのですね)
すぐに、<技能>の一覧に目を向ける。
残念ながら、<技能>の中には魔法という言葉は見当たらなかったが、代わりに<魔力適正>なるものが存在していた。まず間違いなく魔法が存在するという事実に今後の楽しみが増える。
さらに、私は多くの属性を使えるようだ。 これがこの世界でどれほどのことなのか分からないが、余計な問題を引き起こさないためにも詳しいことがわかるまでは隠し通すことにしよう。
他にある<技能>は『鑑定』だけだ。
横に表示されている数値は、おそらく技能レベルにあたるものだろう。
この辺は、まさにゲームのようだ。
(とりあえず試してみましょう―――『鑑定』!!)
名称 岩壁
岩で形成されている。
試しに目の前の岩壁の天井を鑑定してみたが、羊皮紙で現れたステータスとは異なり、脳内に簡単な説明が流れ込んできた。まるでSF映画のディスプレイのように表示されているのだが、実際に目の前にディスプレイが存在しているわけでなく、脳内に表示されているという不思議な感覚だ。
(説明は短いし、見て分かる情報だけですね。技能レベルが低いことが原因でしょうし、今後は積極的に使ってみましょう。少しでも情報が得られるのは助かりますからね。―――おっと、念のために確認しておきましょう)
鑑定の考察を終え、ステータスの魔力を確認してみる。
魔力 7/10
(やはり、減っている。『鑑定』も魔力を1消費するのですね)
鑑定については後でもう一度検証することにして、先に最後の項目<恩恵>について確認しておく。
(『武術の心得』は名前の通り、武術の鍛錬などで補正がかかるものだと思うのですが、『心体の極み』っていうのはなんでしょうか? 意味が広すぎてわからないですね。体の成長の補正とかもあればいいのですが)
結局のところ、どちらも具体的な効果が分からないので、こちらも後回しにするしかない。
ひとまず、ステータスを開いたままにしてしばらく放置してみる。
魔力の変化を確認するためだ。ステータスを開き続けていることで魔力が消費されるのか、また、どれほどの時間ステータスを開き続けていられるかを確認したいところだ。
しばらくステータスの観察を続けると、魔力が10分ほどで1ずつ回復しているということが分かった。おそらくは、ステータスを開いたままでも魔力はほとんど消費していないということだ。私の回復速度が消費を上回っている可能性もあるが、何となくそうではない気がする。
(まぁ、要検証というところですね)
次に、ステータスの<能力値>の項目を対象に『鑑定』を試みた。
結果として『鑑定』は可能であったが、分かったことはあまりなかった。
体力 身体エネルギー
魔力 魔素集合体エネルギー
力身 体の力強さ
耐久 身体の頑丈さ
器用 身体の器用さ
敏捷 身体の動きの速さ
知力 事象に対する理解力
精神 魔力への耐性
ひとまずはゲームと同じようなものと判断して問題ないだろう。
残りの魔力は僅かになってしまった。
全てを消費してしまうにはリスクが高いので、再び回復を待つことにする。
魔力が生命維持に必要な場合、魔力残量が0になった瞬間にコロッと逝ってしまう可能性もある。確かめることもできないので、十分に注意しておこう。
回復を待つ間、もう少し魔力について考えてみる。
(ステータスや鑑定で何気なく使っていますが、魔力とはいったい何なのでしょうか?)
魔力を消費した時に何かを感じることもなかったが、ステータスに表示されている以上、体内に存在しているのは間違いないだろう。
前世には存在していなかったのだから、違和感でもありそうなものだが、そういったものは今のところ感じられていない。
とりあえず、魔力を感じ取ることができないか試してみる。
意識を体の中に集中させ、前世との違いがないかを探るようにする。体の中心、心臓、血液の流れなど様々な箇所に意識を向けていく。体の中心、へその奥の方に、ぼんやりと何かがあるようには感じられるのだが、いまいちはっきりとは把握することができない。
ただ、何かがあることだけは分かった。
これも今後検証を続けていけば、体内の何か――おそらく魔力――を理解できるようになるかもしれない。最終的には、魔法を使えるようになるきっかけにもなるかもしれない。
せっかくの異世界なのだから魔法は使ってみたい。
鍛錬にも気合が入るというものだ。
とりあえず今日は、もう眠ることにする。
赤ん坊の体で無理は禁物だ。
『鑑定』で魔力をぎりぎりまで使用し、ステータスを閉じて眠りについた。
▼▼▼▼▼
異世界であることの確証を得た日から数日が過ぎた。
翌日から検証と鍛錬を始め、いろいろとわかったことがある。
母親がお乳を与えに来た時に、目の前で岩壁の『鑑定』を試みたがばれることはなかった。ただ、魔力の変動には気が付かれたようで、母しばらく私を凝視していた。
そのこともあって、人に向かっての鑑定は行っていない。さすがにばれてしまうが高すぎる。
そのため『鑑定』の鍛錬といっても、岩壁を対象に魔力が尽きるギリギリまで行った後、魔力が回復するまでの間に魔力把握の意識集中を行うというサイクルを繰り返すだけである。
ステータスは周りから見える可能性もあるため、一人になったときに確認することにしたが、これがなかなか難しい。 基本的に母親あるいは家族の誰かが近くにいるため、一人になる時間が非常に短いのだ。夜は特に、隣に母親が寝ていて不可能だ。
加えて、赤ん坊であるこの体を完全にコントロールすることができておらず、気づいたら寝てしまっていることが多い。以前ステータスを確認した時の様に、昼の方が一人になる機会が多いのだが、体が睡眠を欲してしまい気づいたら夜になっていることがほとんどだ。
その結果、初めてステータスを確認してから今日まで一度も確認できていない。
魔力の把握に関しては少しずつ進展している。
以前よりはっきりと感じ取れているとは思うのだが、まだまだ明確なものではない。
じっくりと時間をかけて鍛えるしかないのだろう。
これまでの振り返りはさておき、久しぶりに一人になれているので、二度目のステータス確認を行うことにした。
(ステータス)
名前 ムルト=バジーリア
種族 ハーフリング
性別 男
年齢 0
<能力値>
体力 5/5
魔力 23/24
力 0
耐久 1
器用 0
敏捷 0
知力 8
精神 6
<技能>
戦闘系 なし
生産系 なし
技術系 なし
特殊系 鑑定1
魔力適正 火・水・風・土・光・闇・時空
<恩恵>
武術の心得
心体の極み
(<技能>に変化はないようですが、魔力の最大値が上がっていますね)
魔力の最大値が10から24に上昇していた。
このこと自体は嬉しいのだが、数日で倍以上に増えるのはかなり異常にも感じる。
上昇についても検証してみたいが、急に訪れる睡魔のせいで日にちの感覚がつかめず、さらにはステータスを自由に確認できない現状では難しい。しばらくは今のやり方を続けていこうと思う。
一方で、<技能>については全く変化がない。
鑑定は頻繁に使用しているのだが、技能レベルの上昇は見られない。
同じものを鑑定しているせいなのか、それとも、もともとレベル自体が上がりづらいものなのかは不明だ。
そもそもこの数字がレベルですらない可能性もあるが、一先ずは鍛錬を続けていこうと思う。首を動かして視認できる範囲では限界があるが、今後鑑定するものを増やしていくことも考えておこう。場合によっては、人に向けて使用することも考えなければならない。
魔力が増えていたので使用頻度は今よりも遥かに多くできるのが救いだ。
今の私では検証できることに限りがあるため、成長するのが待ち遠しい。
今日のところはいつも通り魔力をギリギリまで消費し、魔力の把握に努めた。
そして、これもいつもと同じで、鍛錬している途中で眠りについた。