1話 今回の題名
神様がいるとすれば、それはどんな存在だと思われますか?
おおよそ宗教じみた話をすると、人は拒否反応を示すか過剰に食いついてくる。今の邪馬中秀臣にとって、神様はクソッタレのしみったれに違いない。
くすんだ空の下、S県立大学のキャンバスを歩く彼の目は、死んだ魚のそれだった。短い前髪の下に見える瞳は、どんよりと空以上に濁っている。黒目は、忙しなく動いていて焦点は捉えところがない。
足取りは負傷兵の如く重く、時折、動きを止めては通行人の邪魔をする。空想に浸っているのか、天を仰いで考えること数秒――漏れ出るため息に注意を向けるものはいない。
仮にいるとしても、どうせ講義やシューカツに憂鬱を感じているのだろう……ぐらいの感想しかもたないだろう。鈍色のパーカーに、スポーツブランドのリュックサック。メガネこそかけていないが、根は真面目に見える顔立ちをしている。
この馬の糞ほどに面白みのないのが、邪馬中秀臣という男の特徴でもあった。
「……深白……」
二回目のため息は、誰かの名前とともに漏れ出る。
秀臣が再び歩きだそうとした、その時――後ろから肩を叩かれた。振り返り見れば、秀臣からすれば見知らぬ女がそこにいた。
「ねぇ、おにーさーん」
胸元が見えるオフショルダーに、ローライズのデニムパンツ。長ったらしい明るい茶髪に、へそもばっちり見せる、ギャル……にしては化粧の薄い女だった。まるで大学に溶け込もうとして、ファッションだけ真似したような感じだ。
「おにーさんってば……暇?」
「は?」
訝しんでいる間に女は、しげしげと秀臣の顔を観察する。秀臣もまた、この意味不明なナンパ女の真意を探っているように見えた。だが、次に彼女が吐いた言葉は秀臣の表情を、神にでも会ったかのようなものへと変化させた。
「ねぇ、深佐和深白とまた話ができるようにしてあげよっか?」
着いて来て、と女は告げると秀臣の返事も待たずに歩きだす。秀臣には、追いかけるという選択肢しか残されていない。そうなるように、私は彼の運命を書き換えておいたのだから……。