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ありふれた日常



深夜二時。モニターの光だけが部屋を照らしている。


「陽斗、後ろ後ろ!」


ヘッドホンから響く焦った声に、俺——藤堂陽斗は慌ててキーボードを叩いた。

画面の中で操作するキャラクターが慌てて回避行動を取るが、一歩遅い。

敵の魔法が直撃して、HPゲージが瞬時にゼロになった。


「あー、やられた」

『マジかよ。今日三回目だぞ』


通話アプリ越しに、幼馴染の大輝が呆れた声を出す。


「悪い悪い。ちょっとぼーっとしてた」

『最近多いよな、その"ぼーっと"。何かあった?』

「いや、別に」


嘘ではない。本当に何もないのだ。

...それが問題なのかもしれないけど。


大学三年の春。就活が本格化する前の、妙に落ち着かない時期。

周りは資格取得だのインターンだのと動き始めているのに、俺にはこれといってやりたいことがない。

毎日が同じように過ぎていく。


『そういえばさ』


大輝が急に声のトーンを変えた。


『境界島の適応検査、行ってみない?』

「は? 適応検査?」

『おう。ゲートの、ほら、適応者になれるかどうか調べるやつ。ネットで予約できるようになったらしい』


境界島。ゲート。適応者。


どれもニュースで何度も聞いた単語だ。三十年以上前に突然現れた、神々しくも不気味な門。

そこから始まった人類史上最大の発見。再生可能な未知のエネルギー、地球とは全く異なる生態系、そして、その環境に適応するための特殊な力を得た「適応者」たち。


「あー、あれか。でも適応検査って倍率すごいんじゃなかったっけ?」

『それが最近緩和されたらしい。前は抽選で半年待ちとかだったけど、今は申し込めば一ヶ月以内に受けられるって』

「へぇ」


他人事だと思っていた。適応者なんて選ばれた人間のものだと。テレビで見る華々しい活躍とは無縁の、平凡な大学生の自分には関係ない世界だと。


『なぁ、マジで行こうぜ。どうせ暇だろ? 俺らみたいな一般人でも受けられるのが適応検査の良いところなんだからさ』

「お前、本気で言ってんの?」

『当たり前だろ。もしかしたら能力に目覚めるかもしれないんだぞ? それに境界島、一度は見てみたいじゃん。普通に観光としても面白そうだし』


大輝の言葉に、俺は少しだけ心が動いた。

平凡な日常。変わらない毎日。そこから少しでも抜け出せるなら——


「まぁ、話のネタにはなるか」

『よっしゃ! じゃあ明日、一緒に申し込もうぜ。二週間後くらいの日程で』

「おう」


軽く返事をして、俺はブラウザを開いた。


適応検査 境界島 適応者


検索窓にそれらの単語を打ち込みながら、これがすべての始まりになるとは、この時の俺は知る由もなかった。


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