第四話:「龍の目覚め・4」
とりあえず、なんだかんだで俺は今日からこの青林高校で学ぶこととなった。
ここまでくるのにどれほど苦労したことか…。
こないだ俺は偶然助けた少女、橋本八雲のお礼?により、彼女父拓馬の経営するアパート
「希望館」(正直、名前に見た目が追い付いてないと思う)に下宿することになった。
俺は決まるや否やすぐに姉貴ん家に置いてあった荷物を取りに行った。
姉貴はその際、終始ブスッとしていた。
「何怒ってんの?姉貴。」
「いくらなんでも早すぎでしょ、せっかく久しぶりに会えたのに。あんたには肉親の情ってのがないの!?」
んなおおげさな…。
「でも、姉貴にはいつも迷惑かけっぱなしだな。悪い、たまに顔出しに来るよ。」
「もう…。でも本当にあそこでいいのね?」
「ああ、とりあえず学校近いから楽だし、美少女はいるし、それに家賃安いからな。上京したばっかりのガキにはちょうどいいボロさだぜ。」
姉貴は呆れたように首を振った。姉貴はまだ頬を膨らましていたが、俺が一度決めたら絶対やると言う性格を理解していたし、何とか納得してくれたようだった。
「それじゃ、体に気をつけてね。あんま無理しちゃだめよ?」
「わかってるよ、俺だってそんなにバカじゃない。程々にするさ。」
「うん…、ならいいわ。」
こうして俺は姉貴のもとから離れて、
「希望館」で新たな生活を送ることになった…のだが。
「う〜ん、あのね、龍岡君。悪いんだけど君は一階に住んで貰いたいんだ。」
管理人の拓馬さんが申し訳なさそうに言った。まあ、当然だな。何しろこないだ2階の階段はぶっ壊れて、通れなくなっちまったんだから。
幸いなのはこのアパートに住んでんのがこの父娘と俺だけで、迷惑がかからないと言う点だ。
…にしても。ボロ過ぎだろ。部屋に入った時、さすがにあきれかえった。直しとけと言いたい穴が2、3ある。風が吹き込んで、寒い。直せないほど貧乏なのか、正直再び激しく後悔した。
しかし、いつまでも悔やんでばかりでは仕方ない。俺はとりあえず、最低限穴は防ぎたいので工具屋に向かい、道具と木材を手に入れることにした。
木材屋に向かうと、途中のコンビニでこの前の不良、
「アフロ」と
「歯抜け」、そしてその取り巻きがいた。
やつらも俺に気付いたらしい、近付いてきた。
「てめぇ、こないだはよくもやってくれたな〜。」
「今度はぜってぇぶっ殺してやる!」
ったく、懲りない奴等だ。だが、こういうのは嫌いじゃない。奴等が殴りかかってくる…。
…2、3分後、俺は奴等を片付けて木材屋に入った。なかなかちょうどいい形の板がない。…仕方ない、大きいの買って切るか。
などと考えていると、店員らしい少女(年は14、5か?)が近付いてきた。
「何探してるの?」
「いや…、大したもんじゃないんだが…。」まさかボロアパートの修理にいる板を探しているとは言えない。
「い、犬小屋を作りたいんだが、ちょうどいい板が見つからなくてな…。」
とりあえずごまかしておく。
「ふ〜ん、さっきのケンカっぷりを見るとそんなことする人には見えないけど?」
見てたのかよ…。
「ねっ、お兄ちゃんさぁ、結構ケンカ強いんだね。初めて見るけど、引っ越して来たの?」
喧嘩強い?とても女の子が言う言葉じゃないだろ。まるで姉貴のようだ。
「とにかく俺は
「犬小屋」に必要な板が欲しいんだ、置いてないか?」
少女は疑いの目を向けたが、とりあえず手頃なサイズの板がある場所へ案内してくれた。
俺は必要な板を探し始めた。
「あのね、最近さ、この街だと喧嘩は日常茶飯事になっちゃったんだけど、不良をのしちゃうなんてもうこの街じゃ珍しいの。それに、いくら弱くても不良グループ5、6人をあっさりやっつけるなんて驚いたよ。」
俺は最初から最後まで無視を決め込むつもりだったが、さっきの言葉に眉をひそめた。
「弱い…?どうして?」
俺が反応したことが嬉しかったのか、笑いながら答えた。
「うん、あたしもいつも女の子を助ける度にやっつけてるんだ。あいつら、弱いくせに可愛い女の子にからんでんの。ムカついたからぶっ飛ばしてやったわ!」
「へぇ…。」
人は見掛けによらないと言うか、この細い足でよくもまぁ…。それに普通女がぶっ飛ばすなんていうか?
北海道ではいなかったな。にしても、どこまで弱いんだ、あいつら…。いや、彼女が強いのか?
少女に感心し、不良に呆れながら板の山を漁っていくつかいい板を見つけた。これなら穴も防げるな。
「そりゃ大したもんだ、不良どもを叩きのめして女の子を助ける。まるで正義のヒーローだな。」
少女はムッとした。
「助けようとする人があたし一人しかいないからよ。誰かが困ってても見て見ぬふり。一か月前はまだ何人かいたんだけど、不良グループのリーダーみたいなのが来てから、すっかりそんな人がいなくなっちゃった。」
また聞いたな、その
「一か月前」って単語。
「何なんだよ?そのリーダーってのは。」
俺は選んだ板の代金を払いながら聞いた。
「知らない。でもなんか関東中を取り仕切ってるやつみたい。」
「ほう…。」
どうやら東京にきた甲斐はありそうだ。そんなことが頭をよぎる。そして、少女は代金のおつりを俺に渡して微笑んだ。
「毎度ありがとうこざいました。また来てね。」
「ああ、
「犬小屋」が壊れたらまたな。」
「あたし浅野海。お兄ちゃんは?」
「俺は龍岡奨だ。」
「じゃあ、奨お兄ちゃん、またね!」
「あー、またな。」
こうして俺は海のいる木材屋を後にし、ボロアパートで穴を塞ぐことに奮闘することになった。
しかし、俺はまだ気付いていなかった。この不良のリーダーとやらが俺に深くかかわってくることに…。