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お花屋さん ー夏ー  作者: ニケ
1/16

始まり

温かい春が過ぎて、暑い夏がやってきた。季節が巡るのは自然のことだが、緩やかでも確実に流れていく時間に西森は訳もなく胸を締め付けられる思いを感じた。



「準備できたか?」



もうそばにいることが当たり前になっている優しい男を見つめる。速水がここに住むようになって久しい。毎日繰り返される温かな日常に西森はいつも包まれていた。



手を握られて、強く引っ張られる。配達は昼からだと言っていたから、今日も花畑についてくるんだろう。嬉しさで思わず笑みがこぼれる。



祖母に文句を言った春の終わり頃、西森の看病をしてくれた速水が一旦花屋を出ていって、大きな荷物を持ってやってきた。驚きながら何かあったのかと聞く西森に、ここに住むと一言告げてさっさと荷物を出していく。速水の言葉は聞こえたが、意味を理解できない西森は呆然と速水を見つめていた。



速水の私物が大きな鞄から次々と表れていく様を見ていると、住む、という意味がわかってくる。速水がここに?住む?へ?口を開けて動かない西森に、速水が嬉しそうに笑った。



「期待を裏切らない変顔だな。西森。流石だ」



それでこそ、お子ちゃまだぞ!無口な速水には似つかわしくないような晴れ晴れとした笑顔で爽やかに言い放つ。とても満足そうに頷いている。だんだん子供扱いをされていることがわかってきた。西森のこめかみに青筋がはっきりと表れてくる。口がぴくぴくと小刻みに揺れた。



「速水さん!!」



笑っている速水は珍しいそうだ。西森と一緒にいる速水はいつも笑っているかのんびりとしていて、それが当たり前だと思っていた。でも、そうではなかったらしい。大きく笑う速水を杉崎が目を丸くして何度も凝視していたことを思い出す。信じられないと小さく呟いた後、必ず西森の方をじっと見つめてきた。



「西森さんって。。本当に凄い方なんですね。速水さんの笑顔、初めて見ましたよ」



杉崎があまりにも信じられなさそうに言うので、西森はいつも吹き出していた。



「こんな風に笑うんですね。うん。俺はこの感情溢れる速水さんが好きですよ」



優しく穏やかに言うので速水は、は?と固まっていたけれど。杉崎は速水のことを大切に思っているのだなと嬉しくなった。



「住むってなんですか!?え、なんでそんなに準備がいいんですか。。?まあ、歯ブラシは新しいのがありますから、大丈夫ですよ。。。じゃなくてですね!!」



顔を真っ赤にしていくら問いただしても、速水は嬉しそうに笑っている。速水の笑顔は西森も大好きなので、激しく抗議していた声がだんだんと小さくなっていく。嬉しさを隠せなくなった西森が照れ臭そうに速水を見つめた。



「本当ですか?住んでいた所には戻らなくてもいいんですか?」



何度も問いかける西森に、その都度速水は大きく首を縦に振る。疑いながらも嬉しそうに聞いてくる西森がとても愛しかった。



「今日は風が強いから、気をつけないとな」



穏やかに笑って西森の手を引いていく。優しい手の温もりに西森はそっと笑った。



旅館への道を手を繋いで歩いていく。これが二人の日課だった。片手で自転車を押している速水の隣で西森は丘の花畑をゆっくりと見渡す。春の花が静かに眠りにつき、夏の花は季節に彩りを添えていた。



夏の暑い日差しを被っていた帽子が優しく遮る。速水は相変わらず涼しげな顔をしていて、暑くてべたべたしているはずなのに流れる汗までも美しい。嫌味な男だ。見惚れてしまうのが悔しくて、西森は照れ隠しに心の中で毒づいた。



「日差し、辛くないか?旅館で少し休めるように走っていこうか」



こっそりと見ていた西森に気づかず、速水が西森の方を向いて問いかけた。急に見つめられて胸がドキリと大きく波打つ。盗み見していたことがバレたのかと思わず声が裏返った。



「!!だ、大丈夫ですよ!ぼ、帽子を被っていますから。それに風が強くて涼しいです」



慌てた西森に何も言わず速水はただじっと見つめている。その視線に耐えられなくて、前を向いてちらりと目だけ動かした。速水は何やら考え込んでいる。



「変なものでも。。食べたのか。。仕込んでいた辛子が駄目だったのかもな。。過度な悪戯は止めよう」



ぶつぶつと小さく呟いているので西森は聞き取ろうと速水に近づく。見つめる視線に気づいた速水が申し訳なさそうに言った。



「俺が悪かったよ。。ほどほどにするから。。。あ、やっぱ、駄目だ。お前の変な顔見たいし」



?意味がわからない?速水は時々西森のわからないことを口走る。顔をしかめた西森に、何度もごめんと謝ってくる。別に悪いことは何もされていない。どうしたのだろうと首を傾げた。



「これからも、よろしくな。西森。俺、サドだから」



やっぱり、訳がわからない。



旅館に着くと裏口へ回る。速水は玄関の方に歩いていった。朝のパトロールで旅館の前にいる杉崎と掃除をしている雅也に会いに行くのだろう。ゆったりと歩いていく後ろ姿を西森は見送った。裏口から入って、写真の優しく笑っている亮太郎に挨拶をする。今日も花籠を持ってきました。感謝の気持ちを込めて手を合わせた。奥の方から元気な足音が聞こえてくる。



「お疲れさまじゃ、西森くん。どれ、見せてもらおうかのう」



旅館の主人である正宗がやってきて花籠を一つ一つ手に取り愛しそうに見つめている。ほう。。嬉しそうに笑いながら花籠をそっと撫でた。



「優しいのう。。この頃の花籠は愛しさに溢れておる。命の煌めき。愛の喜びじゃ。美しい」



速水と恋仲だということは、正宗も女将も知っている。ちゃんと報告をしたいと速水と二人で正宗と女将に伝えた。二人とも嬉しそうに笑って、安心したように胸を撫で下ろしていた。



「亮太郎が言っていた通りね。とってもお似合いよ。これで一安心だわ。二人とも恋人がいれば無茶はしないでしょう。特に。。速水くんは!」



あなたは配達のお仕事をし過ぎているわ。体も大切にして。軽く睨んで女将は語尾を強めて速水に言い聞かせていた。女将には頭が上がらないようで、速水は困った顔をしながら頬を掻いている。正宗と西森は可笑しそうに笑っていた。



「うむ。素晴らしい花籠じゃ。ありがとう。またよろしくな」



にっこり笑って花籠を持っていく。今日も届けることができた。嬉しくて西森は去っていった正宗に頭を下げる。亮太郎の写真にも頭を下げた。



裏口から外へ出ると、熱気が急にやってくる。旅館は冷房がきいていてとても気持ちが良かった。この温度差が体に悪いとわかっているが、冷房のひんやりとした気持ちよさには敵わない。ついつい長居をしてしまう。旅館の玄関へと足を進めると西森に気づいた雅也がほうきを持ちながら走ってくる。西森は嬉しそうに両手を開いた。



「お兄ちゃん!!」



勢いよく走ってきた雅也を抱き締めて頭を優しく撫でた。旅館の作業服が似合っていて一人前の職人のようだ。掃除を終わらせたことを嬉しそうに報告している。西森はうんうんと頷きながら聞いていた。



「西森さん!おはようございます!聞いてくださいよ!速水さんが俺のこと虐めるんです!!」



泣きつくように西森の元へとやって来た杉崎がぼんやりとこちらを見る速水を指差して必死で訴えてきた。あの人は悪魔だ!少し目が濡れているのは気のせいだろうか。



「俺にこの辛子入りおにぎりを食べさせたんですよ!!入れすぎたから。でも勿体ないしって!何のことですか!?俺、何か西森さんに不快な思いをさせてしまいましたか!?」



すがるような目に西森は気の毒になって、何もそんな思いしてないよと優しく告げる。ほっとして力が抜けたのか、うなだれている杉崎の肩を励ますように撫でた。



「ですよね。。ですよね!!辛子おにぎりの理由を聞いたら、西森のためだって言うんですよ!!横暴です!!」



どうしたのだろう。俺、辛子はわりと得意な方だけどな。なだめるように何度も肩を撫でながら、可哀想に。。と呟いた。当の本人はそんな二人をのんびりと見つめている。西森に慰められている杉崎を雅也は不思議そうに見ていた。



「警官のお兄ちゃん、泣いたり、叫んだり。。ころころ変わっちゃう」



至極真っ当な突っ込みに夏の強い風が吹き抜けて、まるでその通りだと伝えているようだ。二人をのんびりと見ていた速水のポケットから小さな振動が伝わってくる。取り出して電話に出れば会社からだった。



「。。え?出張ですか?」



聞き慣れない言葉に速水は思わず聞き返す。都会の運送会社で急遽、欠員が出たらしい。壊れやすいものを運ぶので経験者の配達員の手伝いを頼まれたのだという。相当切羽詰まっているようなので、引き受けたそうだ。速水はちらりと西森を見て返事をした。



「わかりました。行きます。ええ。では、昼の配達が終わったら」



承諾の意を伝えて、電話を切った。三日間だが西森を一人にする。杉崎には後で伝えるとして、速水はすぐにさつきに電話をかけた。耳から聞こえるはつらつとした声の持ち主に、西森を頼むと伝える。速水の話を静かに聞いた後、さつきは言う。



「わかったわ。西森くんは私たちが守る。何かあったらすぐに連絡するから」



力強い声に、こいつはやっぱり男らしいと微笑む。獰猛な虎に守られていれば西森は安心だろう。速水は穏やかに笑った。



「そろそろ花屋に戻るね。パトロール頑張って。雅也も、また来るから」



元気を取り戻した杉崎に笑いかけて雅也の頭を優しく撫でる。速水の方を向いて穏やかに笑う西森を見つめながら速水はゆっくりとそばに寄り添った。



花屋へと帰りながら出張のことを話す。頷きながら最後まで聞いた西森は優しく速水を見上げた。



「気をつけていってきてくださいね。待ってますから」



優しく笑う西森に心がふんわりと温かくなっていく。驚かせないようにゆっくりと手を伸ばした。不思議そうに首を傾げる西森の頬に手を添える。驚きながらも嬉しそうに笑う西森が可愛い。



「出張、いってくる」



眩しい日差しの中で静かに呟く。穏やかに笑う西森の唇を風のように優しく奪った。

皆様、こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

始まりました~。ー夏ー、サスペンス編です。バトルに挑戦だー!今回は一話を4000文字くらいで表現しようかなと思っております。長くなったらまた、別けますが。。読みやすく、分かりやすく、サスペンス~。。で

書いていこうと思います。よろしくお願いいたします!

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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