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異世界新選組  作者: ジーアイ
第一章 異世界新選組の雑用係
2/19

新選組?

「え?……新…選組?」


 雑多は混乱していた。


(いや……ちょっと待って。江戸時代にタイムリープしたかと思えば、怪物が現れて、しかもその怪物を倒した女性が新選組局長の近藤勇!?え?え?え?ちょっと待って。そもそも近藤勇って男だよな?)


 江戸時代にタイムリープ。

 突然、現れた怪物。

 そして新選組を名乗る女性。

 あらゆる情報が雑多の頭の中で駆け巡った。

 そして、


「ヒュ~……」

 

 意識を失った。

 気絶した少年を見て、女性—――近藤勇は慌て出す。


「しょ、少年!?大丈夫か?」


 声を掛けるが、雑多は反応しなかった。

 勇は頭を掻きながら、「しょうがないな~」と呟く。


「よいしょっと」


 彼女は気を失っている雑多を肩に担いだ。


「とりあえず屯所(とんしょ)に運ぶか」


<><><><>


「ん……んん?」


 意識を取り戻した器用雑多は、ゆっくりと瞼を開いた。

 最初に目に映ったのは、知らない天井。


「ここは……」

「おっ!目を覚ましたか?」

「!!」


 声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには近藤勇と名乗っていた茶髪の女性がいた。


「あなたは…近藤…さん、ですよね?」

「おう!私は近藤勇だ」

「あの……ここは?」

「ここは新選組の壬生屯所(みぶとんしょ)だ。気絶したお前を放っておけなくてな」


 勇の言葉を聞いて、雑多は自分が布団の中にいたことに気付く。


「あ、あの……助けてくれてありがとうございます」

「ハハハ。気にするな。新選組として当然のことをしたまでだ」

「新選組……」


 雑多は顎に手を当てながら、今の状況を頭の中で整理する。


(俺は江戸時代にタイムスリップしたのかと思ったけど、違うのかも。だってあんな怪物がいたなんて聞いたことが無い。なにより新選組の局長である近藤勇が女なんてありえない。この世界は……俺がいた世界とは違うもの。つまり異世界だろう)


 まさか異世界に来てしまうとは思わなかった雑多は、頭痛を覚えた。

 その時、彼のお腹からグゥ~という音が鳴り響く。

 お腹の音を聞かれた雑多は恥ずかしくなり、顔を赤くする。


「ハハハ。腹が減ったのか。ちょっと待ってろ。今、おにぎりを持ってくる」


 そう言って勇は部屋から出て行く。

 数分後、二つの白いおにぎりを乗せた皿を持って勇が戻ってきた。


「ほら、まずは喰え」

「あ、ありがとうございます」


 雑多はおにぎりを手に取って、パクリと食べた。

 そして、


「オエ」


 吐きそうになった。

 べちょべちょした米の食感としょっぱすぎる塩の味のせいで、とても不味く感じていた雑多。

 だがせっかく作ってくれたものを残すのはダメだと思い、彼は頑張って食べる。


「ところで少年?お前、名前は?」

「え?あ…はい。器用雑多です」

「器用。お前は……」



「この世界の人間じゃないな?」


 その言葉を聞いて、雑多は口の中に入れていた米を勢いよく吐き出した。


「ゲホゲホ……な、なんで分かったんですか?」

「勘だ」

「勘って……すごいですね」

「まぁあとは服装かな。見るからに上質な服を着ている」


 彼女にそう言われて、雑多は自分が学校の制服を着ていることに気付く。


(そういえば、着替えるのを忘れてた)


 雑多は家に帰った後、制服を着たまま本を読んでいたのだ。


「えっと……はい。近藤さんの言う通り、この世界の人間ではありません」

「やっぱりか……なぜこの世界に?」

「じ、実は……分からないんです。自分の部屋の扉を開けたらこの世界に来ていて」

「なるほど……」


 勇は腕を組みながら、目を細める。


「どうやら神隠しにあったんだな。お前は」

「神隠し?」

「ごく稀に、別の世界の人間がこの世界にやってくるという噂を耳にしたことがある。恐らくお前はその神隠しの被害者だ」

「そう……なんですか。あの……元の世界に帰る方法は?」

「……すまないが聞いたことがない」

「そう……ですか」


 雑多はゆっくりと俯いた。

 元の世界に帰れない。

 それを知った雑多は悲しそうに顔を歪めた。


(もう……家族と友達には会えないのか)


 雑多はこれからどうするべきか考えていると、


「なぁ……もし行く当てがないならここで暮らさないか?」

「え?」


 顔を上げた雑多の目に映ったのは、笑顔を浮かべる勇の姿だった。


「もちろんタダじゃないぞ。掃除、洗濯、料理などの雑用をしてもらう。代わりにこっちは衣食住を提供する。賃金も出すぞ」

「い、いいんですか?」

「ああ。このまま放っておくのも気分が悪いしな」


 まさか住まわせてくれるとは思わなかった雑多は、感謝しかなかった。


「あ、あの……迷惑じゃなかったらよろしくお願いします!」

「おう、よろしく。じゃあ……とりあえず、これに着替えてくれ」


 勇はそう言って青い小袖を、雑多に渡した。


<><><><>


「き……着替えました」


 制服から小袖に着替えた雑多を見て、勇はニッと歯を剥きだして笑った。


「うむ。馬子にも衣装だな!」

「それ、褒めてないですよね?」

「そうだったか?すまん、すまん。さぁ、屯所の中を案内する」


 そう言って彼女は雑多を案内した。

 まず最初に案内されたのは食堂と調理場。


「えっと……なんというか、すっごい汚いですね」


 雑多の言う通り、食堂と調理場は汚かった。

 食堂は食べカスだらけ。

 調理場には洗っていない皿や箸がたくさん。

 しかも食料の一部は腐っている。


「アハハ!すまん、すまん。実は新選組にいる奴らは料理できる奴がいなくてな。私もそうだ」

「そう……なんですか」

「じゃあ次は風呂場だな」


 次に案内されたのは大浴場。

 屯所に大浴場があるんだと思いながら雑多は中を見て、言葉を失う。


(う~わ)


 大浴場の壁や天井には、カビがあった。

 しかも大量に。

 よくこんなところで汗を流せるなと雑多は素直に思った。


「うちには掃除ができる奴がいなくてな!」

「元気な声でよく言えますね」


 その後も厠や訓練所などを見たが酷いの一言だった。

 全てが埃だらけで変な臭いがする。

 明らかに最低限の……いや最低限以下の掃除しかされていない。


(おかしい……あまりにも酷すぎる)


 雑多は不思議に思った。

 いや、より正確に言うなら異常。

 ここまで汚いと、なにか事情があるのだと彼は推測する。


「あの……近藤さん。なんでこんなに汚いんですか?その……居候する身として聞くのはアレですけど」


 いくら家事ができないからと言って、ここまで酷いのはおかしいと雑多は思った。

 近藤は頬をポリポリと指で掻きながら、苦笑する。


「実はね……仕事が忙しくてな。家事をする暇がないんだ」

「仕事……そんなに忙しいんですか?」

「ああ。私達—――新選組は怪異の討伐や街の見回り、そして犯罪者の粛清をしている」

「怪異……あの怪物のことですか?」


 雑多は思い出す。

 自分を襲った異形の怪物のことを。


「アレは……なんなんですか?」

「……怪異とは人々を殺すために生み出された悪神の玩具(おもちゃ)だ」

「玩具?」

「この世界には二柱の神が存在する。一柱は平和の女神、もう一柱は破滅の悪神だ。悪神は人々の不幸が好きで、怪異を生み出し、多くの命を奪った」

「自分の快楽のために……最低ですね」

「ああ、最低だ。そんな悪神の怪異を私達は倒しているんだ。人々を守るために。ただ……忙しすぎて、他のことをやる暇がない」

「……なるほど。そういうことでしたら任せてください」


 雑多は胸を叩いて、微笑みを浮かべた。


「今日から俺は、新選組の雑用係ですからね。これでも家事は得意ほうですよ!」

「おお!頼もしいな!」

「はい、任せてください」

 読んでくれてありがとうございます。

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