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「生きる意味」改訂判

作者: jfk3363

まえがき

この物語初めに、最近私自身が感じている事を話してみると、「幸せ」とか「生きがい」とか若い頃には、

考えもしなかった事をよく考えるようになった。

昨日の朝のワイドショーで悲しい事件として取り上げられていた「ニュース」、この母娘を不幸な人生と伝えられていた。

いつものように朝の支度をしながら、なんとなく見ているテレビに、ふと「本当に、そんなに不幸なのか?

」と独り言を云ってしまった。

と云うのは、今の自分の環境と比べて考えてみると、今の自分は、東北の中小企業の末席の役員をしていて、云わば、もう既にお荷物的存在、50も半ばを過ぎ、中年と云うより初老の自分を、誰も必要としていない。

一日中、会社に居ても電話が鳴ることもほとんどなく、無意味な時間をなんとなく過ごしている毎日、たまに「Aさん社長からです。」と事務員から呼ばれると、そろそろ退任の話かなと、いつも思うけど、それは無いが、ただなんとなくそれを期待している自分がいる。

電話の内容は、ほとんど社長の代わりに、ゴルフへ行ってくれと云うようなこと、他の役員でゴルフをする人がいないので自分にまわってくる、今の自分にとって、数少ない貴重な「役に立っている」「必要とされている」と実感できる時間。

こんな日常になってからすでに五年以上経っているように感じる、正確には、よくわからない。

実は、もっと長いかも記憶は希薄だ。

朝起きて会社へ行き、パソコンの前へ座って、その後は、トイレと机の往復、たまに今日が何日か何曜日かの記憶も薄れる。

こんな境遇の自分が出社前の、いつものようにつけっぱなしのテレビからながれているワイドショーのアナウンサー声に反応したのは、その事件の女子中学生についてのレポートを聞いてから、この事件は、結して不幸な事件ではないと感じたからだ。

第一話「生きがい」

彼女の一日は、新聞配達から帰ったら朝御飯の支度をしながらまず「おはよう」と母親に声をかける。

次に、「今日の調子はどう?」と何度も同じ言葉をかけ、母親の具合を気にかける。

朝は、大体無表情のまま反応は無い、いつものことだ。

父親は、彼女がまだ幼い頃離婚してからは、一度も連絡を取っていない。

離婚後の生活は、母親が、昼夜を問わず働きながら彼女を育てたが、彼女中学に入った頃倒れ、そのまま寝た切りが続いている。

それからは、彼女が母親の介護をしながら生活保護も受け取らず、新聞配達で得た収入だけで、精一杯節約して、ギリギリの生活をしている。

食事の支度が終わると、急いで学校へ向かう、そこからは幸い、新聞配達をしているのでチラシは手に入るから、それを見て今日の夕食を何にするか考える。

学校の帰りによる、いつもの八百屋では、ジャガイモ一つ選ぶにも、段ボールの中ものを全部触るので注意される。

「ねえちゃん、売り物にならないじゃねいか。」「いい加減にしろ。」

彼女の家の事情など知らない八百屋の、容赦なく怒鳴る。

ようやくジャガイモ一個と玉ねぎ一玉を選ぶ。

もちろん彼女の家では食べ物を捨てるということはあり得ない、母娘二人は、生きる為に精一杯、無駄は一切ない。

ところで、学校での彼女は、ほとんど無口で、友達らしい子はいない。

休み時間も教室で過ごし、教科書に目を通して一人で居ることがほとんどで、他の生徒との会話はない、だから彼女の日常を知る人はいない。

同級生の女の子は、男の子の事や、おしゃれ、遊びの事で頭の中は、いっぱい、彼女は、今日のチラシから夕食を何にしようかで頭がいっぱい。

同い年の子とは、あまりにも境遇が違う。

制服の代えはなく、一着を大事に三年間もたせるつもりだ。

同級生が彼女に無関心なのは、彼女にとって幸いだ、とにかくとにかく一円も無駄にしたくはない。

彼女の生活は、母親の介護と、食事の支度、生きることで精一杯だ。

そんな中で、ささやかな夢と云えば幼い頃、母親の膝枕で昼寝をした思い出、もう一度母親の膝枕でゆっくりと寝てみたいと云う、ほんの小さな夢だけだ。

今日も、学校が終わると真っ先に例の八百屋へ直行、チラシで選んだ特売品を買いに行く、八百屋の親父は、彼女に気付き「ちぇっまたか」とこれ見よがしに舌打ちをしたのが聞こえても、一切気にせずに今日の特売品のトマトとジャガイモを一つ一つ品定めして、一個づつ買って、夕食の支度をするためにアパートへ急ぐ。

母親の喜ぶ顔を想像しながらの充実した時間だ。

アパートの階段を駆け上がってドアを開けて大きな声で「ただいま」と云うと、普段は、夕方になると、体調が落ち着いているはずの母親からは「おかえり」と小さな声が聞こえるのだが、今日は、何も聞こえない。

玄関から寝室を覗くと、ベット上で正座しているのが見えた。

「今すぐ作るね」と云って、すぐに夕食の支度、ポテトサラダとトマト、ごはんとみそ汁、出来上がって母親に「できたよ」と、返答はない、部屋に入ってもう一度声をかける母親からは何の反応もない、彼女は、もう気付いていた。

台所へ戻りガス栓を開き、そのまま母親の膝枕へ、やっとずーっと待ち望んでいた夢を手に入れた瞬間。

それと同時に、彼女の「生きる意味」のすべてを失った。

これは、本当に悲しい不幸な母娘の話なのだろうか、彼女の顔は、幸せそうに、微かにほほ笑みをうかべて眠っているように見える。

きっと幸せな夢を見ているのだろう。

私には、母親との生活にすべてを捧げ、最後にささやかな夢を手に入れた、密度の濃い充実した「幸せ」な人生に思えた。

第二話「目標」

彼の名を仮にマニーとしておこう、と云うのは、フィリピン人の男の名前は、それしか思いつかなかった。

まあ、ボクシングの、マニーパッキァオのファンと云うだけのことだけど。

彼は、日本人の父親とフィリピン人の母親の間に、マニラで産まれた。

父親は日本で、警察に追われマニラのスラムで、身を潜めるように暮らし母親がホステスとして働き、なんとか苦しいながらも、生活を支えていた。

そして、マニーが、まだ物心付いていない頃、父親は、若いホステスと部屋を出て行き、それからというもの母親は、酒とクスリ漬けの日々となり、当然のごとく、父親が出て云ってから、一年あまりで死んだ。

その後、マニーは施設に預けられ、同じような境遇の少年たちと逞しく育っていた。

今の、マニーの日課は、朝起きてすぐ布を縫い合わせた自家製のサッカーボールでリフティングすること、それは朝食の前まで続く、朝食が終わって、教室までまたリフティング、ここは、両親のいない子や、子育てを放棄された子供たちを預かり、教育や、生活の面倒をみる施設で、彼は、幼い頃母親から聞いた言葉「あなたのパパは、サッカーが大好きで、テレビでワールドカップを全試合観ていたよ。」と云う言葉を信じて、ワールドカップに出れば、必ず自分に気付いて会いに来てくれると思い、来る日も来る日もサッカーの練習に明け暮れていた。

ただ、彼は、生まれながらに心臓に欠陥があり、激しい運動は止められていた。

このような境遇にも関わらず、グレモせず、ただ一途に、すべての時間をサッカーに費やしている。

しかし、ここフィリピンに於いてサッカーは、マイナースポーツで、アジアの中でもかなりレベルが低く、

プロスポースとしては、あまり意味がなく、よく友達に「マニー、サッカーなんかして何になるんだ。」

と云われる。

施設の友達は、なんでそんなにサッカーにこだわるのか理解出来ないらしい。

フィリピンでのメジャースポーツと云うと、バスケット、ボクシング、ビリヤードぐらいで、彼の存在は、完全に埋もれていた。

ましてフィリピンが、ワールドカップに出るなんて、よほどの奇跡がなければあり得ないが、いつか彼は、プロになり、代表に選ばれることを夢見て、この年頃の少年にとって大事な時間を犠牲にして、サッカーに打ち込んでいた。

その甲斐あって、彼はフィリピンのトップ選手と云われるくらいにまでなっていた。

今から二年後には、ロシアでワールドカップが開かれる予定、当然彼は、フィリピン代表に選ばれて予選に出場し、彼の活躍により最終予選まで来て、対戦相手は、日本、この試合に勝てば、ワールドカップに初出場。

マニーは、センターホワードとしてマニラでの試合に出場。

日本は、すでに出場は決めていて、主力選手は、出てはいないが、過去一度も勝ったことがない相手、今までは、二桁得点は、当たり前にとられているが、マニーは、必ず勝って父親が観てて、きっと会いに来てくれると信じている。

ここまでは、彼の活躍と、全員の体を張った守備であと一勝まで来ている。

マニーは、絶対にワールドカップに出れると信じていた。

彼の父親は、また昔のヤクザの世界に戻り、再びフィリピンに来てマニラで、ドラック、銃、ギャンブル、売春などの仲介をしている。

その日も、マニラの繁華街のスポーツバーで一杯飲みながら、なんとなく中継を見ていた。

もちろんマニーが、自分の子供などと気付かずに「フィリピン野郎になんか負けるはずがない!」とつぶやいた。

すぐ隣で、日本を応援する男を、苦々しく見ているフィリピン人のチンピラ風の二人組の男、なんとなく不穏な空気が流れている。

それとも気付かず「フィリピン野郎を、蹴り倒せ!」など汚い言葉を吐きながら、安酒をあおっていた。

試合の方は、大詰めで0対0、負けるはずのないと思っている日本は、ゴールキーパーを除いて、全員で攻め込んでいて、試合終了間際、猛攻を凌いだキーパーが蹴ったボールは、前で待っていたマニーの前へ。

ボールを受けるとゴールへ向かってイッキに走り、そしてゴールにオモイッキリ蹴った。

その球筋を見ながら、マニーの意識は薄れていき、ゴールに吸い込まれていく瞬間を見つつ、彼は、その場に倒れていった。

同じ頃、酒場では、かれの父親は、それを観ながら「ばかな!」と叫び、その後ろでは、さっきの二人組が「ジャップ!」と、聞こえたかと思ったら「パァーン!」という銃声とともに、父親もゆっくりと倒れた。

其の時、試合会場の空には、幼いマニーが、母親と父親の手を握って楽しそうに歩く姿が、確かに見えたように思えた。

倒れたマニーの顔は、かすかに笑っているように見えた。

彼が幸せを、やっと掴んだ瞬間だった。

これは、悲しいい物語ではなく、すべてをサッカーに賭けて「幸せ」を掴んだ少年の物語です。

第三話「E」

携帯のSNSと不在着信、朝のモーニングショーを観ながら開く「Aさんしんだ」の文字、テレビでは有名人の死亡の報道、対照的だ。

葬式は、既に済んでいるという、人知れず近親者のみでおこなったという。

死因は、はっきりしないが、おそらく自殺だろう。

今日、関係のあった人に連絡したが、誰一人知らなかった。

彼の破天荒な人生からみたら、寂しい終わり方だ。

彼と最後に話をしたのは、携帯で先月の中ごろだったような気がする。

「もっと、早く連絡くれよ!」と呑みに行く気満々な返事だった。

周りからは、図太い神経の持ち主のようにおもわれていたが、実は、結構ひ弱な性格で、さらに若い頃、覚せい剤で、二度捕まっている。

やさしい性格でありながら、突然怒り出したり情緒不安定な感じはした。

彼の父親は、朝鮮人の一世で、喫茶店、パチンコ店、雀荘などを、複数経営、起業家として成功者といえる。

しかし、女性関係は派手で、彼も所謂、妾の子である。

朝鮮人で、商売に成功した裕福人の、妾の子と云う事が、かれの、人格にかなり影響している事は間違いない。

彼も、父親に似て、女性関係は、派手で、愛人は、複数いた。

その内の二人とは、私も食事をした事がある。

もちろんA氏も一緒にだが、一人は、A氏と別れた後、たまに呑みに行く仲だった。

話は変わるが、彼の幼少時代は、推測でしかないが、私の子供の頃に似ているのではないか。?

私は、子供の頃から友達は少なく、最近、クルマで通勤する時、よく見る光景で集団登校する小学校の中で

一人だけ離れて歩く子を見ることがある。

そういう時、私自身の子供の頃とかさなる。

友達もいなく、一人うつむきながら帰る、当時、特に悲しいとか、寂しいとは感じなかった気がする。

今、そういう光景を見ると寂しそうに映る。

当然、家に帰っても、一人で遊ぶことが多い。

朝鮮人の妾の子として産まれた彼は、私より孤独だったかもしれない。

母親は、妻子ある父親の経営する喫茶店で働いている時、付き合うようになり、かれが産まれた。

私身も何度も会っているが、年をとってもきれいな人だった。

その割に彼の、風貌は、お世辞にも男前とは云えないが、酒、SEX、とクスリで刑務所に何度も入り、戻ってきては、父親の店で働くという繰り返し、厄介者だが、父親は彼をかわいがった「俺のせいで、こうなったんだ。」と自分を責めていた。

父親は、趣味はなく、仕事と女だけ、酒、煙草はしない、学もなく、日本へ来てただ、がむしゃらに働いた。

「俺は、朝鮮人で学もない。」父親の口癖だった。

その父親も年をとり、彼は、実質パチンコ店の経営者となり、当時は、店を出せば儲かる時代で、あまり能力は必要なかったと云える。

毎日、店の売り上げの一部を持ち出して、繁華街へ出て遊ぶ事が日常、当然このような経営が、長続きするはずもなく、次第に傾き、倒産し、彼も破産、その後の人生は、解りやすく落ちていき、最近は、部屋にこもりがちの日々が続いてた。

半年ぐらい前、彼のパチンコ店で、以前働いていた男が新潟へ戻り生命保険の営業はじめたとのことで、私は、彼の携帯番号を教えてあげた。

彼は、自分の生活もままならないのに、契約をしてやったという。

最後に、何か役に立って、人生を意味のあるものにしたかったのだろう。

おそらく、遺書も、のこさず。

よく、「ただ、生きてるだけで意味がある。」と云う人がいる。

私は、そう思わない。

彼は、意味ある瞬間を選んで決断した。

私自身も、振り返ると何もない「空っぽの人生」。

自分で、結論が出せなくなってしまった。

そろそろケリをつけなければ。



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