新入社員、神崎さん Ⅰ
私の名前は神崎花。新社会人として'税理士法人しずく'で働き、3ヶ月がたった。税理士法人と名前がつくので、お察しのとおり、私の仕事は税理士をしている。さて、この業種は少し特殊なので、本田さんのお話に入る前に少し説明させてほしい。税理士は医師や弁護士といった職業と同様に国家資格だが、税理士資格がなくても税理士補助としてほぼ税理士と同じ仕事ができるお仕事です。あるサイトランキングでは高難易度国家資格でベスト5位入りをしている、難しい資格なので私はもちろん持っていない。さきほど私の職業は税理士といったが、正確には私の仕事は税理士補助業務。
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簡単にいうと、税理士とは、経営者の良き相談パートナーということである。
だが、私は3ヶ月しか働いていない身で知識ほぼゼロ。お客様の相談に的確にアドバイスを行い信頼をしていただく、とは上手くいかないので、先輩社員の本田さんに学ぶ日々です。
「神崎さん、昨日提出してもらったS商事の報告書チェックしたから、先方に試算表を送付してください」
「は、はい」
本田さんは私の教育係です。しかし、問題があります。本田さんは怖い。どんなところがと聞かれたら、そっけない物言いで抑揚なく話し方である。無表情が怖い。メガネは賢さよりも威圧されている気がする。とにかく初対面からの印象が未だに変わらず、声をかけられただけで、びくびくと怯えた反応をしてしまう。
冷えた生ビールをごくごくと飲み干し、ふっと息を吐いた。
就業後、今日は若手陣のみの会社の飲み会で、居酒屋に来ていた。5年目までの未婚の職員たちで交流とのことで社長からお金を預かってきている。ちなみに本田さんは8年目のベテランなので、今回は出席されていない。
「神崎さん、会社にはもう慣れましたか?」
隣に座っていた、4年先輩の早崎さんは面倒見が良い人である。休憩中にはちょくちょく声をかけてくれる優しい方だ。
「はい。会社には慣れましたけど、仕事は全然ですね。
分からないことは本で調べているんですけど、言葉が難しいから読み取りが難解ですね。」
・・・そう、社会人になって一番困ったことが、質問がしにくいということである。外出が多いから社内に人がいないことはしょっちゅうである。そして誰もが自分の仕事で新人の話を聞いてくれそうにないのである。
「そうだね。法律用語がちょくちょく入ってるし、未だに俺も悩むね。
一人で悩んでも解決できそうになかったら、質問するってのも有りだと思うよ。
まあ、質問の仕方には注意しないといけないけど。
ほら、自分で一通り調べてもいないくせに、これってどういうことですか。って答えのみ聞いてくるのは、社会人としてどうなのって思うでしょ」
後ろにゆとり世代はやってしまいそうだなって語尾につきそうですが、と思った。
「あ、あと神崎さんって本田さんのこと苦手でしょ。」
「そ、そんなことないですよ」
本田さんの話はやめてほしい。目の前に本田さんがいるようにドキドキしてきたじゃんか。
「はは、図星でしょ。でも、先入観に囚われないで話するのがいいよ。教育係なんだし、仕事に支障をきたすようにね。」
うう、早崎さんって人をよく見てるよね、確信つかれちゃったよ。
こうして飲み会はお開きになった。
どうやら、周囲から見ても本田さんとはぎくしゃくしているらしい。
社会人として、仕事はきちんとやらないと!
明日は、自分から話せるように頑張ろう。