チビッ子?
「さて……料理をどうするか」
調理場にやってきた器用雑多は、机の上に並べた食材を確認する。
机の上に並べたのは米と梅干、塩、わかめ、豆腐、味噌、鰹節、大根の漬物。
それ以外のものは腐っていて、食べられない。
「食材はこれだけ……か。これだとおにぎりと味噌汁しか作れないな。まぁ……運が良かったのは、コンロや炊飯器などがあることかな」
雑多がいる調理場には、どういうわけかガスコンロや炊飯器、冷蔵庫などの機械があった。
(恐らく俺と同じ異世界人が発明したんだろうな。じゃなきゃこんなものは作れない)
江戸時代のような異世界ではあるが、電気も調理に必要な機械道具がある。
ガスコンロと炊飯器があるだけで、異世界人である雑多には大助かりだった。
(時間がある時に異世界人のことを調べよう。もしかしたら元の世界に帰る方法がわかるかもしれない)
雑多は必ず元の世界に帰ろうと決意した。
「よし!そのためにも頑張って働くぞ!」
雑多は両手で頬を強く叩き、気合を入れて料理を始める。
まずは水道で手を洗い、大きな鍋に水を入れる。
水を入れた鍋をガスコンロにセットし、火をつけた。
数十分後、ぐつぐつと沸騰したお湯の中に鰹節を入れ、出汁をとる。
鰹節の食欲をそそる香りにが調理場の中に充満した。
(料理は食材を切ったりすることで不安が和らぎ、ストレス軽減やリラックス効果をもたらし、ポジティブな感情を高める。しかも脳の活性化を促し、完成した時には達成感や自己肯定感を高める。料理とは精神に大きく影響を与える技術の一つ。なによりうまいものを作れると素直に嬉しくなるから、俺は毎日料理をしている。だから料理には自信があるんだよな、俺は)
十分に出汁をとった後、雑多はコンロの火を止めて、濾し布をかけた鍋に流し込む。
鰹節をとっただし汁は琥珀色に輝いていた。
だし汁の中に雑多は包丁で切った豆腐とわかめ、味噌を入れて蓋を閉める。
「次はおにぎりだな」
両手に塩をつけて、すでにホカホカに炊いてある米を三角形に握る。
米の中に梅干しを入れるのを忘れない。
完成した塩おにぎりを大きな皿に並べていく。
一人二、三個ぐらい食べられるように多めに作っていた。
「よし、味噌汁もそろそろ完成だし、あとはこれを運んで……ってあれ?」
百人分の食器を用意しようとした時、雑多は気付く。
大きな皿に乗っていた数百の塩おにぎりが、半分ぐらい無くなっていることに。
「え?なんで?どこ行った?」
雑多がキョロキョロと調理場を見渡した。
そして彼は見つける。
塩おにぎりを両手にそれぞれ持った幼い女の子を。
その女の子はウェーブが掛かった栗色の髪を伸ばし、両目には栗色の瞳を宿している。
胸は小さく、身体はロリ体形。
だが近藤勇と同じ、浅葱の羽織を羽織っていた。
(誰だ?羽織を羽織っているから新選組の人なのは間違いないけど)
モグモグと塩おにぎりを咀嚼するロリ少女に、雑多は問い掛ける。
「えっと……どちら様ですか?」
おにぎりをゴクンと呑み込んだロリ少女は、無表情のまま口を動かす。
「新選組二番隊の伍長、島田魁」
彼女の言葉を聞いて、雑多は目を見開く。
(島田魁って確か巨漢と呼ばれるぐらい大きな男だったはず。この世界ではこんな小さな女の子だとは……)
雑多が驚いていると、ロリ少女—――島田魁は手に持っていたおにぎりを食べ終え、皿に載っていたおにぎりに手を伸ばす。
「ちょちょちょちょちょ!ちょっと待ってください!まだ食べるんですか?」
「そうだよ?」
「いや、『そうだよ?』じゃなくて……他の皆さんの食べる分がなくなるから食べないでください」
「ダメ?」
首を傾げて、上目ずかいで雑多を見つめる島田魁。
彼女の可愛らしさに、思わず雑多は一歩後ろに下がる。
(なんだこの可愛らしい生き物は……このぽわぽわとした雰囲気と無表情が、彼女の可愛らしさを引き立ている。ってじゃなくて!)
雑多は首を左右に振って、「しっかりしろ!俺!」と自分に言い聞かせる。
「とにかくダメです!出来上がるまで我慢してください!」
「……」
魁はシュンと怒られた子犬のように落ち込んだ表情を浮かべて、俯いた。
そんな彼女を見て、雑多は「うっ!」と胸に手を当てる。
なんともいえない罪悪感が彼を襲う。
「……もう一個だけ食べていいですよ」
雑多の言葉を聞いて、魁は顔を上げて目をキラキラと輝かせる。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん」
「ぐはっ!」
ロリ少女からのお兄ちゃん呼びが、雑多にクリティカルヒット。
彼は膝から崩れ落ちた。
今まで感じたことが無い喜びの感情が、彼の胸から湧き上がる。
「もっと食べます?」
「食べる~!」
ロリ少女は栗鼠のようにおにぎりを頬張った。
それを見て雑多は頬を緩める。
可愛いな~と思いながら眺めていたら……いつのまにか大きな皿に載っていたおにぎり全てがなくなっていた。
「なにやってんだ……俺は」
床に両手をつけて、深く落ち込む雑多。
(つい可愛すぎてあげすぎてしまった。というか数百個のおにぎりを全部、食べたのか?どんな腹をしてんだよ。ブラックホールか)
また作り直しかと思いながら雑多はため息を吐いた時、
「ありがとう、お兄ちゃん。よしよし」
魁は小さな手で雑多の頭を撫でた。
頭を撫でられた彼は、キュン!と胸が締め付けるのを感じる。
「すっごい美味しかった」
「アハハ。そう言ってもらえて嬉しいです。島田さん」
「魁でいいよ。あと敬語もいらない」
「そ、そう?わかった」
「ところでお兄ちゃんは誰?」
「え?ああ、自己紹介がまだだったね。俺は器用雑多。近藤さんに拾われて、新選組の雑用係になった」
「へぇ~じゃあ居候さんか」
「まぁ……そうだね」
「これからよろしくね~」
「ああ、よろしく」
<><><><>
「な、なんとかできた~」
椅子に座り、疲れた顔でハァ~とため息を吐く雑多。
彼はなんとか百人分のおにぎりと味噌汁を準備することができた。
そしていつのまにか島田魁がいない。
「あとは食堂に運ぶだけだな」
雑多はよっこらせと椅子から立ち上がろうとした時、
「動かないで」
少女の優しい声が聞こえた。
しかしその声を聞いた雑多は、自分が死ぬ姿を想像してしまう。
優しく、穏やかで、しかしとてつもない殺気が宿った少女の声。
その声の主は、雑多の背後にいる。
「……」
顔から大量の汗を流しながら、雑多はゆっくりと後ろに視線を向ける。
そして……雑多は自分の身体に流れる全ての血が凍るような感覚に襲われた。
彼の背後にいたのは、桜のような桃色の髪をポニーテイルにした女の子。
背が少し小さく、胸がそこそこ大きい。
瞳は紅水晶の如き薄いピンク。
美少女と呼ぶにふさわしい女の子だった。
しかし雑多の目には、彼女が恐ろしく見える。
優しく微笑んでいるが、強い殺気を放っていた。
言葉で言い表すなら、彼女は―――、
死神だ。
「あなたは……いったい?」
「私?私は―――」
「新選組一番隊組長、沖田総司だよ」
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