第5話 クトゥルフの迷い子
「瀬乃華ちゃん!起きて!」
銭子は酔っ払って寝込んだ瀬乃華を起こす。
「うー…おはよう銭子ちゃん」
「そんなこと言ってる暇じゃないよ!いきなり狂信者が来て!アザトースとかを召喚するなんて!」
「はわっ⁉︎」
酒場の客も、ロールもいない。いそいで広場に行く。人がフードを深く被った者を怒鳴りつけている。だがフードを深く被った者は怒りを無視し召喚を続けている。
「遅いぞ瀬乃華!」
瀬乃華と銭子を見つけたロールは焦っている。攻撃が全く通用しないと。
(クトゥルフ神話…舞歌さんならどうするんだろう)
瀬乃華は小説のネタ帳を見て思う。その時どこかから聞きなれた声が響く。
一まったく、乱入者ね。迷惑ねえ一
その声は瀬乃華と銭子だけに聞こえた。一瞬で狂信者が消える。
「だ、誰?」
思わず声が出る銭子。ロールは銭子のその声は聞こえていない様。
それぞれが戻る。瀬乃華と銭子も酒場に戻った。
「それじゃあ次の依頼はこれだ」
ロールは依頼書をテーブルにバンと置き見せる。
クトゥルフの迷い子
この世界にクトゥルフが迷い込みました。迷い込んだのはダゴンです。
報酬はエイボンの書。よろしくお願いします。
「…依頼人は…」
依頼人はエニという少女。親を殺されたらしい。
「受けます!」
即答の瀬乃華。
「おう、それじゃあいってらっしゃい!」
「いってらっしゃい!」
他の客がロールに続いて言う。
「ここだね。こんにちは」
銭子扉を開ける。中には丸い木の机と3つの木の椅子。横には水道と釜戸がある。奥に寝室が見える。1つの椅子に少女が座っていた。
「こんにちは。私が依頼者のエニです。それではまず場所を言いますね」
穏やかな声のエニ。場所はここからそれほど離れていない村の隣にある廃墟の神殿。
「ここは縁結びの神殿です。今は悪霊が住み着いて、何度も人々が行っているんですよ。その隣の村は、私が元々住んでいた村です。この家は祖父母の家です」
「村は…」
「もう誰もいません。みんな攫われて、何をされたかは私にもわかりません。生き残っている村人は私と近所に親戚がいた親友です」
「それじゃあそのおばあちゃんとおじいちゃんはどこ?」
「買い物で行っています。あと5分で帰ってきてしまいます。あ、依頼したのは言っていないので、エイボンの書は拾ってきたものです」
2人の質問にきちんと答え、地図を渡されすぐに2人はその場所に向かう。
ふと銭子は前を歩いている女性に目がいく。
「…!お姉ちゃん!」
その女性は建物の角を曲がり消えてしまう。