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異世界新選組  作者: ジーアイ
第一章 異世界新選組の雑用係
8/19

飢え

「満足してないだろう?今の生活」


 近藤勇の言葉を聞いて、雑多は一瞬だけ息を呑む。

 満足していない。

 その言葉が、雑多の胸に突き刺さった。


「えっと……どういう意味でしょうか?」

「そのままの意味だ。お前は今の生活に充実感を感じていない」

「そ、そんなこと……」


 雑多は「そんなことない」と否定しようとしたが、言葉が出なかった。

 否定しようとした瞬間、喉に何かが詰まったような感覚を感じたせいで。


「……なんで分かるんですか?」

「ただの勘だ」

「すごいですね、近藤さんの勘って」


 雑多は両手を挙げて、降参のポーズを取る。

 彼もなんとなく自覚していた。

 今の生活も、そしてこの世界に来る前も同じく……満足していないことに。


「その通りですよ、近藤さん。俺は……今の生活に充実感を感じていない」

「そうか……なにか不満があるなら―――」

「不満なんてこれっぽっちもありません。むしろ気に入ってます」


 目を細めながら、雑多は言葉を続ける。


「俺が作った料理を食べて喜ぶ新選組のみんなを見て、嬉しく感じます。それにみなさん優しくて、気を遣ってくれますし。不満なんてない。けど……」


 何かが違う。

 何かが足りない。

 その何かがないせいで虚しく、苦しい。


「満たされない。前の世界でもそう。俺は……飢えている」


 雑多は自分の右手の手のひらを見つめる。


「この飢えを満たそうと色々やりました。剣道、柔道、水泳、スケート、ピアノ、ヴァイオリン、ダンス、歌、書道など。思いつくことは全てやりました。だけど……満たされなかった。分かったのは、自分が人より少し器用だということだけ」

「……なるほど」


 勇は顎に手を当てて、納得したような表情を浮かべた。


「この一ヶ月、お前を見ていたが……なぜか飢えた獣を見ているような感覚だったが、そういうことか」

「獣って……」

「なぁ、器用。お前が好きなものってなんだ?」

「え?えぇっと……ゲームや漫画、アニメ……ですかね?」

「あにめ?げーむ?すまん、分かりやすく言ってくれ」

「ああ、そうか……この世界、家電とかはあるけど娯楽系のやつはあまりないんだった」


 雑多は勇にわかりやすく説明するために、言葉を選ぶ。


「えぇっとですね……物語を見たり、聞いたり、読んだりするのが好きです」

「なるほど、物語か。因みにどんな奴が好きなんだ?」

「バトル……戦うやつですかね」

「ふむ……戦うやつか。なぁもしかしてお前は―――」


 近藤勇が何かを言おうとした時、カンカンカン!と大きな鐘の音が鳴り響いた。

 その音を聞いた人々は慌てて建物の中に入る。


「この鐘の音は!」


 雑多はこの鐘の音を知っている。

 怪異の出現の合図だ。

 勇は表情を引き締める。

 いつもの優しい雰囲気がない。


「来る」


 勇がそう言った時、空から異形の怪物が降りてきた。

 その怪物は牛のような頭を持ち、両腕から大きな鎌が伸びている。

 そして四本の長い脚で、地上に立っていた。


(怪異は必ず空からやってくる。そして……見た目がめちゃくちゃ気持ち悪い)


 雑多がそう思っていると、近藤勇は彼を庇うように前に出る。


「下がってろ、こいつは私がやる」


 勇がゆっくりと右手を前に突き出す。

 そして唱えた。


魔装(まそう)顕現!桜花虎徹(おうかこてつ)!」


 次の瞬間、勇の右手から大きな剣が出現した。

 その剣の刀身には桜の紋様が施されている。


(魔装……いつ見てもすごいな)


 雑多は思い出す。

 転移したばかりの日の夜に、近藤勇と話をしていた時のことを。


<><><><>


「え?怪異を倒したあの武器はなんだって?」

「はい」


 夕食を食べ終え、爪楊枝で歯の隙間に挟まったものを取っていた勇に、器用雑多は尋ねていた。


「あの異形の怪物—――怪異は普通の武器で倒すのは不可能。でも近藤さんは倒した。となるとなにかしらの力かあの大きな剣でしか倒せないのではないでしょうか?」

「……鋭いな。お前の言う通りだ」


 勇は爪楊枝をゴミ箱に捨てて、一から説明する。


「まず……二柱の神の話はしたな?」

「はい」

「そのうちもう一柱は、平和の女神。その女神は人類を死なせないために、怪異を倒すことができる特殊武装―――魔装を人類に与えたんだ」

「魔装……」

「魔装は選ばれた女性のみが使えるんだ。そして魔装には使い手に特別な力を与える」

「なるほど……」

「新選組が女だけなのは、それが理由。みんな魔装使いなんだ」

「そうだったんですか。……因みに近藤さんの魔装って……」

「桜花虎徹。使い手の身体能力を強化させるものだ」


<><><><>


「行くぞ」


 両手に握り締めた大剣を構え、近藤勇は地面を強く蹴り、怪異に突撃した。


「ヴオオオォォォォォ!」


 怪異は大きな鎌を振るい、勇を切り裂こうとした。

 しかし勇は大剣を振るい、鎌を弾く。

 金属音が鳴り響き、怪異はわずかに後ろに下がる。


「ヴオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

「ハアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 怪異は荒々しく鎌を振るい、勇は豪快に大剣を振るう。

 鎌と大剣が何度もぶつかり合い、火花が飛び散る。

 それを離れたところから見ていた雑多は、胸が熱くなるのを感じた。


「……羨ましい」


 自然と雑多の口からそんな言葉が出ていた。

 怪異と戦う勇を見ていた雑多は、自分も暴れたいという欲求を感じていることに気付く。

 なぜ羨ましいと思うのか。

 なぜ勇の心配よりも、暴れたいと強く思うのか。

 雑多自身にも分からない。

 ただ一つ言えるのは、今の彼は……ご馳走を見て涎を垂らしている飢えた獣と同じだった。

 だからなのか、雑多は気付く。

 勇の背後からゆっくりと近づく透明ななにかに。


「近藤さん!後ろ!!」


 雑多が叫んだその時、透明ななにかは姿を現す。

 そのなにかの正体は、鋭い爪を伸ばした蜥蜴のような怪異だった。

 その怪異は二本の足で立っており、長い舌を伸ばしている。


「なに!?」


 勇が気付いた時には遅かった。

 蜥蜴怪異は鋭い爪で、彼女の背中を切り裂く。

 赤い血が飛び散り、地面を赤く染める。


「くっ!?」


 血を流しながら、顔を歪める近藤勇。

 二体の怪異と同時に戦うことになってしまった彼女を見て、雑多は……走り出す。

 なぜ走り出したのかわからない。

 近藤勇のところに行ったところで、なにもできないというのに。

 だけど……足を止めることはしなかった。


「近藤さん!」

「来るな、器用!!」


 勇は止まれと目で訴える。

 だが雑多は止まらない。

 全力で走りながら、心の中で叫ぶ。


(欲しい!俺も……怪異と戦うことができる力が!近藤さんが使っている大剣が!魔装が……欲しい!!)


 次の瞬間、雑多の右手首に眩しく輝く腕輪が出現した。

 その腕輪には小さな鏡が埋め込まれている。


「これは……!」


 雑多は右手首に突如現れた腕輪を見て、目を見開く。

 その直後、知らない知識が彼の頭の中に流れ込んできた。


写鏡腕輪(しゃきょううでわ)?この腕輪のことか……」


 雑多の頭に流れ込んできたのは、腕輪型魔装の名前と使い方だった。


「器用!逃げろ!!」


 勇の叫び声を聞いて、雑多は気付く。

 自分に向かって爪を振るおうとする蜥蜴型怪異に。

 だがそれを見て、雑多は恐れない。

 それどころか……笑っていた。

 目を強く光らせ、口元を三日月に歪めながら、雑多は口を動かす。


「複製」


 直後、雑多の右手から大きな剣が出現。

 その大剣は刀身に桜の模様が刻まれており、近藤勇が使っている魔装と同じものだった。


「キィシャアアアアアアアアアア!」


 蜥蜴型怪異は爪を素早く振るう。

 迫りくる爪撃を、雑多は僅かに身体を傾けて躱す。

 そして大剣を両手で強く握り締め、振るった。


「ハハハ!」


 笑いながら振るわれた一撃は、蜥蜴型怪異の首を容赦なく斬り裂いた。

 頭を失った首から、青い血が噴水の如く噴きだす。

 怪異の血を浴びた雑多は、青く染まる。


「ハハハハハハハハ!!」


 雑多は怪異の血を浴びながら、笑った。


 読んでくれてありがとうございます。

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