終焉
1942年、4月3日、
「バーグ君!!これはどういう事だ!!!」
航空機が積み込まれていた積荷を確認し
ジックが怒り狂い始める
「...上層部が馬鹿なだけかもしれません、気にしないほうが良いでしょう、」
呆れて物が言えないジョンが口を開く、
届いた機体は、
戦闘機が『F7B』20機
爆撃機が『SBC ヘルダイバー』20機
雷撃機が『XTB2D スカイパイレート』5機
の3種類、
何故か雷撃機の方が高性能と言う不思議な結果である
しかし、
その攻撃力は確かなものである、
何と、魚雷を1機につき4本も装備可能な機体である
今回の実戦でその有効性が証明できれば、
アメリカ本土での量産が決定するのだ、
しかし、
戦闘機と爆撃機が頼りないのが何とも、
爆撃機にいたっては複葉機だ
「爆撃機の航続距離が無さ過ぎるぞ!!戦闘機に至っては大量生産しか能が無い対抗も出来ない旧式をよこしやがって!!本土で開発中の『XF4U』よこせ!!」
延々と愚痴り続けるジックであった、
雷龍艦橋、
「輸送船団の壊滅を確認、野口君は良くやってくれますね」
参謀の萩谷が電報を受け取り報告を済ませる
「野口の腕は、確かだよ、だから五十六も欲しがってた訳なんだ、」
そう言うと、
隣に置いてあったコップを萩谷に差し出す
「水ですか?それとも?」
「お茶を頼む、」
コップを受け取り、
萩谷が奥に消えた
「さて、帰艦を急がせろ、大事な作戦が控えているからな!」
この時、
遊撃機動部隊はウェークの南五〇〇kmの海域で北上しつつあった
「長官!!神崎機より入電です!!敵の機動部隊がウェークを出撃しました!!」
「何だと!!何時見つかった!!」
「恐らく、たまたまでしょう、西へ航行を始めているそうです」
「取り舵!!」
「宜候!!」
やがて
艦隊の針路が北から北西に変わる
「これより追撃を開始する、総員戦闘配置!!」
ゆっくりと、
だが確実に淡々と命令を出す貝塚、
「八十島の零式を出せ、一機しか居ないがそれでも貴重な戦力だ」
八十島の射出機甲板に布をかけられて置かれている零式に乗員がたかりだす
「敵機!!直上!!急降下!!」
「面舵一杯!!」
複葉機が、
雷龍に向かって急降下を敢行する
しかし、
機体から投げ出された爆弾は見当違いの方向に飛んでいく
「何とか避けられました、しかし、これで位置もばれてしまいましたね」
萩谷が額の汗をふき取りながら報告する、
「...偵察機を増やすしか有るまい、早く要領よく行こう」
萩谷が持ってきたお茶でその口を潤す、
航空巡洋艦『リバティーシティ』艦橋、
「でかしたぞ!!そのパイロットには35%の増給をしろ!!反撃だ!!ジャップに思い知らせてやれ!!」
ジックがひたすら艦橋で熱弁を振るう中、
甲板では攻撃隊が準備され始めていた
「ミーティングの通りの戦法で行けよ!!勝利は確定だぜ!!」
あらぶっとるのう...
「突撃あるのみだ!!!太平洋が俺たちを待っている!!!」
もう太平洋上ですよ、
ここは大西洋ではありません、
「長官、攻撃隊準備できました」
ジョンが艦橋に入り、
報告を済ませる
「だったら早くしろ!!発艦だ!!」
この一言を合図に、
『F7B』が先頭きって発艦する
雷撃機のTB2Dはその速度があるため、
後から発艦する手筈となっている
雷龍艦橋、
状況は極めて切迫していた
監視員の一人が水平線のギリギリの敵攻撃隊を発見、
扶桑と山城は大型艦ゆえに多数の対空火器を搭載しているが、
この雷龍は大口径の主砲のために搭載数が制限されてしまっており、
十分な抗戦が期待できないのだ、
おまけに今となって攻撃隊が全て発艦出来るかどうかも怪しかった
それでも迫り来る適の攻撃隊に対し、
奮戦をするも、
雷龍は戦闘開始より二時間後、
前甲板の主砲と主砲の間に敵の爆弾が命中、
最も恐れていた事態になっていた
発艦した味方攻撃隊も奮戦するも、
97艦攻はその足の遅さが仇となり、
およそ八割の損害を出した、
99艦爆も引き込み脚にすくわれたというべきなのか、
しかし、結局一~二割程度の損害は出してしまった
戦闘機にいたっては相手の戦闘機をまるで蚊を捻り潰すかの様に獅子奮迅の活躍を見せていた
損害は数機被弾したのみと、
損害軽微である
ちなみに、
俊足の島風はその速度で敵の攻撃隊を戦意喪失させるという大戦果をやってのけており、
以外にも秋月も艦隊で最も敵の航空機を打ち落とす勲章者の戦果を叩き出している
扶桑と山城はその対空砲火の嵐で敵を寄せ付けさせないと言う戦艦の意地とも言うべき戦果を出している
「消火できたのかね」
貝塚が萩谷に聞く、
艦首からは未だに煙が上がっている
「あと少しで鎮火です、あと五分下さい、必ず消して...」
「敵機襲来!!雷撃機!!」
雷龍の艦橋をサイレンが包み込んだ
「こんなときにか!!唯でさえ艦首が危ういのにか!!」
先ほどの命中弾で艦首は脆くなっており、
急な取り舵や面舵をきると欠落しかねない状況であった
「全速後退!!面舵一杯!!」
これを合図に、
前への重力を艦内に居る全員が感じた
しかし、
雷龍も結構な大型艦である、
その舵の利きは物凄く遅かった
「敵機投下!!魚雷四!!」
「アメリカのバッキャロー!!」
「舵未だか!!」
「目一杯切っております!!後は待つだけです!!」
着実に迫り来る魚雷、
一本目が艦首ギリギリをかすめて行く
しかし、
艦首に立て続けに三本の魚雷が命中、
主砲の火薬庫が引火、
雷龍はその艦体を波間に埋めた、
この様子を上空から見ていた味方航空隊も絶望感を覚えた、
間もなくして、八十島が二本命中し、クレーンで吊るし上げていた零式水偵と共にその身を大海原の深きへ投じた、
駆逐艦の島風も、機関部に一本命中、間もなくしてボイラーが爆発、
壮絶な最期をおくった
秋月も敵機を一機叩き落すも二本命中、火薬庫に引火し轟沈、
扶桑と山城もその鈍重な動きが故に片舷に四本ずつ命中、
間もなくして転覆、火薬庫の砲弾が爆発しその生涯を閉じた、
航空隊も、相手の雷撃機があまりにも早すぎるために、
戦闘機まで狩られる始末に、
攻撃隊は全て撃墜、戦闘隊も全てが海面へ不時着をする羽目に、
しかし、
不時着した戦闘隊は迎えが来ないまま水没、
ここに、遊撃機動部隊の壊滅が言い渡された、
敵の艦隊の損害は、
護衛するための駆逐艦八隻のうち五隻が撃沈、
残りの三隻も大破戦闘行動不能、
旗艦のリバティーシティーも大破し、
ウェークへの帰路に着いた、
この海戦は、
両国において極秘事項扱いのために、
戦後になっても開示されずに、
一人の新聞記者によって見つかったのである、
その時にはもう、戦後五十年の歳月が流れていた、
そして、
同様の文章がアメリカでも相次いで発見され、
アメリカのある川の上流深くの森の中に、
小さなドックの中、さび付いた艦体、『リバティーシティー』が発見された、
この時、
戦後六十年がたとうとしていた、
そしてこの瞬間、
彼らの戦争が終わったのかもしれない
しかし、
雷龍は生き続けた、
全く別の世界で、