第7話 永遠の不幸タルタロスの国
そこには国はなく、とてつもなく大きい穴があった。ここに国が在ったのかと思わせられるほどの底が見えない穴。周りは草原で、今にもモンスターが襲ってきそう。それとともに下からものすごい邪気が感じられる。2人は恐怖した。たったさっきまであったのに。
後ろから草を踏む音が聞こえる。だが2人は振り返らなかった。そんなことよりも穴の方が気になってしまうのだから。そしてその足音がとても怖かったから。
声がする。女性の声。2人が狂信者が現れた時、聞こえたのと同じ声。聞きなれたあの声。
-クトゥルフ神話はこの世界に気づき弄んでいる 来てはいけないと教えて-
思わず2人はひぃ!と声を上げてしまった。少しトサトサと足音がすると音は消えてしまった。とても臆病な銭子は瀬乃華の手を掴む。手は震えていた。銭子は膝をつき怖いと言っている。その震えを瀬乃華は抑えようとする。
「銭子ちゃん。私だって怖いのは同じだよ。神殿の魔物はきっとこの穴の中。いこう?」
一息つく銭子。そしてうんと立ち上がる。瀬乃華は銭子を抱きその自慢の足で穴の壁を蹴り先が見えない穴の中を進んでいく。
どれだけ走っただろうか。足も限界になってきている。邪気も増し動きがゆっくりになってしまう。それを利用し降りて行っている。声は普通に出る。まだ底は見えない。
「舞歌さんはいつも、生と死なんてない、って言ったんだよね。それにクトゥルフはいつでも弄んでいるだとか」
舞歌はいつも何かを思い出しているかのように言っている。本当かどうかなんて誰にもわからないかもしれない。
邪気はどんどん増し底が見えてくる。そこはさっきあった王国が屍の匂いに包まれ、蜘蛛の巣の張る家々。神殿の魔物はここにいるのかと思うとさらにぞっとする。
とうとう着陸。空中と違い普通に走れたりもする。
「城に行こう」
そう言うと瀬乃華は銭子を引っ張り全速力で城に向かう。そのスピードは一般人ならばなにか通ったか程度にしかわからない。
途中、何か見つけた。鞭だ。その鞭を拾いまた走る。
城の中はほとんどが水だった。強いて言うなら膝まで水が使っている。波はないようだが進みにくい。
「…来る!」
瀬乃華が叫ぶ。予想通り、波と影が近ずいてきて。恐怖は抑えられない。瀬乃華は察した。銭子の恐怖を。
「あ…う…」
呆然と立ち尽くす銭子。瀬乃華は思い出す。神話生物は運が良くなければ発狂する可能性があるということを。銭子は目を見開いたまま仰向きに倒れる。バシャンと水の音を立て水に濡れる。
「私は奇跡的に運が良かったんだね。銭子ちゃんは違う意味の奇跡的」
魔法が使えない今どう対抗しよう。ねえ舞歌さん、こんな時どうしろと言えばいいんですか?
考えに考えた。その時思いついたのは水ということ、水には地、そうだ、地の邪神、ニャルラトホテプを召喚すれば。