ラッキースケベ
「ふ~ん♪ふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら、雑多は掃除をしていた。
はたきで埃をはらい、水で濡れた雑巾で汚れた床や壁を拭く。
丁寧に、しかし素早く掃除する雑多。
彼が掃除した場所は次々と綺麗になっていく。
それを見て近藤勇は目を見開いた。
「すごいな……こんなに綺麗になるとは」
「まぁ、趣味みたいなものですから」
「趣味?掃除がか?」
「はい。掃除はセロトニンという幸福ホルモンの分泌を促す効果がありますからね」
「せろとにん?」
「掃除をするとストレス軽減、感情の安定、集中力と注意力の向上、そして達成感や自己肯定感を高めます」
「ほぉ~……雑多は私の知らないことを知っているんだな」
「ははは……ちょっと心理学に詳しいだけです。じゃあ次は風呂場を綺麗にしてきます」
「おう!任せた」
雑多は掃除用具を持って、風呂場に向かった。
離れていく彼の背中を見ていた勇は、「ん?」と首を傾げながら顎に手を当てる。
「そういえば……なにか忘れているような……」
<><><><>
「確かここだったよね?」
雑多は『風呂場』と書かれた札が掛けられた襖の前にいた。
「さて、綺麗にしますか」
雑多は襖を開けた。
そして、
「え?」
彼の瞳に、裸の少女の姿が映る。
少女は金色に輝く長い髪を伸ばしていた。
「……」
金色の瞳を宿した目を大きく開きながら、少女は呆然としている。
「え、えっと……」
雑多は少女の頭から足の先まで見つめる。
無駄の肉のない身体。
大きくもなければ小さくもない胸と尻。
そして小さく、可愛い顔。
美少女と呼ぶにふさわしい。
「し、失礼しました~」
ゆっくりと襖を閉める雑多。
彼は目頭を指で揉み、スーハーと深呼吸する。
「よし。見なかったことにしよう」
雑多がそう言った直後、襖から鋭い刀が勢いよく飛び出した。
咄嗟に彼は素早くしゃがみ、刀を躱す。
「あっぶね!」
雑多が驚いていると、襖は刀によって細切れにされ、顔を真っ赤にした少女が風呂場から飛び出す。
彼女は片手で握り締めたオシャレな手拭いで身体を隠しながら、鋭い目つきで雑多を睨む。
「よくも私の裸を見たな!この変態男!!」
金髪の少女は素早く刀を振るう。
迫りくる斬撃を雑多は一歩だけ後ろに下がって、紙一重で躱す。
「!」
目を見開く少女は何度も刀を振るった。
だが雑多はわずかに身体を傾けたり、顔をずらしたりして紙一重で躱す。
全ての攻撃を最小限の動きで躱していた。
「くっ!ハアァァァァァァァァ!」
少女は両手で刀を握り、上段に構えて素早く振り下ろす。
(やばっ!)
雑多はそう思った時、彼の両手が勝手に動く。
彼の両手はバシン!と振り下ろされた刀を挟んで止めた。
真剣白刃取りである。
「なっ!」
「え~と……ここらへんでもうやめませんか?」
「アンタが私の裸を見たんでしょ!?」
「あ、はい。今も…その……見えています」
頬を赤く染めて、視線を逸らす雑多。
「え?」
雑多の言葉を聞いて、少女は気付く。
片手で持っていた手拭いを離したことで、自分の裸が丸見えだということに。
「あ…ああ……」
顔を真っ赤にしていく少女。
そんな彼女に雑多は、
「ご、ごちそうさまです」
次の瞬間、少女の蹴りが雑多の顔に直撃。
雑多の身体が後ろに向かって勢いよく吹き飛び、壁に激突する。
「殺す!絶対に殺してやる」
涙目になりながら、刀を構える少女。
そんな彼女の肩に手が置かれる。
「まぁまぁ落ち着け、斎藤」
少女の肩に手を置いたのは、近藤勇だった。
「近藤さん」
「そいつは敵じゃないぞ。今日から働くことになった雑用係だ」
「は?はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
少女の叫び声が響き渡った。
「アハハハハ、すまんすまん!斎藤が先に帰ってきて、風呂に入っていたのを言うの忘れていた」
口を大きく開けて、笑い声を上げる近藤。
雑多は蹴られた場所に手を当てて、「そういうのは先に言ってください」と呟く。
「すまんすまん。さてお互いのことを紹介しよう」
勇は服を着た金髪の少女のことを話す。
「コイツは斎藤一。新選組の中で剣の腕が一番なんだ」
「ふん!」
二つに結ばれた金髪を揺らしながら、少女—――斎藤一はそっぽを向く。
「で、斎藤。コイツは器用雑多。今日から新選組の雑用係として働くことになった」
「ど、どうも」
ペコリと頭を下げる雑多。
そんな彼を鋭い目つきで斎藤は睨んだ。
彼女から感じる怒りと殺気に、雑多は「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げる。
「近藤さん。私はコイツが新選組の雑用係なんて反対です。コイツは今ここで殺すべきです」
「まだ裸を見られたことに怒っているのか?器が小さな」
「だって!」
「まぁ事故とはいえ裸を見たのは事実だし。雑多。とりあえず謝っておけ」
雑多は「は、はい」と言って、斎藤に頭を下げる。
「その……裸を見てしまい申し訳ありませんでした!」
「……ふん。私の裸を見たのは許さない。だけど、雑用係として働くのは許してあげなくもない」
「あ、ありがとうございます!」
「これからたくさん雑用させるから覚悟しなさい!」
「は、はい!」
勇はうんうんと頷きながら、手を叩く。
「さぁて。そろそろ他の奴らも帰ってくるころだし、雑多。飯の準備を頼む」
「あ、はい。分かりました。何人分ぐらい用意すれば」
「百人分ぐらい頼む」
「百人!?」
「おう!頼んだぞ!」
「わ、分かりました」
雑多は部屋から出て行き、食堂に向かった。
部屋に残っていた斎藤は真剣な表情で、勇に尋ねる。
「で?なんでアイツを新選組に連れてきたんですか?」
「ん?まぁ放っておけなかったから」
「本当にそれだけですか?」
斎藤は思い出す。
自分の攻撃を全て紙一重で躱した雑多のことを。
「近藤さんはアイツからなにかを感じたから、ここに連れてきた。そうでしょ?」
斎藤の問いに対し、近藤勇はなにも答えない。
ただ彼女は、笑みを浮かべるだけだった。
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