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異世界新選組  作者: ジーアイ
第一章 異世界新選組の雑用係
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死神

 死。

 それは人が最も恐れるもの。

 死の恐怖は誰をも苦しめる。

 精神的。日常的。身体的。

 ありとあらゆるところで影響を与える。

 そして死とは人だけでなく、他の生物も恐れるもの。


 死が近くにあると、人はどうなる?

 逃げる?それとも立ち向かう?

 否。答えは……動けないだ。

 人が凶暴な熊に睨まれている時。

 人が高いところから自殺しようとした時。

 生物である以上、動くことができない。


(まさに死、そのものだな)


 器用雑多は大量の汗を流しながら、視線を向けていた。

 新選組の羽織を羽織った桃髪の少女—――沖田総司に。

 彼女は優しそうに微笑みを浮かべ、桃色の瞳を宿した両目を細めている。

 一見すると美少女の可愛らしい微笑み。

 だが雑多はその微笑みを見て、可愛いと思わない。


(コイツ……ヤバイ)


 自然と雑多の呼吸が荒くなる。

 彼の耳にうるさいと思うぐらい大きな心臓の音が聞こえた。

 手足が震え、全身が冷たくなるのを雑多は感じる。

 本能が叫んでいた。

 逃げろ。じゃないと死ぬぞと。

 しかし雑多の身体は動かなかった。


「ねぇ?聞いてるんだけど?」


 沖田総司は雑多に手を伸ばす。

 近づいてくる彼女の手を見て、雑多はさらに呼吸を荒くする。

 頭の中が白く染まっていき、彼の顔から流れる大量の汗が床にポタポタと落ちた。

 そして沖田総司の指先が雑多の首に触れようとした時、


「ちょっと待った」


 一人の女性が沖田総司の手が掴んだ。

 彼女の手を掴んだのは、近藤勇だった。


「近藤さん」

「そいつだよ。さっき話をした雑用係は」


 笑顔を浮かべて勇がそう言うと、


「あ、そうなんですね!」


 明るい笑顔を浮かべて沖田総司は両手を合わせた。

 彼女から放たれていた強力な殺気が嘘のように消え、雑多は死の恐怖から解放される。


「な~んだ。てっきり敵かと思いましたよ~」

「ハハハ。敵って物騒なことを言うな~お前は。それより総司。薬は飲んだか?」

「あ!忘れてました」


 エヘヘと笑いながら、頭を掻く総司。

 そんな彼女を、腰に手を当てた近藤勇は注意する。


「ダメだろう?薬はちゃんと飲まないと。今すぐ飲んでこい」


 沖田は「は~い!」と手を挙げて、調理場から出ようとした。

 出る直前、沖田は雑多に視線を向けて頭を下げる。


「器用くん。さっきは怖がらせてごめんね。あとでお詫びするから。バイバ~イ♪」


 謝った後、沖田は姿を消した。

 彼女が見えなくなった後、雑多は両膝を崩し、両手を床につける。

 

「ハァ…ハァ…ハァ!」

「器用。深呼吸しろ。ゆっくりだ。ゆっくり」


 雑多の背中をさする近藤勇。

 彼は言われた通り深呼吸し、心を落ち着かせる。

 速く動いていた心臓はゆっくりになり、普通に息ができるようになっていく。


「大丈夫か?」

「は、はい。なんとか」

「すまん。まさか総司があそこまで殺気を放つとは思わなかった」

「あ、あの……沖田さんっていったい」


 雑多は沖田総司のことを聞かずにはいられなかった。

 もちろん彼は元いた世界に存在していた沖田総司のことは知っている。


(天然理心流を極めた美しい男剣士。同時に人斬りと恐れられた人。そして最後は不治の病で死んだと言われている。それが俺が知っている沖田総司。だけど……この世界の沖田総司はなんなんだ!?なんであんな強い殺気を放つ!?死神かと思った)


 雑多が驚いていると、勇は喋り出す。


「……総司は新選組最強の実力者。普段は誰にでも優しい奴なんだが、敵には容赦しない奴でもある。ただ……あんな化物みたいな殺気を放っているアイツを見るのは、私も初めてだ」


 本当に初めて見たらしく、勇も驚きの表情を浮かべていた。


「俺……なにか気分を悪くするようなことをしましたか?」

「いや……わからん。ただちょっとやそっとでは怒ったりはしない」

「もしかして男嫌いとか?」

「それはない。アイツが男の人と普通に喋っていたところを何度も見たし」


 腕を組みながら、難しい表情を浮かべる勇。

 そんな彼女を見て、器用雑多は本当に分からないんだなと理解する。


(とにかく沖田さんとは関わらないようにしよう。なにされるかわからないし)


<><><><>


「よし、こんなものか」


 食堂の畳の上に、おにぎり二個と味噌汁が入った茶碗が乗ったお(ぜん)を百人分並べた雑多と勇。

 

「ありがとうございます。近藤さん」

「な~にこれぐらい気にするな。それにしてもうまそうだな」


 お膳の上に乗っている塩おにぎりと味噌汁を見て、勇は(よだれ)を垂らした。


「近藤さん!涎が垂れています!」

「おっとすまんすまん」


 勇は腕で涎を拭い、恥ずかしそうにアハハと笑う。


「いや~、こんなうまそうな食事は久しぶりだからな」

「因みになにを食べていたんですか?」

「色々とぶち込んだなにかだな!」

「なんですか、そのなにかって」

「最初の頃はそれを食べたら全員、気絶したり泡を吹いたりしたものだ~。今は耐性がついて腹が痛くなって(かわや)に籠ることぐらいしか起きなくなった」

「それダメなやつじゃないですか!?え?耐性をついてもトイレ…厠に籠るんですか?」


 新選組の食事事情が予想より危ない状況だと知った雑多はため息を吐く。


(これは……俺がちゃんとしないとな)


 これからは自分が美味しい料理を作ろうと彼が決意した時、


「うわ~うまそうな匂い」

「お腹空いた~」

「食欲をそそるな」


 羽織を羽織った女性たちが続々と食堂にやってきた。

 その数……百人。


「おう!みんな来たか。なら注目~」


 近藤勇の言葉を聞いて、女性たちが彼女に視線を向ける。


「さっきも話したが、こいつが今日から我ら新選組で働く少年の器用雑多だ。仲良くしてやってくれ!」


 大声でそう言いながら、勇はバシンバシンと雑多の背中を叩く。

 痛いと思いながら、彼は頭を下げて自己紹介をする。


「えっと……今日から雑用係として働くことになりました。器用雑多です。よろしくお願いします」


 雑多はチラッと顔を上げ、みんなの顔を見る。


「「「……」」」


 誰もが目を光らせて、雑多を見ている。

 まるでヤクザに睨まれたような感覚に襲われた雑多は思う。


(あ、これ絶対に終わったパターンだ)

 読んでくれてありがとうございます。

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