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無意味な理想

作者: クロナ

 理想と現実の差。それを埋めようとしている。こんなはずじゃないと、嫌気のさす現実を変える方法は知っているのに、ずっと埋められないままだ。



雨が降っている。彼女はいつも通り、私のもとに駆けてくる。

「傘、貸して」笑っているのか、無表情なのかよくわからない顔である。私は黙って自分の傘の三分の二を彼女に差し、すこし雨に濡れながら離れて歩いた。

「姉さん、難しいことばかり考えているのね。生きる意味、なんてさ」

「……もしかして、日記を見たの?」

「ごめんなさい。机の上に置いてあったの、気になっちゃって……」謝ってはいるが、全く悪びれる様子も見せない。

理想と現実の差を埋められない。昨日の日記にはそう書いた。それを彼女に見られていたなんて。こんなやつが見たって、その言葉が思考につながったりなんて、するわけないのに。それどころか、くだらない解釈で私を苦しめるに違いない。

「理想だとか現実だとか言うけどさ、結局は行動しないだけじゃない?いつも口先だけで、変わりたいっていうくせに、何も行動しない、それが姉さんだよ。矛盾してない?」

私にとっては全く見当違いな言葉たちが、次々と彼女の口から零れる。そこには微かな笑みさえ浮かんでいるように見えた。

矛盾、か。そんなの知っているよ。そんなわかりきったこと、わざわざ言って楽しいか?

 「ああ、矛盾しているね。とても。矛盾だらけだ。だから何だって言うんだよ。完璧な人間などいない。だからそれを埋めて少しでも完璧に近づけたいだけなんだ。悪いか?」

気づけば私はずぶ濡れだ。雨が降っていたことなど、忘れていた。いつのまにか、私の頭上に傘はなく、くつの中には大量の雨水が入っていた。そして立ち止まり、俯きながら彼女の返事を待つ。ろくな言葉など返ってはこないであろうが。

「無理だね。姉さんは、口先だけで、何も行動しないのだから」

私はここから逃げようとした。でも、何故だか体が動かない。私の無意識が、逃げ出す資格さえないと、そんなことはできないと言っているから。

でも、その必要はなかった。気がつくと彼女はどこにもいなくて、足元に私の傘が取り残されたように置かれていた。

私はわかっていた。全て。理想と現実の差が埋められないのは事実。私が矛盾だらけの行動しない人間なのも、きっと事実。

「このせかいでは……」

そう付け足して、虚しさを誤魔化した。



 つまらない解釈をされるのが嫌だった。誰にも正確に理解できないとわかっていたけれど、虚しかった。

誰に宛てるでもなく、手紙を書き始める。



人は、変わっていくものである。だから、過去と現在に矛盾が生じたりする。

人は、完璧じゃない。自分の追い求める理想と、現実の差は、簡単には埋められない。

そしてその差(矛盾)が、人間の「悩み」「葛藤」となる。それらをなくすために生きているのだ。少なくとも私は。だから、他人の生き方や性格に、矛盾を見つけたとき、それを本人に指摘したりして、(たとえそれが無意識でも)優越感に浸ることなんて、全く無意味である。

 

手紙、と言えるものかすらわからない、強めの筆跡で書かれた紙片。本当に、この紙も、私の思考も、何もかも非建設的で、非現実的である。

無意味な自分の思想を壊すように、紙片を破ろうとすると、何者かに取り上げられる。

そいつは、声に出してその文を読みあげた。

「これって、どういう意味?」どういう意味だと聞かれても、どう答えたらいいのかわからずに、君のことだよ、と言ってしまった。

これは絶対に言わないようにしようと思っていたのだ。どうせ正確に理解されずに、新たなすれ違いを生むことになるだろうから。

「あたしが、姉さんのこと、見下して楽しんでいるって、そう思ってるってこと?」

否定できずに、無言で首を縦に振る。そして何故だか、彼女は泣き出してしまった。

「どうしてそんなこと言うの?姉さん、ひどいよ、おかしいよ。意味がわからないよ。私はただ、姉さんにおかしくなってほしくなかった。世界で、孤独にさせたくなかったから、普通の世界に戻したかっただけなのに……」そう言って、自分の部屋に戻ってしまった。


その夜、私は考え続けた。なぜ彼女が泣いていたのか、逆のことばかり言うのか、不思議だった。何もわからなくなった。


 それから何度も同じような日を繰り返して、

同じような言葉をきいた。

 ただ、私はその日を境に、彼女の言葉たちを、意識的に反射するようになった。


最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

初めて書き上げた、とても短く小説というより詩のような、散文のように

なってしまいましたが、感想など書いて頂けるととても嬉しいです。

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