第二話:「龍の目覚め・2」
正直、ここまで遠いとは思わなかった。
姉貴の言った通り、ここまで2時間以上かかった。
やってられん、俺は一応不良だ、2時間以上電車に揺られて馬鹿正直に学校なんざ行けるか!
やはり姉貴の住んでるところじゃダメだ。
俺は転入の手続きや試験、挨拶をするために姉貴と学校へ行った。
一人でいいと言ったが、ぴったりとついてきやがった…。正直ハズい…。
その帰りの途中、とりあえず高校の近くに自分の住む場所を探すことにした。
「ったく、意地張んないであたしのところで通えばいいのに。」
「冗談じゃねぇ、毎日毎日2時間もかかって、学校なんかいけるか?」
俺は学校の通学路である坂を降りながら、いいところはないかと街の辺りを見回した。
坂を降りきると、街中の商店街の真ん中で不良達が睨み合っていた。
不良の一人の
「アフロ」が怒鳴っている。
「ああっ!?その子は俺が声かけたんだよ、てめぇは引っ込んでろや!」
相手の
「歯抜け」が言い返す。
「ざけんな!俺が先だ、俺が!」
二人の取り巻き達もお互いに罵り合う。
どうやら、
「アフロ」と
「歯抜け」が不良達の中心らしい。
奴等にからまれている少女がなにか(猫か?)を抱いて震えている。
まあ、女の子だから仕方ないな。周りの人々は助けに入ろうか入るまいか悩んでいる人もいれば、そのまま通り過ぎる奴もいる。
ま、そんなもんだな。人ってのは。
そして、見兼ねた姉貴が俺の肩を叩いた。
「助けてあげなよ。」
言われずとも行くさ。ただし、助けるためじゃなく、喧嘩するためだが。
「おい、そこの爆発頭と歯抜け、ちょっとこっちむけや。」
馬鹿にされ、不良達がこちらを向いた。
「んだと!?てめぇ、知らねぇ顔だな、誰だ!?」
「ぶっ殺されてぇのか、失せろコラ!」
俺は指を鳴らしてバカどもを挑発する。
「ごたくはいいから、かかってこいよ。」
あとついでに棒読みに
「その女の子からも離れろ、てめぇらの臭い息がかかって苦しいとよ。」
…正直こういう人助けのセリフは苦手だ。
しかし、奴等はその言葉でキレたようだ。
「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!コラァ!」
「アフロ」が拳を固めて殴りかかってきた。それをかわして、顎にアッパーを見舞ってやる。
「アフロ」が倒れると
「歯抜け」も襲いかかってきた。
こいつら、口だけでてんでたいしたことない奴等だ。…がっかりだな。
「歯抜け」に右をお見舞いするとさらに歯が折れて、
「歯なし」になった。
顔が赤く染まって、
「歯なし」が喚き散らす。
リーダー格がやられると取り巻きはあっさり退散して行った。
奴等が逃げた後、姉貴が少女に駆け寄った。
「さすがね、あっさりやっつけちゃった。」「あんなやつら…つまんねぇよ。」
俺が吐き捨てるように不満をあらわにすると、姉貴は苦笑した。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ありがとうこざいます。」
震えていた少女が立ち上がって礼を言った。
よく見ると彼女は相当な美少女だった。
髪はショートヘアで、整った顔立ち、着物がよく似合いそうな…。
「すいませんでした。私、ボーッとしてて、そうしたらあの人達にぶつかっちゃって…。」
「よくああいうのがいるの?」
「はい、前はそんなにいなかったんですけど、あの…、この近くに…不良っていうんですか、そういう人達の中で有名な人が来たみたいで、ここ一か月ですごい多くなったみたいで…。」
「へぇ…、そうなんだ?ねぇ、じゃあもしかしてあんたにはちょうどよかったんじゃない?」
「だと…いいけどな。」
もしその有名な奴ってがさっきのみたいだったら、北海道の方がマシだぜ。
頼むからそれだけは勘弁願いたいね。少女が俺の方を見た。(正確には制服の方をだが)
「あの…、もしかして新しく転入してくる人ですか…?」
頭を掻いて答える。
「ああ…。」
姉貴が俺の髪をクシャクシャにして言う。
「それがね、こいつったら、東京にある私の家じゃ遠くていやだっていうのよ〜。あのさ、いきなりで悪いんだけど、この近くにこのバカが住めるとこないかな?アパートとか。ボロボロ潰れかけでいいからさ。」
人事だからってむちゃくちゃ言いやがるな。
少女が考える。
「ボロボロ、潰れかけですかぁ…。」
いや、それは条件の内に入れんなよ。
やがて少女が思い付いたらしく、
「あの、もしよかったら…。」
「えっ、あるの?」
「はい、こちらです。」
俺達は少女の後についていく。
姉貴がニヤッとして俺を見る。
「ねっ、人助けっていいもんでしょ?」
なんか…前にも増してしたたかになったな。
少女の抱いている猫が、俺の思いを肯定するかのように鳴いた。