第三話:「龍の目覚め・3」
「自己紹介が遅れましたが、私、橋本八雲っていいます。どうぞよろしくお願いします。」
「私は龍岡洋子、こっちは奨。こちらこそよろしくね、八雲ちゃん。ほら、あんたも挨拶!」
「どうも…よろしく。」
「何よその無愛想な返事。格好つけてんの?プッ。」
姉貴が笑ったが、無視した。
俺は元々こういうタイプの女の子は好かない。
前にも話したが、俺はたまに相手の心が
「感じれる」ときがある。その時、いい人に見えてた奴が、実は最悪だった何てざらにある話だ。
だから信用出来ないなんてひねくれてると人は思うだろう。
しかし、幼い時から人の醜い部分しか見れなければ、こんなひねくれたガキも出来る。
歩いて数分すると古ぼけたアパートが見えた。
「あそこです、あのアパートは私の父が経営しているんですが、そのぉ、少し問題が…。」
問題?
「あ、でも学校に近いし、家賃すごい安いですよ!」
八雲がとても可愛い顔で微笑む。おそらくこの顔を見たら、ほとんどの男が部屋を借りるのだろう。
しかし、この笑顔があっても±0になる、いやむしろ−になるほどのヤバさがそこにはあった…。
とりあえず、彼女はおいといて自分が住むかもしれないアパートを一目見ることにした。
「着きました、ここです!」
「…ぼ、ぼろっ!」
思わず声が出てしまうほど…ぼろかった。正直、なんかもうその一言にしか言えないな。
2階への階段が今にも崩れ落ちそうな…。しかもあっちこっち穴が空いてて、なんか風が吹き込んできそうな感じだ。
第一印象から決め付けたくはないが、住みたくない。
そんなことを思っていると、2階から扉が開く音がした。
「あ、お父さん!」
ドアを開けて出て来た男はなんか、だらしない男を代表したような出で立ちだった。
頭にはちまきを身に着け、Tシャツ一枚、ジーパンをはいていて、体つきは…腹が出ている。
姉貴も俺も八雲が父と呼ぶ人物を見て、本当に父娘か?疑ってしまう程だった。
「もう、なんでだらしない格好をしてるの?久し振りにうちに入居してくれる人が見つかったのに。」
「本当かい?いやぁ、こんにちは。この子の父の橋本拓馬です。入居者は大歓迎です。」
え、すでに俺は入居者になっているらしい、冗談じゃない。
「いや、俺はまだここに住むと決めたわけじゃ…。」
「えっ!?ここに決めてくれたんじゃないんですか!?」
「え、いや〜、さすがにこんなボロじゃ…なぁ?」姉貴に同意を求める。しかし…。
「あたしは関係ないし〜。」
こんな時だけ他人のようにするなよ。
「だってあんた、あたしンちじゃ不満なんでしょ?だったらここでいいじゃない。」
…まだ文句言ったこと根に持ってやがる。
「やめちゃうんですか?そんな…、それじゃここ、潰れちゃいますよ…。」
卑怯にも八雲が女の子の必殺技
「涙」を使いやがった。八雲の瞳が涙で潤む。
「うっ…。」
「ここにすれば?ほら、学校近いし。」
姉貴が横槍を入れる。くそっ、トコトン根に持ってやがる。
「お願いします!」
八雲が頭を下げる。くそっ、こういうことされると断れないのが俺の悪いとこだ。
「ああ、わかったからもう頭上げてくれ。ここに住ませてもらう。」
八雲が潤んだ瞳を俺に向けた。
「本当ですか!?ありがとうこざいます!」
姉貴がニヤニヤしながら俺を見た。
「あ〜あ、本当奨は女の子に甘いんだから。このこの。」
けしかけた本人が何を言うやら。全く…。
そして、八雲の
「父」と呼ばれる人物も礼を述べてきた。
「本当にありがとうこざいます。マジで冗談抜きに潰れかけですからね。」
そんなにヤバいのか、ここ。だが、この人を見てるとそんな風に見えんな。
「よろしくお願いしますね。それじゃ、私原稿がありますので。」と言って彼は階段を登っていった。
「あの、じゃあどの部屋にします?」
「あ、そうだな。さて、どうするか…。2階ってのも悪くないな…。」
そんなことを考えていると、
バキッ!ズドン!!
「な、なんだ?」
なんと階段途中の段差のところが外れてそのまま、橋本さんが地面に激突したのだ。
「あはは…、こりゃ完全にガタがきてるねぇ…。」
「お父さん、大丈夫!?」
と八雲が駆け寄った。
突然のことに呆然となったが、そのうち姉貴が笑い出した。
「アハハハ、奨!あんたにぴったりのアパートじゃない。頑張れ!アハハハ!」
俺はふと、まだ北海道にいた方がマシだったなと深く後悔したのだった…。