鬼の副長
怪しく瞳を光らせる新選組の女性達。
雑多はガクガクと身体を震わせながら、怯えていた。
(どうしよう。すっごい見られているんだけど!というか新選組のみんな女かよ)
これからどうすればと雑多が不安を抱いていた時、
「ヤッタアァァァァァァァァァ!ついに雑用係が入ってくれたあああああ!」
「しかも男よ!」
「ようやく私達にも春が来たのね」
新選組の女性たちは喜びの声を上げた。
中には泣いている人もいる。
なにがなんだかわからず、雑多は呆然とした。
「え……えっと」
「ああ、すまんすまん。私が説明するよ」
呆然としている雑多に、勇はポリポリと頬を掻きながら説明する。
「実はあることが問題で新選組の雑用の仕事を受けてくれる人がいなくてな」
「問題?」
「しかもその問題のせいで新選組のみんなは恋人とか結婚ができないんだ」
「本当になんなんですか、その問題って?」
「まぁ……また今度話すよ」
苦笑する勇を見て、これ以上聞くのはまずいなと思った雑多は深く聞くのをやめた。
「さあ、とりあえず飯にしよう!」
パンパンと手を叩く勇。
彼女の言葉を聞いて、女性たちは食堂におにぎりと味噌汁があることに気付く。
「うまそ~う」
「わぁ、いい香り~」
女性たちは畳の上に座り、「いただきます~!」と言っておにぎりと味噌汁を食べ始めた。
すると、
「「「う、うま~い!」」」
大声を上げ、ご飯を美味しそうに食べた。
「この絶妙な塩加減にあっさりとした味噌汁が最高~!」
「ああ~……こんなまともな食事は久しぶり」
「もう腹が痛くならずに済むのね」
ご飯を食べる女性たちは、喜びの表情を浮かべた。
中には泣いている者もいる。
誰もが美味しそうにご飯を食べる姿を見て、雑多は微笑んだ。
「ねぇ~器用くん。ちょっといいかな?」
一人の女性隊士が雑多に声を掛ける。
「はい、なんでしょう?」
「君さ……恋人とかいる?」
「え?いないですけど」
「じゃあさ、私と付き合わない?」
「え!?」
まさかの初めての逆プロポーズに、雑多は顔を赤くする。
「こんなおいしいご飯が作れて、しかも掃除ができるって聞いたよ?こんないい男なんて滅多にいないわ」
「え、いや、その……」
雑多が困惑していると、
「あ、ずるい!私も狙ってたのに!」
「私も私も!」
「ねぇ、器用くん?私なんてどうかしら?」
他の女性隊士たちも雑多に逆プロポーズを始めた。
その時、
「おい」
静かで、しかし強い威圧が込められた女性の声が聞こえた。
女性隊士たちがビクッと身体を震わせ、黙り込む。
誰もが怯えた表情を浮かべている。
「ここは男を手に入れるための場所ではないぞ。発情期の獣か、貴様らは?」
そう言って雑多に近付いてきたのは、艶のある長い黒髪を伸ばした女性。
目は刃の如く鋭く、手足が長い。
服の上からでもわかるぐらいスレンダーな肉体。
だが彼女から感じる威圧は、まるで鬼のよう。
「おい、器用雑多」
「は、はい!」
鋭い目つきで睨んでくる鬼のような女性に、雑多はビクビクと怯えた。
なにを言われるんだと思いながら、顔から大量の汗を流す。
「困ったことがあったら言え。できる限りのことはしよう」
「え?あ、はい。じゃあ……食材を用意してもらえませんか。腐っている物が多くて、おにぎりと味噌汁しか用意できなかったので。あとできれば調味料も」
「分かった。すぐに用意しよう」
鬼のような恐ろしさを持つ女性はそう言って、自分の席に座り食事を再開した。
(てっきり『調子に乗るな』とか『ちゃんと仕事をしないと殺すぞ』とか言われるのかと思った。けど……あの人は俺を心配してくれた)
黒髪の女性は確かに威圧的な態度をしている。
だが彼女の瞳には心配の感情が宿っていることに雑多は気付いていた。
「あの、近藤さん。あの人は誰なんですか?」
美味しそうにおにぎりを食べる勇に、器用雑多は問い掛ける。
「ん?ああ、あいつは土方歳三。新選組の副長で、他人にも自分にも厳しい奴なんだ」
「!あの人が……」
雑多は目を大きく見開く。
(土方歳三。俺のいた世界では『鬼の副長』と言われ、新選組を最強の戦闘集団にするために厳格な規律である局中法度という隊規を作った。近藤勇が新選組を作った者なら、土方歳三は新選組を育てた者。そんな土方歳三は、この世界ではあんな美人なんだ)
器用雑多がそう思っていると、
「器用」
「は、はい。なんでしょう、近藤さん?」
「おかわりあるか?」
「え?あ、はい」
勇から茶碗を雑多が受け取った時、
「あ、私も私も!」
「私もお願い!」
「私もいいかしら!」
誰もがおかわりを要求した。
(これは……毎日が大変だな)
雑多は苦笑を浮かべながら、そう思った。
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