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お花屋さん ー夏ー  作者: ニケ
2/16

予兆

出張準備をするために花屋に戻る速水とはここで別れる。何度も頭を撫でて抱き締めてくる大きな体を西森はゆっくりと包み込んだ。どうしてこんなに胸が痛くなるのだろう。たった三日間だけなのに。胸の奥から溢れてくる寂しさに自分は本当に速水が好きなんだなと思った。



「何かあったらすぐに連絡しろよ。短縮で電話かけられるからな。操作は教えただろ?」



耳元で優しく囁く速水の声がくすぐったい。もう少しで離れてしまうのだとわかって寂しさをそっと隠した。別れる前に速水の目を見たかったが体が動かなくて。そのまま優しい温もりを感じていた。



一緒に住むようになって、速水から記念にと贈り物をもらった。操作が簡単な携帯で、よく繋がるものだと穏やかに笑っている。西森は基本一人で仕事をしているので、いつでも繋がれるようにと考えたのだと速水は話していた。



「お前に携帯を渡しておいてよかった。まさか出張なんて。。何が起こるかわからないものだな」



名残惜しそうに離れていく速水を西森は優しく笑って見上げる。いつもの温かい目の中に自分と同じくらいの寂しさを見つけて、嬉しくなって大きく笑った。



「速水さん、寂しそう。。でも、俺の方がもっと寂しいですから。我慢して、頑張ってくださいね」



大きな駄々っ子を慰めるように言えば、思った通り少し拗ねた速水の表情が表れる。速水のこの拗ねた表情が西森は時々無性に見たくなるのだ。



年上で頼もしくて優しい速水が、幼い子供のように顔をしかめる。西森の好きなものの一つだ。可愛くて愛しい。



「。。帰ってきたら、虐めてやる。。大人しく待ってろよ」



少し乱暴な物言いに照れているのだなとすぐにわかった。軽く睨みながら頭を撫でてぶっきらぼうに呟く。照れている速水が嬉しくて、近づくように背伸びをすれば優しく笑って軽く頭を叩いてきた。



「じゃあな」



速水が花屋の方へと足を動かす。だんだん遠くなっていく後ろ姿を西森は見えなくなるまで見送った。



速水と別れた後、行きたかった場所へと自転車を走らせる。日差しが強くなり、丘の様子も春とは大きく変わっていた。



夏といえばひまわりで、客からの要望があったのだ。西森にとっては田舎町にきて初めて出会った花だ。小さい頃、祖母と一緒に行ったひまわり畑。優しい祖母の笑顔を思い浮かべながら西森は足を強く踏み込んだ。



遠くから黄色の美しい光が見える。小さな光がだんだんと細長く伸びていって大きなひまわり畑が姿を現した。あの頃からずっと変わらない光景に胸が踊る。心がわくわくと高鳴った。



「わあ!今年も会えた。咲いてくれてありがとう。相変わらず、元気だね」



何年も見てきたひまわり畑。都会に住んでいた時も、毎年夏にはこのひまわりに会うためにやってきた。太陽に向かって元気に咲く姿に何度元気をもらっただろう。特に手入れもしていないと花農家の師匠から聞いている。命の生命力とは凄いものだ。



「ひまわり。花言葉は、あなただけを見つめます。こんなに元気なのにドキッとする言葉なんだよな」



とても楽しそうに咲いているので花言葉を聞いた時には、その意外な艶っぽい言葉に可笑しくなって笑った。片思いなのかどうなのか。いずれにしても、健気なのにこんなに元気だ。切なさも何もなく、大好きな人に出会えた喜びに満ちていた。



「可愛いなぁ。うん。感謝を込めて摘んでいこうかな」



いつもの通り手を合わせて深呼吸をする。夏の強い日差しの中で、西森は静かに祈り、花を摘んでいった。



花屋へと自転車を走らせていく。ひまわり畑と花屋では少し距離があり、戻るのは夕方になるだろう。懐かしい想いが溢れてきてしばらくのんびりとしていたので、いつもより遅くなってしまった。前のカゴに入れたひまわりがひょっこりと顔を覗かせている。可愛い。早く花籠を作りたいと笑みがこぼれる。



「もう少しで着くぞ。ああ、待ちきれないよ!お祖母ちゃんにも作ってあげなきゃ!」



去年の夏は、悲しさと寂しさでどうしようもなかった。ひまわり畑の前で呆然と立ち尽くしてした。今年の夏はこんなにも喜びで満ちている。祖母の分と居間の分の花籠も作ろうと花屋への道を急いだ。



花屋に着いて鍵を取り出す。いつも通り鍵を回すと手応えが感じられない。おかしい。鍵をかけ忘れたのだろうか。不信に思って扉を開けると、簡単に開いてしまった。いつもとは違う感覚に一瞬動きが止まる。



ここは花屋だ。自分と速水が住んでいる花屋。居間には祖母の写真があって、古い家具に囲まれている。鳩時計と小さな台所。でも、何かが違う。見た目は花屋なのに、自分の知っている花屋ではない。



開いた入り口から静かに入ってみる。いつも通りの花の位置。静かに時を刻む古時計の音。でも、違う。ここは確かに花屋だけど、こんなに冷たい雰囲気じゃなかった。



「へぇ。。あんたが西森さん?親父が探してるって言う」



急に聞こえてきた冷たい声に西森の体がびくっと震えた。聞いたことのない軽やかな声が後ろから響いてくる。印象は悪くないが、なぜか冷たくて。西森の心は恐怖に震えた。



「何?ここ、あんたの家でしょ?もうちょっとゆったり構えたら?あんたの領域なんだから」



声が聞こえてくる方へゆっくりと振り返る。冷たくて軽やかな声はこの目の前の人物からだ。よく観察してみると、顔は整っていて年は杉崎と同じくらいだろう。優しげな目元に飾らない服装。どこにでもいる爽やかな男だった。



見かけだけは。



外見からくるイメージと直感からの印象が全然違う。西森はこの若い男から感じる冷たい雰囲気に体が強張って動けずにいた。若い男がわざとらしくため息をつく。



「親父があんだけご執心だから、どんな強い奴かと思ってきてみれば。。なーんだ。弱っちいじゃん。気が削がれたなぁ!あんた。西森さんだっけ?」



西森に一歩近づき、優しそうににっこりと笑った。夏の明るい日差しの中で爽やかに笑っているが、西森は嫌なものを感じ身震いをする。警戒して動かない西森をからかうように、大きく笑った。



「だーいじょうぶだって。俺、弱い奴には興味ないもん。親父が好きでしてることだし?手は出さないから。じゃーねー」



ひらひらと手を振りながら、すっと花屋を出ていった。男が花屋から出た瞬間、強張った体がどっと崩れ落ちる。何が起こったかわからないが、強く引っ張られていた糸が一気に切れた。違和感があったこの花屋も、いつもの温かい場所へと変わっている。速水と住んでいる愛しい花屋だ。



「。。。」



喉がとても渇いている。男が出ていった玄関の扉を閉めて鍵をかけなければ。そう思うのに体が言うことを聞かない。怖い。怖い。震える手で胸にかけてある携帯を掴んだ。長い呼び出し音の後に、大好きな人の声が聞こえてくる。強張っていた体が急に弛み、やっと言うことを聞いてくれた。



電話からの穏やかな声に知らない男がやって来たのだと伝えれば、優しい声はしばらく無言になる。そのまま電話を切らずに話をしようと言われ西森は頷いた。気を紛らわせるように何気ない会話をしていれば、花屋に杉崎がやってきて、電話をしている西森を優しく見つめながらそばに寄ってくる。そっと西森の電話を取って何かを話していた。



写真の祖母の笑顔が視界に入る。大丈夫だと思っていても、得たいの知れない不安はなかなか拭えない。優しく語りかける杉崎の笑顔を見ても気分が晴れなかった。



速水に会いたい。我が儘だとわかっているから、口に出そうな想いをぐっと飲み込む。杉崎の笑顔に答えるように精一杯笑った。



無理をして笑う西森に、弁当持ってきました!と柔らかく杉崎は笑う。そういえばお腹が空いていたなと西森はぼんやり思った。杉崎の家の近くにある弁当屋から買ってきたそうだ。変わった弁当屋で、朝早くからいつも開いている。メニューは日替わり弁当だけらしい。



「あそこの弁当食べると、元気が出るんです。さつきさんに買ってくるようにせがまれて。。頼み事をするさつきさんって可愛いですよね」



いつもの通りのろけながら、西森に弁当を薦める。台所から箸を持ってきて渡してきた。明るい杉崎の声に、不安で落ち着かなかった心がゆっくりと解れていく。強張った口を動かして何とか笑いながら受け取った。



「お!ラッキー!コロッケ入ってる!このコロッケ、絶品ですよ。俺、毎日買ってるけど、あんまり入ってないんですよね」



コロッケを箸でつまみながらうっとりと見つめている。いつもと変わらない杉崎の姿に西森は可笑しくなって笑った。不安が和らいで、いつまでも怖がっていることが馬鹿らしくなる。うん。と返事をした。



「ほら、口元にパン粉がついてる。違う。反対の。。そう。取れた」



西森の指摘に、へへへ!と笑う杉崎に心が和む。じわじわと元気が湧いてきて弁当を開ける。杉崎が薦めるコロッケを一口食べれば、じゃがいもの優しい味が広がった。箸がどんどん進む。美味しくて思わず笑みがこぼれた。



弁当を美味しそうにほおばる西森を杉崎はじっと見つめる。速水がいないこの三日間、何としてもこの人を守るんだ。静かに心を固めながら、さつきからの報告を待つ。鳴りを潜めたかのように穏やかになったが、これで済むとは思っていない。西森には伝えていないが、気になることが多すぎる。上層部からの圧力も杉崎は変だと感じた。



「執着心。。組織絡みかな。。」



上層部にはここに飛ばしてくれた感謝はあるが、あまり快く思っていなかった。こんな田舎町の小さな花屋になぜこだわるのか。杉崎にはわからない。



「確かに西森さんは魅力的な人ですけどね。速水さんっていう恋人がいるんですよ。執着しないでほしいなぁ」



だいぶ落ち着いてきた西森を見守りながら優しく笑う。この心優しい人を守りたい。杉崎の視線に気づいて穏やかに笑った西森に、コロッケ美味しかったでしょ?と明るく問いかけた。

皆様、こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

お昼の時間♪今日は、ラーメンフィーバー!豚骨らーめんを頂きたいと思います。もうあのラーメンの一杯が。。幸せです。

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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