03
今から3ヶ月のことだ。受験会場に向かって自転車を走らせていた。受験表を家に忘れたことに気づき1度戻ったため時間がなくなった。俺は1度通った道を通る。
ききっ!
目の前の信号が赤になってしまったのでしかたなく止まる。
「だぁ!くっそ!なんて日だ!」
時間がないだけに信号で止まるのはいたい。俺はイライラしながら信号を待つ。
たったったった
足音がした。後ろからなにか来たみたいだ。うしろを振り返って見ると女子中学生らしい人が走って来ている。多分受験生なのであろう。この時間だからこの子も寝坊かなんかして遅れたに違いない。信号が赤だから俺の隣に止まる。
「はぁはぁはぁ…」
この子は走って受験会場にいくのだろうか。俺は腕時計を見る。今は7時35分だ。受験会場は8時を過ぎると入ることが出来なくなってしまう。ここからだとおそらく自転車で15分くらいかかるだろう。しかしこの子は自転車じゃない。走りだとぎりぎり間に合うと思うが、ずっと走り続けるのは不可能だ。
つまり、この子は間に合わないんじゃないだろうか。いや、絶対間に合わないだろう。
俺はちらっと女の子の方を見る。女の子は腕時計を見てなにかつぶやいている。声が小さくて何を言ってるのかわからないが見た感じだと焦っているように見える。そりゃあ、間に合う可能性が低ければそうなるだろう。姿勢を前に戻すともうすぐで信号が青になりそうだった。
俺はふと思った。
俺のママチャリで2人乗りすればいいんじゃないか?こうすればこの子も間に合うし、乗せてあげて感謝してもらって、ベタな展開ではあるがさらに恋に発展するかもしれない。
この考えすごくいいではないか。今日の俺は冴えてるぜ!
しかしひとつ問題がある。俺は女子と話すのは苦手だということだ。深刻な問題である。しかし、これで恋に発展する可能性があるのだ。背に腹はかえられない。咲太は決意した。この女の子に声をかけようと決意した。俺はもう一度隣を振り返る。しかし、そこにはさっきまでいた女の子はいない。
「えー!なんでや!」
驚きだ。なぜかいなくなっている。俺はあたりを見回す。すると、もう信号が青に変わっていた。あの女の子は横断歩道を渡り終え走り去っていく。
なんてことだ。いろいろ考えていたうちに信号が変わってしまったのだ。俺は慌ててペダルを踏み込む。きぃきぃと音をたてて進む。あの子はそこまで離れていないだろう。俺はあの女の子が通った道を追いかける。
すぐに姿が見えてきた。俺は女の子と並走するかたちで隣に並ぶ。俺に気づいたようで女の子がこちらを見てくる。俺は勇気を出して言葉を発する。
「なぁ、君も受験か?急いでるなら後ろにのらないか?」
女の子の顔を見るとちょっと険しい顔になったような気がした。しまったな。ナンパかなんかだと思われたか?俺は少し後悔した。声のかけ方失敗したかなとか考えていると女の子が話しかけて来た。
「ごめん」
俺はおわったと思った。
「助かったよ。乗せてもらうね。」
彼女の言葉はおわっていなかった。作戦成功だ。彼女は俺の自転車の後ろにまたがる。
「じゃあ行くよー」
俺はそう声をかけると彼女は頷いた。俺は自転車を発進させる。受験会場までここからだと10分ちょっとだろう。いまは7時40分。これだと間に合うだろう。
風が心地よい。いろいろ心地よい。彼女の腕が腰にまわっていて暖かい。俺はとても幸せな気分になった。これこそ理想のラブコメだと思う。このまま恋に発展して欲しい。これは俺の願いだ。神様、恋に発展させて下さいませ。私はこの他には何も望みません。どうかよろしくお願いします。
とりあえず神様に祈ってみた。本当に頼みます、神様!
そんなことを考えていると受験会場が見えて来た。そう言えば今日は受験だった。幸せ過ぎて忘れていた。俺は腕時計を見て時刻を確認する。今は7時48分だ。これはもう余裕で間に合うだろう。俺は気持ちを切り替えペダルをさらに強く踏んだ。
受験会場に到着した。俺は、ブレーキをかけ彼女に降りるように促す。彼女は自転車から降りる。
「ありがとう 君のおかげで間に合ったよ」
彼女は笑顔で俺にそう言った。俺のハートは打ち抜かれた。すごく可愛い笑顔だった。
「どういたしまして」
俺は丁寧に返答し自転車置き場へ向かう。
自転車置き場は少し入り口から離れたところにあった。やはり受験会場に自転車で来るのはほとんどいないようで15台程度しかなかった。俺は急いで止め、鍵を閉める。急いで会場の入り口に向かう。
するとそこにはさっきの彼女がいた。なぜいるのだろう。待ってくれていたのだろうか。彼女はなんて優しいんだろうか。
「一緒にいこ」
彼女はそう言って入り口に向かう。俺は頷いてそのあとをついて行った。
俺たちは入り口で手続きを済ませ、教室を目指して小走りで向かう。俺の教室は301、彼女は303だ。俺の教室が手前にあった。俺は立ち止まって教室のなかに入ろうとドアに手をかけた。
「じゃ、頑張ろうね」
彼女は俺にそう言って手を小さく振って奥の303教室に向かっていった。
〜つづく〜