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歌姫ギルと黄金竜  作者: 青樹加奈
第3章 王子と皇女
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晩餐会

 ガリタヤが長い廊下を奥へ奥へと私達を連れて行く。幾つかの角を曲がり、幾つかの階段を登ると両側にたくさんの扉が現れた。その一つの扉をガリタヤが開けた。居心地の良さそうな部屋が現れた。真ん中に敷物がしいてあり、ソファと椅子、テーブルがある。テーブルの上には、お茶とサンドイッチが用意されていた。

「殿下の寝室はこちらです」

 ガリタヤが、部屋の奥の緑の扉を開けた。天蓋付きの寝台が見える。寝台の上には豪華な衣装が置かれていた。

「隣に浴室があります。夕方から、晩餐会が始まります。そちらの衣装に着替えて、お越し下さい」

 私の寝室は白い扉だった。やはり、豪華な衣装がおいてあった。皇女様の寝室は赤の扉で中は見えなかったけど、きっと、素晴らしいドレスがおいてあるに違いないと思った。

 取り敢えず、私達はソファに落ち着いた。

 レオンは憔悴しているように見える。

 剣では負け知らずだったレオンが竜王に負けて悔しいのだろう。私に言わせれば、相手は竜王なのだ。負けて当たり前だと思う。でも、やはり悔しいらしい。

「殿下、バチスタ殿は竜王です。人である私達が適わなくて当たり前ではありませんか」

 皇女様がレオンの気持ちを察したのか、慰める。

 私は皇女様とレオンのカップにお茶を注いだ。

「ありがとう、ギル。ミレーヌ殿、では、あなたは私と試合をして負けた時、悔しくはなかったですか? 負けるとわかっている相手でも、実際に負けると悔しいものです」

「しかし、竜王に一太刀浴びせたのです。殿下はよく戦われました」

 ふうっと、レオンが息を吐き出した。

「わかっているのですが……。それより、竜王は我々をどうするつもりでしょう」

 さすがにレオンは、気持ちの切り替えが早い。

 私達はこれからどうするか話し合った。取り敢えず、竜王の歓待を受ける事にした。

 サンドイッチとお茶をいただくと、かなり気分がよくなっていた。


 午睡を取り、時間になったので、私は支度をして部屋から出た。ちょうど、皇女様も部屋から出て来た所だった。私は息を飲んだ。ドレスアップした皇女様。光り輝くように美しい。豪華なドレスがピッタリだ!

「ギル、支度は出来たか?」

 レオンの声に私は振り返った。

(きゃあ、素敵!)

 レオンが! レオンが王子様の格好をしている。滅多に見られないおしゃれな服を着たレオン!

 レオンもまじまじと私を見ている。

「ほう」

 何? なんなの? 私、おかしい?

「竜王殿は、趣味がいい」

 えーっと、どういう意味なんだろう????

「あなたのドレス姿も素晴らしいですよ、ミレーヌ殿」

「まあ、ほほほ、ありがとうございます、殿下。ギル、そのドレス、よく似合っていますよ」

 扉を叩く音がした。ガリタヤが私達を迎えに来ていた。私達は、ガリタヤに案内されて、晩餐会が行われる部屋へと向った。

 部屋に着くと、竜王様が出迎えてくれた。

「美しい。これほどの美姫を我が宮廷に迎えた事はない。さあ、こちらへ」

 ミレーヌ様の手を取り竜王様がテーブルへと案内して下さる。

「あなたとレオンは私の隣に、歌姫殿はレオンの隣へ」

 私達は竜王様を中心に右に皇女様、左にレオン。私はレオンの隣の席だった。

 食事はおいしくて、竜王様は話術に堪能な方で、私は聞いているだけだったが、それでも楽しくて、笑えないのがとても辛かった。

 ミレーヌ様もレオンもまた、会話に堪能だった。

 私の知らないレオンの顔。王子として宮廷での知的な会話になれたレオン。

 レオンはやはり、王子様なのだわ。

 レオニード殿下……。

 でも、でも、ここは宮廷じゃない。人の世界を遠く離れた、竜王様の晩餐の席。

 身分を思い出すのは、故郷に帰ってからにしよう……。

 私は最後に出されたデザート、白いガラスの器に盛られた氷菓子を眺めた。おいしそうだ。細かく砕いた氷の上に蜂蜜とカエデ蜜(サトウカエデの樹液を煮詰めた物)という二種類の蜜がかかっていた。私はスプーンで一口すくって食べた。

 甘い!

 きゃあ、これおいしい!

 思わずガツガツと食べてしまった。だって、甘い物なんて、ファニの洞窟にさらわれてから口にしてなかったのだもの。

「ギル、俺のも食べるか?」

 私は、はっとした。顔を上げると皇女様もレオンも竜王様までくすくす笑っている。

「くくくくく、王子、それには及ばぬ。もう一つ持って来させよう」

 私はおもいっきり首を横にふっていた。しかし、給仕の方がさっとデザートのおかわりを私の前においた。私は、少しバツが悪かったけれど、氷菓子の誘惑にまけて、もう一皿ぱくぱくと食べてしまった。


 食事が終わると、私達は別室に案内された。サロンのようだった。ゆったりとしたソファ、壁にはずらりと本が並んでいる。私が本の背表紙を見て回っていると、レオンの声がした。

「そういえば、洞窟の下に妹御が過した部屋がありました。そこで我々は、妹御の日記を見つけました。古語のわかる者がおりましたので読んだ所、妹殿は湖の国の王妃であったとか」

「左様、ファニは湖の国の王を愛していた。結局、狂ってしまったが。ファニはそなたらに殺されて良かったのだと思う。あのまま、獣になったまま、人に不埒な振る舞いをする獣でいるより……。

 狂った頭で何を考えたか、死に際に故郷を思い出したのだろう。自分を滅ぼしたそなたらに復讐したい一念から、奸計をもってそなたらをここまで運んだのだろう」

「陛下、妹御を滅ぼした我々を手厚く歓待していただき、深く感謝致します。また、公正な裁き、感服致しました。このようなもてなしを受け、返礼が出来ず心苦しいのですが、我々は早急に帰らねばならないのです。アップフェルト嬢の喉を専門医に見せたいのです。イシュリーズの湖に、専門医を連れて来させています。どうか、我々を人の世界にお返し下さい」

 竜王様が一瞬、複雑な表情を浮かべられた。

「よくわかっておる、王子。フラウ・アップフェルト」

 私は首をふって、石盤に書いた。「ギルとお呼び下さい。竜王様」

「ギル。ここには温泉が沸いている。我々は病になると温泉に浸かって治すのだ。そなたの喉にも効くだろう。人の世界のどんな治療よりもよく効く筈だ。ここで養生すれば良いだろう。七日間、ここで養生すれば、喉の傷は癒えるだろう。少なくとも、話せるようにはなるだろう」

「陛下、これ以上の贈り物はありません。なんと御礼を申し上げたら良いか」

 私も石盤を出して、急いで書き付けていた。「陛下、ありがとうございます」

 皇女様も一緒に御礼を言って下さった。

「喜ぶのは早い。歌声を取り戻せるかどうかはわからぬ。傷が癒えたからといって、元の歌声になるとは限らぬ。あのような美しい歌声。私も再生された声ではなく本物を聞いてみたい。もし、治ったら、私の為に歌ってくれるか?」

 私は石盤に書き付ける。「はい、喜んで!」

 竜王様がふっと微笑まれた。

「明日、ファニの葬儀を行う。あなた方は部屋で休んでおるがよい。今日はここまでにしよう」

 こうして晩餐会は終わった。


 部屋に戻ってから、私はレオンに聞いた。石盤に書き付ける。「気球で急いで戻ろうとしたのは、私の治療の為?」

「それもあるが、我々三人がいなくなれば、その分食料が浮く。ファニの洞窟では、食料が不足ぎみだった。救援隊が来るとわかっていても、食料は多い方がいい。

 どうした? こんな所に飛ばされて、気にしているのか? 自分のせいじゃないかと?」

 レオンは笑いを含んだ瞳で私を見つめ、わしわしと私の頭を撫でた。

「気にするな。我々はファニの奸計にはまったのだ。不可抗力だった。それより、疲れたろう。ゆっくり休め」

 私達は与えられたそれぞれの寝室に引き上げた。


 翌日、朝食の席で、レオンが言った。

「ギル、我々が無事だとバーゼルに知らせなければならない。手紙をヤタカ殿に送ってくれ」

 私は石盤に「チケットしか送れません。私、歌えないから歌会が開けないんです。ですから、無理です」と書いた。

「いや、送れるんだ。ヤタカ殿からの伝言を伝えるのを忘れていたが、チケットではなく手紙も送れるそうだ。一々、歌会を開かなくてもいいと言っていた」

 え! そうなんだ! だったら、もっと早くに手紙を書けばよかった!

 私はレオンの書いた手紙に、魔女様の住所を書き、キスをして投げ上げた。しかし、ここは竜王様の結界の中なのだろう、手紙は消えなかった。

 レオンは呼び鈴を押してガリタヤを呼んだ。しかし、現れない。探しに行こうとレオンがドアを開けようとした。しかし、ドアは開かなかった。

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